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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

Lotta Love(22)
迷走感が凄い。

彼らへのご褒美として始めた話でしたが、果たしてこれでバカンスになっているのか疑問です。
今回はバリの住宅街ツアーですし。

何かマサキって観光に興味なさそうな感じしません。そういうのはむしろ白河の方が積極的というか。好奇心の向き先が違う気がするんですよね、このふたり。

拍手有難うございます!励みにして頑張ります!
どこに着地するのか実は私もわかってないのですが、残り3分の1ほどだと思いますので、最後までお付き合いのほどを宜しくお願いします。では、本文へどうぞ!!
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<Lotta Love>

「これから向かうのは、ここから車で五分ほどの場所にあるデンパサルの住宅街ですよ」
「デンパサルってどういう場所なんだ」
「バリは観光地化が進んでいる州ですので、どこにでも観光客向けの店があるような状態ですが、デンパサルはバリの州都ということもあって、他の地区と比べると観光地化の進みが遅いエリアです。国際空港が近いこともあって、娯楽・趣味的な店が全くないという訳にはいきませんが、それでもあなたの目的を果たすのには充分な場所だと云えるでしょう」
「この辺りもデンパサルなんだよな」
「サヌールビーチもデンパサルの観光スポットですし、この大通りも勿論デンパサルの主要道路ですよ」
 バスやタクシーの姿も数多く目に付く大通りを西に向かったタクシーは、やがて細くなった二車線の道路へと入り込んだ。いきなり目に付くのが道路の車線を無視して走るスクーターの群れ。小回りが利くからだろう。この辺りの人々は、交通の足に車よりもバイクを好んで使っているようだ。
 レストラン前の開けたスペースにタクシーが停まる。ここからは徒歩で道路を往くようだ。シュウに続いてタクシーを降りたマサキは、彼が運転手と今後の予定について話し合っている脇で辺りを窺った。
 左右に建ち並んぶ大小さまざまな建物。ひと目で金がかかっていると知れる意匠も見事な門構えの家もあれば、掘っ立て小屋のようなトタン作りの粗末な家もある。その並びの合間にひっそりと建つレストラン。民家をそのまま転用したような外観は、知る人ぞ知るといった雰囲気を醸し出していた。
 道端には群れなす住人たち。インドネシア語のわからないマサキには、会話の内容は微塵も聞き取れなかったが、恐らくは世間話に興じているのだろう。時に朗らかな笑い声が響いてくる。その奥には赤子を抱いた女性の姿。午後を迎えて日陰となった通りに涼みに出て来たようだ。それを助けるように向かいの家の玄関先で、老婆が水を撒いている。
 そうした光景に|郷愁めいた思い《ノスタルジー》を感じてしまうのは、マサキが子どもの頃に良く見た光景に似ているように感じられるからだろう。
「行きましょう、マサキ」
 タクシーの運転手にガイドを頼むと云っていたシュウだったが、どうやらそれは叶わなかったようだ。マサキを促したかと思えば、ひとりで先を進み始めるシュウに、待てよ。マサキは慌てて後を追った。
 振り返れば、タクシーの運転手は一時的に車を余所に動かすつもりであるらしい。挨拶のつもりだろう。軽くマサキに向けて手を挙げてみせた彼は、タクシーに乗り込むとハンドルを切り返して大通りへと出て行った。
「ガイドを頼むんじゃなかったのかよ」
「タクシーの安全確保が出来ないと断られましたよ。一時間ぐらいで迎えに来るそうです」
 そもそも二車線とはいえ舗装も未熟な細い道路だ。車二台が行き交うのがやっとの車幅では、路肩に駐車とはいかない。しかも治安の悪い地域だ。放置されたタクシー車両など、獲物以外の何物でもない。だろうな。マサキは頷いてシュウに肩を並べた。
「この辺りは比較的治安がいいエリアらしいですが、それでも観光客向けのエリアと比べると危険度は増すようですからね。残念ですが、仕方がない」
「もっと治安の悪いエリアもあるのか」
「スミニャックの大通りから一歩奥に入ったエリアも相当に治安が悪いらしいですが、一般的な街というよりはスラムに近いところなようですね。流石にお勧めは出来ないと云われましたよ」
「そういう所も見てみたくはあったんだけどな」
「ガイドを請け負ってくれる奇特な人間がいれば行くのも吝かではありませんが、私たちだけでとなるとね。言葉の壁がある以上、無用なトラブルも招きかねませんし。まあ、今回はここで我慢をするのですね。気ままな散策も悪くはないですよ。きっと思いがけない発見があるでしょう」
 近所の人間にさえも関心のない都会の住人たちと異なり、この辺りの住人は皆が顔見知りであるようだ。通りがかったスクーターが道端で井戸端会議に興じている人々に手を振ったかと思えば、あちらでは赤ん坊を撫でて去ってゆく。
 だからだろう。いでたちだけでも観光客と知れるマサキたちに、住民たちは遠慮なく視線を注いできた。
 気さくに笑顔をみせる者もいれば、何をしにきたのかと訝しむような表情をみせる者もいる。好奇心を隠しきれずに近付いて来ようとする者もいれば、あからさまに余所者を警戒してみせる者もいる。王都を主な生活の場にしているマサキからすれば、地方から大量の人間が流入する都市での生活は当たり前のものであったが、こういった静かな住宅街に住まう人々からすれば、物見遊山な連中に足を踏み入れられるのはちょっとしたイベントであるようだ。
「思ったより穏やかだな。もっときつい扱いをされると思ってたんだが」
「スラムでもない限り、そこまでの扱いをされることは先ずないのでは?」
 だが、マサキからすればそれこそが日常でもある。
 魔装機神の操縦者とて栄華や栄光を手に入れたかに見えるマサキだったが、ラングランの国民は元より、ラ・ギアスの人間の中にも地上人蔑視は根強い。彼らにとってマサキは英雄である以上に余所者であったし、そうである以上そうした扱いも日常茶飯事だった。
 ましてや戦争請負人である。進んで手を血で汚すマサキたちは、理性を重んじるラ・ギアス人からすれば、野蛮な生き物でしかなかった。彼らの扱いは過酷なまでに冷淡だ。決して言葉で責め立てることをしない。態度や視線で物を云う彼らに、言葉を封じられたマサキはどれだけ心を抉られたか。
 そうした扱いにももう慣れた。
 マサキは評価が欲しくて戦っているのではない。そうした人間も含めて、人々が生きるこの世界を守りたいからこそ戦っているのだ。
 だが、そうした自らを取り巻く環境や、それに対する自身の感情を敢えて語りはしない。バカンスに興じているシュウの気分に水を差すのは憚られたし、何より聡明な彼のことだ。マサキが語らずにいようとも、その程度のことはとうに見通していることだろう。
 慈しみ深くもある笑み。隣に立つシュウの表情は穏やかだ。
 マサキはシュウと並んで真っ直ぐに伸びている道を往った。
 時々、横に伸びる道が現れる。先が見えないほど遠くまで伸びている道もあれば、隣の通りに行き当たるだけの道もある。いずれにせよ、それらの道によって住宅街の区画が分けられているようだ。想像していた以上に整然とした街並みに、へえ。と、マサキは感心の声を上げた。
「ちゃんと区画分けされてるんだな。きちんと道が通ってる」
「地方に行けばまた違うのでしょうが、ここは州都ですしね」
「その割には建物の差が激しいよな。云っちゃ悪いがあんなボロ屋、州都にあっちゃマズいだろ」
 顎をしゃくってみせた先に建っている寄せ集めの建材で作られたバラック小屋。傍目にはまるで家畜小屋といった按排だ。両隣に建つ民家が一般的な建築物であるからこそ、廃れ具合が際立つ。それでも育ちのいい男は、その育ちの良さ故に貧富の差を気を留めることはしない。
「バリらしい建物だと思いますが」
「お前のバリのイメージってどんななんだよ」
「地方に行けば珍しくもありませんよ」
「ここは州都だろ」マサキは更に辺りに目を遣った。
 州都でありながら発展しきっている訳でもない。観光地化しきっている訳でもない。かといってありきたりな住宅街といった訳でもない。富める者も貧する者も一本の道に沿って家を並べる不思議なエリア。それは生まれや貧富の差で人が区別されることはないのだと云われているようにも映る。
 区画ごとに住人の色がはっきりと決まっているラングランの王都では考えられない光景だ。
 貴族に庶民に貧民。ラングラン王都に住まう彼らは決して混じり合うことがない。貴族は貴族との付き合いを密にしたし、庶民は庶民と付き合うのが常だ。それは競争社会から落ちこぼれた者が、容易には這い上がれないことを示している。
 職業選択の自由が定められているとはいえ、それは見合うだけの能力あってこそ。能力なき者まで受け入れられるほど、神聖ラングラン帝国という国は理想だけに生きてはいない。マサキとてそうだ。見合うだけの能力があったからこそ、魔装機神の操者として生きることを許されているのだ。


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