次回は温泉編です。
温泉編です。(二回云った)
これまでディナーのシーンはそれなりに行数を割いてきたのですが、リクエストがリクエストですのでさっくりと終わらせたいと思います。何処に向かっているのか不明な話ではありますが、この辺一度きちんと書いておきたかったので書きました。
何か今回のイベントはある意味私のシュウマサ総決算になりそうなんですが、まだ終わりませんからね!書きたいことが山程残ってるので!!!!
ということで、本文へどうぞ!
次回は温泉編です。(三度云った)
温泉編です。(二回云った)
これまでディナーのシーンはそれなりに行数を割いてきたのですが、リクエストがリクエストですのでさっくりと終わらせたいと思います。何処に向かっているのか不明な話ではありますが、この辺一度きちんと書いておきたかったので書きました。
何か今回のイベントはある意味私のシュウマサ総決算になりそうなんですが、まだ終わりませんからね!書きたいことが山程残ってるので!!!!
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次回は温泉編です。(三度云った)
<SilentNight.>
煌びやかにクリスマス一色と飾られたリビングのテーブル中央には、キャンドルとクリスマスオーナメント。クリスマス柄のランチョンマットの上に置いた食器に料理を取り分ける。ローストターキー、ローストビーフ、サラダに豆のスープ。今日ばかりは異教徒ですよ。そんなことを口にしながら、「|In nomine patrie, et fili, et spiritu sancti. Amen.《父と子と精霊の御名において、アーメン》」食卓に祈りを捧げたシュウに、遠いあの日のラングランの夜を思い出しながら、マサキもまた祈りを捧げた。
「こういったシンプルなクリスマスの食卓もいいものですね」
「去年までのクリスマスが異常だったんだよな」
「賑やかな食卓もそれはそれでいいものですよ。どちらがどうという話ではなく、どちらにも良さがあるという話だとは思いませんか」
「舞い上がり過ぎてた気はするよ」
ニューイヤーまでゆっくりと。少しずつ料理を片付けていった昨年までのクリスマスと異なり、ひと思いに食べきれる量。クグロフ、バニレキプファルン、シュトーレン、パネトーネ……あれもこれもと欲張って料理を買い込んでしまったのは、それだけマサキとシュウが一年に一度のともに迎えるイベントの日に舞い上がってしまっていたからだったものの、その記憶があるからこそ、場所を変えた今年のクリスマスディナーも味わい深いものと感じられるのだ。
「それだけ私とのクリスマスを愉しみにしていてくれたのでしょう。それに悪い気がする筈がない」
「それはそうなんだけどさ」
ほんのりとコンソメの味がする程度の薄い味付けの豆のスープ。野菜の甘みが舌に優しい味付けは、彼の嗜好が決してクリスマス料理のような濃い味付けに向いていないことを表していた。他に作れる料理もありませんしね。シュウは何かに付けてそう口にしたものだったが、それを日々口にしていられるのだ。彼の味覚がその味付けを好ましいと感じているのは明らかだった。
それとは180度方向性の異なるクリスマス料理。濃い味付けのメインディッシュに、甘さが際立つ菓子類。マサキはふと思う。これらの料理はシュウに負担を与えてはいなかっただろうか。その徐々に舌に障るようになっていった味を思い出したマサキは、自分ですらそう感じずにいられなかったたのだ――と、豆のスープを味わいながら目の覚める思いでいた。
「お前さ、嫌じゃなかったか。あんなに大量に濃い味付けだの甘い菓子だの食べるの」
「何故? イベントの日の食卓ですよ。豪華に越したことはないでしょう」
「割と普段、質素な食事をしてるからさ」
だからマサキはシュウに尋ねたのだ。市井に下って随分経つ男の普段の食生活は、マサキが想像していたよりもずっと質素なものだった。そういった意味ではむしろマサキの方が豊かな食生活を送っていると思えるほどに。
それをマサキはこれまでシュウの嗜好だと思っていた。けれどもシュウにはシュウなりの食に対するこだわりがあるようだ。それこそこういう日の食事を味わう為の節制ですよ。数の少ないクリスマス料理をゆっくりと味わいながら、ワインを片手に口を開く。
「ねえ、マサキ。あなたは少々誤解をしているようだ。高い地位に就いている人間こそ、普段の料理を節制するものなのですよ。稀に浪費家だったり、美食家を気取ったりして、食にお金をかける人間もいるにはいますがね。そういった人間が大成した話を私は聞いたことがない。そもそも、普段から濃い味付けだの甘い菓子だのの味に舌が慣れてしまっていては、こういう日の料理を愉しめなくなってしまうでしょう? ですから、舌を豊かに保つ為にも節制は必要不可欠なのです」
「そういうもんなのか。王族だの貴族だのって連中は、普段からいい食事を取っているように思えるけどな」
「確かに庶民と比べればボリュームがあったりはしますが、使っている食材や味付けに大きな差が出るといったことはありませんよ。むしろヘルシー志向かも知れませんね。その代わりに、豪勢な食事を口にするイベントごとには恵まれていますが」
「ああ、そういうことか。女性が偶にいいものを食べる為に、普段の食事の量を減らすみたいな」
「いい例えですね。まさしくそれですよ、それ。それに、高い地位に就いているからといって、お金が無限に湧いて出る環境ではないですからね。地位に見合った品位を保つ為にかかるお金だけでも相当なものだというのに、食に無駄にお金を使ってしまっては。破産で家名が途絶えることほど不名誉なこともありません。ですから、限られた収入の中でやりくりをするのは、庶民も王族も貴族も一緒なのですよ」
それでもその生活は、マサキには優雅なものに映る。
魔装機神の操者となり、剣聖の名に与ったことで、ちらと垣間見る機会に恵まれた上流社会の生活は、地を這うようにして戦場を駆けるマサキにとっては異なる世界でしかなかった。シュウが語ったように影には苦労もあるのだろうが、日々の糊口を凌ぐ必要のない生活。僅かな仕事に大量の趣味。そして社交。彼らは汗水流して働く庶民には考えられないほど、贅沢に時間を遣っていた。
シュウはそういった世界から庶民の世界へと降りてきたのだ。
今年の頭、世界を見に行くと云ってひとり放浪の旅に出たシュウは、やがて戻って来ると興奮も露わにマサキにラングランの様々な地方の人々の有り様を語って聞かせたものだった。この世界を見たかった。彼が上流社会から降りることとなったのは、決して彼自身の意思によって為されたことではなかったが、それでもかねてよりの願い。戻れるものなら戻りたいか。マサキはいつかシュウに王族への復権についてどう考えているか尋ねてみたことがある。それはセニアが出来ることならそうしてやりたいと零していたからでもあったからだったが、マサキ自身も気にはしていたことだった。
汚名を着せられて生きることを余儀なくされた悲劇の大公子。
彼は決してそういった意思の許に生きてはいないというのに、反逆者の烙印を押され続けている。その事実はマサキにとっても耐え難いものであったのだ。もしかすると、シュウはあの世界に未練を抱いているのかも知れない。彼がかつていた世界の話を口にするのを耳にする度に、マサキの胸に生じた疑念。それを晴らすべく言葉を放ったマサキに対して、彼は至極あっさりと即座にそれを否定してみせた。
―――私は籠の外に出たかったのですよ、マサキ。真綿で包まれ、汚れたものから目を背けさせられるあの世界に真実はない。現実に立脚して生きてこそ、理想は高く掲げられるものであることでしょう。
彼があの閉塞した社会をどういった世界と認識していたのか、マサキには理解が及ばなかったけれども、彼の口ぶりからして、その世界が決して好ましいもので出来ていないことだけは理解出来た。
―――この世界で生き、この世界を臨み、この世界で命を終える。私は望んだ世界にいるのですよ、マサキ。
そう語るシュウの表情は、彼にもこういった表情が出来るのだと思わせるほどに幸福そうで、マサキはその事実に少しばかりの嫉妬を感じずにはいられなかった。
―――セニアは立場こそが人を作ると考えているのでしょう。けれどもそれは違う。そもそも、私の身体に流れている王族の血は、その立場を失ったことで意味を失ってしまうようなものであるでしょうか。違うでしょう、マサキ。立場を失っても、誇りは失われない。私は私の身体に流れているこの血統に誇りを持っています。それは、在り方を決めるのは個人であって、立場ではないと証明することになるでしょう。ですから私は私の生きる場所をここでいいと云えるのです。
例えるのであれば、それもまた愛であるのだ。
彼にとっては下々の者が生きる世界。それをシュウは誰よりも愛し、それ故に、誰よりも識《し》りたいと望んでいる。マサキにはシュウが知りたいものの正体が少しだけわかった気がした。だからこそ、俺はお前にとって、この世界以上の存在になれるかな。茶化してそう言葉にしてみれば、シュウはこう答えてきたものだ。
―――あなたは世界と私を取るとなった時に、私を取ってはならない立場にいるでしょう。だったら、マサキ。私はあなたを取ってみせますよ。それをあなたの為にしてあげられるのは、世界に私ひとりしかいないのですから。
こうと決めたことを必ず叶える鋼の意思を持つ男だ。きっと、その言葉を叶えてみせることだろう。真摯な眼差しを向けてきながら云いきってみせたシュウに、そんな日が来なければいいと思いながらも、その瞬間をこの目で見てみたいとマサキは思ってしまった――……。
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