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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

秘密(1)
と、いうことでまさかのファング×マサキでございます。

今回の目標はただひとつ。

「毎度、毎度、受け身なマサキを書くのも飽きた! 偶には積極的なマサキを書く!」つまり押せ押せゴーゴー且つ純情可憐なマサキを書くということです、はい。でも私に出来るかしら。←

では、本文へどうぞ!
<秘密>

 稀には師匠をともにする者同士で剣の稽古に励むのもいいだろうと、ファングに誘われたマサキは、気が乗らないながらも他にすべきこともなしと、暇を持て余していたついでと付き合うことにした。
 ラングランの平原にふたりして立ち、雄大な自然の中で剣を振る。それが終われば対面しての打ち合いだ。刃先を潰した稽古用の剣を使っているとはいえ、鉄で作られた剣。当たれば相当にダメージがある。技量の差がある相手とであれば、型通りに打ち合うだけでも事故が起こるものだが、そこは流石の兄弟子だ。マサキの剣を見事に受けきったファングは、手加減なくマサキに打ち込んできた。
 兄弟子としてマサキよりも長く剣技を磨いてきたファングは、その無骨な見た目からは想像も付かない技巧派だ。力で押し切るマサキの剣技と異なり、フェイントを多用する剣。右から打ち下ろしてくるかと思いきや、左から一閃を仕掛けてきたり、下方から斬り上げてくるかと思いきや、まさかの突きで攻めてくるなど、トリッキーな剣技を駆使してくる。そういった剣筋が読み難いファングの剣技に、マサキは翻弄され続けたものの、最終的には力がものを云う世界。火力の差で打ち勝った。
「わかってはいたが、お前を相手にするのは体力が要るな」
 打ち合いを終えたファングは、そう云って平原に寝そべった。
 勤勉なる近衛騎士団員は信義に厚く、篤実《とくじつ》な人柄だ。しかも立場故だろう。日頃から節度に足りる態度を崩さない。そんな隙のないファングにしては珍しい姿。上がった息を整えるように、腕を枕にして天を仰いでいるファングは、それだけマサキとの模擬戦闘で体力を削られたのか。そう簡単に身体を起こす様子もなく。
「お前の相手をするのだって相当だぜ。毎度トリッキーな動きをしやがって……」
 マサキはその隣に腰を落とした。
 平原を吹き抜ける爽やかな風が、しっとりと汗に濡れた髪や頬を撫でている。風が生まれる先に目をやれば、雲間に消えゆく大地。変わりばえのしない景色は、けれども平和の証でもある。戦禍に見舞われたラングランの荒れた大地を思い出したマサキは、その幸福を暫く噛み締めてから、今だ身体を起こす気配のないファングを見た。
 マサキたちのように専任で魔装機の操者をしている訳ではないファングは、そのプラーナの高さや魔装機の操縦能力を買われ、新規魔装機の開発に余念がないセニアに重宝されていると聞く。人を顎で使うことを厭わないあの女傑の下で働いていては、さぞ疲れも溜まっていることだろう。そう思いながらマサキが改めてファングの様子を窺ってみれば、確かに少しばかり面やつれしたようだ。
「なあ、ファング。お前、少し痩せたか?」
「そうかも知れないな。ここのところ、新型魔装機の起動テストで忙しくてな。今日は半月ぶりぐらいの休みだ」
「その貴重な休みを、なんでお前は俺との稽古に使うかね」
「長く魔装機の操縦をしていると、地上が恋しくなる。ここ数日は剣を振りたくて堪らなかった。人によるだろうが、俺は魔装機で戦うよりも生身の身体で戦う方が好きだ。生きているという実感が湧く。お前はそうは思わないか、マサキ」
「変わってるとしか思わねえよ」
「それは残念だ」ファングは草むらに寝転がったまま、豪快に笑った。「才能があるだけに、お前のそういったところが勿体なくも感じるが、それもお前らしさだな」
 笑うと存外子供っぽくなる顔。普段の厳めしい顔付きからは、想像も付かない表情だ。
 女が感じる男の可愛さというものは、本来こういったものを指すのだろう。
 魔装機操者の女性陣に可愛いと揶揄《からか》われることの多いマサキは、彼女らの可愛さの基準が良くわからないままだ。マサキからすれば、それは普段まともに言葉を発しないゲンナジーが、照れながら好きな女性を打ち明けてくる姿だったりするのだが、彼女らからすればそれは当たり前のことでしかないのだそうだ。だったら何を可愛いと感じるのかと問えば、サイズ感だの、顔立ちだの、云いたい放題。
 愛玩動物《ペット》を愛でるように可愛いと愛でられる自分に思うところは多々あれど、腕っぷしも強ければ気も強い彼女らは、簡単にはマサキであろうと屈さない。そこでマサキが迂闊に反抗しようものなら、多勢に無勢で言い負かされるのがオチだ。
 とにかく、男が感じる男の可愛さと、女が感じる男の可愛さは、どうやら大きく異なるものであるらしい。それだけは理解出来たマサキは、だからこそファングの笑顔に思ったのだ。恐らく、こういうことなんじゃないか――、と。
 けれども、それを口に出すようなマサキではない。ただ、そういうことなら理解出来そうだと思っただけのこと。それが後々の自分の運命を変えてしまうなど、到底思う筈もない。
「ああ、いい天気だ」
 ひとしきり笑ったファングは、疲れに打ち勝てないようだ。そのまま腕を枕にひと眠り、といったつもりなのだろう。瞼を閉じて、「お前はどうする、マサキ」と尋ねてくる。
「人を誘っておいて放り出すつもりかよ。お前こそどうするんだ、ファング」
「今日の風は心地いい。このまま少しだけ眠るつもりだ」
「なんだかなあ。お前、もしかしてプラーナを消耗してるんじゃねえか」
「それはあるだろうな。何せ、来る日も来る日も新型魔装機のテストだ。戦争でもここまで魔装機に乗ったかというぐらいには、操縦席で時間を過ごした。もしかするとプラーナが回復しきっていないのかも知れないな」
「はあ、仕方ねえな。お前がそんだけ疲れ果ててるってことは相当なんだろ。今日は大目に見てやるよ」
 身体に付いた土や草を払いながらマサキは立ち上がる。どうせ今の自分は暇なのだ。ファングひとりに振り回されたぐらいで、無駄になる時間でもない。そう思いながら、いま一度ファングの顔を見下ろして――。
 出来そうだと思ってしまったのだ。
 このまま立ち去るのも気が引けると、マサキは早くも寝息を立て始めているファングの脇に膝を付く。咽返るような草の香り。ファングには良く似合う土と太陽の匂いを嗅ぎながら、マサキはファングの瞼にかかっている前髪をそうっと除けた。
 笑うと存外子供っぽい顔になる男は、眠りに就く時ですら隙を感じさせない顔付きをしている。確りと閉ざされた瞼に口唇。ぴんと直線的に伸びた眉に、筋の通った高い鼻。そのファングの静かな寝息を感じながら、マサキはその口唇に口付けて、舌先で閉ざされたファングの口唇を割った。
 罅割れた口の端。きっと身なりに気を回している暇もなく働き詰めだったに違いない。けれども、想像していたよりは柔らかい口唇。見た目よりも肉厚なその口唇に、マサキは深く口唇を合わせていった。
 次の瞬間、ぴくり、とファングの身体が震える。この短い時間でどれだけの深さの眠りに落ちたというのか。彼はうすらぼんやりとした表情で目を開くと、間近にあるマサキの顔を認識出来ない様子で、宙に視線を彷徨わせている。
 マサキはファングの舌を探った。
 寝惚けているのかも知れない。舌先を絡めてみれば、反応が返ってくる。誰かと間違えてでもいるのかと思うくらいに積極的に舌を絡めてくる。無骨な男にしては手慣れた口付けに、意外とマサキは思いはしたものの、彼とてひとりの男。そうした経験もあるのだろう。
 舌を絡めては、そうっと吸い……吸ってはまた舌を絡め……そうして、少しの間、マサキの舌を味わっていたファングは、直後、ようやく事態に気付いたのか。かっと目を見開くと、心底驚いた様子でマサキの身体を自分から引き剥がした。
「な、な、何を……」
「自分で舌を動かしておいて云う台詞じゃねえな」マサキはそれが引き際と立ち上がった。「少しは楽になったかよ、ファング」
 それでファングはマサキの目論みに気付いたようだ。「それだったらひと言云え」云って、プラーナの補給を受けて楽になった身体を起こす。
「これで王都まで帰れそうだ」
「今日ぐらい王都から離れてゆっくり休めよ。休みの日まで動き回ってないと気が済まないって、お前も相当だぞ」
「折角、動けるようになったんだ。近衛騎士団の連中と一杯やるさ」
 どこまでも自分を多忙に追い込む男に呆れ果てつつも、それがファングのストレスの発散方法であるのなら仕方がない。偶の休みぐらいは好きにさせてやろうと、マサキは片手を上げてながら彼に背中を向けた。そして、「無理はすんなよ」と云い置いて、自らは近くに置いた|風の魔装機神《サイバスター》へと足を運ぶ。
「お前は来ないのか、マサキ」
「あいつら蟒蛇《うわばみ》みたいに飲むじゃねえかよ。俺には付き合いきれねえよ」
「それが楽しいんだがな」


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