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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

wandering destiny(30)
ついに記念すべき30回となりました。そうしてようやく突入編です。長かった!

私、思ったんですけど、この話マサキの視点も書きたいですね。
書きたいったら書きたい。なので外伝的な話をその内書くかも知れません。



<wandering destiny>

 シュウがアラブに渡ってから二十一日目。タイフ制圧戦当日は慌ただしく過ぎていった。
 朝一でマサキを伴ってジッダを発ったシュウは、首都リヤドを経由したのち、陸路でリヤドの北にあるキング・ハリド軍事都市を目指した。ジッダからだと六時間半ほどかかる道中、マサキは始終リラックスした様子でいたが、都市部を離れれば砂漠が広がる土地だ。代わり映えのしないサウジアラビアの景色に対して、愚痴めいた言葉が多かった。
「凄ぇな。サウジアラビアにこんな巨大な軍事施設があるとは」
「娯楽施設も充実しているようですし、軍事都市の名は伊達ではないようですね。しかも要塞化されている」
 キング・ハリド軍事都市に入ったのは午後になってからだった。
 最大六万五千人が居住可能なサウジアラビア最大の軍事施設は、駐留する兵士の為に、様々な施設が併設されている。ショッピングモールに娯楽施設、病院。などがそうだ。無論、通常の軍事施設としても優秀で、各種訓練施設に修理補給施設、防空システムなどが完備されていた。
 基地内で連邦軍の作戦実行部隊と合流したシュウは、マサキと街で遅めの昼食を取ったのちに、今回の作戦を担当する実行部隊が全て参加するリモートブリーフィングに参加した。作戦の目的は、中東極右派《マウシム》の指導者ハムザの暗殺。そして、構成員リスト及び同時多発テロで使用された爆発物の設計図の入手。連邦軍としては、指導者ハムザを堕とすことでセクトの力を削ぎ、その上で構成員と思しき連中の身柄は極力確保し、同時多発テロ事件の全容解明に努める方針らしい。
 とはいえ、中東極右派《マウシム》の殲滅を目標とするシュウとマサキには関係ない話だ。「要は出てきた奴らを全員ぶっ潰せばいいんだろ」ブリーフィングでマサキの口を衝いて出た台詞は、端的に彼が今回の作戦でどう動きたいかを表している。
 ――構成員リストと設計図は確保してくれよ、マサキ=アンドー。
 ――わかってるさ。だが、残りは全員ぶっ潰すぞ。生かしておいても碌なことはしやしねぇ。
 これにはマサキを知らない実行部隊の面々は面食らったようだが、連邦軍幹部側としては、今回の作戦立案に大きく寄与する働きをしたシュウとマサキに一定の配慮をする方向でいるようだ。苦笑しつつも、「君はその方がいいのだろう」と、マサキの暴論を認める台詞を吐いた。
「いい加減、身体が痛くなってきたぜ」
「狭い座席に閉じ込められる状態が続いていますからね」
「タイフに着いたらストレッチだな。このままじゃまともに身体が動かなくなる」
 ブリーフィングを終えたのちはフライトだ。キング・ハリド軍事都市から三時間かけて、民間機に偽装した軍の輸送機でタイフに入る。作戦実行部隊の装備が積み込まれている輸送機内はせせこましく、朝から長距離移動を繰り返しているマサキはうんざりした様子だ。
「お前さあ、ラ・ギアスに戻ったら先ず何をするよ」
 それでも、未来のことを話す余裕はあるようだ。気軽に尋ねてくるマサキに、シュウはどう答えるか悩んだが、ありきたりな返事をすることにした。
「部屋の掃除に決まっているでしょう。長く家を空けてしまいましたからね」
「つまんねえこと云いやがるな」あはは。と、声を上げてマサキが笑う。「俺はプレシアが作る料理を食うぜ。レストラン食はもう飽き飽きだ」
 セニアに呼び出されたときは、直ぐに戻れるだろうと思っていたのだ。実験機関を動かしっ放しにしてきてしまった。シュウが続けてそう口にすれば、暇さえあれば研究三昧なシュウに思うところがあるようだ。お前さあ、と、マサキが呆れた声を上げた。
「もうちょっと、こう、なんかさ……他人との話題になる趣味を持てよ」
「あなたと私では知り合いが存在する階層が異なります。私の知り合いはこういった話題に飛び付く人間ばかりですよ、マサキ」
 シュウの言葉で、人間関係が大きく異なることを覚ったらしい。「お前もお前なら、知り合いも知り合いだ」そう云って、首を左右に振ったマサキが、今度は同乗している兵士たちに話を振り始めた。作戦をともに遂行する仲間として相応しいか判断したいのだろう。所属にこれまでの経歴、叙勲歴などを一通り訊くと、「万が一にも奴らを逃がすんじゃねえぞ」と、やけに凄んだ表情で念を押す。
 けれどもそれは彼なりの冗談であったようだ。直後には余裕綽々と笑ってみせると、「まあ、蟻の子一匹逃がす気ねえがな。全員、俺が仕留めてやる」きっぱりと云い切ってみせた。
 そんなマサキの様子につられたのだろう。兵士たちの口に白い歯が零れる。
「軍用ナイフで殴り込みとは聞いたことがありませんがね」
 シュウもまた笑いながら云った。
 マサキでなければ、無謀に等しい装備。軍用ナイフを握り締めて戦いの場に赴くなど、特殊任務を請け負った戦士《ソルジャー》でもなければ有り得なかった。若しくは敗残兵の特攻部隊ぐらいだ。
「とは云うがな、やっぱり業物が一番安心するからなあ。まあ、こいつが一級品かと訊かれると、そんなことはないんだろうがよ」
 マサキが肩から掛けているホルスターには、連邦軍かた支給された軍用ナイフが合計で六本差し込まれている。それがマサキの武器であり、命綱であった。それが心ともない量であるのか、過不足ない量であるのか、携行型の武器を扱わないシュウにはわからない。だが、人間の脂は切れ味を鈍くするからな。と、武器の受け取りの際にそう云ったマサキの横顔は、人命を奪うという行為に対してかなりの覚悟を決めた様子に窺えた。
「相変わらず、不味い飯を食ってやがる」
 タイフの中心地にあるタイフ・リージョナル空港に到着したのは、日もとっぷりと暮れ、宵闇が天蓋を覆い尽くしてからだった。中東極右派《マウシム》側に動きを悟られぬように、輸送機内で取る夕食。火が扱えない為、食べるのは勿論レーションだ。
 レーションの栄養価は高い。メニューも豊富だ。主食に主菜、副菜にデザート。食後のドリンクも付いてくる。だが、いかんせん独特の風味がする。レーションはあくまで軍隊での非常食であるのだ。それでも、腹が減っては戦は出来ぬ――なのだろう。文句を云いながらもしっかりとレーションを腹に収めてゆくマサキに、シュウはこの作戦に懸ける彼の意地を見たような気持ちになった。
 彼はいつだって勝つつもりで戦いに挑んでいる。
 長く戦場にいるとしがらみが増える。退くに退けない戦いに挑んで散っていった兵士を、シュウは元よりマサキも数多く目にしてきた。それでもマサキは勝つことを諦めなかった。どれだけの窮地に追い込まれようとも、不利な戦いを強いられようとも、絶対に勝ってみせるという意地。彼の気概と意地がみせる底力を、シュウは身をもって体験していた。
 白銀の大鳳、サイバスター。極彩色の人型兵器《ロボット》の群れの奥から飛び出してきたマサキが、グランゾンを討ち取った瞬間のことを、シュウは今でも昨日のことのように思い出せる。あれこそがマサキ=アンドーという不朽の操者の真骨頂。土壇場で誰よりも力強くある……だからシュウは、一見、貧弱な装備に映る軍用ナイフでも、マサキであれば大丈夫だと安心していられるのだ。
「そう考えるとこれまでの食事に有難みを感じますね」
「金にあかせていいモン食ってたからな。こいつに比べりゃコンビニ食もちゃんとしてるだろ」
「食は目からというのは真理だと思いますよ。とはいえ、味は以前と比べると美味しくなったような気がしますが」
 もうどれだけの過去となったのか、咄嗟には思い出せないロンド=ベルでの日々。食材が尽きると出てきたのがレーションだった。
 長引き、相次ぐ戦争で、品質を落とさざるを得なかったのだろう。あの頃シュウが、そしてマサキが食べていたレーションは、決して部隊員からの評判は良いものではなかった。もそもそとした食感は勿論のこと、化学薬品が混じったような味。それでも戦い続ける為には食わざるを得なかった。
「本当かよ。お前、旨いモンの食い過ぎで味覚がバグったんじゃねえか」
「舌は肥えているつもりですよ。育ちはこれでもいいのでね」
 とはいえ、パンにビーフシチュー、ピーナッツバター付きのクラッカー、大判のクッキー、そしてコーヒーとハイカロリーに偏った食事内容だ。一般的な食事量で充分に満足を得られるシュウにとって、これだけの量を食べきるのは至難の技。特に箸が進まなくなったのは、ピーナッツバター付きのクラッカーとクッキーだった。普段あまり口にしない甘い物だけに、食べ慣れなさが先に立つ。
「なんなら俺が食うぞ」
 流石は食事の度に二人前近くの量を平らげるだけはある。マサキとしては物足りなさを感じていたようで、シュウがどうぞとパッケージを渡すと、このくらい訳もないと口の中に放り込んでゆく。
「良く食べますね。これから大暴れをするというのに」
「だからだろ。やっとここまで来たんだ。エネルギー不足で身体が動かなくなっちまったら、笑い話にもならねえぞ」
 シュウとマサキが輸送機から降りたのは、作戦開始の二時間前だった。
 食後にストレッチに励んだこともあり、関節は滑らかだ。用意されていたバンに武器を積み込み、兵士たちとともに指導者ハムザの別荘への移動を開始する。
 軍用車ではなく、一般車を使用するのは、中東極右派《マウシム》に作戦を気取られない為にだ。白にグレー、様々な色合いのバンが、所定の位置に兵士たちを配置させるべく、道を分かれて南の農場地帯に向かってゆく。
 そろそろ眠りに就こうとし始めている高原の街。人けの失せた通りをバンで往けば、涼やかな風が車窓から吹き込んでくる。サウジアラビアに来てから、初めて感じる質の風。肌を爽やかに撫でてゆく空気が心地いい。
 やがて、農場地帯に入る。
 潮騒のように迫ってくる虫の鳴く声が、農村部の静かな夜を物語る。シュウは改めて指導者ハムザの別荘の間取り図に目を遣った。敷地内に三棟の建物と、ひとつの貯蔵庫がある。それぞれの建物は、部屋数が多いものの、一般的な間取りではあるようだ。チカによれば、ハムザがどの棟で寝るかはその日の気分によるらしいが、間取りが平凡である以上、虱潰しに当たれば指導者ハムザを見付けるのは容易そうだ。
 武器や火薬の保管庫は貯蔵庫。内装を改装して、かなり合理的な武器庫にしているらしい。
 では、その武器の使い手たる構成員たちは――と云うと、マサキは農場で働いている青年たちが怪しいと見ているようだ。何でも、少なくない人数の青年たちがハムザの別荘に出入りをしているのだとか。それ以外にも別荘に常駐している職業不肖な男たちもいるらしい。恐らくは指導者ハムザのボディーガード役を務めているのだろう。かなりデキそうな連中でしたよ。とはチカの弁だ。
 志願兵制のサウジアラビアでは、国民全員が軍役経験がある訳ではない。そうである以上、農場の青年たちの戦闘力はさしたるものではないだろう。問題は指導者ハムザのボディガードたちだ。別荘と指導者ハムザの守りを任されている以上、かなりの手練れであるとみるべきだろう。
 別荘を囲うのは高さ二メートルを超える石壁。西と東に門が設えられている。人の出入りが多いのは東門。西門は御用聞きぐらいしか利用していないようだ。シュウが攻略を開始するのはこの西門から。マサキは東門からの攻略となるが、敷地の広さからして、攻略を急ぎ過ぎると討ち洩らしが出る可能性がある。暫くは門前で粘る必要があった。
「日本に戻ったらさ」
 作戦開始十五分前。そろそろバンを降りるかという段階になって、マサキが云った。
「お前も一緒に来いよ」
「何処に」
「両親の墓参りさ。親父とお袋に恩人を紹介しないといけないからな」
 そう口にする程度には、シュウの働きに感謝をしてくれているのだろうか。シュウに滅多なことでは感謝を伝えないあのマサキが、最もプライベートな部分である両親の墓にシュウを連れて行こうとしている……信じられない展開に、感慨が波となってシュウの胸に押し寄せる。それでもシュウは素直には頷けなかった。
 マサキにとって、その場は、何にも代え難い神聖な場であることだろう。夕方近くまで外で遊び回っていたという子ども時代のマサキが帰る唯一の場所だった家庭。それは幸福だった地上時代の象徴《シンボル》だ。そこに自分が軽々しく足を踏み入れていいものか――。
 返事を返せずにいるシュウに、マサキがどう思ったかはわからない。ただ、腕時計を確認すると、「そろそろ行くか」と、何ら気負いの感じられない声を発して、静かにバンを降りて行く。その後にシュウは続いた。指導者ハムザの別荘までは五十メートルほど。月が農道をうっすらと照らし出す濃い闇の中、マサキと肩を並べながら、シルエットを際立たせている建物目指して歩いてゆく。
「ヘマ、するなよ」
「あなたこそ」
「俺を誰だと思ってやがる」
「その言葉、そっくりそのままあなたにお返ししますよ」
 別荘手前でマサキと別れたシュウは外壁沿いに西門に回った。ここからはマサキを信ずるしかない。シュウはポケットからチカを出してやった。「ついに、ですね。ご主人様」暗がりに身を潜めながら、小声で囁くチカに頷く。
 チカには指導者ハムザの寝所を探してもらう予定だ。
 とはいえ、屋内戦は乱戦になり易い。銃弾が舞い飛ぶ中で、チカがどこまで動き回れるかはわからない。危険が迫ったら直ぐにその場を離れるように、そして無理はしないこととチカに云い含めたシュウは、ゆっくりとチカを空に放った。頭上で数回飛び回ったチカが、別荘の敷地内へと姿を消してゆく。
 シュウは静かに腕時計を眺めながら、その時が来るのを待った。
 マサキが主でシュウが従となる以上、シュウがすべきなのは陽動だ。その為にも、一発目の魔法は派手に打たなければならない。作戦開始まで残り一分を切ったところで、シュウは西門から少し離れた位置に陣取った。魔法の高速詠唱《スピードスペル》は効果が小さい。一撃で門を破壊するには、時間をかけた呪文の詠唱が必要だった。

 ――疾風の刃よ、業火の剣よ。我が眠りを妨げし者、風と炎の盟約において、今ここに力を放て!

 シュウの足元から火花を散らしながら炎が舞い上がる。続けて、背後から吹き付ける突風が、炎を巨大な火球へと変えた。シュウの額に滲む汗。手足が千切れそうなまでに焼け付く空気に、息をするのもままならない。シュウは両手を門に向けて突き出した。空気が暴れ回る。風に押し出された火球が門を押し潰した。かと思うと、派手に火の粉を散らしながら爆散する。
 ジャケットに付いた煤を軽く手で払って、シュウは門の残骸の上に立った。
 手前の建物から早くも銃を構えた男たちが飛び出してくる。その数、五人ほど。一斉に銃口をシュウに向けてきた彼らに、シュウは口元を大きく歪めた。直後に響き渡る発砲音。コートの裾を掠めた銃弾に、シュウはクックと嗤い声を上げずにいられなかった。
「|Превратиться в стену《壁となれ》.」
 続けざまに撃ち出される銃弾を魔法で払って、シュウは軽く呼気を吐いた。ここからは如何に素早く魔法を繰り出せるかがカギとなる。迷っている暇はなかった。それでも云いたいことがひとつだけあった。シュウは五人の男たちの前に躍り出ながら、声高らかに宣言した。
「さあ、行きますよ! 私に手間をかけさせた代償を支払ってもらいます!」



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