ようやくこれで23の物語が書きあがりました。
なんと気付けば残すところ7つです!やれば出来るじゃないですかね、@kyoさん!
明日から三連休。ということで、この三連休でバレンタインネタもさっくりと片付けようと思っていますっていうかもう四日後ですかバレンタイン!なんか今年も延長な気がしますが、それはそれ。どうぞよろしくお願いします。と、いったところで、本文へどうぞ!
なんと気付けば残すところ7つです!やれば出来るじゃないですかね、@kyoさん!
明日から三連休。ということで、この三連休でバレンタインネタもさっくりと片付けようと思っていますっていうかもう四日後ですかバレンタイン!なんか今年も延長な気がしますが、それはそれ。どうぞよろしくお願いします。と、いったところで、本文へどうぞ!
<My Favorite Things>
その日のマサキは、少しだけ、リューネを側に置いてくれているような気がした。
それは、何が、と聞かれると返事に困る程にささやかな変化だった。
いつもに比べると会話の語尾が柔らかく感じられるといった変化だったり、いつもよりも自分に多く話し掛けてくれているように感じられるといった変化は、人に話せば気の所為のひと言で片付けられてしまうだろう。けれども、好きな人のこと。勘違いでは絶対にないと思ったリューネは、久しぶりにマサキを身近に感じたことで、どうしようもないまでに舞い上がってしまった。
だから、ではなかったが、今なら応じてくれるような気がする――、そう思ったリューネはこれから行く城下での買い物にマサキを誘ってみることにした。
「ねえ、マサキ。あたし、これから城下に買い物に行くんだけど、一緒に行かない?」
そう、デートの誘いである。
孤独を好むきらいのあるマサキは、その割にフットワークが軽い。例えばプレシアが一緒だったり、ウエンディが一緒だったり、テュッティやミオが一緒だったりすれば、リューネのこうした誘いに腰も軽く応じてくれたものだったし、同性相手なら尚の事。容易くその腰を上げて、何処へでも付き合ってくれたものだった。
ところが、だ。そんなマサキは、リューネが単独でデートを申し込むと、何やかやと理由を付けては断ってくる。
恐らくは、女性と一対一で出掛けるというシチュエーションが苦手なのだ――、そう思ったリューネは辛抱強くマサキをデートに誘い続けた。
稀に、そう本当に稀に、重くなった腰を上げて付き合ってくれることはあったものの、十回に一回程度な上に、ロマンティックとは掛け離れた雰囲気。どうも女性が情緒《ムード》を感じるシチュエーションは、マサキにとってはそう受け止められないものであるらしい。学習したリューネは先ずは身近な場所から攻めようと、自分たちにとって最も馴染み深い王都でのデートを目論んだ。
「そうだな。偶にはお前と出掛けるのもいいか」
そうして思惑通りに、マサキから受諾の返事を得たリューネは更に舞い上がった。ほら、行くぞ、と早速|風の魔装機神《サイバスター》に乗り込むマサキの後を追い掛けて、ヴァルシオーネRに乗り込もうとすれば、「そんな遠くないし、お前も乗ればいいだろ」との誘い掛け。
天にも昇る気持ちとは、まさにこのことだ!
リューネは一も二もなく|風の魔装機神《サイバスター》に乗り込んで、そう遠くない王都へとマサキの操縦で向かった。
今日のマサキは機嫌がいいのか、機内でも饒舌だった。いつもだったら立場は逆。リューネが尋ねても積極的に答えようとしないマサキは、どんな風の気まぐれか、面白かったことや興味を持っていることなど、あれやこれやと自分のことを自分から話してくる。こんな幸福はそうはない。リューネはただただ幸せを噛み締めた。
城下に着いてもマサキの機嫌は下がることを知らず。シェイクを見付けては一緒に飲むかと気軽にリューネを誘い、あれも食べたいと云ったリューネにクレープを奢ってくれた。そして、中央広場に時計台と今更な王都の風景を、まるで初めて目にするものかのようなテンションで眺めてみせた。
「どうしちゃったの、マサキ。今日、何か変だけど」
女の買い物は長くなるからと嫌がる服やアクセサリーの買い物にも気軽に付き合うマサキに、流石にリューネもこれは何かおかしいと不安になる。「そうか? 別にいつも通りだろ」惚けているのではなく、心底そう思っているような様子で口にするマサキに、リューネは首を振った。
「いつも通り? いつものマサキだったら絶対、女の買い物は長くなるから嫌だって云ってるでしょ」
「そうか? その割にはお前ら、いつも俺に大量の荷物を持たせるだろ」
「それは、まあね。あたしたちかよわい女の子だし」
「かよわいが聞いて呆れるな」そう云って、屈託なく笑う。
何かを隠しているつもりも、何かを胡麻化しているつもりもなさそうだ。
疑っているのが馬鹿らしくなるほどの清々しい笑顔を向けられたリューネは、本来だったら喜ぶべき事態であるのにも関わらず困惑してしまった。きっと、マサキはただあるがままに振舞っているだけなのだ……そう思ってはみても、拭えない違和感。果たしてマサキはこんなにも浮ついた性格だっただろうか?
どこか他人に気を許さない空気がマサキにはある。
魔装機操者の輪の中に居てもそうだ。そういったマサキが発している雰囲気は、他人との付き合いにも反映されたものだ。許容範囲はそれほど広くなく、特に自分の個人的な事情に触れられることは極端に嫌った。それでも女性陣相手だと、寛容になろうと努力しているのだろう。ああだこうだ姦しい注文の数々にも、愚痴りながらも応じてくれる。
これが同性相手だともう少し気を許した態度になったものだが、それでも個人的な事情に触れられるのは嫌がってみせたものだ。それは確かにマサキに限ったことではなく、魔装機操者全般に云える傾向であったけれども、マサキの場合は日頃の構い易さがあるからこそギャップを感じずにはいられなく。
|風の魔装機神《サイバスター》に戻る道すがら。散歩途中の愛玩動物《ペット》の大型犬にじゃれつかれて、その相手を積極的にしているマサキを眺めながらリューネは思った。もしかするとマサキは、自分でも気づかぬ内に、自覚出来ない『何か』を抱えてしまったのではないか。それが今日のマサキを、おかしいと感じさせるまでに上機嫌にしてしまっているのではないかと。
きっかけは些細なことだった。
きっかけは些細なことだった。
いつも通りに|風の魔装機神《サイバスター》を駆って、いつも通りに散歩に出た。そして、いつも通りに散策を済ませて、いつも通りに家に帰り着く――その道の途中で、青銅の魔神グランゾンを駆るシュウと会った。
「おや、マサキ。こんな風に顔を合わせるとは珍しい」
「この辺りは俺の庭《テリトリー》だぞ。そこをうろついてりゃ顔を合わせるに決まってるだろ」
軽口を叩いて、他愛ない会話をして別れた。それだけだった。
けれども、その直後にマサキは酷く考え込んでしまったのだ。こんな風にシュウと馴れ合うように会話を交わすようになった自分は、このままの態度で彼と付き合っていていいのだろうかと。
今でもふと夜中にうなされて飛び起きることがある。
王都が壊滅したあの日の光景は、マサキの脳裏に今でも強く焼き付いている。その場に姿を現した男。あの頃のシュウは確かにサーヴァ=ヴォルクルスに操られていたのかも知れない。けれども、だからといって、シュウにまるきり非がなかったと云えるのだろうか。
ゼオルートが殺された日のことも、マサキは忘れていないのだ。
悪意というものは、純粋にそれのみでは存在出来ないものだ。それは妬みであったり、嫉みであったり、恨みであったり様々ではあったが、根源となる『何か』が存在してこそ育まれるもの。ヴォルクルスの巨大な負の力とて、先の巨人族の怨念だと云われているほどだ。どうして人間の悪意が純粋なものだと云えるだろう。
負の感情を餌にして、健全な精神を蝕んでいく悪意。そこには精神の弱さがなかっただろうか?
その弱さを招いた事態が何であったかマサキは知るべくもない。けれども、外の世界の過酷さも知らずに、籠の鳥であることを嫌がって外に飛び出してゆく連中を味方に付けるような男だ。きっと些細なことに違いない。そう思ってしまう。
だからこそ、マサキはどこかで勧善懲悪を望んでしまうのだ。目には目を、歯には歯を、ではなかったけれども、左の頬を打たれたからといって右の頬を差し出せないマサキは、やはり彼には罪を償って貰わなければならないと考えてしまっていた。そのシュウを罰しなければ気が済まないというマサキの気持ちは、時にどうしようもなく暴力的にマサキの精神を荒らしたものだ。
戦時下において人命とはとても軽いものであったし、マサキもそうして幾つもの命を奪って来た身であったけれども、だからといって意味もなく命を奪うことが正当化されていい筈がない。だからこそマサキは思ってしまう。あの激しいまでにシュウを追い続けた日々はその為にあった筈なのに、今の自分は何をしているのだろうかと。
赦してはならない相手だったシュウは、赦さなければならない相手になってしまったのだろうか?
その問いに答えは出ない。
出ないからこそマサキはリューネに対して必要以上に気を遣ってしまった。何せ、彼女は本能的にマサキの気持ちを察してしまう。察して、マサキを庇おうとしてしまう。その優しさがマサキの自尊心を傷付けるとも知らずに。
自分の気持ちに決着を付けられるのは、自分だけなのだ。
けれども――……王都から戻り、自分の部屋のベッドの上で疲れた身体を休めてマサキは思った。見るべきものを見て、触れるべきものに触れ、食べるべきものを食べ、買うべきものを買った。たったそれだけの一日が、これほどまでに自分を癒してくれるとは!
考え続ければ答えが出る日が来るとはいえ、今日、明日では答えの出ない問いを、いつまでも際限なく続ける訳にはいかない。だからこそマサキはリューネの誘いに乗ってみせた。気分というものは、ささやかな出来事で上向きになるような単純なものであると、マサキは知っていたのだ。
――夕食までひと眠りすることにしよう。
そう考えて目を閉じる。シュウのことはこれから先の彼の行動で決めても遅くはない。その頃にはきっと、自分の気持ちも落ち着いていることだろう。そう思いながらうとうとと。マサキは浅い眠りへと落ちて行った。
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