段々と近付いてくるクライマックスに、すっごい気持ちが盛り上がってるんですけど、体力がついてこないんですよ。仕事がGWのツケを支払っている状態なので、その所為もあるんですが、なんかめっちゃ疲れている。
正直、チカを出すのは悩んだんですが、出して正解でしたね。話がちゃんと動きました。
正直、チカを出すのは悩んだんですが、出して正解でしたね。話がちゃんと動きました。
<wandering destiny>
仮眠を取ること三時間。ベッドを抜け出したシュウは窓際のソファに陣取って、工場から盗み出した裏帳簿とそれに付随する書類データの分析を始めた。
先ずはアラビア語で書かれた品目を翻訳機にかけてみる。だが、矢張りと云うべきか。翻訳が通らない。単語らしきものが出ることがあっても、帳簿には不釣り合いな意味を為さないものばかりだ。恐らくは符丁で書かれているのだろう。シュウはホログラフィックディスプレイにアラビア語のアルファベット一覧を表示させた。これまで追ってきた情報からして、これがUAEを経由して密輸された武器であるのは間違いない。ならば武器に関連する単語のアルファベットを並べ替え、或いは置き換えをしているのではなかろうか?
単語そのものを置き換えているのであれば、連想が付く単語になる筈だ。例えば形状から、L字金具などに例えるのは良くある話だ。とはいえ、それならば翻訳が通る筈だ。意味のないアラビア語が並ぶ品目を眺めたシュウは、単語の置き換え説を却下した。
続けて、別のホログラフィックディスプレイに銃に関連するアラビア語を表示させる。ピストル、リボルバー、ライフル、ショットガン……アルファベット一覧と見比べながら、幾つかの単語を参照したシュウは、品目に使用されているアラビア語が並べ替えではないことを確信した。後はアルファベットの並べ替えだ。一文字ずらし、二文字ずらし、三文字ずらし……アルファベットを規則性に当て嵌めて置き換えてゆくと、五文字ずらしたところで品目に書かれているアラビア語の頭文字と銃の関連語の頭文字が合致した。ただ二文字目以降が合わない。つまり二文字目以降は、また違った法則性でアルファベットが置き換えられているということだ。
シュウは地道な置き換え作業を繰り返した。
どうやら二文字目以降は五文字プラス二文字ずつずらしているようだ。五分ほど品目と睨み合ったシュウは高性能小型携帯端末《ハンドブック》に解読を終えた品目の対応表を入力した。そして、裏帳簿データに適用させた。アラビア語を修正した裏帳簿データが、更に別のホログラフィックディスプレイに表示される。最も多い品目は火薬。爆発物に使用されたものであろう。次いで弾薬。量から推測するに、中東極右派《マウシム》はかなりの大所帯であるようだ。
銃関連で最も多かったのは、ピストルやリボルバーといった短銃《ハンドガン》。小型であるが故に密輸がし易いのだろう。全ての銃品目の半数以上を占めている。次いで、ライフルやショットガンといった長銃。これが全体の三割ほど。残りは機関銃《マシンガン》と短機関銃《サブマシンガン》だ。
裏帳簿から金を流れを読み取ったシュウは、続けて、裏帳簿と一緒に隠されていた書類データを翻訳機にかけた。こちらのデータの中身は手書きの請求書や出荷データだった。どうやら工場経営者は几帳面な性質であるようだ。確りと残されていた悪事の証拠に、シュウは請求先の住所を確認した。マサキが云っていたハムザのタイフの別荘らしき住所が記載されている。
「タイフに行くしかなさそうですね」
「今度はタイフに調査拠点を移されるおつもりで?」
ソファの背凭れの上で羽を休めていたチカが言葉を返してくる。それにいいえとシュウは首を振った。
「タイフは流石にハムザに近過ぎますからね。拠点を移してしまうと、足が付いた際にどういった報復を受けるかわかりません。観光客の振りをして一日で調査を済ませるぐらいが適切かと」
シュウは奥のベッドでまだ眠っているマサキを見遣った。
眩しさに耐え兼ねたのだろうか。膨れたブランケットの中で丸くなっているようだ。そのマサキの寝息が、ブランケットを飛び出して室内にまで響いている。
連日、メッカに日参していたのだ。しかも今日に至っては、シュウとチカが戻るまで起きていた。
相当に疲れていることだろう――シュウはマサキを置いてタイフに向かうべきか悩んだ。既に相当な時間を調査に割いている。出来れば早急にタイフの調査を終えたいところだが、置いて行かれたと知ったマサキが怒らない保証がない。
「なんならあたくしがマサキさんと一緒に確認してきましょうか?」チカの声が響き渡ったのはその瞬間だった。「その為の使い魔ですよ、ご主人様。ご主人様はまだやることがあるでしょう。例えばハムザが所有している中東の別荘の所在地の割り出しとか。あと、タイフの別荘の見取り図や間取り図もですよね。これをこの場で集めることが出来るのって、ご主人様しかいないじゃないですか」
「確かに」シュウは沈思黙考した。
考えなければならないことはまだまだあった。マサキの目標は両親の仇であるテロ組織の殲滅だ。そうである以上、ハムザを斃して終わりという訳にはいかない。中東極右派《マウシム》の拠点を全て潰さないことには、第三、第四の指導者が現れる。その鍵となるのはハムザの別荘だ。ハムザ|=《イコール》中東極右派《マウシム》の指導者であるのであれば、ハムザの別荘|=《イコール》中東極右派《マウシム》の拠点である可能性は高い。よしんばそうでなかったとしても、別荘がある地域に拠点があるのは確実だろう。
しかし、時間差で拠点を攻略するリスクはあった。
幹部や構成員たちが逃げればそれまでだ。無論、構成員リストが入手出来れば、地道に一人ずつ追うことも可能ではある。ただ、その場合、かかる手間や時間が果てしなくなる。そこまでマサキを地上には置いておけたものか? シュウはラングラン議会との折衷役を担っているセニアを思った。彼女の立場を鑑みれば、答えは明白だ。マサキの活躍のフィールドはラ・ギアスであったし、何より彼には魔装機神の操者として与えられている使命がある。シュウも含めて、いつまでも地上世界を彷徨っている訳にはいかなかった。
彼らに逃げ出す時間を与えない為には、幾つあるかわからない拠点の同時攻略が必須だ――宙を仰いだシュウは妥協点を探った。本拠地を叩き、ハムザに引導を渡すのはマサキでなければならない。ならば、他の拠点は連邦軍の助力を仰ぐのも手ではないか。彼らにしても目障りなテロリストたちを潰せる千載一遇のチャンスだ。のっかってこない理由がない。
どの道、武器の所持に厳しい制約がかかるサウジアラビアである。武器の調達は連邦軍を頼らなければならないだろう。
徐々に迫りくる決戦の時に向けて、シュウは自身のこれからの立ち回りを整理した。ここで失敗すれば次の雪辱戦がいつになるかはわからない。その場合はマサキを一度ラ・ギアスに連れて帰ることも考えなければ……。
「わかりました、チカ。マサキが起きたら、あなたはタイフにマサキとともに向かいなさい。別荘の見取り図と間取り図は私が取りますが、これだけの武器が別荘に流れている筈です。それが何処に保管されているか、あなたであれば突き止められるでしょう」
「勿論ですよ、ご主人様。あたくしはご主人様の使い魔ですからね」
胸を張る使い魔に苦笑しつつも、頼もしくも感ずる。シュウはホログラフィックディスプレイに表示されている裏帳簿と請求書データを消した。これらのデータは、後々、連邦軍から武器を調達する際の取引材料になる。それだけに大事に扱う必要があった。
データにロックをかけ、隔離する。インターネットに繋ぐことも多い高性能小型携帯端末《ハンドブック》は脅威に晒され易い。防御プログラムを起動したシュウは、一連のデータをプログラムで保護した。そして、早速、ハムザが所有しているとされるタイフの別荘の見取り図と間取り図を入手すべく、高性能小型携帯端末《ハンドブック》を衛星回線に繋いだ。
「タイフに行ってもいいのか」
その直後、マサキの声がした。
起きていたようだ。のそりとベッドから上半身を起こしたマサキがひとつ伸びをする。Tシャツにショートパンツでベッドから出てきたマサキが、シュウの前に立った。
「どこから聞いていましたか」
「お前がチカに命令したところからだ。つうても、何となくしか聞こえてないんだがな」
まだ眠気が取れないのだろう。口を大きく開いて欠伸をしたマサキに、「直ぐにとは云いませんよ」腕時計を見て時刻を確認したシュウは云った。
「善は急げ、だろ」
「タイフの別荘の見取り図や間取り図は直ぐ取れるとは思いますが、中東の別荘の所在地は別ですよ。割り出すのにどのくらいの時間がかかるかはわかりません。もしかすると一週間以上かかるかも知れない。タイフの別荘を確認するのは早い方がいいですが、こういった事情もあります。今日急いで行くほど切羽詰まっている訳ではないですよ」
シュウが起きてから、まだ一時間も経っていなかった。辛うじて午前中であるとはいえ、ジッダの街は湿気に満ちている。高原地帯のタイフは涼しいだろうが、サウジアラビアの陽射は鋭い。万全の体調で向かった方が安全だ。
危険度の問題もある。
調査の大半を請け負うのはチカだが、指導者ハムザに距離を近くするのには間違いない。万が一の事態が起きないとも限らない以上、シュウとしてはマサキには慎重な行動を期待したかった。
「調査っつてもチカを連れて行くようなもんだろ」
「UAEの件もあります。あなたは面が割れていると思った方がいいですよ、マサキ。メッカでの調査が上手くいったのは、偶然の産物だったでしょう」
それでもマサキは行くつもりであるようだ。大丈夫だ。などと口にしながらシュウの前を離れると着替えを始める。
「安心しろよ。俺は今回余計なことはしねぇよ。周辺地理を確認するぐらいだ。場合によっちゃ戦闘の舞台になる場所だからな」
「わかりました」シュウはチカを振り返った。「頼みましたよ、チカ」
不安は残るが、いずれは行かねばならない場所である。そうである以上、ハムザが警戒を強めない内にマサキを行かせよう。シュウは決断した。昨日の今日で、メッカでの情報収集活動がハムザの耳に入ることはない筈だ。そう予測を立てる。
「勿論ですよ、ご主人様。いやー、あたくし今回は八面六臂の活躍ですね。任せてください。ちゃーんと武器の保管場所を突き止めてきますって。で、ついでにそのハムザとやらの顔も拝んできます」
「物珍しさから捕まえられたりしないように」
失敗を微塵も疑っていない口振りできっぱりと云い切ったチカに、シュウは釘を刺した。
中型から大型の鳥類が幅を利かせているサウジアラビアでは、チカのように小型で色鮮やかな野鳥は珍しい。そうでなくとも、チカのコバルトブルーのボディカラーは目を惹く。好奇心から手を出されることも少なくない使い魔が、人前に姿を現す危険性を彼の主人であるシュウは熟知していた。
「大丈夫ですよ、ご主人様。その辺は上手い具合に、こうちょいちょいっとやって逃げますから」
ルールラーと甲高い鳴き声を上げたチカが、着替えを終えたマサキの肩にとまる。「足手まといにならないでくださいよう」軽口は余裕の現れだ。
表舞台に現われる回数の分、マサキの活躍は派手に喧伝されがちだが、チカもまた数多くの修羅場を潜り抜けてきたシュウの使い魔だ。語られない活躍は数知れず。それをマサキはわかっているのだろう。あはは。と、豪快に笑いながら、「お前もな」と返す。
「飯を食ったら行くぞ。お前は影に入っとけ、チカ」
「レストランでお食事ですか。いい御身分ですねえ」
主人の無意識の産物である使い魔は、本来食事を必要としない。それでも食事と聞くと食欲が湧くようだ。「あたくしなんて出てきてから一度も食べてないんですよ、マサキさん。あとで木の実ぐらいはくださいよう」そうぼやきながらマサキの影の中に姿を消してゆく。
「お前は飯、食わないのか」
目に入るなり情報収集活動に勤しんでいるシュウを気遣ったようだ。マサキがシュウを振り返る。
「調べるべきことが山積みですからね。一段落ついたら食べますよ」
「そうか。なら、また夜にな」
小さく纏められた荷物。中身は恐らく財布やパスポート類であろう。メッカに向かうのに使っていたショルダーポーチを肩からかけたマサキが、颯爽と部屋を後にしてゆく。
「行ってらっしゃい、マサキ」
「おう。お前の方が大変だとは思うが、頑張ってくれ」
ドアが閉ざされ、ロックがかかる音がする。
さて、ここからが本番だ――部屋に一人残されたシュウは、高性能小型携帯端末《ハンドブック》に手を伸ばした。先ずはハムザの別荘の見取り図と間取り図の入手からだ。キーを叩き、クラッキングツールを立ち上げ、アシスタントAIを呼び出す。
サウジアラビアで不動産登記を管轄するのは司法庁。国家機関にクラッキングを仕掛けるのだと思うとやにわに気分が高揚してくる。シュウは足跡を残さないように、複数の衛星回線を経由して、司法庁のデータベースに侵入を試みた。セキュリティの穴を探しては、何重にも仕掛けられているプロテクトを突破してゆく。浮かぶホログラフィックディスプレに踊るアタックの履歴が、シュウが司法庁のデータベースをクラックする為にかけた手間を表していた。
「――これで王手《チェックメイト》ですね。さあ、大人しくデータを渡してもらいましょうか」
クラッキングを開始してからものの十分。データベースに侵入を果たしたシュウは、膨大な量のデータの中から目当てのデータを引き出すべく、ハムザの名前を使って検索を開始した。
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