まだまだ続くよ住宅地編。
次回こそは観光地に向かいます。
この話の白河はマサキをやたらと甘やかしているのですが、今回も例に洩れず甘やかしているような気がしなくもないです。あと触りたがり。何かもうマサキが可愛くて仕方がないんだなー。などと思いながら書いている訳ですが、何気にマサキもそんなシュウにしっかり甘えていると思いません?←
いつも拍手を有難うございます。では本文へどうぞ!
.
次回こそは観光地に向かいます。
この話の白河はマサキをやたらと甘やかしているのですが、今回も例に洩れず甘やかしているような気がしなくもないです。あと触りたがり。何かもうマサキが可愛くて仕方がないんだなー。などと思いながら書いている訳ですが、何気にマサキもそんなシュウにしっかり甘えていると思いません?←
いつも拍手を有難うございます。では本文へどうぞ!
.
<Lotta Love>
わかってはいても遣る瀬無い。どちらが正しい、或いは間違っているといった話ではなかったが、せめて貧富の差によって人間関係に差が生じる状況を変えられたら――と、恵まれている側であるマサキは思わずにいられない。
「もしかするとバリの方が、ラングランに比べると国民に優しい国かも知れないな」
「どうでしょうね。目に見えるものだけが正しいとも限らない。現実とはその世界の中で生きてみて初めてわかるものでもありますよ。あなたにとって、ラングランとはどういった国ですか、マサキ?」
「その答えはお前の方が良く知ってそうだけどな」
そう云えば、肩をそびやかしてみせる。
ラングランに生まれたことに誇りを持っている男は、その半面、国のシステムに対しては懐疑的であるらしい。前時代的な階級制度から、トップダウン式の省庁制度、それに非効率的な軍事制度まで、彼は事あるごとに辛辣な言葉を吐いては持論を持たないマサキを閉口させてくれたものだ。それは彼が王室に生まれたことと決して無関係ではなかった。マサキが魔装機神の操者であるが故に見えてしまうものがあるように、高い地位に生まれ付いたシュウにも見えてしまうものがある。それは広い範囲で国のシステムに関わってきたからこそ、持たざるを得ない疑問でもあるのだ。
既に王室を離れて久しいシュウがそれらに一家言を持っていることを、マサキはとやかく云うつもりはない。地上人たるマサキにとって、ラングランの国のシステムの問題はその国の人間が正してゆくべき問題である。けれどもシュウは違う。彼は日本に出自《ルーツ》を持ちながら、ラングランで生まれ、ラングランで育ち、ラングランの制度の恩恵を受けて生きてきた。そうした彼にどうして自国の問題に関わるなと云えるだろう?
きっとシュウのことだ。変えられる力があるなら変えたいと口にする男は、いずれ自らの高い能力を矛としてそうした問題にも取り組んでゆくに違いない。そうマサキは思っているが、それをシュウに尋ねたことはない。
物事に真摯に取り組んでみせる男は、自身の行動に対しては斜に構えてみせることがある。そういった彼の捻くれた性質は、マサキの問いに素直な答えを返させないことがままあったからこそ。
「ほら、見ろよ。シュウ、あそこに面白い道があるぜ」
マサキたちがいる通りと並走する通りを繋ぐ小路は、まるで田んぼの畦道といった按排だ。伸びきった芝に転がる石ころ。露に濡れた土は決して歩き易そうではない。そういった小路が家と家の間に突然に姿を現わす。それは近代的ながら牧歌的なバリの発展途上な性質を、端的に表しているようにマサキの目には映った。
「こういう変な道ってどうしてわくわくするんだろうな。行く先はわかってるのに、通りたくなって仕方がない」
「あなたのそういったところは私には理解が難しいですね、マサキ。どの道にも味わいがあるのは認めますが、感情を揺り動かされるほどの魅力を感じるかと云われますと、芸術作品とはまた異なる情感の世界の話ですので」
「いいから行くぞ」
苦笑しきりで言葉を吐くシュウを引っぱるようにして、マサキは好奇心の赴くままに小路の奥へと足を踏み入れて行った。
川辺に葦が繁るせせらぐ小川、木々生い茂る開けた空き地。随所に自然が溢れているのが如何にもバリらしい。そこに突然に姿を現わす小洒落た外観の店の数々。オープンテラスのレストランもあれば、シックな外観のテイクアウト専門店もある。その合間にはバラック小屋。アンバランスな中にも調和が感じられる街並みは、これまで目にしたことがある景色ではなかったものの、マサキを夢中にさせて余りあった。
マサキは更に先を往った。
舗装はされているものの、荒い道。小石が散乱している道は決して歩き易くはなかったが、それもいつしか気にならなくなるぐらいに、マサキは目の前に展開するノスタルジックな世界に意識を奪われていた。
「あまり私から離れないで、マサキ」
そんなマサキに不安を覚えたようだ。不意にシュウの手がマサキの肩に置かれる。
「あ、悪い。何だか面白くて、ついな……」
「バリの首都ですらこれだ。あなたにかかってはラングランの王都も未知なる世界、冒険の舞台なのでしょうね」
「そりゃあまあ、通いの店とかはさておき、偶にしか足を踏み入れない場所とかはな。新しい景色って楽しいもんだろ」
慈しみに満ちた眼差し。黙して語らぬ彼は今、何を思っているのだろう。
いつもこうだ。シュウは時々、マサキを包み込むような眼差しを向けてくることがある。そういった時にマサキがその気持ちを知りたいと尋ねてみたところで、シュウから納得出来るような言葉が返ってくることはないのだ。
「どうせ子どもっぽいって思ってるんだろ、お前」
「まさか。羨ましいと思ったのですよ。あなたのその飽くなき好奇心が」
「どうだか」
自身の感情を覚らせまいとする男は、けれども時に驚くほどに大胆になる。するりと重なる手。やんわりとマサキの手を捉えたシュウの手は、バリの陽気を裏切るようにひんやりとしていた。
「お前さ」マサキはシュウを見上げて云った。「今日はやたらと触ってくるのな」
それにシュウは答えず、ただ静かに微笑んでみせただけだった。
人目を憚ることなく触れてくる男の手は、旅先であるからこその解放感の表れでもあるのだろう。
マサキはその指にそっと自らの指を絡めながら時間を尋ねた。シュウ曰く、そろそろ三十分が経過した頃らしい。名残惜しいがそろそろ戻り時であるようだ。マサキはシュウに手を引かれるようにしながら、来た道を戻り始めた。
自身が極度の方向音痴であることを自覚しているマサキにとって、未踏の土地を開拓するように歩いて行くのはさておき、その戻りの道を先立って歩くのは危険に過ぎる。わかっているからこそ、従順に。マサキは見覚えのある景色を眺めながら、シュウの後を付いて歩いた。
「ところで、昼食も取らずに来てしまいましたが大丈夫でしたか?」
「後で昼夜兼用で食えばいいんじゃないか。夜はバリ舞踏だろ?」
朝食が米食だったからだろう。思ったよりマサキの腹は空いていない。食べ盛りのマサキからしてそうであるのだから、それよりも食が少ないシュウに至っては空腹を感じていない可能性がある。だからこそ昼夜兼用と食事の案を出してみせれば、頷きつつも他に頭を悩ませていることがあるようだ。シュウは歩くスピードを僅かに落としながら、マサキにこう話しかけてきた。
「それまで何をしようか悩んでいるのですよ。食事だけでは時間が持たないでしょう。バリの主たる観光地が寺院や自然溢れる景観になってしまうのは仕方がないことですが、そういった所にばかりあなたを連れてゆくのもね」
「いいんじゃないか? 日本の観光地だって似たようなもんだろ。神社仏閣、城に景色。あとは食事にショッピングか。アミューズメントパークなんてのもあるけど、世界的なもんじゃない限り、観光地に来て遊園地ってのもな」
「なら、食事をしながら次の行き先を考えることにしましょう。あなたがそういう考え方なら、見られる場所は幾つもありますよ、マサキ」
庭の手入れをしている若い女性、玄関ポーチに椅子を出して通りを眺めている老人、そして井戸端会議に興じる主婦と思しき女性たち……午後に入って陽射しが弱まったからか、通りに出てくる人も増えたようだ。
心なしか交通量も増えたように感じられる。道幅いっぱいに広がる相変わらずな量のスクーター。小回りの利く乗り物の方がデンパサルでは重宝されているのだろう。ほら、マサキ。シュウに手を引かれながらマサキは道の端に寄った。
.
.
PR
コメント