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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

祭りの夜に/かき氷/夕涼み
暑くて嫌になったので、夏の風物詩でSSです。

シュウマサもそうでないものも混じってます。

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では、本文へどうぞ!
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<祭りの夜に>

 お祭りに行こうよ。と、ミオに誘われたマサキは、後でバレて怒られるのは嫌だと最初はごねたものの、責任はあたしが取るからという彼女の言葉に押し切られ、サイバスターでザムジードとともに地上に上がることになった。
 どうせ数時間ほど見て回る程度だというのに、ご丁寧にも浴衣に着替えた彼女は、自分ひとりだけがめかしこんでも風情がないと、マサキにまで浴衣を着るようにと求めてきた。勿論、マサキは頑なに拒否を続けたのだが、「こういうのは雰囲気が大事!」とミオも譲らない。
 結局、ミオに根負けしたマサキは、履き慣れぬ下駄を鳴らしながら祭りの舞台たる神社に足を踏み入れることとなった。
 時は夕刻。既に会場は相当の賑わいをみせていて、|櫓《やぐら》周りには|二重《ふたえ》に人が輪を作っている状態だった。
 高らかに鳴り響く太鼓の音。誰も彼もが楽し気に踊っている中、ミオに引っ張られるようにして輪に混じることとなったマサキは、すっかり忘れてしまった踊りの数々に、櫓を見上げて見様見真似。最初は眺めるだけ眺めて終わりにするつもりのマサキだったが、踊り出せば日本人の血が騒ぐ。夢中になってもう一曲と続けている内に、どうやらミオとはぐれてしまったようだ。ふと気付けば彼女の姿がどこにもない。
 ミオ。呼びながら境内を探し回る。
 空は既に暗くなり、屋台の明かりが眩く辺りを照らし出している。人の流れも多ければ、店先を覆う人垣も厚い。祭りが本番を迎える時刻となったからだろう。どの屋台も盛況だ。その店先をひとつひとつ覗いてゆくも、ミオの姿は見付からない。どこに行ったんだ――マサキが途方に暮れかけたその時だった。
「これはまた奇妙なところであなたと会いますね」
 背後からかけられた声に、げ。と声を上げたマサキは、よもやこんな場所で顔を合わせると思っていなかった人物の登場に、その場から飛び退かずにいられなかった。
「……なんでてめぇがここにいやがるんだよ、シュウ」
「知り合いの大学教授が近くに住んでいるのですよ。彼を尋ねたついでに、祭りの雰囲気を味わって帰ろうと思ったのですが」
 そこでマサキがひとりでいることに気付いたようだ。シュウは周囲を窺うと、連れの姿がない理由を察した様子で、
「まさかとは思いますが、こんな狭い神社の敷地内で迷ったのですか」
「迷ってねえよ。はぐれただけだ」
「それを世間では迷っていると称するのですよ」
「迷ってねえって云ってるだろ。踊ってたらいつの間にか姿が見えなく」
「しかし私の目が届く範囲には知った顔はないようですが」
 人垣の中から頭一つ突き抜ける長躯。確かに長身を誇るシュウであれば、かなり遠くまで見渡せる筈だ。
 どこに行っちまったんだよ。マサキは溜息を洩らしながら辺りを見渡した。
 普段の姿であればさておき、今日のミオの装いは見慣れぬ浴衣姿だ。ぱっと見ただけでは彼女の存在を見落としている可能性もある。マサキは僅かな可能性に賭けて、何度も辺りを見直した。だが、やはり彼女らしき姿は見当たらない。
 もしや不測の事態が起こってしまったのではなかろうか?
 肉体的に|頑健《タフ》な彼女ではあったが、女性であることに違いはない。ましてや今日は動きの取り難い浴衣姿であるのだ。万が一の事態が起こってないとどうして云えたものか。
 嫌な想像ばかりが脳裏を過ぎる。そのマサキの動揺が伝わったようだ。シュウはふと表情を引き締めると、マサキの肩を叩いてきた。
「こういう時には下手に動き回らない方がいいのですよ。何処ではぐれたか覚えていますか」
「そこの櫓の下で踊ってたんだよ。そしたら姿がなくなってて――」
 そこまでマサキが説明をした瞬間だった。マサキ。ミオの良く通る声が人垣の向こう側から響いてきた。
「ごめんね。トイレに行ってたのよ。もう凄い列で時間がかかっちゃって」
「良かったですよ。そういった理由で」
 どうやらマサキを探すのに夢中で、隣に立つ男の存在にまで気が回っていなかったようだ。頭上から降ってきた声に、ミオの顔色が変わる。
「って、シュウ。何でこんなところに居るの?」
「その理由はマサキに聞くのですね」
 同じ説明を何度も繰り返したくないのだろう。そう云って、神社を後にしようとするシュウに、ねえ! とミオが声をかける。ややあってシュウの足が止まる。彼の許に駆け寄ったミオがその袖を引っ張りながら、マサキを振り返った。
「折角だし、三人で屋台でも見て行かない?」
「はあ?」マサキが顔を|顰《しか》めるのと同時に、シュウが眉を|顰《ひそ》める。
「水入らずで過ごしているところを邪魔するつもりはないのですが」
「いいじゃないのよ、少しぐらい。ふたりきりじゃ寂しいって思ってたところなの」
「誘う相手は考えろよ、ミオ。こいつが祭りに浮かれる性質かよ」
 地上に来てまで顔を突き合わせていたい相手でもなし、とマサキが婉曲に反意を唱えるも、それを素直に聞き入れるような少女でもない。なによ。ぷくりと頬を膨らませたミオが、シュウの袖をいっそう強く掴みながら言葉を継ぐ。
「あたし抜きの方がいいの?」
「そういう話じゃねえよ! いきなり何を云ってるんだお前は!」
「だったら決まり!」
 にひひと笑ったミオが、シュウの袖を引いて手近な屋台に近付いて行く。仕方ねえなあ。マサキは下駄の音を高らかに鳴らしながら、ふたりに続いて屋台へと向かって行った。



<かき氷>

 かき氷だ。と声を上げてソファから飛び起きたマサキに驚いたようだ。床に伸びていた二匹の使い魔が、びくりと身体を揺らす。
「ニャんだニャんだ」
「ニャによ、いきニャり」
 天井の桟にて身体を休めていたチカは、そんなマサキの奇行にも慣れたようだ。彼はふわりと翼を広げて降りてくると、マサキの声に何ら反応を示さず読書を続けるシュウの肩にとまって、「――だ、そうですよ。ご主人様?」
「何の話です、チカ」
「ちゃんと聞いていましたか? マサキさんがかき氷を食べたいんだそうですよ」
「フラッペなら街に出れば食べられますが――」
 膝に広げた書物から顔を上げたシュウが、窓の外に視線を投げた。陽射しのきつい午後。目を開けているのも辛くなるほどに眩い光が世界を覆っている。
「この強い陽射しの中、街に出るのは流石に」
「かき氷機ぐらい持っとけよ」マサキはシュウにしなだれかかった。
 空調が効いているとはいえ、強い陽射しが差し込む室内。冷やした先から温くなる空気に、それだったら内臓から冷やせばいいと口に出した言葉だった。なあ、シュウ。食べたい。再び書物に視線を落としたシュウの肩を揺らす。
「アイスクリームでは駄目なのですか。そのぐらいでしたら冷凍庫に幾つか」
「かき氷がいい」
「アイスクラッシャーならありますが、そこからフラッペを作るとなると根気が要りますね」
 マサキを退けて立ち上がったシュウが、リビングと続きになっているキッチンに向かう。マサキはシュウの後を追った。どうやら冷蔵庫の中身を確認するつもりなようだ。野菜室を開いたシュウの背後から顔を覗かせると、葉物野菜に混じって苺とオレンジが収められているのが見える。
「アイスもあるって云ってたよな」
「あなたが食べたいと云い出すと思っていましたので」
「だったらシロップかジュースが欲しいな」
「砂糖で充分でしょう」
 早速と冷凍庫からロックアイスを取り出したシュウが、スプーンを片手に、先ずは適度な大きさへとロックアイスを砕いてゆく。マサキも見様見真似で氷を砕きにかかった。スプーンの裏側で氷を叩く。三度も叩かずに割れる氷。面白いなと口にすれば、クラッシュアイスはこうやって作るのですよ。との返事。
 そうして手頃な大きさになったロックアイスを、アイスクラッシャーへと放り込んでゆく。
 更に細かく砕かれてゆく氷。かき氷と呼ぶには粒が大きいものの、食べ易い大きさになったのは間違いない。マサキはシュウに渡された氷を冷凍庫に仕舞い込んだ。そしてオレンジを絞っているシュウの隣で苺のへたを取りにかかった。
「俺が想像していたより、贅沢なかき氷が出来上がりそうだ」
「必要なら生クリームもありますよ」
 絞ったオレンジに、へたを取って小さくカットした苺。それをミキサーに放り込み、砂糖を加えて混ぜ合わせる。流石に生クリームは遠慮する。マサキは冷凍庫から取り出した氷を器に盛った。その上にアイスクリームを乗せ、ミキサーした果汁を垂らしてゆく。
 大量のロックアイスを贅沢に使ったかき氷。その場でひと口食べてみれば、思った以上に瑞々しい味わいだ。
 口の中でそれぞれの素材がバランス良く溶け合う。美味い。きっと相当に満足気な表情をしていたのだろう。声を上げたマサキに、それは何より。と、シュウも満足気に微笑む。
「満足しましたか、マサキ」
「勿論だよ」マサキは笑って、続きを味わうべくリビングへと戻って行った。



<夕涼み>

 夜のない世界に住んでいると、恋しくなる空の色がある。
 地上世界の人間関係には未練のなかったマサキではあったが、稀に地上に出た際に目にする星が瞬く深い藍色の空や、紫色に薄れてゆく夕暮れ時の空には、懐かしさと寂しさが入り混じった郷愁めいた想いを抱かずにいられなかった。
「こう暑いと夕涼みしたくならない?」
 ラングランの夏。強い陽射しが降り注ぐゼオルートの館の庭でマサキが珍しくも水撒きに精を出していると、自主的なトレーニングの帰りであるらしい。ザムジードを駆って館を訪れたミオが、マサキの傍らにちょこんと座り込んで云った。
「夕涼みねえ。縁側で蚊取り線香でも焚いて、スイカでも食えってか」
「そうそう。そんな感じ。庭先から空を仰ぎながら、暑さの和らいだ風を感じるのよ」
「お前が時々口にする希望ってThe・昭和って感じだよな」
「いいじゃないのよ、The・昭和。スイカを食べ終えたらロボットアニメを見るのよ。こう、チャンネルを回して……」
「ホントに幾つなんだよ、お前」
「あたしおじいちゃんおばあちゃん子だからねえ。こういう話は山程知ってるのよ。むしろスマホで動画サイトとかって方が何の話? って、感じ」
 そう云って、懐かしそうな眼差しで庭に咲き誇る花々を眺めるミオに、夕涼みねえ。マサキはもう一度彼女が口にした言葉を繰り返した。
 沈むことのない太陽。闇に包まれることのないラングランにも朝昼晩の区別はある。夕涼みにしてもやってやれないことはなかったが、いかんせん青空の下で――と、なると雰囲気に欠ける。涼むのだとしたら、夕暮れ時の空の下。夕餉の匂いを嗅ぎながら、ゆったりと温度の下がった風に身を任せたい。
「地上に行く機会があればなあ」
「なあに、マサキ。里心でも付いた?」
「まさか」マサキはホースの水を止めた。
 撒きに撒いた水のお陰で過ごし易くなった庭に、マサキがミオを伴って館に戻れば、リビングでプレシアが良く冷えたアイスティーとフルーツを小さく切り分けたデザートを用意して待っている。まあ、これはこれでいいもんだけどな。マサキは自分の席に着き、早速とばかりに冷えたアイスティーを喉に流し込んだ。
「あー、生き返った」
 窓から流れ込んでくる風が涼やかなものに変わる。それが自分の撒いた水のお陰だと知っているマサキは、無邪気に喜ぶプレシアを横目に、ふと心の片隅を過ぎって行った懐かしさを塗り替えるように、今の自分を支えている大切な世界へと目を向けた。



以上です。


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