予定より長くなりそうなので、ナンバリングを打つことにしました。
毎度見切り発車で申し訳ありません。汗
三千五百字ほどで申し訳ないのですが、昨日一万字ほどの更新をしているのでお許しください。
三連休は頑張ります! では、本文へどうぞ!
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<RISKY GAME>
「あんまり長い話はすんなよ。巻き添えで疑われるのは御免だからな」
もし情報が真実であるのだとすれば、魔装機神の操者がふたりも姿を現しているのだ。教団側が何の手も打たずに済ませたものか。彼らとて胡乱ではない。船のスタッフたちが教団の手先でない保証はないのだ。
こちら側の動きは常に彼らによって監視されていると思うべきだ。潜入捜査をそれなりにこなしてきたマサキは、そういった場での自分の見せ方を心得ている。マサキたちはあくまでカジノを楽しみに来た客でなければならない。そうである以上、安易な情報交換は自らの首を絞める。シュウとてそのぐらいはわかっているのだろう。その話題を深く掘り下げるつもりはないようだ。
「コインの消費を抑えたいのであれば、ルーレットを勧めますよ」
「赤か黒かの二択で賭けられるからかしら。それなら確率は二分の一よね」
「倍率は低いですが、堅実な賭け方ですね。ですが、私が云いたいのは確率の話ではありません。ディーラーが誰かは気付いているのでしょう? 彼女のことだ。あなたたちのレベルに合わせて上手くやってくれることでしょう」
言外に不正行為《イカサマ》が行われていると匂わせるシュウの発言に、そういった輩だとわかってはいてもマサキは溜息を洩らさずにいられなかった。
あの女狐のすることだ。この場にディーラーとして立っているだけで済むとは思っていなかったものの、カードゲームとは勝手が違うのだ。カードのシャッフルに恣意性を持たせる、或いは、別のカードを潜り込ませることでイカサマを成立させるカードゲームと異なり、ルーレットというウィールにボールを放るだけの単純《シンプル》なゲームで不正行為を働くのは容易な技ではない。少なくともマサキにはその手順は思い浮かばなかった。
「勝ちに来た訳じゃないんだがな」
「目的達成の為にも、あなた方には彼らの目を惹いて貰わなければなりません。その前に資金が尽きてしまわれてはね。とはいえ、あなた方にミダスの手は期待出来ないでしょう。親切心ですよ、これは」
悠然と言葉を紡いでいるように見えても、周囲への警戒を怠ってはいないようだ。シュウはホールのスタッフの動きを目だけで追ってみせながら、彼らが遠ざかった瞬間を狙っては慎重に、その耳に届かぬようにひっそりと言葉を吐く。
「このカジノにVIPルームがあるのは御存じですか」
「更に金持ちが集まるフロアがあるのかよ」
「あるとは思っていたから驚かないけれど、あなたがわざわざ口にするということは、重要な施設ということね」
「その様子だと、噂レベルの情報しか持っていないようですね」
それならいい。とシュウは話を切り上げようとする。マサキたちの持っている情報の程度が知れたことで、関心が薄れたのだろう。立ち去ろうとするその腕をマサキは掴んだ。
「云いかけた話は最後まで云い切れよ。同じ目的なんだろ。毎度出し抜こうとばかりしやがるが、こういう場では協力をした方が目的を達成し易くなるんだよ。リスクも分散出来るしな。いい加減、お前はその辺を学んだ方がいい」
マサキから協力の申し出が彼には意外に感じられたようだ。瞬間、シュウは微かに瞠目してみせた。
寄って集まれば対立するような仲ではなくなったものの、互いに独立独歩を常としているマサキとシュウがひとつの目標に向かって協力し合うことなど滅多にない。それは決して、共闘を厭っているからではなかった。相手の力量を認めているからこそ、わざわざ共闘する必要性を感じなかっただけのこと。
目的達成の為に往く道はそれぞれ異なっても、辿り着く場所は一緒。目的達成へのアプローチが異なるマサキとシュウが同じ道を往ってしまっては、逆に互いに足を引っ張りかねなくもあるだろう。
とはいえ、それは広い世界を舞台にした時の話。このカジノのホールのように限定された空間にあっては、取れる方法や行くべき道順《ルート》も限られようというもの。むしろ共闘した方が効率が良くなる筈だ。
僅かの間。シュウはマサキの考えを読み取ったようだった。口元にうっすらと笑みを浮かべてみせると、わかりましたとひと言。そして意味ありげな視線をマサキに向けると、「後程、そちらの客室に伺いますよ」
初日から資金を使い果たしては洒落にもならない。豪華カジノ客船の旅は四泊五日にも渡る。本格的な行動を開始するのは、シュウから詳しい話を聞いてからでいい。そう考えたマサキは適当なスロットマシーンを少しだけ回し、ポーカーのテーブルでそこそこ稼いでいるテュッティを連れて、一時間ほどでカジノホールを出た。
初日から資金を使い果たしては洒落にもならない。豪華カジノ客船の旅は四泊五日にも渡る。本格的な行動を開始するのは、シュウから詳しい話を聞いてからでいい。そう考えたマサキは適当なスロットマシーンを少しだけ回し、ポーカーのテーブルでそこそこ稼いでいるテュッティを連れて、一時間ほどでカジノホールを出た。
夕食は階下にある食事用のホールで取った。
ツアーの料金に含まれている食事代は相当な金額だった。白いテーブルクロスも鮮やかな丸テーブル上に並ぶカトラリー。前菜、スープ、魚に肉料理……見目は華やかだが量の少ないコース料理をゆっくりと味わうテュッティを尻目に、腹を満たすのに足らない量をお代わり自由のパンで嵩増したマサキは、食事を終えるとテュッティと隣り合っている自分の客室へ戻った。
一等客室には及ばないものの、それなりの広さのある二等客室のベッドの上に座る。気楽な服装に着替えたくもあったが、また部屋を出ないとも限らない。シャワーを浴びてからでいいだろうと、詰まった襟元を緩めただけの恰好でマサキはシュウの訪れを待った。
やがて化粧直しを終えたテュッティが部屋にやって来る。彼女は室内の隅のこじんまりとしたテーブルセットに着くと、手持無沙汰な様子で、「直ぐに来るのかしらね?」
マサキたちがホールを後にする頃、シュウは未だルーレットの卓にいた。それも遠巻きに観戦しているのではなく、参加者としてだ。不正行為《イカサマ》に手を染める以上、引き際だけは心得ていると思いたいところだが、マサキたちと異なりVIPルームの存在を知っていたぐらいだ。口ではああ云ってはいたが、先んじる為に無理を重ねないとも限らない。
「どうだろな。もしかしたら来ねえかも知れねえ。あいつの性格はわかってるだろ。俺たちを出し抜こうとしてもおかしくない」
「クリストフは云ったことは守る性格よ。情報を渡すと約束した以上、来ると思うけど――」
トントン、とドアがノックされる音が響いた。ほら、とテュッティが笑いながら立ち上がる。彼女が開いたドアの向こう側には、陰気な顔立ちがより際立つ髪と目の色をしたシュウの姿。
「遅くなってすみませんでしたね。予定額まで負けるのに時間がかかってしまって」
それなりの広さがあるとはいえ、所詮は二等客室。三人が詰めて中に入るのには狭い気がしなくもなかったが、今更云っても始まらない。マサキはシュウにベッドを譲り、壁際に立つ。
「予定額まで負けるって、どういう意味だよ」
「言葉の通りですよ。負けが込んで熱くなっている客を演じる必要があるのでね」
「それをどうしてする必要があるのかを、私たちは訊きたいのだけど」
「VIPルームにはこの船のオーナーも同席するのだそうですよ」
シュウはそう切り出すと、自らの事情を語り始めた。船のオーナーがVIPルームで行われる高レートカジノに同席すること。シュウはオーナーの名前に聞き覚えがあったそうだ。しかもそれは教団に居た時代のことであったらしい。
マサキがセニアから仕入れている情報によると、豪華客船フェアタイレン号のオーナーは、社交界でも謎の人物として名高いそうだ。彼はこれだけの豪華客船を維持できるだけの巨額の富を得ておきながら、社交界といった富豪の交流の場に姿を現すことが一切ない。男の顔や容姿の情報はまちまちだったし、日常的な活動の内容に関する情報もまちまちだ。名前しか知られていない謎の富豪。そういった男の不確実な在り方から、一部の富豪の間では、その名前は偽名ではないかと実《まこと》しやかに囁かれたものだ。
それはオーナーが破壊神信仰と繋がりがあるからなのだと、シュウは語った。
「彼の居所は明らかになっていないのですよ。これだけの巨大な客船を有していながらね。もしかしたらこの船に住んでいるのかも知れませんが、それだったら船内での目撃情報があっていい。それすらもない上に、目撃情報がまちまちであるということは、彼は変幻自在に姿を変えられる力を持っているか、複数の影武者を持っているかのいずれかだということ。私が教団に居た折に一信徒でしかなかった彼と、この船のオーナーが同一人物であるとすれば、彼にそういった支援をしているのは、恐らく」
「教団しかないってことか」
「もしかすると商才を見出されたのかも知れませんね。当時からその方面への才覚があった記憶があります」
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