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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

家族の肖像(一)
早めにリベンジします!「一日だけゼオルートに甘えるマサキ」です!
今回は頑張るぞー!!!
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<家族の肖像>

 リビングのソファに座って新聞を読んでいるゼオルートを、プレシアとふたり、肩を寄せ合うようにしてダイニングの柱の影から見詰めていた。
 自宅では寛いで過ごすのが|信条《ポリシー》らしい。衣装の襟元を緩めて、丸眼鏡の奥の瞳を瞬かせながら、隅から隅まで丁寧に新聞を読み進めているゼオルートは、マサキとプレシアが自分を見ていることには気付いていないようだ。
 ほら、おにいちゃん。プレシアに背中を叩かれたマサキは、本当にやるのかよ。小柄な彼女を見下ろして尋ねた。
 小さくともしっかり者の義妹は、時々マサキを顎で扱き使うような真似をしてみせた。今朝もそうだ。ベッドの中で微睡んでいたマサキを叩き起こした彼女は、今日が何の日か早口で告げると、有無を云わせず着替えを済まさせ、ダイニングまでマサキを引っ張ってきた。
「当たり前でしょ。おにいちゃんがやらなかったら、あたし何も準備出来ないんだから」
 小声で囁くように言葉を吐くプレシアに、マサキはうーん。と唸って宙を睨んだ。
「でもなあ、そんな都合のいい口実をどうやって考えろって」
「何でもいいから早くお父さんを家から連れ出して。大丈夫。おにいちゃんの云うことなら、お父さんちゃんと聞くから」
 痺れを切らしたプレシアが、どん、とマサキの背中を力任せに押してくる。小柄な少女とは云えども、そこは剣聖の娘。よろけて柱の影からはみ出る形になったマサキは、仕方がねえ。腹を括ってゼオルートの許へと歩んで行った。
「おや、マサキ。起きたのですか?」
 流石にゼオルートも目の前に立ったマサキには気付いたようだ。新聞から顔を上げるとマサキに笑いかけてくる。
「あー、うん。やっと起きた」マサキは壁時計を見上げた。
 既に正午間近となっている時刻に、気まずさを誤魔化すように頭を掻けば、気にすることはありませんよ。畳んだ新聞をソファに置いたゼオルートが鷹揚にも云ってのける。彼はマサキがどれだけだらしなく日々を過ごそうとも、いざという時に動ければ問題ないと考えているようだ。マサキの生活態度に文句を付けてくることは先ずない。
「良く寝て良く食べる子は良く育つとも云いますからね」
「育つばかりじゃ駄目だろうよ。中身が伴わないと」
「なら、今から外に出て一戦交えますか」
 早くもソファから腰を浮かせたゼオルートに、そういうんじゃねえよ。マサキは慌ててその肩を押した。
「そうじゃなくて、えーと……」
 プレシアから命じられているのは、夕方までこの館からゼオルートを引き離すことだ。その内容や手段の如何は問わずである以上、剣の稽古でも問題はなかった。ただ、大らかな態度を崩すことなく厳しい訓練をマサキに課してみせるゼオルートのすることである。その後のスケジュールを考えると、体力を消耗してへばってしまうのはマサキとしては避けたいところだった。
「買い物に行きたいんだ」
「買い物?」
「服がそろそろ駄目になってきててさ、下着とか、シャツとか、新しいのが欲しいんだよ。でも、俺ひとりじゃ迷っちまいそうだから、おっさんに付き合って欲しいんだけど……」
 自身の提案を無下にされたとはいえ、マサキの願いを叶えるのは吝かではないようだ。ええ、と微笑んだゼオルートは、独立心が強く依存心に薄い養子が自分を頼ってきたことが嬉しかったのだろう。
「そういうことでしたら、一緒に街に出ましょう」
 弾む声。言葉の端から喜びが滲み出ている。
 マサキとしては、ゼオルートの父性に付け込んでいるような気がして心苦しくもあったが、これも可愛い義妹たるプレシアの願いを叶える為。後ろめたさを押し殺して、今度こそきちんとソファから腰を上げたゼオルートに、じゃあ、行こうぜ。マサキはぎこちなく笑いかけた。
「無理はしなくともいいのですよ」
 まるでマサキの心を見透かしているような言葉。ゼオルートはマサキの頭にぽんと手を置くと、一足先に玄関に向かって歩いて行った。


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