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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

2022X'mas「SilentNight.(4)」
ひいいいいい!お絵描きしてたら5日も開いちゃいましたよ!!!すみません!!!
今週は六連勤につき、更新は飛び飛びになると思います。

では早速、本文へどうぞ!
<SilentNight.>

「しかしこの調子ではこの辺りの雪が無くなってしまうのでは?」
「少し遠くの方まで転がしても大丈夫だろ。大きければ大きいほどいいもんだよ、雪だるまって」
「どれだけの大きさの雪だるまを作るつもりです」
 驚いたような表情を見せるシュウに、このぐらいかな。マサキは両手を広げてみせた。怪訝そうな表情。何だよ、と尋ねれば、「いずれか片方の雪は、もう片方に載せるのですよね?」
「当たり前だろ。転倒した雪だるまも面白そうだけど、やっぱり立ってる雪だるまじゃねえとな」
「そんなに大きな雪の塊が載せられるのかと思いまして」
「男ふたりだぞ。お前、そんな非力なタマじゃないだろ」
 それにシュウは肩を竦めてみせただけだった。
 あまりにも惚けた態度にマサキは眉を顰めた。確かに彼は力作業を厭う面があったものの、決して非力な人間ではない。剣技の腕を維持する為のトレーニングは欠かしてないようであったし、こと自らの興味を掻き立てられる事態であれば、マサキでさえも敵わぬほどにアクティブに動き回ってみせたりもする。
 知力ばかりが取り沙汰される彼は、実は頑健《タブ》な人間であるのだ。
 その筋力は、マサキをゆうに持ち上げられる程。それでよもや雪だるまの頭を持ち上げられないとは云わせない。いい加減にしろよ、お前。マサキは足元の雪を掬《すく》ってシュウに投げかけた。さらさらと宙で散った雪の粉が、シュウのコートにかかる。
「俺を持ち上げられるんだから、雪の塊ぐらい訳ないだろ。ほら、やるぞ。早く作らないと、料理の準備をする時間が減っちまう」
 マサキはシュウと並ぶようにして雪の上にしゃがみ込んだ。
「一緒にやってりゃあっという間だって」
 やがて大きさを増したボールを今度は両手で転がしてゆく。次第に重みを増してゆく雪の玉。体重を乗せないと前に進まなくなってゆく雪玉に、子どもの頃の数少ない雪の日の記憶が蘇った。たったこれだけなのに愉しいんだよな。マサキは笑った。
「子どもは非生産的なことにこそ喜びを感じる人間ですからね」
「無駄なことに使える時間が山程あるからな。羨ましいよ」
「これは無駄なことではないと?」
 いいや。マサキは首を振った。重い雪玉を、いずれ溶けて無くなるものを作る為だけに転がしている。これが非生産的で無駄な行為でない筈がない。そうでしょうとも。雪でコートが汚れるのも構わず、同じく見よう見真似で雪玉を転がしているシュウとふたり、マサキは延々とロッジの周りの雪を集めていった。
 30分もする頃には、ふたつの雪のボールはかなりの大きさとなった。
 それを二人がかりで雪だるまの形に整える。
 ロッジにあったブリキのバケツ、マサキの予備の手袋、食糧庫にあった人参、木立から取ってきた木の枝、そして露出した地面から拾った石を使って、雪だるまに表情を付けてゆく。大きめの石を目に使ったからか、どことなく愛嬌のある顔立ちになった雪だるま。その首周りに、シュウが自らのマフラーを巻いてゆく。
「高かったんじゃねえのかよ」
「この程度で駄目になるような素材で出来てはいませんよ」
 そしてまるで番人のようにロッジの入り口脇に鎮座するに至った雪だるまを眺めながら、冷えた身体を温めるココアをふたりで飲む。恐らくは所有者《オーナー》の貴族が気を利かせたのだろう。そこいらで飲むココアよりもカカオの風味が強いココアは、彼が食糧庫に用意したココアが上質なものであることを意味していた。
 貴族風情とシュウが上流階級の人間たちを見下すことはなかったものの、彼らにとっては罪人の烙印を押されていようとも元王族。きっと、集められるだけの良質な食材を集めたのだろう。食糧庫に山と用意されていた食料の数々。マサキのクリスマス休暇が終わるまでここで過ごしても余りある食材の量は、無理難題を突き付けられた所有者《オーナー》の意地の表れのようにも映る。
「ローストターキーもある。ローストビーフもある。ホールケーキにジンジャークッキー。シャンパンにワイン。これだけあったら充分な気もするけど、今日のディナーは他に何を用意しようか」
「サラダにスープがあれば充分な気もしますね。パンも色々な種類が用意されていましたし。あなたにとってはライスのない食卓は寂しく映るかも知れませんが」
「ポテトサラダでも作るか。お前はスープな」
「いつも通りですね」
 いつも顔を合わせてはスープを作れと云っているからか。野菜と豆をコンソメで煮込んだだけのあっさりとしたスープ。そんな何の変哲もないスープを矢鱈と食べたがるマサキが可笑しく感じられるのだろう。シュウが小さく声を上げて笑った。
「それがいいんだよ。お前の作ったスープを食べてると、自分が居るべき場所に帰ってきたような気分になる」
「あなたの料理もそうですよ」
「そうかね。お前にとっての家庭料理ってのは、サフィーネやモニカが作ってくれたもんじゃないのか」
 長くシュウの側に在り続けたふたりの女性たち。昨年、マサキとシュウの関係を知って、自分たちの気持ちに整理を付けた彼女らは、今も尚、シュウの側にいる。それはマサキも変わらなかった。リューネもウエンディもこれまでともに戦ってきた仲間なのだ。関係は変わったが、仲間であることに代わりはない。
 それまでの関係を密にするような付き合いから、穏やかに満ちるような付き合へと。彼女らは適切な距離を保ちながら、マサキとの付き合いを重ねている。
 サフィーネやモニカも、彼女らと同じ道を選んだのだろう。仲間としてシュウの側にいることを選んだ彼女らに、マサキが思うことは何もない。彼女らには伝えるべきことを伝えた。彼女らはそれを受け入れた。今更何が揺らぐだろうか。マサキは自分とシュウの関係に、それだけの自信を持っている。
 だからこその言葉だった。
 けれどもシュウはそれをマサキの嫉妬と捉えたのやも知れない。マサキ、と名前を呼ぶと、自分に顔を向けたマサキの口唇に口付けてきた。冷えた温もり。そろそろロッジに戻るべきなのだろう。雪慣れしていないに違いない男は、マサキの為に無理を重ねてしまう可能性もある……少し口唇を吸っては、舌先を滑り込ませてくるシュウの口付けに応えながら、マサキはそんなことを考えていた。
 やがて離れた口唇に、何だよとマサキは云った。
 今更つまらない誤解をされたくない。
 嵐のように過ぎ去った心と身体を奪い合った日々は、既に過去のこと。シュウとともにクリスマスを過ごすのも、これで四度目となった。だのに色褪せない想い。年月を重ねた分だけ、尚の事増してゆく愛しさがマサキを包んでいる。
「私にはずっと欲しかったものがあった。家族もそう。だからこそ、彼女らの存在は私にとってはかけがえのないもののひとつとなった。けれども、マサキ。私はあなたと付き合いを重ねてゆく内に、もっと欲しいものがあることに気付かされたのですよ」
 手にしているカップをロッジに続く石段の上に置いて、シュウがマサキの頬を両手で包み込んでくる。それは氷のように冷え切った手。けれども何よりもマサキの身体を心地良く温めてくれる手だ。
「何だよ。俺が欲しかったとか云うなよな」
「似たようなものですね。私はね、マサキ。愛する人が欲しかった」
 ぽつりと呟くように。ひっそりと言葉を吐いたシュウは、次いでマサキの身体を抱き締めてきた。
「いつからか、何事に対しても冷めた目でしか見られなくなってしまっていた。過去に失ってしまったものの大きさに、私は怯えてしまったからこそ、冷めた自分でいることで自分の心を守るようになっていたのでしょう。その情熱を蘇らせてくれる人が欲しかった」
 マサキの肩に顔を埋めているシュウの声が微かに震えている。泣いているようにも感じられる様子に、マサキは動揺した。こんな風にシュウが自らの弱さを曝け出してみせるなど、恐らくは初めてのこと。
「あなたがいる。あなたがいる。あなたが、ここにいる」
 高価な陶磁器やガラス細工を扱うかのように、そうっと。出来るだけ力を込めないようにしてマサキを抱き締めているシュウの身体を、マサキは腕を回して引き寄せた。マサキもまた辛い過去を抱えて生きてきたからこそ、その苦しみが痛いほど理解出来る。
 そう、マサキもずっと怯えていたのだ。
 身近な人間の命を不条理に奪われたマサキと、身近な人間に自分という存在を不条理に奪われたシュウ。得たかったものは同じだった。家族が欲しい。けれどもマサキは仲間がその代わりになるとは思えない。シュウのように自らの感情を分析出来ないマサキは、自分の欲しいものに鈍感だった。
 今ならわかる。
 マサキもまた、自分を懸けて誰かを想いたかったのだと。


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