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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

【LUV 4 U】被虐の白日(四)
色々混ぜ過ぎた気もしなくもないですが、今回は戦闘回です。



<被虐の白日>

 空を厚く覆う鈍色の雲。濡れそぼる草木が露を垂らしている。ぱらつく小雨がメインモニターに粒を散らす中、マサキはひとり、悩ましさを抱えたまま、ラングランの大地を|風の魔装機神《サイバスター》に乗って駆け抜けていた。
 夜半過ぎにヤンロンたちを客室に追いやり、迎えた朝。性行為《セックス》の疲労が残るマサキが起きた頃には、彼らはもう帰途に就いた後だった。少しばかり不機嫌さが残るプレシアと二人きりになる気まずさも手伝って、直ぐに家を出ること暫し。平原から丘陵地帯に入り、谷間も鋭い峡谷へと。気分に任せてそぞろ彷徨っていると、突然、頭上より砲撃が降ってきた。マサキ! 二匹の使い魔がにわかに騒がしくなる。マサキは精霊レーダーを確認するも、それらしい機影はない。役立たずな精霊レーダーに舌打ちするも、迷っている暇はない。先ずは安全地帯を探さねば。マサキは|風の魔装機神《サイバスター》を操縦《コントロール》しながら、先程の砲撃の記憶を探った。
 着弾音は全部で八つ。砲撃音がひとつしかなかったことから、軌道上で炸裂する散弾である可能性が高い。それは、射出音の位置よりも広い範囲に砲弾が飛んでくるということだ。と、そこまで考えたところで、頭上より少し外れた位置から再び砲撃音がしてきた。
「マサキ、砲撃! 第二弾ニャんだニャ!」
「着弾予想時刻まで、残り1.5秒ニャのよ!」
 どうやら相手は明確な敵意で以て|風の魔装機神《サイバスター》に攻撃を加えているらしい。マサキは|風の魔装機神《サイバスター》を加速させた。途中で巡行形態《サイバード》に変形させる。
 咄嗟の判断ではあったが、機動力で|風の魔装機神《サイバスター》に勝る巡行形態《サイバード》に切り替えたのが功を奏したようだ。|風の魔装機神《サイバード》の後方十メートルほどの位置で噴煙が上がる。恐らく切り立った岩場の上を並走しているのだ。背後から迫ってくる砲撃音に、マサキは峡谷の出口を目指して|風の魔装機神《サイバード》をひた走らせた。
「シロ、クロ! 敵機の絞り込みだ! データを浚え!」 
「砲撃音からの絞り込みで該当するのはジンオウニャ!」
「シュテドニアスだと? そんな馬鹿なっ!?」
 マサキは声を上げた。
 シュテドニアスとラングランが和平条約を締結してから、もう一年以上が経過している。兵士は勿論のことだが、ラングラン国内に残されたシュテドニアス産の魔装機の回収もほぼ済んでいる状態だ。行方不明になっているシュテドニアス産魔装機にしても、ゴリアテやギルドーラといった量産機ばかり。それにしたところでさしたる数ではない。ましてや、ジンオウやトゥールクといった量産の利かない高性能魔装機に関しては、全てが回収されたとセニアから聞いている。
 それともシュテドニアスが数を胡麻化しているのだろうか?
 混乱するも、この急場に答えの出ない問いをいつまでも考えてもいられない。マサキは気持ちを切り替えた。
 平原に出さえすれば、アドバンテージは|風の魔装機神《サイバスター》にある。そう信じて、長く続く峡谷を飛び続ける。ドォン、ドォンと立て続けに鳴り響く砲撃音。攻撃の度に動きを止めているからか。砲撃音の数の分だけ距離が開いてきているようだ。
 かなり後方に噴き上がった火炎に、もう一息だ。マサキは目の前に迫りくる狭き峡谷の出口を抜けるべく、|風の魔装機神《サイバード》を地面に垂直に立てた。
「抜けるぞ! しっかり掴まってろ!」
 全身にかかる重力に歯を食い縛りながら、垂直飛行で峡谷を抜ける――と、目の前に広がる視界が赤茶けた。
 渓谷の先にあったのは、所々で岩場が層となって積み重なっている荒野だった。平原での戦闘を望んでいたマサキとしては見込みが外れた形となったが、平地であるだけ峡谷よりは格段に戦い易い地形となっている。手近な岩場の上で巡行形態《サイバード》の変形を解いたマサキは、背後の崖を窺った。
 そして息を呑んだ。
 岩棚を伝い下りてくる敵機の翼を従えた悪魔的なフォルムは、紛れもなくジンオウのものである。だが、そのサイズはジンオウと比べると二倍以上。機体のカラーリングにしてもそうだ。赤を基調としたジンオウとは異なり、紫を挿し色とした漆黒に染まっている。
「どういう、ことだ……?」
 二匹の使い魔の計算によれば、交戦開始時刻は二分ほど後のことになりそうだ。
 マサキは|風の魔装機神《サイバスター》のデータバンクから、ジンオウの性能データを呼び出した。目の前にディスプレイを模したホログラフが浮かび上がる。数値化されたデータから分析するに、ジンオウそのものは耐久力と防御力に優れる機体であるようだ。しかも、かなりの回復量を誇る自己回復能力《サバイバビリティ》を有している。戦術を間違えば墜とされかねない戦力差。サイズが巨大化しているところからして、目の前の敵機は元のジンオウより性能が増しているに違いない。
 マサキは思案した。
 まともに戦って勝てる相手ではない。ここは巡行形態《サイバード》の機動力を生かして逃げ切るべきだろう。マサキはホログラフを消した。敵機を目の前にして退かなければならないのは屈辱的ではあるが、|風の魔装機神《サイバスター》が小型に映るほどのユニットサイズである。仲間を連れて引き返して来ても発見は容易い筈だ。そう自分に云い聞かせて|風の魔装機神《サイバスター》を変形させる。
 背後から撃ち出される砲撃を避けながら、王都目指して東に進路を取る。と、ほぼ同時に、入電を示す警告音《アラート》が、コントロールルーム内に鳴り響いた。
「マサキ、通信ニャ!」
「くそ、こんな時に……誰だ!」マサキは通信回線を開いた。
「苦心されているようですね」
 筋の通った鼻梁に、薄く形の良い口唇。整い過ぎたきらいのある顔に浮かぶ紫水晶の瞳が、冷ややかな視線をマサキに送っている。昨日の今日での邂逅に苛立ちを覚えもするも、孤軍奮闘せざるを得ないこの状況下では天の助けだ。正面の通信用モニターに映し出されたシュウの顔に、「そう見えるなら、手伝え!」マサキは声を放った。
「私は高くつきますよ」
 マサキの救援を求める声に、満更ではないのだろう。通信モニター画面に映るシュウの顔が、涼やかな笑みに彩られる。
「いいから手伝えっつてんだよ!」
 相変わらず敵機はおろか|青銅の騎士《グランゾン》の機影さえも映し出されない精霊レーダー。マサキは目視で|青銅の騎士《グランゾン》を探そうもするも、背後の敵機より撃ち出される砲弾を避けながらの逃避行だ。周囲に目を配る余裕もそうそうないまま、二キロほど進んだところで、
「北に三キロですよ、マサキ」
 そうしたマサキの状況を把握していたのだろう。冷静に響き渡るシュウの声に、わかった。と頷いて、マサキは進路を北に取った。
「迎え撃つのか」
「それ以外にどういった方法が取れますか。正体不明機なのでしょう。合流しますよ、マサキ」
「正体不明機っていうかな……」
「歯切れの悪い」
 機体信号の種別がジンオウとは異なっているのだろう。どうやらシュウの電波探信儀《レーダー》には正体不明機として確認されているようだ。
 マサキは背後の敵機の様子を窺った。
 障害物の少ない荒野に出たからか。巨大な魔装機との距離はそこまで開いてはいない。かなりの武器を積んでいるのだろう。間を置かずに撃ち出される砲撃が|風の魔装機神《サイバード》の翼を掠めてゆく。マサキは焦りを感じながらも、少しでも有益なデータをシュウに渡さねばと言葉を継いだ。
「見た感じはジンオウみたいなんだが、大きさとカラーリングが違う。武装は今のところ砲弾しか確認出来てないが、かなりの数を撃ち出してきているな」
「なら、教団の妖装機かも知れませんね」
「妖装機? あれが?」
 戦局は事前情報の有無にも左右される。
 |風の魔装機神《サイバスター》と|青銅の騎士《グランゾン》の二機だけで戦うのであれば尚更だ。ましてや敵機の追走を受けているマサキには、敵機の戦力を分析している暇がない。総合科学技術者《メタ・ネクシャリスト》として明晰なる頭脳を誇っているシュウであれば、僅かな情報からでも戦術を立てられるだろう。そう考えての発言だったが、思いがけない情報を引き出せたようだ。
「教団が高性能魔装機ベースとした新たな妖装機や咒霊機を制作しているとの情報があるのですよ」
「何だと……?」動揺しつつも、北に進路を取り続ける。
「高性能魔装機のデータは、先の戦争であらかた出揃っていますからね。その方が、一から作るより圧倒的に早いでしょう。勿論、背後にデータを流した別の国家が存在している可能性も否定は出来ませんがね」
「いずれにせよ、あいつを倒せば教団に繋がる情報が出るってことか」
「そういうことです。ただ、相手が本当に教団であった場合、ヴォルクルスが出てこないとも限りませんが」
「成程な……」マサキは歯噛みした。
 これが戦いの現実だ。
 ルオゾールを斃せば、戦いが終わると思っていた自分。青臭さに苦笑いが浮かぶ。長い歴史を誇り、ラ・ギアス世界の一部に苔のように根付いている破壊神信仰。そう、むしろ、ここからが教団との戦いの本番である。マサキはシュウがこれから辿るであろう困難な道のりを思った。彼が安らいだ日常を取り戻した時こそ、真実、教団との戦いが終わったと云えるのだろう。
「ああ、見えましたよ、マサキ。成程、確かにジンオウに似ていますね」 
 ややあって、視界の端に映り込む|青銅の騎士《グランゾン》の姿。荒野の北端で、岩場の頂上に陣取っている。|青銅の騎士《グランゾン》からも|風の魔装機神《サイバスター》と敵機の姿が確認出来たようだ。隣に上がるよう指示が入る。
「射程圏内に入ったところで、ブラックホールクラスターを撃ち出します」
「削れるかね」
「やらないことには始まらないでしょう。このまま帰す訳にも行きませんし」
「なら、俺もハイ・ファミリアを撃つか。削って、近付いてきたところで一気に墜とす!」
 マサキは戦闘用プログラムを呼び出した。流れ出るソースコードがREADY? と、コマンドの実行を尋ねてくる。答えは当然GOだ。実行キーを叩き、二匹の使い魔に指令を出す。
「行け! シロ、クロ!」
「あいニャ!」
「任せてニャのね!」
 精神体と姿を変えた二匹の使い魔が、射出されたハイ・ファミリアに乗り移る。同時に|青銅の騎士《グランゾン》から撃ち出されるブラックホールクラスター。空気を渦巻かせながら敵機に迫る二つの砲撃が、直後、胸部にヒットする。
「削れたか?」
 上がる噴煙の中からゆっくりと姿を現す敵機の胸部に、けれども砲撃のダメージ痕は確認出来ない。やっぱりな。マサキは舌打ちした。
「サイズ差があるのが厳しいですね。と、なると……ここは|青銅の魔神《ネオ・グランゾン》を出すべきなのでしょう。フォームチェンジします」
「なら、俺は共鳴《ポゼッション》だ!」マサキは|風の魔装機神《サイバスター》に宿りし精霊に呼びかけた。「サイフィス、力を貸せ。奴を墜とす!」
 正体不明機をラングランに送り込んだのが、真実、邪神教団であるのか、それとも背後に別の国家が絡んでいるのかは不明だが、正体不明機がラングランの領土を侵していることに違いはない。折角シュウの力が借りれるのだ。多少のリスクを負ってでも、ここは正体不明機の駆逐に力を割くべきだ。そのマサキの気持ちが届いたのか。ふわりと空気が動いたかと思うと、何かが憑依したような感覚がした。直後、肚の奥底からマサキの体内にある膨大な気《プラーナ》が噴き出てくる。
 風の精霊サイフィスが、その呼びかけに応えたのだ。
 マサキはコントロールパネルを叩いた。何せこのサイズ差だ。接近戦で攻撃を食らおうものならひとたまりもない。手早くコスモノヴァのコマンドを入力したマサキは、続く衝撃に備えて床に足を踏ん張った。
「全部撃ち尽くしてやる! 行くぜ、サイフィス! 先ずはこいつだ!」
 |風の魔装機神《サイバスター》の足元に展開される巨大な魔法陣。マサキの身体から流れ出た気《プラーナ》が、渦巻く光と化して|風の魔装機神《サイバスター》を包み込む。「行けええええっ!」マサキは咆哮した。白きエネルギー収縮体が敵機目がけて突き進む。
「では、参りましょう! 縮退砲!」
 |青銅の魔神《ネオ・グランゾン》へとフォームチェンジを果たしたシュウも同じ考えを持っているようだ。胸部の砲門を開いた彼が、収束するエネルギーを射出する。周囲の空気を巻き込みつつ、コスモノヴァを追走する青き球体エネルギー。舞い上がる砂塵の向こう側で、二つのエネルギーが確かに敵機を貫いた。
「マサキ!」
「わかってる!」
 細身のフォルムが災いしたようだ。胴部を撃ち抜かれた敵機が二つに折れたかと思うと、爆炎を上げ始める。もしかすると自爆かも知れませんね。シュウの言葉に、マサキは|風の魔装機神《サイバスター》を急ぎ後方に飛び退かせた。
 身の丈二倍以上ともなれば、爆発の衝撃はかなりの広範囲に及ぶ筈だ。巻き込まれては余計なダメージを|風の魔装機神《サイバスター》に負わせかねない。同じことを考えているのだろう。鋼の耐久力を誇る|青銅の魔神《ネオ・グランゾン》が|風の魔装機神《サイバスター》の前に回り込んでくる。
 大地を揺るがす轟音が響き渡ったのはその直後だった。
 爆発の衝撃の全てを正面で受け止める|青銅の魔神《ネオ・グランゾン》に、けれどもマサキは感謝の言葉を捧げることが出来なかった。巻き上がった粉塵の奥に揺らめく、人外の様相を呈する不気味なシルエット。紛れもない。ヴォルクルスが姿を現したのだ。
 全部で三体。
 だが正体不明機に比べれば、戦い慣れている分、こちらの方が敵に回すのは気が楽だ。行きますよ。とのシュウの声に、ああ。と、力強く頷いて、マサキは|風の魔装機神《サイバスター》のコントロールを再開した。
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