なるべく早い段階(8/15AM深夜)でピクブラへのリンクを切ったのですが、皆様におかれましては大丈夫だったでしょうか。
のんびり進めておりますLottaLoveもようやくここまできました。
次回は二日目のお楽しみタイムです。
拍手、コメ有難うございます。感謝しております。
励みにして今後も頑張って参ります。では、本文へどうぞ!
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<Lotta Love>
「……全く理解が出来ないんだが」
マサキの表情を目にしたシュウが、だから云ったのですがね――と、苦笑しきりで呟く。周囲を窺えば、他の観客たちは概ね満足した様子でいる。コミカルな動きも手伝って、話の筋がわからなくても楽しめたようだ。納得行かねえ。マサキは腕を組んでシュウを睨んだ。
「魔女の魔法で操られた兵士たちが自害してしまったのですよ。最後のシーンはその亡くなった兵士たちを、聖獣バロンが鎮魂しているところです」
「魔女とバロンの戦いはどうなったんだ?」
「決着は付かなかったようですよ」
ステージ中央に姿を現わしたスタッフが今日の公演の終了を告げる。楽団員もステージから降り、客席からもぱらぱらと観客が掃け始めた。最後の物語の終わり方にマサキは未だ納得が行っていなかったが、バリ神話の世界観というものはこういうものだというシュウの言葉に、ごねても仕方ないと腰を上げた。
思えばダイジェスト版とはいえ、物語性のある作品を二本も観れたのだ。
様々な演目をじっくりと味わった割にはあっという間の一時間。どの踊りも観客の目を惹き付ける力に溢れていた。そうでなければ酒の入ったマサキがどうして最後まで舞台を愉しめたものか!
マサキは空に向けて拳を突き上げた。長く同じ姿勢を続けていたことで硬くなった背中。それをゆっくりと伸ばしてゆく。そして続けて腰を上げたシュウに顔を向けて、今日を振り返る台詞を吐いた。
「今日は色々見れて楽しかったな。マリンスポーツもやれたし、住宅街も歩けた。食事は美味かったし、バリと日本の繋がりがどういったものであるかも知れた。ステージも面白かったし、云うことなしだな」
「プールはどうします? 今からだと帰り着くのは22時半頃になりますが」
「入れる気力があったら入る。無理なら明日入る」
「どちらにしてもプールで遊ぶつもりなのですね」
当たり前だ。マサキは笑った。
折角、シュウが遊具を買い揃えてくれたのだ。それを使わずしてプールを愉しみ切ったとは云えない。マサキはシュウとともにプールを愉しみたかったのだ。彼とともに水で遊び、彼とともに水に浸かる……たったそれだけの欲望は、けれども彼の胸にある傷が果たさせてはくれなかった。
その障害が取り除かれた今、彼とプールに入らずに済ませる選択肢はマサキにはない。
「お前も付き合えよ」
「善処はしますよ」
相変わらず身体を動かすことに愉しみが見出せないらしい。シュウの興味なさげな答えにマサキは肩を竦めた。
「トレーニングには真面目に取り組むのに、どうして娯楽で身体を動かせないかね」
「何に重要性を見出すかは人それぞれですからね」
人波に揉まれるようにして、シュウとともに客席を出る。帰りがけにビンタンビールをそれぞれもう一本ずつ購入し、タクシーが待つ寺院前の大通りに向かえば、時刻はそろそろ21時を回ったところだ。帰宅は22時頃ですね。シュウの言葉に頷いて、待ち構えていたタクシーに乗り込む。
バリ舞踏の感想を求めているらしい。タクシー運転手と話を始めたシュウを隣に、マサキは買ってきたばかりのビンタンビールを開けた。飲み易い味。水のように喉を潤してくれるビンタンビールに、どうせ今日の旅はここで終わりだと、マサキは殆ど一気飲みに近いスピードで飲み干す。
アルコール濃度は5%と低くはあったが、酒であるのには違いない。半日以上動き回った二日目の旅。疲労しきった身体には効果が覿面だ。程なくして回ってきた酔いに、マサキは身体を倒してシュウの膝の上に頭を置くと、三度、深い眠りへと落ちていった。
そして、夢を見た。
海中に浮かんでいる身体が海の底を覗いている。海上から降り注ぐ柔らかな太陽の光が乱反射する中、自由自在に泳ぎ回る極彩色の魚の群れ。マサキはそうっと手を伸ばした。瞬間、ひとつの塊だった魚の群れが、花火がぱっと散るように方々へと散って行った。
――もっと優しく触ってあげないと。
頭上から響いてきた声に視線を上げれば、どうやってここまで降りてきたものか。いつものコートを身に纏ったシュウが、微笑みながらマサキを見下ろしていた。あれ? と思いながら、マサキが自身の姿を確認すれば、こちらもいつものジャケットにジーンズ。海中にいるのに、水着やウエットスーツを必要としない自分たちを不思議に思いながらも、先に深層へと下りて行ったシュウを追って、マサキも水底へと下りて行った。
ごつごつとした岩場が点在している海の底。流石に僅かな光しか届かない昏い世界で、ふわふわと海中を漂う光る|海月《くらげ》の群れに囲まれるようにして、マサキは何処を目指しているのかわからないシュウの背中を追った。
――あんまり遠くに行くなよ。戻れなくなる。
――戻りたいのですか?
シュウに尋ねられたマサキは、そりゃ……と言葉を濁した。魔装機神操者としての使命は、マサキに完全な自由を与えてはくれなかった。何処に在ろうが有事に備えなければならない身。のんびりとバカンスに興じているように見えても、マサキの身体は常にある種の緊張感に晒されている。
――戻らなきゃならないだろ。俺にはやらなきゃならないことがある。
――私がここに残っても?
いつの間にかマサキの背後に回り込んでいたシュウの腕が、マサキの身体を捕らえる。ねえ、マサキ。甘い声が囁きかけるように言葉を継いだ。
――ずっとふたりでここにいませんか。ここに他の人間はいない。きっと誰かが訪れることもないでしょう。あなたと私、ふたりだけの世界を作り上げることが出来ますよ。ねえ、マサキ……
頬に触れた口唇に、身体の芯が熱くなる。
いられるものならずっとここにいたい。何もかもから解放されて、今日は今日、明日は明日と、流されるようにして生きていきたい。ただシュウとふたりで、当てもなくずっと……柔らかく自身の身体を包み込むシュウの腕の温もりを感じながら、マサキは目の前のたゆとう海月の群れを眺めていた。
ああ、そうだな。そう答えたい。
だのに言葉が上手く口にならない。
それがマサキの理性が最後に見せた意地であったのかはわからない。だが、マサキはたった六文字の了承の言葉をシュウに伝えることも出来ないまま。見えない力に引き摺られるように、昏い海の底へと身体を沈めて行った。
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