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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

wandering destiny(26)
今回は短いです。

説明文で全部終わらせると楽しくないので、偶にはきちんと行動描写をと思ったのですが、なーんも緊張感のない工場侵入シーンが出来上がりました!!!!!!ナニソレ??



<wandering destiny>

 チカを工場に潜入させてから五日後。マサキの戻りを待って、ホテルを出てタクシーに乗ったシュウは、倉庫街の手前でタクシーを降り、陰行の術を使って姿を消してから徒歩で工場を目指した。
 頭上にはサウジアラビアの星空。宝石箱を引っ繰り返したような煌めきの中に、ひときわ強く輝ける月がある。長く伸びる自分の影が足元にないことを確認しながら、シュウは肩にとまってお喋りに余念のないチカの指示に従って歩いて行った。
 人けのない倉庫街に、コツコツと響き渡る靴音。それが自分の靴から発されているものだということにシュウは気付いていた。
 姿を消したからといって質量が消える筈もない。浮遊魔法を使えば解決する問題ではあったが、不測の事態が起こる可能性は排除しきれない。工場に侵入するまでは魔力を温存しておきたかった。
「いーやいや、久しぶりですね。夜盗の真似事は」
「静かになさい、チカ」
 品性に欠陥があるシュウの使い魔。彼は久しぶりの荒事が楽しみで仕方がないらしい。もうそこまで工場が迫っているというのに、口を慎む気配がない。
「大丈夫ですよ、ご主人様。あたくし、ちゃーんとこれまで影の中で大人しくしていたじゃありませんか。だから今回もきちんとお喋りを止めてみせますって。っていうか、そこの建物が工場ですよ、ご主人様。ご主人様こそ準備は万全ですか? ここまで来て忘れ物があった、なんて笑い話になりませんからね」
「大丈夫ですよ、チカ。あなたに云われずとも」
「くーっ。クールですねえ、ご主人様は。これから産業スパイの真似事をする人とはとても思えない!」
 ぺらぺらと口の回る使い魔に、言葉で窘めることの無謀さを悟ったシュウはその嘴を掴んだ。同時に、ぐぅ。と、チカの喉の奥から発されるカエルがひしゃげたような声。「大人しくなさい」凄んだシュウに、命の危機を感じたのだろう。ばさばさとチカが羽をばたつかせる。
 シュウはチカを上着のポケットに押し込んだ。
 セキュリティ解除用の偽造カードキー、事務所に侵入する為の複製鍵、そして金庫の引き出しの鍵を開ける為の工具。必要な道具は全て揃っていたが、二十四時間操業を続ける工場には少ない人数だが人が残っている。チカのお喋りで不審を抱かせてしまっては元も子もない。少なくないリスクを犯してここまで来ているシュウは、一度で侵入を成功させなければならない状況であることを理解していた。
 チカが目指す裏帳簿の在り処を発見したのは三日目のことだった。事務所の金庫の中にある隠しスペース。目端の利く彼は、情報と一緒に事務所の鍵を持ってシュウの許に戻ってきた。
 それを元に作った複製。合鍵作成業者が直ぐに見付かったのは幸いだった。これもジッダがリヤドに次ぐ大都市だからだ。
 元の鍵は落としたと思わせる為に、チカに工場内の目立つ場所に戻してもらった。とはいえ、紛失騒動を何度も繰り返してしまっては、余計な用心を工場側にさせかねない。侵入難度を上げない為には、セキュリティ解除用カードキーはシュウが偽造するしかなかった。
 シュウの指示に従って、セキュリティを担当するメーカーと機械の品番をその日の内に覚えてきたチカ。こういった仕事をさせるのに使い魔は役に立つ。シュウはダークウェブで情報を検索した。呆気なくヒットした偽造カードの作り方に拍子抜けしもしたが、元々ダークウェブというのはそういったアンダーグラウンドな情報が詰め込まれた場所である。使うべき場所を適切に使えたという意味では、これ以上正しいダークウェブの使い道もあるまい。
 工場の門前に立つ。
 倉庫の谷間で明かりを放つ建物。年季の入った三階建ての工場は、夜間を迎えて人が減ったからだろう。操業しているのは三階だけなようだ。チカの話では、事務所は一階の最奥にあるらしい。三交代制で工場を動かし続けているからだろう。門は閉ざされているが、勝手口は開いている。工場の敷地内に足を踏み入れたシュウは、ここに辿り着くまで控えていた浮遊魔法を自身にかけ、真っ直ぐに工場に向かって行った。
 一階の入り口も人の出入りがあるからか。鍵やセキュリティはかかってない。
 ガードマンもこの時間帯は留守なようだ。スムーズに工場内部に侵入を果たしたシュウは、逸る心を抑えて、建物の中央にある階段からゆっくりと二階を目指した。外から様子を窺った限りでは、事務所には人が残っていないようであったし、チカの話でも事務所に人が詰めているのは日中だけという話であったが、無断で忍び込んでいる立場に違いはない。慎重を期しながら事務所を目指す。
「怖いくらいに順調ですね」
 恐らく、全員が工場に詰めている時間帯なのだろう。
 誰とも顔を合わせず二階に上がったシュウは、全く人けのない二階の通路を往った。突き当りに事務所に続く扉がある。頭の位置にガラスが嵌め込まれている扉から中の様子を窺えば、当然だが、事務所の中は真っ暗だ。
 チカ曰く、ここは夜間は工場長、若しくは副長が仕切るタイプの工場であるのだそうだ。それが事務所に誰もいない理由であるらしい。シュウは偽造したカードを機械に通した。テストなしのぶっつけ本番だったが、認証は上手く行ったようだ。機会のランプが赤から青に変わる。
 シュウは続けて、複製した事務所の鍵をドアノブに差し込んだ。カチャリと鍵が開く音が立つ。背後を振り返って人がいないことを確認したシュウは、静かに扉を開いて、事務所の中へと足を踏み入れていった。
 そこでようやく、自分の出番が回ってきたことを覚ったようだ。ポケットから顔を出したチカが、「金庫は奥ですよ、ご主人様」声を潜めて口にする。シュウは上着の内ポケットからペン型のライトを取り出した。窓に光が映り込まないように、足元だけを照らしながら奥に置かれている金庫を目指した。どっしりとした金属製の金庫は、シュウの腰ぐらいまでの大きさだ。
「ダイヤルは右64、左27、左9、右33です」
 身を屈めたシュウはチカの言葉に従って金庫のロックを解除した。番号がわかっていれば容易い作業だ。程なくして、かちり――とロックが外れた音がする。ノブを捻ればずしりとした重みが手に伝わってくる。
「下の引き出しが二重底になってます」
 ダイヤル式金庫の内部の構造は単純だ。開けるまでに時間がかかるからだろう。鍵が必要になっても、そこまで複雑な鍵ではない。
 シュウは工具を使って、引き出しの鍵を開けた。中には雑然と書類が積み重なっている。それを崩さないように取り出して、足元に纏めておく。気の所為で済む範囲の乱れで済ませておかなければ、後々面倒なことになるのは明らかだ。時間を急いだシュウは、準備でそれなりの痕跡を残してしまっていた。
 底板の端に工具を差し込んだシュウは、工具の端を底板に引っ掛けるようにして引き上げた。チカの云う通り、二重底になっている。中にあるのは帳簿と封筒に入った書類だ。ぱらりと中を覗いてみれば、直ぐには解読出来ない記号で品目が書かれている。
 シュウは内ポケットから取り出した高性能小型携帯端末《ハンドブック》を起動させた。後はこれらの書類を取り込むだけだ。
「チカ、あなたは見張りを」
 ポケットから顔を覗かせているチカに命じ、扉前に見張りに立ってもらう。シュウは一枚、また一枚と、裏帳簿と封筒内のデータを高性能小型携帯端末《ハンドブック》に取り込んでいった。





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