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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

アカイイト(5)
@kyoさん20周年おめでとう記念祭

今回のリクエスト内容は「シュウマサ前提のテリウス×マサキ」となっております。

今回は健気受けよーッ!(ネタバレ)
きっと皆様は「こうじゃない」と思うんじゃないかと思う@kyoさんですが、シュウマサ前提だと、うちのマサキはシュウにべた惚れなので、こうでもしないと話が進まなかったんですごめんなさいッ!
当初予定していたプロットからは何もかもが大きく逸脱してしまったんですが、どっちみちテリウスが酷い男になるのに変わりはなかったので、どうかこれで良しとしてくださいお願いしますッ!

ということで、不穏な前置きを経て、本文へどうぞ!
<アカイイト(5)>

 何だか寝苦しい。
 胸元から足元にかけて、やたらと身体が重く感じられて堪らない。何かが身体の上に乗っているようだ。マサキは身体を重苦しく押さえ付けているそれをひと思いに払うべく、寝返りを打とうとした。
 まだ微睡《まどろ》みの中。意識はそろそろと起き出してはいるものの、身体は眠りに落ちたままなのだろう。微塵も動かない。マサキはならばせめてと手だけでもと試みてみたものの、こちらもまたぴくりとも動きはしなかった。
 その手首に感じる軽い圧迫感。何だかベルトを嵌められているような締め付け感がある。この感覚はもしや……嫌な予感に、微睡《まどろ》んでいたマサキは一気に目を覚ました。
「起きたかい、マサキ」
 うっすらと笑みを浮かべながら、テリウスはマサキの身体の上に自らの身体を重ねていた。予想だにしなかった展開に、マサキは動揺を隠しきれない。「テリウス、お前……」そしてはっと思い出して、頭の脇に掲げている腕の先に目をやる。
 案の定、手首には枷が嵌められていて、鎖でベッドに繋げられている。
 何を考えてテリウスがマサキを拘束しようとしているのかなど、マサキはわかりたくなかったものの、この体勢で思い付く可能性はひとつしかない。「お前、何を考えて……」云いながら手枷が解けないか腕を動かしてみる。ぎしり、とベッドが軋むがそれだけだ。どうやら手枷は確りと固定されているようだ。
「起きてから、と思って待ってたよ。ちゃんとね」
 間近で自分の顔を見下ろしているテリウスは、どこか浮かれているように感じられた。その様子から察するに、マサキのこの状態は、昨日今日で考えられて実行されたものではないようだ。とはいえ、朝の邂逅が仕組まれたものであったとまでは考え難い。
「お前、最初からこうしようと思ってやがったのかよ」
「まさか。朝のは本当に偶然だよ。それ以外は……まあ、ちょっとは狙ったけど」
「手枷まで用意しておいて、偶然だと?」
「知ってる? この宿はそういう目的でも使われているんだって。だからフロントに頼めば、色んな玩具《おもちゃ》を貸して貰えるそうだよ。って云っても僕にそういう趣味はないけどね。ただ、君に暴れられるのは嫌だったから、これだけはと思って借りてきたんだけど」
 能弁に語って聞かせるテリウスに、マサキは絶望的な気持ちになった。
 その情報をマサキは身をもって知っている。
 シュウが語って聞かせて歩いているとは思えないものの、テリウスが偶然この宿に目を付けたとも思えない。ラングランの城下は州外から訪れる者も多い。宿の数は腐るほどある。その大量の宿の中からこの安宿を見付けるなど、砂金の中から一粒の砂を見付けるぐらいの確率だ。
 そもそも、大通りから大分外れた不便な通りに建っているのだ。人目に付き難い外観だってある。ぱっと見て、この建物が安宿《モーテル》であると見抜ける者はそうはいまい。そもそもマサキからして、中に足を踏み入れるまで民家だと思っていたぐらいだ。
 嫌な予感ばかりがマサキの脳裏を過ぎる。
 そんなマサキの気持ちなど知りもしないテリウスは、「それとももっと違う品で遊びたいかい、マサキ?」と無邪気に笑ってみせた。
「君にそういった嗜好があるなら、僕は付き合うけど?」
「そんな趣味はねえし、あってもてめえとなんて絶対に御免だ」
「そう云われても、この状況だけどね」
 テリウスの顔がマサキの首元に近付いてくる。彼はマサキの鎖骨の辺りに顔を埋めると、喉元を吸った。そのまま首筋に舌を這わせてくるテリウスに、「やめ……」マサキはどうにかしてテリウスから逃れられないかと腰を捩った。
 ぎしぎしとベッドが軋む。
 鎖で繋がれているのは手首だけにも関わらず、身動きがままならない。開いたマサキの足を押さえるかのように、間にテリウスの腰がすっぽりと収まっている。「お前、この……っ」マサキは更に藻掻《もが》くものの、テリウスの身体を退《の》かせられないまま。
「あんまり暴れないでよ、マサキ」
「ふざけろ……こんな状態で暴れるなって無理に決まってるだろ!」
「静かにさせて欲しいの? 出来ればそういうこと、僕としてはしたくないんだけど」
「はあ? 云ってろよ。お前の方が上背は高いだろうが、力は俺の方があ――」
「そういう意味じゃないよ」テリウスはマサキの頬に手を置いて、その顔を覗き込みながら、「君、シュウとここにどういう目的で入ったのかな」
 マサキは言葉に詰まる。
 マサキはどう答えるべきか悩んでしまった。どこでいつ後を付けられたものか、心当たりがまるでなかったからだ。そうである以上、迂闊なことは云えない。藪を突いて蛇を出そうものなら、この状況。テリウスのいいようにされるだけだ。
「しかも一度きり、じゃないよね。少なくとも僕が知ってるだけで、三回は来てる」
「情報交換だよ。他には何もねえ」マサキは白を切ることにした。
「夜更けから翌朝まで一晩中って相当だよ。随分積もる話もあったものだね」
「煩いな。大体、お前何処で見てたんだよ」
「これでも尾行は得意なんだ。こういう生活だし、何度も繰り返してればそれなりに技術が身に付くもんだよ。でも最初から君とシュウの後を付けようと思ってた訳じゃないよ。ただふたりで居るのを見掛けたから、どこに行くのか見てみようってそのぐらいの気持ちだった。ここに足を踏み入れるとは思ってなかったからね。知ってる、マサキ? ここをシュウに教えたのは僕なんだ。情報収集をしていた時に、ラングランでの潜伏先に丁度いい宿があるって聞いてね」
 そしてテリウスは顔を落としてくると、どうする、マサキ? と耳元で問い掛けてきた。
「君とシュウが中で何をしていたかまで僕は見てないけど、これだけ曰くのある安宿《モーテル》だよ。ふたりで入ったってだけでもセンセーショナルな話題になるとは思わないかな? モニカ姉さんやサフィーネはああいう性格だし」
「脅しかよ、この野郎。本性表しやがったな……」
「僕は元々こういう性格だけどね。で、どうするの、マサキ。君がややこしいことになってもいいって云うなら、この手枷は外すけど」
 きっちりと革製のバンドが留められた手枷に手を掛けながら、テリウスが云う。
 半目がちな目がマサキを見下ろして、その動きを止めた。暫くの間。答えを待つテリウスに、マサキは折れた。――外すな。と、震える声で言葉を発したマサキに、彼は満足しきった表情をしてみせた――……。


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