次章、完結!!!!!
まだあと20000字くらい書くのは間違いないというのは置いておいて……ここまで書いたからには「DANCE IN THE DARK」も書き直したいですね!そしてきちんとひとつの話に纏めたい!!!
まだあと20000字くらい書くのは間違いないというのは置いておいて……ここまで書いたからには「DANCE IN THE DARK」も書き直したいですね!そしてきちんとひとつの話に纏めたい!!!
<wandering destiny>
タイフの別荘の見取り図に間取り図、そして中東におけるハムザの別荘の所在地及び間取り図と、全ての情報がシュウの手元に集まったのはチカとマサキがタイフに向かった日から起算して四日目のことだった。
――これは大した成果だ、シュウ=シラカワ。
連邦軍の幹部にコンタクトを取ったシュウは、これまでの情報収集で得たデータを全て連邦軍に渡した。データの精査に多少の時間がかかったものの、正確性は認められたようだ。満足げな顔がホログラフィックディスプレイに浮かんでいる。
それもそうだ。個人で所有するには不適切な銃火器類の数。しかも火薬の存在もある。爆発物の製作ルートは判明していないが、拠点を洗えば設計図が出てくる可能性が高い。幹部たちはそう読んだのだろう。シュウの協力要請に応じる姿勢をみせた。
本拠地をマサキとシュウで攻略することには難色を示されたが、周辺を固める役を連邦軍に任せることで手打ちとなった。連邦軍としてはマサキとシュウにスタンドプレーに走られて周辺地域にまで被害が出るくらいならば、譲歩して被害をなくす方にリソースを割いた方が賢明だと判断したようだ。
指導者ハムザの身柄をどうするかについては連邦軍でも意見が分かれたようだ。生かして捕らえてセクトの全容を明らかにするか、それとも殺して中東極右派《マウシム》構成員の士気を削ぐか。意見の統一を図る為にかかった時間は六時間。生かすリスクが殺すリスクを上回ったと告げられたシュウは内心安堵した。
マサキとしては自身の手でハムザの息の根を止めたいに違いない。
ずっと心に棘となって刺さっていただろう両親の死。彼の罪悪感や虚無感、悲嘆を昇華するのには、中東極右派《マウシム》指導者ハムザの命が必要不可欠だ。生かしておけば、どこかに構成員たちが残っていた場合、再起の口実を与えてしまう。それだけではない。ハムザの身柄と引き換えにテロを起こされる可能性もある。そういった後顧の憂いを断つ為にも、指導者ハムザには死んでもらう必要があった。
「俺は剣があればいい」
本拠地制圧の為の武器を支援すると幹部に云われたマサキは即答した。同時にホログラフィックディスプレイの向こう側でどよめきが起こる。銃はおろか、防弾チョッキさえも希望しないマサキに幹部たちは少なからず動揺したようだ。「相手は銃火器類を溜め込んでいるテロリストたちだが」と、ひとりの幹部の口からマサキの意志を確認する言葉が飛び出してくる。
「銃は扱えねえしな。戦い慣れた武器が一番ってのは、あんたたちもわかっていると思うが」
「しかし、剣と云っても、軍で用意出来るのは軍刀ぐらいだぞ、マサキ=アンドー」
時代を経るにつれ、戦争はその形を大きく変えた。剣や刀といった金属製武器で戦う時代から銃火器類の時代へと。兵器が登場してからの発達は加速的だ。戦車に戦闘機。化学兵器にドローン。そして人型兵器《ロボット》の登場。
そういった意味では、|異世界の理《魔法》を用いて戦うシュウはともかく、剣を使用するマサキの戦い方は前時代的だ。
だが、マサキには桁違いの身体能力がある。俊敏性に優れたマサキの戦いぶりを知らぬ幹部はまだ不安が拭えないようではあったが、マサキの剣技の才能のほどを熟知しているシュウはわかっていた。相手が銃しか持っていないのであれば、マサキの剣の相手ではない。
シュウはひっそりと笑った。
約束された勝利の為に、マサキはベストな選択を譲る気はないのだ。
「なきゃサバイバルナイフでいいぜ。そのぐらいの切れ味があれば充分戦える」
「了解した。軍用ナイフを用意しよう」
「恩に着るぜ」
マサキの横顔に悲壮感はない。リラックスした様子でソファに腰を落ち着けている。
そこにはもう、ドバイの事件で激しい動揺を見せたマサキの姿はない。怒りに飲み込まれず、そして必要以上に気負うこともなく、ただあるがままに。ラ・ギアス全土に名を轟かせる英雄は、来るべき時に向けて意気は充分であるようだ。
「さて、シュウ=シラカワ。今度は君の番だ。用意して欲しい武器はあるかね」
続けて幹部に尋ねられたシュウは即答した。
「特には何も」
再び起こったどよめきに、シュウは何も返さなかった。武器よりも信用出来る己の能力がある。地上世界とは常識の異なる世界で生きているシュウは、科学に頼り切りな地上世界の文明を遠い過去のものとして感じているのだ。
「それで本当に拠点を潰せるのだろうな」
「勿論ですよ」シュウはクックと嗤った。「無謀な試みをするほど若くもありませんのでね」
作戦決行は翌日の深夜に決まった。
モチベーションの関係だろうか。それとも矢張り気が逸るのだろうか。マサキとしてはもう少し早めの作戦決行を望んでいるようだったが、「こちらにも準備があるのでね」と幹部に却下された。気掛かりなのは指導者ハムザの動向だが、四日前ではあるものの、別荘にハムザがいるのはチカが確認している。連邦軍が急ぎ調査したサウジアラビア内の全空港の出国記録にも、ハムザの名はないようだ。ひとりのサウジアラビア国民として生活することで、一般市民に擬態しているつもりなのだろう。シュウが洗ったハムザの渡航記録によれば、彼が中東にある別荘を巡るのは、年に数回。三か月にも満たない期間だけだ。
「外に食事に行きませんか、マサキ」
連邦軍幹部との通信を終えたシュウは、マサキを伴ってジッダの街に繰り出した。
蒸した空気が満ちる街は、夕暮れ時を迎えて、徐々に気温が下がってきていた。夕食を求める人の群れ。大通りを往きながら、ホテルのレストランで食事を済ませてばかりだったここ暫くの生活を振り返る。
タイフでの調査を終えたマサキは、チカという話し相手を得たことで暇が潰せるようになったようだ。以前はトレーニングやゲームの合間に寝ていることも多かったが、起きている時間が格段に増えた。調査が大詰めに差し掛かり、気分が高揚していたのかも知れない。饒舌にチカと会話を繰り広げていたマサキ。余計なことを口にしがちなチカに、むきになることも多かったマサキだったが、チカの存在には感謝しているらしく、「あいつがいて良かったよ」と、寝際にシュウに告げてきたこともあった。
「ジッダに日本食の店はあるのか」
「豚肉や酒は扱えませんので、日本風と云った方が正しいですが、あるにはありますよ。寿司や和牛が人気なようですね」
「充分だろ、それで。ホテルのアメリカンな食事には飽きてたんだ。明日のこともあるしな。美味い飯を食おうぜ」
シュウが調べたところによれば、ジッダでは日本食のブームが起きているらしく、市内にもそれなりの数のレストランが存在してるようだ。それを聞いたマサキが、やにわに色めき立つ。余程、ホテルのレストランの料理に飽きていたようだ。早く連れて行けと喧しい。
明日は朝から移動の予定だ。
作戦の決行は深夜だが、合流やブリーフィングなどを含めるとほぼ丸一日の拘束時間となる。作戦終了後も事後処理に追われることだろう。それが終われば、ついにラ・ギアスへの帰還だ。つまり、シュウにとって、マサキとゆったりとした時間を過ごせるのはこれが最後。それがシュウには感慨深くもあり、物寂しくもあった。
想いを告げても変化のないマサキとの関係に心を乱されもしたが、今のシュウの胸の内は平穏だ。マサキやチカと離れてひとりきりで情報収集活動に没頭出来たのが幸いしたのだろう。現状を冷静に見詰め返したシュウは、これから先の長い孤独と努力の日々を前向きに捉えられるようになっていた。
どうせ諦めきれない想いであるのならば、やり切るまで。
知ってしまったマサキの秘された一面に、欲しくて欲しくて堪らなくなったからこそ身体を奪った。マサキがシュウに対してガードを固めていったのは、シュウが自らの弱点を知っているという思いからだっただろう。
あの頃のシュウはマサキに対して傲慢だった。そして、情けないぐらいに臆病だった。自らの気持ちを否定されることを恐れたからこそ、なし崩しの関係に持ちこもうとした。それに対して、マサキは隙を見せないことで対抗した。先の見えない膠着状態の中で、シュウがマサキと関係を持ったのは二度。それぞれが記憶を失うというアクシデントに見舞われた時だけだった。
それがシュウに淡い期待をさせてしまった。
自らの想いを告げ、知ってもらう。簡単なことをシュウが避けていたのは、決定的な破局を恐れていたからだ。もっと深い繋がりを得てからでいいとシュウが告白を後回しにしてしまったのは、失敗を避けたい気持ちが強かったからに他ならない。それが叶わないことを知ったシュウは、だから正攻法に回った。回ったところで犯してしまった失態は取り返しがつかないものであったかも知れない。それでも、そうすることでしか、シュウは自らの胸に湧き出る感情を鎮められなかった。
――私は飽きない。
マサキ=アンドーという年下の青年に、シュウは人生を懸ける覚悟をした。ラングランの戦神、そしてラ・ギアスの英雄。彼の輝ける未来をこの目で見たい。そして願わくばその隣に立ちたい……胸の中の輝ける光であるマサキを、誰よりも欲しているのは自分であるという自信がシュウにはあったからこそ。
「あたくしも何か食べたいです、ご主人様」
上着のポケットからそろりと顔を覗かせたチカが、こっそりと声を上げる。
店はもう目の前だ。サウジアラビアにあっても――否、サウジアラビアにあるからこそ和を前面に打ち出しているのだろう。白壁に、瓦を模した庇。そして、木枠が嵌め込まれた丸窓。店内から洩れ出る光が、通りに淡い光の輪を作っている。そこに少しばかし伸びる列。小料理屋的な外観の日本料理店が、のれんを掲げて夕食時を迎えた人々の来店を待っている。
「少しだけですよ、チカ」
マサキとともに列の最後尾に並んだシュウは、物欲しそうな顔をしているチカに云った。
工場では裏帳簿の在り処を、ハムザの別荘では武器の保管場所を突き止めたチカ。彼がいなければ調査は倍の時間がかかっていたに違いない。彼がお宝の山だと声を上げながら、ハムザの別荘から帰還してきたのが、ついこの間のことのように思い出される。
「大活躍のご褒美ですからねえ。贅沢は云いませんけど、いいモノ食べさせてくださいよ」
「それを贅沢と云うのではありませんか」
とはいえ、彼の活躍が評価されるべき質のものであったのは確かだ。シュウはスマートフォンでメニューを確認した。刺身にチキンソテー、和牛ステーキ。あくまで日本風だからだろう。どの料理も色鮮やかでボリュームがある。
刺身や和牛ステーキの切れ端でもやれば満足するだろう。そう思いながら、シュウはスマートフォンを仕舞った。と、シュウの手元を覗き込んでいたマサキが呆れた風な口を利く。
「随分と舌が肥えた使い魔だな。こんなん食う気なのかよ。まあ、シロとクロもマグロだカツオだ煩いけどよ……」
「人間の食べ物に興味が尽きないのだそうですよ。使い魔ですから、人間と同じものを食べても問題ありませんしね」
「実際の猫や鳥なんかはそうはいかねえけどな。ハイカロリー過ぎて内臓をやられちまう」
「ちゃーんと普段は木の実を食べてますって、マサキさん。あたくし、デブ鳥にはなりたくありませんから」
「美容意識の高い使い魔だな」マサキの口元が緩んだ。「そこはシロとクロとは大違いだ」
ラングランへの帰郷が現実のものとして迫っているからか。どこか遠い目で懐かし気に言葉を吐いたマサキが、続けて、ふと気付いた様子で尋ねてくる。
「ところで、どうやってラングランに戻るんだ。エーテル通信機でも持ってきてるってか」
「いいえ。ですが、チカ一匹ぐらいでしたら、私の力でラ・ギアスに戻せますからね」
「それでセニアに渡りを付けてもらうってか」
セニアに呼び出されて、そのまま神殿に向かわされることとなったシュウが用意出来た荷物は最低限だ。高性能小型携帯端末《ハンドブック》に地上用のスマートフォンのみ。衣類やトラベルグッズは、地上に出てから購入している。そう考えると、セニアも随分無計画にシュウを呼び付けてきたものだが、マサキの理由なき行方不明という事態にそれだけ彼女も動揺していたのだと思えば納得がゆく。
無理もない。
マサキ=アンドーはそうでなくとも人間関係に固執しない。仲間に囲まれて賑やかに生きているように見えても、彼の本質は風来坊だ。流されるがままに生きている彼にとって、仲間がいる場所は自分が求められる場に過ぎないのかも知れない。それが証拠に、彼は人付き合いに無頓着だ。自ら率先して他人に関わりを持とうとはしない。
繋ぎ留めるものがなくなれば、それまでの人間関係をリセットして、呆気なく次のステージに向かっていくだろう。マサキを身近にしていないシュウでさえそう感じるのだ。間近でマサキを見守り続けたセニアは、尚のことそう感じているに違いなかった。
「それならちったあ時間はありそうだな」
どうやらラ・ギアスに戻るまでの間にしておきたいことがあるようだ。ラ・ギアスへの帰還にかかる時間を気にしている風な台詞を吐いたマサキに、予想が付くような気がしたが、訊かずに流していい話とも思えない。改めて尋ねる。
「何かしておきたいことでも」
「両親の墓参りさ」瞬間、ふっとマサキの口元が緩む。「いい報せを聞かせる為にも明日は頑張らねえとな」
瞬間、ジッダの蒸した空気が和らいだ気がした。
色鮮やかなボトルグリーンの瞳が、柔らかく夜空を見上げている。「見てみろよ」マサキに云われたシュウは顔を上げた。濃紺の夜空に散らばる星。その中央で煌々と輝くサウジアラビアの月は、ラ・ギアスの中天に座す太陽と月を思い出させるぐらいに眩い。
「日本じゃこんな月は見れねえよな。空がスモッグでけぶっちまってさ」
月の光と街灯りを受けた深い緑色の髪。夜風に揺れるマサキの髪の毛が滑らかな光を放っている。
「でも、何でだろうな。早く日本に戻りたくて仕方がねえや。そしてラ・ギアスに帰りてぇ」
シュウはその言葉にマサキの本心を見た。
明日の戦場よりも明後日の日本、そしてそれより先にあるラ・ギアスへの帰郷。決戦を控えたマサキの心は逸っているようだ。未来を語り始めた彼に、シュウは長い旅の終わりを感じ取った。そしてこう思った。戦いを終えた戦士が羽を休める場所は、待っている者がいる故郷だ。そういった意味で、マサキにとって戻るべき場所は、矢張り仲間が待つラ・ギアスであるのだ――……。
その当たり前の現実が、シュウには妬ましく感じられた。
喧嘩をすることもあるだろう。道が分かれることもあるだろう。それもマサキとアンティラス隊のメンバーは、仲間という絆で結ばれている。対してシュウはどうだ。喧嘩になったことは数知れず。道が分かれているのは当たり前。だのにマサキとの関係は知人の域を出ない。
それどころか、これだけ距離を近くして彼に尽くしても、シュウの想いは叶わなかった。
無論、シュウは執念深い性格だ。簡単にマサキを諦めたりはしない。ただ、成り行き任せにするがあまり、時間を無駄に費やしてしまったかつての自分に苛立ちを覚える。かつてシュウを追っていたマサキがそうであったように、もっと真っ直ぐに、そしてひたむきに彼を追い求めていれば、シュウは回り道をしないで済んだのではないか。、
シュウにとって巨大なブラックボックスであるマサキ。マサキを探す。セニアからの依頼にシュウの胸は高揚した。仲間もなければ使い魔もいないたったひとりの安藤正樹。その近くに居られる間に、解き明かしたい謎が幾つもあった。かつて地上でどう生きていたのか。記憶を失った際の彼のあの頼りなげな姿は、どこまでが本質的であったのか……けれども彼と過ごした日々は、微かな答えしかシュウに与えてはくれなかった。
じきにこの旅は終わる。
その後はいつも通りだ。シュウはシュウの日常に、マサキはマサキの日常に戻るだけだ。
掴んだと思った先から零れ出るマサキ=アンドーという男の本質。そこにシュウが寄り添える機会は、もうないのかも知れない。いや、なければ作り出すしかないのだ。マサキとともにひとつの巨悪に挑んでも解き明かせなかった謎に、自身が道半ばに或ることを改めて認めざるを得なくなったシュウは、マサキを求める旅に終わりはない――と、口元を歪めるしかなかった。
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