完結です!><
わかったんですけど、私、シュウマサばかり書いているじゃないですか。だからシュウマサの世界観は固まっているんですが、その分、他のキャラクターと向き合うってことを捨ててきているので、その分、彼らというキャラクターの理解度が低いんですよね。
ゼオルートとマサキはもう少し、きちんと書かないと、マサキに甘えさせるのは難しいなと感じました。ゼオルート大事なキーキャラクターなのに……OTL
そんな感じで、もう少し解像度を上げてリベンジをしたいと思っております。
では、本文へどうぞ!
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<For the longest time.>
残った巨大魚は様々な料理に化けた。炒め物や煮物、酢の物に使われたり、揚げ物となったり、混ぜご飯の具材として利用されたり……どれもひとつの魚から作られたとは思えない料理ばかりで、気付けばマサキは自分の分と出された小皿を全て平らげていた。
ゼオルートが釣った小魚は、彼たっての願いでアヒージョになった。酒の肴にしたかったようだ。他の料理と併せてボトルワインを一本空けた彼は、傍目にもわかるほど上機嫌でプレシアの料理の腕を褒めそやした。
そんな言葉には騙されないからね、お父さん。そう云いながらも満更な様子ではないプレシアは、その食事の席で今日の出来事を愉し気にゼオルートとマサキに語って聞かせてきた。彼女は友人たちと近場の街に来ていた移動遊園地で遊んできたらしい。今度は三人で行こうよ、ねえおにいちゃん。云われたマサキは、自分には不釣り合いな場所だと思いつつも、義妹の期待に満ちた眼差しに頷かずにいられなかった。
「ふあぁあ。あたし、先に寝るからね。おとうさんにおにいちゃん、あんまり遅くまで起きてちゃ駄目だよ」
まだまだ上機嫌で酒を空けているゼオルートに釘を刺して、プレシアが一足先に自分の部屋へと上がってゆく。
とうに料理は底を尽いていた。それでもゼオルートは酒を飲むのを止めようとしない。
「ほら、マサキ。もう一杯如何です」
「流石にこれ以上は悪酔いするぞ」
「このボトルを空けてしまいたいのですよ。中途半端に残してしまうと、味が落ちますからね」
「じゃあ、この一杯だけな」マサキはコップに注がれたワインに口を付けた。
甘味の強いワインはジュースのように飲めてしまいそうなまでに、アルコール分を感じさせない。その飲み易さに騙されると酷い目に合うのだ。これまで何度もゼオルートに酔い潰されているマサキは、ゆっくりとワインを飲み進めていった。
マサキとしては、プレシアが寝室に上がった時点で、自分もまた部屋に戻りたくあった。
昼頃から夕刻まで魚のかからない釣りを続けてしまった。立ちっ放しで疲労の溜まった脚に、ずうっと竿を掴み続けた腕。どちらもすっかりむくんでしまっている。さっさとベッドに入って身体を休めたい……それを阻んだのは、反射的に脳裏に蘇った悪夢だった。
とうにマサキの心は落ち着きをみせていたが、それは誰かがいる時間に身を置いているからであった。ゼオルートとともに釣りに興じた日中に、プレシアを加えて過ごした家族団欒の夜。穏やかに過ぎた今日という日を振り返って、これから訪れる夜更けを思ったマサキは憂鬱な気分にならずにいられなかった。
よもや二日連続で碌でもない夢を見るとも思えなかったが、だからといって意識した夢が見られる訳でもない。ちびりちびりとワインを飲みながら、ぽつりぽつりとゼオルートと会話を交わす。寝たくない。たかが夢に怯えている自分を馬鹿らしいと感じながらも、身体は正直だ。微かに震える脚。マサキは夢を見るのを恐れている。
「いやあ、今日も愉しい一日でしたね」
やがてボトルを空けきったゼオルートが、テーブルの上に残っていた食器をキッチンへと片付けてゆく。マサキは空いたグラスに水を一杯汲んだ。寝たくなくとも寝なければ。魔装機操者の日常はいつだって突然に壊されるものだ。それに備えておくのも、また操者の務め。マサキは空いたグラスをシンクに沈めて、ゼオルートとともに二階へ上がった。
「明日はピクニックにでも行きましょうか、マサキ」
右と左。それぞれの部屋に続く扉に立つ。ああ、そうだな。ドアノブを掴んだ手のひらに伝わってくる金属のひやりとした感触が、マサキの心臓を貫いた。
「あのよ、おっさん」
「どうしましたか、マサキ?」
マサキはゼオルートに顔を向けた。赤ら顔。少し離れていてもアルコールの匂いが漂ってくる。
ゼオルートの酒は酔えば酔った分だけ陽気になる酒だ。相好を崩してマサキを見詰めているゼオルートの表情は、マサキの乱れた胸の内になど微塵も気付いていないように映る。どうしよう。マサキは次の言葉を口にするのを躊躇った。
口唇を結んで言葉を飲み込み、首を振る。
彼は確かにマサキの養父ではあるが、プレシアの実父でもあるのだ。あまり自分に構わせてはいけない。何でもない。そう口にしようとしたマサキの僅かな沈黙に、ゼオルートの丸眼鏡の奥の瞳が瞬く。
「大丈夫ですよ、マサキ。云いたいことはちゃんと云いましょう」
「でも」マサキは口籠った。
「私はあなたの父親ですよ、マサキ」
ふわりと頭の上に置かれた手に、涙腺が緩んだ。酔いが自分の心を弱くしてしまっているのだ。マサキはそう思い直したが、だからといってその程度の気安めで和らぐ心細さでもない。
俺が寝付くまででいいんだ。マサキはゼオルートの顔を見上げた。ええ。頷いた彼は、赤ら顔のまま。いつも通りに穏やかに微笑んでいる。マサキは彼が着ている衣装に手を伸ばした。
「傍にいてくれないか」上着の裾を掴んで云う。
はい。と、静かに頷いたゼオルートがマサキの手を取った。大丈夫ですよ。繰り返し云い聞かせてくるゼオルートに、マサキは幾度も首を縦に振った。これでもう、あの恐ろしい夢に惑わされることはない。ゼオルートを頼ったマサキは、頼もしい父親の確かな返事を得て、ようやく心からの安堵を得たのだった。
<了>
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<了>
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