大丈夫ですか@kyoさん!? このペースで10万字で終わりますかこの話?
まだ二日目の午前中ですよ? あと一日半は観光しますよこのふたり???
ということで、ようやく海に到着しましたシュウマサふたり旅。
不安を残しつつも、今回は前哨戦。次回ようやくマリンスポーツ編です。
ぱちぱち有難うございます。いつも本当に助けられております。
では本文へどうぞ!
まだ二日目の午前中ですよ? あと一日半は観光しますよこのふたり???
ということで、ようやく海に到着しましたシュウマサふたり旅。
不安を残しつつも、今回は前哨戦。次回ようやくマリンスポーツ編です。
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<Lotta Love>
「……何だよ、不安なのかよ」
ついでと思い煩っていることをぶつけてみれば、まさか、との返事。
「十数年ぶりの海ですよ。むしろ楽しみで仕方がない」
決して身体を動かすことが嫌いなのではないらしい。時に不健康を絵に描いたような生活を送ってみせるシュウは、その実、几帳面なくらいに健康には気を遣っている。早朝のトレーニング、筋トレ……散歩は日課のようだったし、食事にしても栄養を摂取し過ぎずにきちんと補うっているようだった。そういったシュウの習慣を目の当たりにした当初のマサキには、それが意外過ぎるぐらいに意外に映ったものだった。
好戦的になり易いとはいえ、学者肌の男なのだ。
しかしよくよく考えてみれば、当たり前の話ではある。人型汎用機《ロボット》の操縦は、傍で見ているより体力が必要だ。短期決戦で済むような戦闘はそうはない。攻撃を受ける際のダメージは、下手をすれば装甲を貫いて身体にダメージを及ぼすこともあったし、全速力で敵機に突っ込む際の荷重は、身体を鍛えていなければ骨が折れてしまいかねないまでに強力であった。車の運転と同じだ。ただ運転するだけであるなら普通の人間でも出来ることが、スピードを求められるようになっただけで身体を作らなければならなくなる。だからこそ、自らの愛機にこよなき愛着を抱いている男は、グランゾンを乗りこなす為に身体を作るのだ。
勿論、必要に迫られてのことでもある。それは必ずしも、シュウ自身がスポーツを好んでいるということを意味しない。マサキがトレーニングついでとスポーツに誘ってみても、いつもにべもなく断られてばかり。それがどういった風の吹き回しか。現段階のシュウ=シラカワという男は、マリンスポーツという自信に不釣り合いなスポーツを体験するのを楽しみにしているようだ。
子どもの頃の思い出というものは、大人になってから振り返って、初めて宝石箱であることに気付かされるのだ。
もしかするとマサキがそう感じるように、シュウも自らの輝けていた頃の思い出を、そう感じているのかも知れなかった。本格的に水泳に励んでいたらしいかつてのシュウ。海での遠泳にまで挑戦しているのだ。ただの義務感だけで続けられるものでもないだろう。それが肌を晒すことを厭う男をして、海を楽しみにさせている理由ではないか……そんなことをつらつらと考えながら、市街地を抜けるタクシーの車窓に目を遣りつつ、シュウと他愛ない会話を紡ぐこと一時間程。途中にあったマリングッズのショップでシュウの分の水着を購入した後に、タクシーは目的地であるサヌールビーチに到着した。
さらりと焼けた砂。砂浜には色取り取りのパラソルやベッドが、浜辺近くの海にはカラフルな色合いの船が、それぞれ利用者を待つようにして並んでいる。その奥。エメラルドグリーンの海の上で、同じパックの利用者たちと思しき幾つかの観光客のグループが、マリンスポーツをインストラクターとともに楽しんでいる。
長閑なバリの世界を海に凝縮したかのような景色。マサキは暫く浜辺に下りることも忘れて、ラングランの海とは印象の異なる色鮮やかな世界を見詰めていた。藍より青し――深い藍色がどこまでも続くラングランの海は、吸い込まれそうな美しさに満ちていたが、澄んだエメラルドグリーンを湛えているバリの海は、非日常を身近に感じさせるような美しさに満ちている。一日中、波と戯れていたいほどに、穏やかな浜辺。マリンスポーツへの期待も相俟って、マサキの胸はひたすらに湧き立った。
行きますよ。シュウに声を掛けられて、はっと我に返る。Excuse me.ひと足先に砂浜に降り立ったシュウが、真っ直ぐに海で戯れている一団に近付いて、そうインストラクターに話しかけた。英会話の応酬。聞き取れた単語の断片を繋ぎ合わせるに、目的の観光パックで合っているかの確認をしているようだ。ヴィラでした会話が正しければ、英語を操れるこのインストラクターは、相当のエリートであるのだろう。彼はマサキとシュウの顔を交互に見遣ると、輝くような白い歯を剥き出しにして笑った。
「更衣室の案内をしてくれるそうですよ」
浜辺の一角、板囲いで覆われた簡易的な建物。こじんまりとしたスペースでありながら、トイレやシャワーのみならず、鍵のかかるロッカーまでも完備されている。ひと通りそれらの設備の説明をしたインストラクターは、準備が出来たら海に来るようにと云い残して、建物を出て行った。
「今更だけど、最初に着てくれば良かったよな」
「下着の感触が変わるのは、あんまり好きではないですね」
「お前は神経質だもんな。枕が変わるのも駄目だって云ってなかったか」
「ベッドが変わるのが駄目なのですよ。それなりの広さがないと落ち着いて眠れない」
その割には、マサキが隣で寝ていても、構わずに深い眠りに落ちているように見える。そうマサキが口にすると、誰でもいい訳ではありませんよ。シュウは言外に含みを持たせながら服を脱いだ。
「それとも、あなた以外をベッドに招き入れて欲しい?」
「そういう話をしてるんじゃないだろ」
そうは云っても心は踊る。
シュウの寝室における手慣れた振る舞いは、マサキを不安にさせたものだった。そうでなくとも自分に想いを懸ける女性をふたりも身近に置いておける男なのだ。女嫌いとは良く云ったもので、シュウはそう嘯《うそぶ》くことで、自らに不埒な振る舞いをしかねない異性の行動を制限しているようであった。それでも間違いが起こらない、などとはマサキは思えない。
過去に異性と性的な交渉を持ったことがあると、シュウはマサキに早くから明かしていた。それに対して拗ねたり、嫉妬心を剥き出しにしたり、感情も露わに詰め寄るような真似をしたりなどといった行動をしたことはなかったものの、全く気にせずにいられるほどマサキは無頓着ではなかったし、頑健な精神力を誇ってもいなかった。
揶揄い混じりの言葉であるにせよ、彼とベッドをともに出来るのは、今の所はマサキだけであるのだ。それがわかって、どうして冷静でいられよう。マサキはシュウの様子を横目で窺った。
更衣室にいるのが自分たちだけだからか、シュウは手早く着替えを済ませていく。膝丈のサーフパンツに長袖のナイロンパーカー。買い物に付き合ったからこそ知ってはいたものの、やはり肌を晒すのは限られた範囲にしたいようだ。それが如何にもシュウらしくて、マサキは安堵せずにいられなかった。
何事も思い切りが良ければいいというものではない。そのくらいの警戒心は残しておいて貰わなければ……精神の不調が人格に影響を及ぼすことを、マサキは身近な仲間たちを見て知っている。それはこの大胆にして頑健な男であろうとも例外ではない。些細なことで落ち着きを欠くと本人が口にしている通り、シュウには思いがけないくらいに繊細な面がある。マサキが不安を感じてしまっていたのは、だからでもあった。
けれどもそれも杞憂に終わりそうだ。マサキは自身の着替えを進めた。
シンプルな白いTシャツに、ショートパンツの水着。荷物をロッカーに収め、ビーチサンダルに履き替えたマサキは、シュウとともに更衣室を出た。
海を愛する人間というのは、得てして大らかで陽気な性質らしい。先程、マサキたちを更衣室へと案内してくれたインストラクターが目聡くマサキたちの姿を見付けたかと思うと、にこやかな表情を浮かべながら一直線に近付いて来る。What do you start with? どのマリンスポーツから体験パックをスタートするのか尋ねているようだ。
「マリンジェットからにしますか? それともそれは最後にしますか?」
「楽しみを後に取っておく人間じゃねえよ」
「なら、マリンジェットからですね」
渡されたライフジャケットを装着する。砂浜近くの海上に浮かんでいるマリンジェット。少し離れた沖の方で、今まさに他の観光客がマリンジェットを楽しんでいるのが見える。風を切って、波を分け入る。颯爽と海上を駆け抜けるマリンジェットにマサキの心が逸った。
「彼が今日は私たちのインストラクターを務めてくれるようですよ」
これも何かの縁、なのだろう。はちきれんばかりの笑顔でマサキたちを迎え入れてくれたインストラクターは、このままマサキたちを担当してくれるようだ。お先にどうそ。シュウに促されたマサキは、ジェスチャーを交えながら英語で話しかけてくるインストラクターの指示に従って海に入った。
振り返れば砂浜で、シュウがこちらを眺めている。その表情から不安といったネガティブな要素は感じ取れない。きっと、大丈夫。マサキは初めて目にするシュウの水着姿が、思った以上に海に馴染んでいることに驚きながら、インストラクターの言葉に従ってマリンジェットに乗った。
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