忍者ブログ

あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

秘密(2)

わたくし、今回のこの話には色々な野望を抱いていたのですが、二回目にしてその野望のひとつが潰えてしまいました。その野望というのは「一回の更新に必ずキスシーンを一回は入れる」だったんですけど、何でシュウマサだと簡単に出来ることが、相手を変えただけでこんなに難しくなるのか!

しかも滅茶苦茶真面目な話になりつつありますしー!

違うでしょ@kyoさん!今回のこれはそんな真面目な話をやる場所じゃないのよ!私が欲望のままにあれこれ書き散らかす場所の筈なのよ!NDK?NDK?あー口惜しい!笑

と、いったところで本文へどうぞ!
あ、ちなみにわたくし明日は仕事の後にそのまま出掛ける予定に付き、恐らく更新はありません!


<秘密>

 再びファングが笑う。その子供っぽい笑顔を視界の奥に収めて、マサキはサイバスターに乗り込んだ。そして操縦席に身体を深く沈めると、長く待たせてしまっていた二匹の使い魔に、副操縦《サブ・パイロット》としての指示を出す。らじゃ!、と威勢のいい声を上げて、二匹の使い魔は持ち場に着くと補助操縦《サブ・コントロール》を開始した。起動準備《セット・アップ》……準備完了《オールグリーン》……動力炉に火が灯り、サイバスターが咆哮する。
 ――思ったよりも抵抗感がなかったな……。
 マサキはコントロールパネルに指先を走らせて、サイバスターの舵を切る。先程の口付けを思い返しながら、少し離れた位置でジェイファーへと乗り込むファングの姿を尻目に、マサキは王都とは逆の方向へと。サイバスターを疾《はし》らせ始めた。
 プラーナの補給とはいえ、口付けても許されるぐらいにはファングとの関係も近しいものとなった。昔のファングであったら、きっと怒り出していたのではないだろうか……そこまでいかなくとも、不快を露わにするぐらいはしていたことだろう……マサキは過ぎ去った時間の長さを思い返しながら、サイバスターを疾《はし》らせ続けた。
 ファングと出会った頃の自分を思い返すだに、マサキはあの頃の自分は傲慢だったと恥じ入らずにはいられなかった。戦争の現実を軽んじていた自分。少しばかりの事前知識でわかった気になって飛び込んでしまった戦いの世界は、当然のことではあったが壮絶なものであった。
 紙っぺらよりも軽く扱われる人の命は儚かった。戦場に赴く者たちはまだいい。彼らはその覚悟をして戦場に立っている。辛いのは国民といった非戦闘員の命までもが、軽々しく奪われていく現実だ。誰かが武器を持って戦えば人が死ぬ。たったそれだけの当たり前の現実を、あの頃のマサキは深く考えることもないままに、自らが手にした魔装機という大きな力に酔っていた。
 きっと、ファングはそういった自分に苛立ちを感じていたことだろう。
 自らの職務に忠実であり、背負った立場を誇りに感じているファングは、生真面目さが服を着て歩いているような性格だ。飽きっぽい性格のマサキとは真逆で、一度手を付けたことは決して放り投げない。剣技にしてもそう。近衛騎士団の職務にしてもそう。魔装機の調整役にしてもそう。まるでそれが自らに与えられた使命だとでも云わんばかりに、彼は熱意を以って多忙な日々を送っている。
 そんなファングの堅苦しさを、かつてのマサキはうっとおしく感じていた。すべき事をすべき時にすれば、日々の雑事など手を抜いても構わないだろうにと。けれども、長い戦いの日々が過ぎ去った今ならわかる。
 ファングはずうっとその日に備えていたのだ。
 ラングランという国を守り切る為に。
 十六体の魔装機の操者に課せられた使命はたったひとつ。世界の存亡の危機には最優先で立ち向かえ。それに対して、気楽なものだ、と、いつかファングがマサキたち地上人に向かって云ったことがある。その発言も無理なきこと。近衛騎士団員である彼が守らなければならないものは世界だけではない。ラングランと世界が天秤にかけられた時、ファングは自分が大いに苦悩することをわかっているのだ。
 だからファングは過剰に自分を奉職に縛り付けるのだろう。
 背負っているものの大きさが、マサキとは違うファング。マサキがファングのそういった心情を慮れるようになったのは、ふたりである任務に臨んだ時だった。そう、あれはとても後味の悪い任務だった。近衛騎士団の内部にいるシュテドニアスのラセツ派への密通者の処分。既に情報局が裏取りを済ませていただけあって、任務そのものはスムーズに遂行出来たものの、結局密通を行っていた三人の兵士の内、ひとりには自決されてしまった。
 その任務の時に、ファングはセニアに願い出たのだ。彼らの死の原因は自分にあることにして欲しいと。セニアはそれを受け入れた。受け入れて、彼らをファングやマサキとともにラングラン州外の任務に就かせたのだ。彼らの死を、過酷な任務における名誉ある死にする為に。
 その時に、マサキはこの兄弟子の背中が、とてつもなく大きなものに見えたのだ。
 ――もっと、俺はファングを頼るべきだった。
 今更、弱音を吐き出せる相手ではないファングに、マサキは頼りたいと感じることが増えた。正魔装機の操者たちを纏め上げなければならない時、プレシアの未来に悩んだ時、何が正義なのか見失いそうになった時……きっと様々な立場から世界を眺めているファングであれば、適切な答えを与えてくれるのではないかと期待をしてしまう自分。その気持ちをマサキが素直に表せる日が来るのかどうかは、マサキ自身にはわからない。
 ――でも、昔に比べれば、距離が近くなった。
 いつかは互いに苦労を語りあえる日が来るかも知れない。淡い期待を抱きながら、マサキは口唇にファングの温もりを残したまま。衝動的にしてしまった自分の行動に後ろめたさを感じることもなく、サイバスターで平原を駆け抜ける。今日は気の向くままにサイバスターを疾《はし》らせよう、そう思いながら。

 近衛騎士団の一員として、或いは魔装機操者の一員として、過酷な任務に挑むことも多いファング。王都を空けることも多い彼は、いつプライベートな時間を過ごしているのか不明なほどに多忙な日々を送っている。
 それは相変わらずであるらしい。気の向くままの散歩が三日の不在となったマサキが、ふらりとセニアの兵器開発室を訪れると、恐らくきちんとは休まなかったに違いない。彼女が眺めているホログラフィックディスプレイの向こう側で、また少し面やつれしたようにも感じられるファングが、今からまさに新型魔装機のテストパイロットを務めようとしているところだった。
「あら、丁度いいところに」
「あんまりファングを扱き使ってやるなよ。俺たちの体力やプラーナは無尽蔵に湧いてくるもんじゃねえんだぞ」
「そうは云ってもね」セニアは肩をそびやかして、「まだ起動テストの段階よ。そこまでの負担にはなってない筈なんだけど」
「なってるだろうよ。見ろよ、あの顔。随分痩せたじゃねえか」
「引き締まった、じゃないの?」
  ファングの日頃の精勤ぶりもあってか、セニアはあまり大事だとは捉えていないようだ。マサキが溜息を吐く傍らで、呑気にもそう云ってのける。
 忠義に厚い性格も問題だ。鈍感なマサキですら気付くほどにこそげ落ちた頬の肉。それを引き締まったのひと言で片付けられては、有難味も欠けようというもの。「お前、そんな言葉を吐いてると、その内ファングに愛想を尽かされるぞ」
「そう思うなら、あなたに操縦してみて欲しいんだけど」
「冗談じゃねえ」
「規格が規格だから、どうしてもプラーナの消費量が上がってしまうのよ。ファングに素質がない訳じゃないんだけど、あなたと比べてしまうとね。だから、あなたたち魔装機神の操者たちに乗ってみて欲しいと、前から思ってはいたのよ。でもこれ、あたしの個人的な趣味のようなもんだし……」
「何でデュラクシールで我慢しないかねえ」マサキは操縦席に繋がっているらしい近くの通信機器に手を伸ばした。「おい、ファング。降りろ。今日は俺が変わってやるから、もう休め」
『その声は、マサキか』
「そうだ。今からそっちに行くからちょっと待ってろ。操縦方法のレクチャーだけしてくれ」
 やったわ、と小躍りしそうな勢いのセニアの頭を引っ叩きたい衝動に駆られながら、マサキは兵器開発室を出て、ファングと彼が乗っている新型魔装機がある格納庫《バンカー》へと向かった。
 セニアの機械に対する拝物性愛《フェティシズム》にも困ったものだ……目の前の出来事に囚われ易い王女は、いつだってそうだ。人間よりも機械が大事。あの浮かれようでは、新型魔装機の起動テストが始まってから何日経ったかすら覚えていないに違いない。
 その結果、ファングが倒れてしまっては、あまりにも彼が不憫過ぎる。
 人気の少ない通路を往き、格納庫に入る。果てしなく頭上に伸びているローリングタワー。到着点が見上げられないほどに聳《そび》え立つを足場に組まれた階段を、マサキは上って行く。
 いずれはこの新型魔装機にも精霊が宿る日が来るのだろうか。それまで面倒とはいえ、こうして足場を上って操縦席に乗り入れなければならない。この高さを毎日上り下りするだけでも苦労が要る作業であるだろうに、よくぞファングはここまで弱音を吐かずにセニアに付き合い続けたものだ。
 精神的にも肉体的にも剛健《タフ》であるからこその我慢強さ。マサキは見習いたいとは思わなかったものの、そういった彼の芯の強さを頼りにはしている――……何百段と続いた階段を上りきったマサキがようやく操縦席に辿り着くと、ファングは待ちくたびれたのか。操縦席に身体を深く沈めて仮眠を取っていた。
「おい、起きろよ」
 余程疲れているらしい。今にも目を覚ましそうな隙のない表情で眠っておきながら、マサキに呼びかけられたぐらいでは起きてもこないファングに、「起きねえと、どうなるかわかってるだろうな」マサキはその両頬を自らの手で挟み込んだ。
 瞬間的にファングの目が開く。「……何もしてないだろうな」前科があるマサキの行動を気にしてはいるらしい。焦りがありありと窺える表情で身を退いたファングに、「してねえよ。セニアの目があるところでなんかやるもんか。ほら、どいたどいた」マサキは笑いかけた。
 のそりと操縦席から這い出してきたファングが、入れ替わりに操縦席に収まるマサキを見下ろしている。乗り心地のいい操縦席。これなら長時間の戦闘にも耐えられそうだ。そう思いながら、マサキが計器類の確認を始めて暫く。ファングは彼にしては珍しくも長い溜息を吐いた。
「お前が云うと洒落にならん」
「冗談で済ませて欲しかったら、きちんと自分の体調管理をするんだな」
「そうだな。今日はきちんと休むことにしよう。お前にまで迷惑をかけてしまったしな」
「その言葉通りに休んでくれればいいんだけどな」マサキはコントロールパネルを指先で弾きながら、「で、こいつはどうやって動かすんだって? 基本的な操縦方法は魔装機神なんかと一緒でいいのか? 何だか計器類が多いような気がするんだが」
 そう何度もマサキにプラーナの補給をされるのは嫌とみえる。ファングのどこか困惑を隠せない表情をそう読み取ったマサキは、その現実に僅かに胸が痛ませた。
「主《メイン》動力炉の他に補助《サブ》動力炉を六基積んでいる。計器類が多いのはその関係だ」
「そういうことかよ。成程、ハイパワーな魔装機に仕上げるつもりなんだな……」
 せめて、もう少しだけでいい。彼の側にいられる自分でありたい。そんなマサキの気持ちは、ファングには理解出来ないものであるだろう。わかっていてもやるせない。笑顔の下に押し隠している様々な感情を気付かれないように、マサキは隣に立っているファングから操縦方法のレクチャーを受け、早速とばかりに新型魔装機の起動テストに挑む。


.
PR

コメント