いやー、さくさく進めると云った割には中々進みませんね!
私、頭の中で大まかな話の流れを決めるだけで、プロットを一切作らない人なので、細かい部分はいつも行き当たりばったりなんですけど、それがこの話においてはいい方向に作用しているようで、楽しく書き進めることが出来ています。自分の妄想にない展開が飛び出してくる……!
他の話では物凄い産みの苦しみを味わうことになるんですけど、この話のテーマはバカンスですからね!!!!肩の力を抜いて書けるのが有難いです!!!!(遣りっ放しになっている原稿の数々を眺めながら)
今回は、ショッピングに行く前に腹ごしらえということで、昼食のセレクトまでとなっております。そろそろ話を畳まないとならないので、くどいくらいに心情描写が出て来ますが、うざったく感じましたら読み飛ばしてくださって結構です。だってこの話の本懐はバカンスですもの!
あ。
物理の本の製作はまあまあ順調です。進行17%ほど。六分の一まで原稿が上がりました。ルビの大きさの調節をしたりと、入稿用原稿作成を同時進行しているので、私にしては進みが遅い方かも知れません。でも納得行くまでやりますからね!!!いつも以上に気合いの入った私の文章!こーれーだー。こういうのが読みたかった!と自分の文章を自画自賛すると同時に、お前いつもそのくらい気合い入れろよと思わずにいられません。OTL
といったところで、本文へどうぞ!
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<Lotta Love>
シュウの言葉にマサキはかつての日々を振り返った。地底と地上と二つの世界を股にかけて、がむしゃらに彼を追い続けた日々の記憶はもうかなり薄れてしまいつつあったものの、彼をこの手にかけた瞬間の記憶は、コントロールパネルに置いた手の温もりも含めて明瞭《はっき》りと思い出せた。
魔装機神の操者となったマサキにとって、シュウ=シラカワという人間を斃すのはひとつのけじめであったし、これから先、ラ・ギアスで戦っていく上での覚悟を決める戦いでもあった。|風の魔装機神《サイバスター》に選ばれ、剣聖の称号に与り、御前試合で覇者となったあの頃。順風満帆に過ぎていく日々に慢心してしまっていたマサキの高く伸びた鼻をへし折るように、シュウはマサキの前に立ちはだかった。養父ゼオルートの死……破壊された調和の結界……壊滅した王都……彼の記憶はどの場面に於いても鮮明だ。それは、それだけシュウがマサキにとって印象深い男であったことを示している。
決して挫けることの許されない戦い。襲い来る孤独に歯を食いしばって耐え、世界各地を駆け回り、僅かな痕跡を頼りに彼を追い続けた。まだ先の長い自分の人生を、第二の故郷の平和の為に捧げ続けることが出来るのか? マサキは幾度も自問自答を繰り返しながら、けれども目先の目的から目を逸らすことも出来ぬまま、結論を先送りするようにシュウ=シラカワという人間に執着し続けた。
その壁を越えずして、マサキは自分自身を救うことなど出来なかった。
ようやくラングランでの温かな日常生活に慣れた先に襲いかかった奇禍の数々は、マサキの心に再び暗い影を落とそうとしていた。地上世界で全てを失っていたからこそ、地底世界で生きるのも悪くないと思ったマサキにとって、自然豊かな地底世界ラ・ギアスとそこに生きる人々は、徐々にではあったが、確実にマサキの心を覆っていた厚い氷の壁を溶かしてくれていたのだ。それだのに……。
そのマサキの希望をあっさりと打ち砕いてみせた男、だからこその執着心を、果てのない敵愾心を、柳に風と受け流す男。世界の果てから他人を眺めているかの如く言葉を紡ぎ、そのささやかな生の営みを自身の手で奪うことを、世界というひとつの巨大な生命体の人生における運命のひとつであると断じてみせる男。何から何まで対極にある男との圧倒的な力の差に、マサキが無力感を感じたことは一度や二度ではない。
彼を斃さなければマサキは報われなかった。
失い続ける人生を、ようやく獲得する人生に変えることが出来たマサキは、必ずしもその為の努力をした訳ではなかったものの、人並み以上の幸福を手に入れられたと自覚していたし、我が世の春を謳歌しているという認識もあった。それはマサキにとっては、これまでの人生に対する大きな見返りだった。ラ・ギアス世界で生きることを決意したマサキ、そこではようやく、人生のスタートラインに立てたのだ。
打ち砕かれた希望は、だからこそマサキを奮い立たせ、何度だろうと立ち上がらせた。
――いいですか、マサキ。彼を憎んだり、恨んだりしてはいけませんよ。
絶命した養父が遺した言葉の意味をマサキは理解出来なかった。どうして憎まずにいられよう。どうして恨まずにいられよう。飲み込まれそうになるまでにマサキの心を暴虐に吹き荒れる負の感情。それをマサキはひたすらに耐えた。あの男は必ず世界に仇名す存在となる。自身の直感を信じたマサキは、だからこそその感覚に縋り付き、だからこそそれを大義名分としてシュウを追いかけ続けた――……。
あれは使命感といった高潔な感情ではなかった。青臭かった当時の自分を振り返ったマサキは、泥臭ささを感じさせる自身の感情の持て余したくなるようなエネルギーに、最早手が届くことはないのだと、懐かしくも物悲しいまでの喪失感に捉われていた。
あれから両手を使っても足りないぐらいの場数を踏んだマサキは、養父の言葉を理解出来るようになった。憎しみに飲み込まれてからでは遅いのだ。私情と大義を取り違える敵を、マサキはどれだけ戦場で目にしてきたことだろう。彼らと自分は異なる視点に立たねばならない。世界の命運を左右する戦いに身を投じることを義務付けられ、そしてその立場を受け入れたマサキは、そうした感情に飲み込まれることの危うさに自覚を持たねばならないのだ。
マサキは隣にて運転手と話をしているシュウをの横顔に目を遣った。
憎むということ、恨むということ。そしてその感情を乗り越えて正しさに辿り着くということ。彼はマサキにその全てを教えてくれた存在だ。そして地上世界での常識が、地底世界では通用しないとも教えてくれた存在だ。はじまりの敵。彼がマサキと出会った意味はあまりにも大きい。
それはシュウにとってもそうであったのだ。
誰かを救えるなどといった烏滸がましいことをマサキは思ってはいなかったし、救いたいなどと傲慢に思うこともなかったが、自分の存在がシュウの人生を支えているという事実は、彼らの日常を守りたいと望んでいるマサキに力強い自信を与えてくれた。
魔装機神サイバスターが操者、マサキ=アンドー。マサキは自分の立場を胸の内に反芻した。確かに始まりはRPGの英雄気取りだった。けれどもそれだけで、文化も習慣も異なる世界で生きていこうと思えるほど、マサキは世間知らずな少年ではなかった。マサキは守りたかったのだ。世界に生きる数多の人間の変わりない日常生活を。
かつての自身が失ってしまっていた、温かな日常生活。それを取り戻すのに必要なものは何だ? 平和が保障された穏やかな世界だ。それが叶えられているのならば、それだけでいい――……
「何を食べますか」
唐突にシュウに話しかけられたマサキは、それが昼食を指しているのだと気付くのに暫しの時間を必要とした。少し遅い時間に朝食にしたからか。そこまで空腹を感じていないのもあった。マサキはスマートフォンの時計画面を確認した。時刻はとうに12時を回っている。スミニャックからデンパサルまでは一時間ほど。ショッピングの前に腹を満たしておく必要は確かにある。
「何を食べるって云ってもな。こっちの食事がどういったものか、俺はまだ良くわかってないしな」
甘くて辛い、けれども舌に馴染まない訳ではないバリの料理の数々は、今のところ大きく外れたと感じさせるようなものはなかった。ブブール、マヒマヒ、ナシゴレン、ナシチャンプル。そして今朝食べたばかりのミーゴレン。シュウが好んで土着的な料理を味わっているからか、見た目は決して華やかとはいかなかったが、どれもマサキに異国にいると感じさせてくれる印象深さがあった。
「そろそろインドネシア料理以外のものを口にしたいと思い始めているのではないかと思ったのですよ」
「まだ飽きるほど食べてないだろ、インドネシア料理。こういうのはひたすら食い倒すのがいいんだよ。で、今日のお勧めは何だって?」
「あなたに特別希望がないのであれば、ミーアヤムにしようかと思っていますが」
「ミーは麺だよな。アヤムは何だ?」
「鶏肉ですよ。つまりチキンヌードルです」
「チキンヌードルって、珍しくないか」
「一般的にどうかはわかりませんが、バリではポピュラーな料理のひとつであるようですよ」
きっと先程会話をしていた中で、運転手から勧められたのに違いない。だったらそれでいい。頷いたマサキは自身に与えられているスマートフォンを操作し、ミーアヤムがどういった料理であるのか調べることにした。
日本の料理も大概茶色いとマサキは思っているが、バリの料理も結構な確率で茶色い。味付けにソイソースであるケチャップマニスが使われているからだろう。色の染まった鶏肉がトッピングされた汁麵は、例に洩れず華やかさとは縁遠い。
「デンパサルの中心地に麺料理専門のワランがあるそうです。異論がないようでしたらそこにしますが、どうしますか」
「行かない理由が何処にあるんだよ。行くに決まってるだろ」
「ジャジャナンパサールのこともありますしね」そこで昨日のナシチャンプルの一件を思い出したのだろう。シュウは密かに笑いを洩らすと、「食欲が満たされ過ぎるのもどうかと思ったのですよ」
「あれは酷い失敗だった」マサキも笑った。
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