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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

wandering destiny(9)【加筆あり】
お久しぶりです。の、wandering destinyです。
あとでまた加筆修正すると思います。すんごい難産でした。よろしくお願いします。

※後半に大幅な加筆があります。次回更新分に含めようかと思いましたが、キリが悪かったのでこの回に含めました。



<wandering destiny>

 シュウがマサキの情報が欲しいと告げると、幹部は困った様子をみせた。
 無理もない。連邦軍は以前の大戦でマサキを援軍データに登録する為に、既に抹消されて久しい日本におけるマサキの国民データを復旧させている。その際に書き込まれた追加データ。ラ・ギアス所属を示す一文の為に、彼のデータは高レベルの機密として扱われることとなった。
 無論、シュウも同様である。
 同様のプロテクトがかかった国民データをシュウは日本に持っている。それもその筈だ。DCに所属するより前。地上の戦力データの収集という命を受けたシュウは、度々地上に赴いていた。かといって、本人ですらアクセス許可のないデータである。易々とアクセス権を渡してしまっては連邦軍の面目が立たない。
 とはいえ、無策で連邦軍の駐留地を訪れるほどシュウも愚か者ではない。連邦軍に纏わる幾つかの人間関係の腐敗について情報提供を持ち掛けると、出世欲の強い幹部は一も二もなくシュウの提案に飛びついてきた。
 かくて入手したマサキの移動データ。それによれば、彼は既に日本を出国しているようだ。
 パリ、ロンドン、モスクワ、シンガポール、ニューヨーク。
 短期間で五つの同時多発テロの発生地を訪れた彼は、現在アラブに滞在しているらしく、移動情報がそこで途絶えているとのこと。政情不安定な国家が多い中東において、アラブは外国人でも比較的安心して歩き回れる地域ではあるが、だからといって観光目的でマサキが訪れる筈もないだろう。恐らくは、同時多発テロの情報収集を済ませたのちに、テロ実行組織の目星をつけてアラブ入りしたものだと思われる。と、なると、問題となるのは、今回の同時多発テロがどこのセクトの犯行であるのかなのだが、それについては情報が錯綜しており、連邦軍内部でも見解が分かれているのだそうだ。
 とはいえ、必要なのはテロの正しい実行犯の情報ではない。マサキがどこのセクトを実行犯だと睨んでいるかだ。
 マサキがアラブ入りしているということは、彼自身は、アラブ、もしくは中東に同時多発テロの実行セクトが拠点を構えていると目しているということだ。シュウは中東を中心に活動しているセクトの情報を掻き集め、アラブに向かった。目指したのは煌びやかで近代的なビルが建ち並ぶ、商都ドバイ。石油依存からの脱却を目指した結果、リゾート開拓が進み、世界中からセレブリティが集まるようになった国だ。
「We will be landing at Dubai International Airport in about 20minutes……」
 ドバイ国際空への着陸を報せる機内アナウンスを聞いたシュウは、読んでいたドバイのガイドブックを閉じた。
 空の交通の便がいいドバイ国際空港は、アラブの表玄関として機能している。だからだろう。同時多発テロの発生地を回ったマサキは、何某かの手がかりを入手したのちに、ドバイ国際空港を経由してアラブ入りを果たしたようだ。ドバイを拠点として、アラブ首長国連邦内を活発に動き回るマサキの記録がデータベース上に残されている。
 ならば、下手に動き回るよりも、ドバイでマサキの戻りを待った方が話が早いのではなかろうか。シュウは|高性能小型携帯端末《ハンドブック》に手を掛けた。マサキの国民データへのアクセス権を得ているとはいえ、データベースに登録のない交通機関の多いアラブでは、リアルタイムにマサキを追跡するのは無理がある。それでも念の為と|高性能小型携帯端末《ハンドブック》を開いてみれば、案の定。マサキの現在位置はドバイで止まったままだった。
 仕方がない。
 無事に着陸を果たした飛行機から降りたシュウは、入国審査を済ませるべく巨大なターミナル間を電車で移動し、数十分かけて受付を行っているカウンターに辿り着いた。
 世界で三本の指に入る巨大空港だけあって、とにかく空港の敷地面積が広い。あまりにも広いからだろう。240以上もの都市へ飛行機が就航しているにも関わらず、混雑の気配がまるでない。多少待たされたものの、スムーズに入国手続きを終えたシュウは、ホテルの送迎バスに乗車すべくミーティングポイントに向かおうとした。
 直後、搭乗を急いでいると思しき客と肩がぶつかった。
「Sorry.」
「No worries.」
 シュウが謝罪するより先に謝罪を済ませて立ち去った客は、身なりからして英語圏のビジネスマンであるようだ。旅慣れている様子から察するに、突然の商談で出国せねばならなくなったというところだろうか。ドバイの公用語はアラビア語だが、人口の九割は外国人だ。英語で問題なくコミュニケーションが取れるのも、その為だ。シュウは肩を払って、改めてミーティングポイントに足を向けた。
 瞬間、馴染み深い|気《プラーナ》を感じた。
 まさかと思いながら波長を辿れば、先程のビジネスマンから十数メートルほど後ろに下がった位置に、見慣れたボトルグリーンの髪が覗いている。
 マサキだ。シュウは心臓の鼓動を跳ね上がらせた。ドバイに降り立つなり顔を合わせることになるとは思ってもいなかっただけに、動揺が激しい。とはいえ、このまま見過ごしてしまっては、広大なアラブの地だ。次にいつマサキと顔を会わせられるかはわからない。
 シュウは急いでマサキの跡を追った。
 見間違えようのないジャケットに、ブーツ。大股で先を急ぐ彼の手に荷物はない。と、いうことは――シュウは既に存在を感じ取るまでに距離を近くしているというのに、一向に自分を振り返ることのないマサキの目的を推し量った。様子を窺うに、どうも前を往く先程のビジネスマンを追っているように感じられる。
 シュウは例のビジネスマンに注目した。出国が目的であれば、カウンターに向かう筈である。だが、ビジネスマンはその数メートル前で足を止めると、柱の影で立ち止まり、足元にボストンバックを置いたではないか。そして腕に嵌めている時計を見て、その場を立ち去ろうとする。
「マサキ!」
「わかってる!」
 咄嗟に声を放てば、流石にシュウの存在には気付いていたようだ。逃げ出そうとするビジネスマンの前にマサキが回り込む。
 シュウは急ぎボストンバックの元に向かった。ジャケットの内ポケットから携帯用工具セットを取り出し、その中に用意していた検電ドライバーを取り出す。そうして、ファスナー部に先端を押し当てれば、案の定と云うべきか、通電が確認出来た。
 ファスナーが起動スイッチになっているタイプの爆弾だ。
 時計を気にしていたビジネスマンの様子からして、時限式でもあるのだろう。シュウは背後のビジネスマンを窺った。マサキに押さえ込まれている彼は、空港から逃げ出せない状態に追い込まれたからだろう。半狂乱の態で何事か絶叫している。
 とはいえ、ボストンバックの口を開けられない以上、シュウの力ではこの爆発物はどうにも出来ない。解体するには内部構造を確認する為のX線が必要不可欠だ。
 シュウは周囲を見渡して、英語で叫んだ。
 ――It's a bomb!
 周囲を囲んでいた野次馬が、悲鳴を上げた。蜘蛛の子を散らすように逃げ出し始めた空港客で押し合いへし合いの大騒ぎが生じる。混乱を引き起こしてしまったことに微かに胸が痛むも、被害を最小限で食い止める為には必要な処置だ。
 とにかく周囲の人間を退避させなければ。シュウは辺りから人気が失せるまで、声を張り上げ続けた。
「タイムリミットは五分後だ!」
 どうやら残り時間を聞き出していたようだ。いつしか力の失せたビジネスマンをマサキが床に押さえつけている。
 シュウは腕時計を確認し、ボストンバックを中心に魔法陣を展開した。科学の力で解決出来ないのであれば、魔法を使うしかない。|Запечатай это.《封じよ》咒文を唱えて結界を張り、その瞬間が訪れるのを静かに待つ。
 爆発物の威力が勝つか、それともシュウの魔力が勝つか。
 究極の二択を提示された状態で腕時計を睨みながら待つこと暫く。かちりという音とともに、シュウの瞳に眩いばかりの閃光が飛び込んできた。
 同時に全身に襲い来る圧力。まるで暴風のように、結界内で爆風が渦巻いている。轟く爆発音。結界を破らんとする勢いで爆発を続ける爆弾に、シュウは爆発の中心点に向けて更に魔力を覆い被せた。|Сходимся.《収束せよ》咒文を唱えて、爆発を押さえ込む。
 ややあって、白煙を上げるだけとなった爆発物の残骸に、シュウは慎重に結界を解いた。硝煙臭に似た臭気が辺りに漂う中、シュウは手近な位置に設置されている消火器を取り上げた。煙はもう途絶えつつあったが、万が一ということもある。念の為に消火活動を済ませ、まだビジネスマンを押さえつけているマサキの元に向かう。
「無事ですか」
「当たり前だ」
「あなたではありませんよ。そちらのビジネスマンです」
 優れた身体能力を有するが故に加減を知らないマサキは、時として甚大な被害を齎してしまうことがある。だからこその問いかけであったが、余計なひと言であったようだ。
「俺を誰だと思ってやがる」
 憮然と云い放ったマサキが、シャツの後ろ襟を掴んでビジネスマンを引っ張り上げた。
 どうやら締め技か何かで意識を落としたようだ。両手足をだらりと下げて、俯いたまま、ビジネスマンの身体が垂直に伸びる。まるで糸の切れた操り人形のようだ。ビジネスマンの見事な気の失いように、シュウは場違いにも笑ってしまいそうになる。
 とはいえ、テロの実行犯をこのままにはしておけない。
 ビジネスマンの口元に手を翳せば、浅くではあるが呼吸がある。ならばドバイの当局の引き渡すのが筋であろう。シュウは周囲を見渡した。出国カウンターの奥で床に伏せていた係員が顔を覗かせ始めている。
「Please call the police!」
 シュウは焦げた床とビジネスマンを指差しながら係員に呼びかけた。何人かの係員が即座に動く。警察に任せるのかよ。同時多発テロを追っていたマサキとしては、自らの手で取り調べを行いたいのだろう。面白くなさそうな声に振り返れば、どこか曇った表情がある。
「今の私たちには力となる立場が何もありませんからね」
「つまらねえ奴だな、お前。こいつに辿り着くのに俺がどれだけの苦労をしたと思っていやがる」
 鬱憤が溜まっているようだ。意識が落ちたままのビジネスマンを羽交い絞めにしながらマサキが云う。
 シュウは愁眉を寄せた。
 普段であれば、無抵抗の相手を更に苦しめるような真似をマサキは決してしない。ましてや、意識を失っている相手を更に弄ぶような真似をするなど。だからこそ、シュウは思ってしまうのだ。このマサキの暴虐な振る舞いは、彼がテロリストに対して抱いている恨みつらみを表しているのではないか?
「だったらICPOにでも垂れ込めばよかったでしょうに」
「こいつらの振る舞いを見逃せねえ理由があるんだよ」
「テロリスト――だから、ですか」
「当たり前だろ。人の命を無駄に奪いやがって」
 本当に、そうだろうか。シュウは敢えて口にしたかった言葉を飲み込んだ。
 自らの故郷たる地球世界を捨てて、ラ・ギアス世界の平和の為に戦い続けているぐらいであるのだ。マサキが正義感の強い青年であるのは間違いない。だが、今の彼の反応はそういった義憤に駆られての行動とは異なる様相を呈していた。ぶっきらぼうにも限度がある物云い。それは、テロリストを許せない理由を説明するのを彼が避けているようにも映る。
「ああ、来たようですね」
 ターミナルの通路の向こう側から、どたどたと盛大に足音を立てながらポリスの集団が駆けてくる。シュウは片手を挙げて、彼らにテロリストの位置を示した。何にせよ、自分がこの場所に居て良かった。ほっと胸を撫で下ろすのは、ラ・ギアスの翻訳機能に慣れているマサキの語学能力が決して高くないことをシュウが知っているからだ。
 ブロークンなマサキの英語は、彼を容疑者にしてしまいかねないのだ。
 とはいえ、シュウの立場も決して安泰ではない。かつては国際指名手配犯だった人間だ。現在の国民データからはその過去は抹消されているが、テレビで大々的に報道された自身の容姿を覚えている者がいないとも限らない。会話のニュアンスを間違えれば、テロリスト扱いされかねない立場にシュウはいるのだ。
 何よりここはアラブ圏だ。
 シュウやマサキが良く知る文化圏とは異なる世界。無事に済めばいいのだが――ポリスに状況を説明しながら、シュウは自らの憂慮が杞憂で終わることを願っていた。



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