次回が長めになる予定なので、今回は短めの文章量での更新です。
早くしないと一月が終わってしまうので、さっさとケリを付けたいのですが、焦ると碌な文章が書けなくなるので、どっしり構えていきたいと思います。残りの二本は短い話になる予定ですしね!
拍手有難うございます。励みになります。
では、本文へどうぞ!
早くしないと一月が終わってしまうので、さっさとケリを付けたいのですが、焦ると碌な文章が書けなくなるので、どっしり構えていきたいと思います。残りの二本は短い話になる予定ですしね!
拍手有難うございます。励みになります。
では、本文へどうぞ!
<SilentNight.>
他人の感情に鈍感だったマサキは、生来からそういった人間ではなかった。幼かったあの頃。周りの大人の歓心を買おうとする程度には、他人の感情の動きを読み取れていた自分。幼稚園で好きなあの子と手を繋ぐのに照れて、酷い態度を取ってしまったことだってあった。そんなマサキが変わってしまったのは、家族をテロで喪ってしまってからだった。
マサキは逃げ込んでしまっていたのだ。自らに向けられる数多くの好意。その真実に気付かぬ振りをしていれば、世界が壊れるようなあの喪失感を二度と味合わないで済む。
マサキにとって、仲間と適度な距離を保てる自らの鈍感性は、自らの心を守る為に必要な鎧だった。
それをシュウは取り払った。幾度もマサキの身体を浚ってみせることで、自らの感情の変遷に無自覚であったマサキに、自らの感情と向き合わさざるを得ない状況を生み出してみせた。それは決して正攻法ではなかった。むしろ非難されて然るべき手段だっただろう。けれども数多の異性が正攻法でマサキに挑んでは、結果的に躱《かわ》されるだけで終わってしまっていたのだ。どうして彼に同じ方法が取れたものか。
人の温もりは毒なのだと、シュウがわかっていてマサキに狼藉を働き続けたのかはわからない。
けれども、シュウと肌を重ねる度に、マサキの凍った心は確かに溶かされていった。
遠いあの日、家族を喪った瞬間から止まったままだったマサキの時間は、シュウと会ったことで緩やかに動き始めた。彼の皮相的《シニカル》な物の見方はマサキにある種の現実を突き付けてきたものだったし、それが望外な立ち位置からなされるものだったからこそ、マサキは抵抗するようにシュウの言葉に反意を唱え続けたものだった。
けれどもそんな抵抗は無意味でしかない。
真実と真実のぶつかり合い。立場が違えば見方も異なる。たったそれだけのシンプルな真理に辿り着いたマサキは、シュウの言葉を素直に受け入れるようになった。シュウもマサキの態度の変容に気付いたのだろう。彼の口ぶりが穏やかさを増すようになったのも、この頃からだった――……。
関係を変えたいとマサキが望んだ五年前のクリスマス。それはシュウの努力が結実した瞬間だったのだ。
マサキの存在を確かめるようにマサキの身体を抱き締め続けているシュウは、まるで子どものように頼りない。それは今となっては彼が捨ててしまった立場、クリストフ=グラン=マクソードだった頃の彼の姿を彷彿とさせる。嗚呼、あの頃の少年だった彼がここにいるのだ。果てしなく締め付けられる胸の痛みに、マサキは泣き出してしまいそうになる。あの日からどれだけの絶望の夜を、シュウは越えてここにいるのだろう?
シュウ、とマサキはその名を呼んだ。俺は何処にも行かねえよ。そう続けたかった言葉は、けれどもシュウの言葉によって掻き消されてしまう。、
「あなたは私を蘇らせてくれる人だ。私が欲しいものを与えてくれる人だ」
うん、と頷くことしかマサキには出来なかった。
「私が全てを懸けるに相応しい人」
縋るようにマサキを抱き締めてくる手。マサキもまたシュウを抱き締める手に力を込めた。
「だからどうか、簡単に私の許から去って行かないで」
それは他人に対して関心を見せない男が抱えている執着心の表れだった。
「身体が冷えてしまいましたね」
失うことを恐れている男が、果たしてそれで安心出来たのかどうかはわからない。身を寄せ合うようにして抱き締め合い、互いの気持ちを確認し合うように言葉を紡いでは頷く。けれどもマサキもまた同じ気持ちでいるのだということは伝わったのではないだろうか。マサキ以上に冷たい身体をしている男は、静かにマサキの身体から手を放すと、冷めたココアの入ったカップを手に立ち上がった。
「お前の方がよっぽど冷たいよ」
マサキもまた立ち上がる。
「ロッジで身体を温めよう。クリスマスディナーの準備をしながらさ」
勿論ですよとシュウがロッジの玄関扉を開く。ふわりと肌に届く暖かい空気。ぷんと香る木の匂いが安心感を増す。ほっとしますね。そのまま先に立ってシュウがロッジの中へと足を踏み入れてゆく。
その背中を見詰めながら、マサキは何度目かの疑問を胸の内で反芻していた。
―――何故、白河愁という人間はそこまで安藤正樹という人間を必要とするのか。
元王族という身分、十指に及ぶ博士号。高い知能があれば、剣技や魔術の才もある。これほど神に愛されるということを体現してみせる男もそうはいない。だのに彼は云うのだ。自分にとって安藤正樹という人間は変わりの利かないものであると。
どうしてシュウがそこまで自分に執着してくるのかが、マサキにはわからない。
身分や才能で人間は量れるものではないとマサキは知っていたけれども、シュウといる時のマサキは自らの至らなさを思い知らされてばかりだ。柔軟な思考を持つ男は、固定観念に囚われがちなマサキと異なり、何かを理解することに貪欲で、その分、他者に対して恐ろしく寛容であるのだ。プレシアが戦うということに対する姿勢然り、ウエンディの人格に対する理解然り……。それは、マサキだったらとうに怒っているようなことであっても、たわいもなく受容してみせる彼の態度からも窺い知れた。
マサキの態度に対してもそうだ。彼は声を荒らげてマサキを糾《ただ》すことをしない。穏やかさに諭してみせては、マサキの反発さえも飲み込んで自分の糧としてゆく。
そうした人間としての質も違う男の愛情を、嬉しく感じない筈はない。
けれども、同時にマサキは不安を感じてしまうのだ。煌びやかなシュウのステータスに対して自分はどうだ? 魔装機神の操者であること以外に頼るものを持たない自分。それはいずれ、シュウの足を遠ざける結末となりはしないか?
それを尋ねようと口を開きかけて、マサキは結局、続く言葉を飲み込んだ。
―――意味のないことだ。
だったら自分が彼に見合う人間になればいい。マサキはシュウの背中に追い付き、その背中に手を置いた。豆のスープ。そう呟くと、わかってますよ。シュウはクリスマスディナーの席を飾る自分が作るべきスープの種類を、マサキのリクエストを聞かずともわかっているとばかりに微笑んでみせた。
.
.
PR
コメント