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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

愛しい君へ(1)【追記アリ】
@kyoさん20周年おめでとう記念祭

今回のリクエスト内容は「ゼオルート×マサキで『一夜の過ち』的な話」となっております。

前書きの前に先ずはお礼をば。
沢山の拍手、有難うございます。またひとことコメント機能で感想をくださった方も有難うございます。反応があると更にやる気が出ますね!これからも頑張りますので、この話いいなと感じたらぽちりと押してやっていただけると有難いです。私のやる気が倍増します!!!

ということで、いつもの前書きを。

私、この手の話での個人的なテーマはいつも「狡い男」になってる気がするんですけど、今回もそんな感じで参りたいと思っております。偶には本気でラブラブなエロを書いてみたくもあったりするのですが、中々ラブいエロって難しいものですね!HAHAHA!照れちゃうんですよー、私が!笑

のんびりゆっくり進めていきたいと思っておりますので、今回も宜しくお願いします。
では本文へどうぞ!
<愛しい君へ(1)>

 ――そして鎮魂の鐘は鳴った。

 降りしきる雨はまるで涙の如く、ラングランの大地に降り注いだ。
 ゼオールト=ザン=ザノサキス。剣聖の称号を与えられし魔装機ギオラストが操者は、ラングランの平和の為にその命を散らした。
 直ぐに国葬が開けた訳ではなかった。
 ラングランは動乱期を迎えていた。ラングランから分かれた歴史を持つ西のバゴニア連邦共和国に、小国の集まりである東のシュテドニアス連合国……両国は事あるごとにラングランに欲のある動きをしてきたものだったし、破壊神サーヴァ=ヴォルクルスこそ神と崇める邪神教教団も、ラングラン国内での活動を隠そうとしなくなってきていた。
 そしてシュウ=シラカワ。
 圧倒的な力で以ってラングランに宣戦布告をしてみせた元王位継承権保持者。またの名をクリストフ=グラン=マクソード。練金学が本流を占める地底世界で、彼は圧倒的な科学力で構築された人型汎用機グランゾンをパートナーにその壊滅を目論んでいる……。
 防腐処理が施された痛みの激しいゼオルートの遺体は、ラングランの国内情勢が落ち着くまでは、というフェイルロードの命によって王立軍の遺体安置所に保管された。
 決して問題が全て片付いた訳ではなかったけれども、あまりに先延ばしにする訳にもいかないと、戦禍が小康状態を保っている折を見計らって、フェイルロードはその葬儀を開くことを決めた。ラングランに多大な貢献をした剣聖の葬儀は国葬として執り行われるべきである……フェイルロードの判断に意を唱える元老院議会の議員はひとりもいなかった。
 今日は西、明日は東と、国内に散り散りになっていた魔装機操者たちが、一堂に会するのは流石に難しくもあったが、それでもそれなりの魔装機の操者たちも顔を揃えた式典の席。しめやかに行われた葬儀は、動乱の過渡期にあったからか、非常に慎まやかな規模のものだった。
「剣、捧げ!」
 ラングラン城下町の中央通りを馬車に先導され兵士に担がれた棺が往く。王宮にて武術指南役を務めた彼は、近衛騎士団を筆頭に数多くの弟子に恵まれた。彼らが剣を捧げる中、棺は粛々と先へ進む。
 棺の直前。喪服に身を包んだまだ幼い義妹プレシアとともに、マサキもまた着慣れない喪服に身を包み、濡れそぼる空の下。ふたりでひとつの傘を差して、先導する馬車に付いて歩いた。
 沿道には多くのラングラン国民が詰めかけた。華々しい場に出ることも多かったらしいゼオルートの国内での知名度は当然ながら高い。
 プレシアにとっては少しだらしないところがある父親、マサキにとってはお節介の多い養父であったゼオルートは、その気さくで温かな人柄でもって数多くのラングラン国民に慕われているのだと、いつかマサキの兄弟子であるファングはマサキに語って聞かせてくれたものだった。
 心根穏やかな戦神。奢らず、謗らず、昂らず……剣聖の名に相応しい人格者であったとも聞くゼオルート。その国葬とあっては。
 戦禍であっても、これだけのラングランを国民を集められるだけの人望が彼にはあったのだ。
 見渡せば切れ間のないほどの人の群れ。
 揃ってゼオルートが眠る棺に向かって祈りを捧げる彼らの真摯な姿に、マサキは厳粛な気持ちで向き合った。彼らの祈りに見合うだけの人間に、剣聖ランドールの名を与えられた自分もいつかはなれるのだろうか。いや、ならなければならない……マサキは気を引き締めた。この葬儀が終わればまた戦いの日々が待っている。
 とはいえ、以前のマサキであったらこう思っていたに違いない。どいつもこいつも湿気た面をしやがって、と。
 それが流れた月日の重み。積み重ねてきた経験の差でもある。マサキは戦いの日々の中で成長を繰り返し、あの頃から比べると、ほんの少しだけ逞しくなった精神でもってこの場に立っている。
 ――なんで……。
 気付けば人が群れ成す列は、王宮から城門までの長い道のりを経て尚、途切れることなく続いていた。
 戦いの最中にあっては気丈な振る舞いを続けていたプレシアも、いざ葬送の列に立たされると、悲しみが湧き起こるのだろう。時に零れる涙を抑えきれずに足を止めては、マサキが差し掛ける傘の下。幼くして両親をふたりとも喪ってしまった彼女は、先に旅立った母親のハンカチでその涙を何度も拭っては、再び歩を進めるを繰り返した。
 ――なんで、こんな幼子をひとり残すことになると知っていながら、あんたは身を投げ出すような真似をしたんだよ……。
 やりきれなさに口唇を噛み締めながら、マサキはプレシアと並んで城門まで歩き続けた。
 ――おっちゃん……いや、剣聖ゼオルート。
 決して広くはない傘はプレシアひとりを収めるのには充分な大きさであったものの、マサキもまたとなると難しい。時折、マサキたちに付き従う兵士が、もう少し大きな傘を、と勧めてきたものだったけれども、今日のこの日の為にプレシアがマサキに持たせることを選んだゼオルートの傘だ。簡単に新しい傘に持ち替えるのは流石に慎みたい。
 傘が差さらぬ右の袖が雨を含んで重みを増す。
 それでも、マサキは傘を手放さなかった。
 城門に棺が辿り着くと、辺りを支配していたすすり泣くような声が、圧倒的な絶叫に取って変わった。ゼオルート様! と、彼の名を呼ぶ者。有難うございました! と、彼の功績に感謝を述べる者。そして安らかなれ! と、彼の魂の平穏を願う者……彼は紛れもなくこの国を救った英雄であったのだ。
 マサキとプレシアは門の前に並んで立ち、ふたり揃って民衆に頭を下げた。戦禍の中、危険を顧みず駆け付けてくれた者たちだ。頭を下げるくらいでは足りない。なら……マサキは誓う。彼らにマサキたちがしてやれることはひとつだけ。
 今度は自分たちがラングランを救国する。災いに満ちたこの大地を平定へと誘い、かつての繁栄を取り戻させるのだ。この命を賭けて、必ず。マサキは決意を新たにする。
「プレシア、行くぞ」
 泣きはらした眼。まだまだ溢れ出そうになる涙を堪えるようにきつく口唇を結んで、群衆に向き合っているプレシアを促して再び棺の前。今度は墓所に向かう為に、マサキたちは門を抜けて、更に。
 幾度の戦火を国の為に戦い続けた歴戦の覇者は、そうして、城下町に詰めかけた沢山の国民に見送られながら、ようやくその身を納める墓所へと旅立だった。

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