次回で終わる予定です……が、甘えてない!!!
何かただマサキがゼオルートには敵わないって思ってるだけ!!!!
こんな話でいい筈がない!!!!
リベンジを先に宣言して、本文へどうぞ!!!
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何かただマサキがゼオルートには敵わないって思ってるだけ!!!!
こんな話でいい筈がない!!!!
リベンジを先に宣言して、本文へどうぞ!!!
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<For the longest time.>
その言葉に呼応するようにマサキの腹が鳴った。プレシアが作った料理を見た時には浮かびもしなかった生理現象の表れに、少しは気持ちも落ち着いたのだろうか? マサキはそう思うも、生々しい夢の感触が取り去られた訳ではない。
耳を貫いた罵倒の数々。それはどれも嫌になるほど聞いた言葉ばかりだった。
それでも相手にされている内はまだいいのだ。マサキは沈む気持ちを奮い立たせた。そして川面を見詰めた。木漏れ日を受けてきらきらと輝く川面は、マサキのささくれだった気持ちを和らげてくれる。
ゼオルートは人間を大きな存在だと云うが、マサキからすれば、自然の中に置かれた自分という存在はやはり小さなものだ。魔装機という力を得ても、その脅威に逆らうことなど出来ない。雨が降ればそれを遣り過ごせる場所を探し、雪が降れば暖を取ろうと必死になる。吹き荒ぶ風に立っていることもままならければ、照り付ける太陽に体力を消耗させられることもある。自然の起こす環境の変化、その過酷さを思えばこそ、自身の悩みなどささやかに感じられたものだ。
「なあ、おっさん。前にさ、人間は大きな存在だって云ったろ」
「云いましたね。それがどうかしましたか?」
「俺、それはやっぱり逆なんじゃないかって思ってさ――」
云った先からウキが怪しい動きをみせた。ぴくぴくと震えては川に沈むウキにマサキは様子を見守った。川の流れに泳がされているのとは異なる動き。一度、二度、三度……と、浮かんでは沈むを繰り返していたウキが、ついに川の中へと勢い良く沈んだ。
今だ! マサキは釣竿を引いた。
ずしりとした重みが腕にかかり、釣り竿が強く引かれる。長く伸びた糸を巻き取ろうにも、引っ張られる力のあまりの強さに現状維持が精一杯だ。
どうやらかなりの大物のようだ。それに気付いたのだろう。マサキ、そのままで。自身の釣竿を河原に置いたゼオルートが、背後から手を回してきたかと思うと、マサキが握っている釣竿を手の甲ごと掴んできた。「先ずは魚を消耗させましょう。暫くの辛抱ですよ」
右に左に、激しく流れていく糸に竿を合わせて動かしてゆく。僅かにでも力を抜けば、糸ごと竿を持って行かれかねない。マサキは両脚を踏ん張った。どれだけ大きな魚がかかったのかはわからないが、これまでの釣りでは経験したことのない手強さを感じる。絶対に釣り上げてやる。マサキは両手に力を込めた。
それは実際には数分の出来事だった。
けれどもマサキにとっては数十分にも思える長い時間だった。ようやく弱まりをみせ始めたウキの動きに、ゼオルートが糸をゆっくり巻き取るように告げてきた。
マサキは彼の言葉に従って慎重に糸を巻き取っていった。時折、かかった魚が激しく暴れ回る感触があったものの、次第に近くなる魚影に、その力が弱まっていることが窺い知れる。
ゆっくりと糸を巻き取ること暫く。両手で抱えきれるか怪しいまでに巨大な魚がその姿を川面に露わとした。これは凄い。マサキから手を離したゼオルートが網を手に魚へと近付いて行く。大手柄ですよ、マサキ。ややあって網に収まった巨大な魚に、マサキは肩で大きく息を吐くと、痺れを訴え始めていた手を釣り竿から離した。
「食べきれるかわからないぐらいの大きさですね」
「これなら昼食にしてもいいだろ。焼こうぜ、おっさん」
「その前に支度をしないと」
「支度?」聞き返したマサキに、ゼオルートがなるべく大きな葉を拾ってくるように告げた。「この大きさだと焼きムラが出来ますからね」
「確かに中まで満遍なく火を通すのは難しそうだ。その頃には皮が焦げちまう」
そうでしょう。マサキの言葉に頷いたゼオルートが、魚籠《びく》からはみ出している魚を眺めて笑った。
「私は木の実を拾ってきますよ。燻《いぶ》して食べましょう」
※ ※ ※
巨大な葉で木の実をまぶした魚を包み、その上から更にアルミホイルで巻く。川魚の臭みがこれで取れるらしい。マサキはゼオルートとともに魚を調理する為の準備を進めていった。河原の石で竈を作り、そこで起こした火にホイル巻きとなった魚をくべる。付近で掻き集めた小枝で定期的に火を焚き上げながら、片手間に小魚を釣ること二十分ほど。そろそろいいだろうというゼオルートの言葉に従って、アルミホイルを火から取り出す。
※ ※ ※
巨大な葉で木の実をまぶした魚を包み、その上から更にアルミホイルで巻く。川魚の臭みがこれで取れるらしい。マサキはゼオルートとともに魚を調理する為の準備を進めていった。河原の石で竈を作り、そこで起こした火にホイル巻きとなった魚をくべる。付近で掻き集めた小枝で定期的に火を焚き上げながら、片手間に小魚を釣ること二十分ほど。そろそろいいだろうというゼオルートの言葉に従って、アルミホイルを火から取り出す。
粗熱が取れるのを待ってアルミホイルを開けば、焼けた木の実のかぐわしい香りが漂ってきた。
そろそろ背中に付きそうな塩梅の腹がしきりと鳴き声を上げている。マサキは早速魚に箸を入れてみた。立ち上る湯気の向こう側に、食べ甲斐のありそうな白身が覗いている。先ずはそのままでと調味料を使わずに食べてみれば、さっぱりとした味が口の中に広がる。
脂っぽさはそこまでではないらしい。
さりとてぱさついているのとも違う。マサキは次いで塩をかけて食べてみることにした。美味い。さっぱりとした味が塩で引き締められた感がある。米が欲しくなるな。そう呟くと、あなたはいつもそうですね。ゼオルートが笑った。
「あなたにかかっては、何でもご飯のおともですね、マサキ」
「日本人だからな」マサキは立て続けに箸を口に運んだ。「でも、これだけでも充分に美味いぜ」
脂っこさがないからか。空腹も手伝ってするすると口の中に溶けてゆく魚の身だったが、元が巨大な魚であるからか。食べても食べても減る気配がない。男ふたりで黙々と食べ続けること、暫く。そろそろ腹がくちたらしい。四分の三ほど残った魚を目の前にしてゼオルートが云った。
「流石にこれを全部食べきるのは難しそうですね。残った分は持ち帰って、プレシアにアレンジしてもらいましょう」
「それならもうこれで充分じゃないか? これ以上、魚を釣ってもな。逆に駄目にしちまうだろ」
「大物はこれで充分ですが、小魚も少しは欲しいところですね。お酒を飲むのに幾つか作って欲しい料理がありますし」
「おっさん、本当に酒が好きだよな」マサキは釣り竿を手に取った。「ならもう少しだけだぞ」
「そうこなくては」
続いて釣竿を手にしたゼオルートとともに川辺に陣取ったマサキは、再び糸を川に垂らした。
メインとなる魚を釣り上げた充実感と安心感からか。目覚めにあった胸を包み込むような息苦しさも大分和らいだ。投げかけられた言葉の数々を思うと胸は痛むが、気分が沈むといったことももうない。マサキはゼオルートを窺った。飄々と振舞っているように見えて、その実、計算高い剣技の師匠……釣りにマサキを連れ出したのも、ただ気遣ってみせるだけでは、マサキの反発を招きかねないと彼が気付いているからに違いなかった。
ゼオルートは伊達や酔狂でマサキの養父となった訳ではないのだ。
そのさりげない心遣いに触れる度、マサキは養父の器の広さと懐の深さを感じ入られずにいられない。常に自らの前をゆく剣聖ゼオルート。剣技の道とはただその技能に優れているだけは足りないのだと、彼は彼の生き様で以て語っているように映る。
あのさ。マサキは口を開いた。ゼオルートは起き抜けのマサキの様子がおかしいことに気付いている。それでありながら何を聞くこともせず、こうして釣りに連れ出すに留めてくれた。それは彼がマサキに必要なのは手を差し伸べることではなく、気分転換だと思っているからに他ならない。
自立心が強く、依存心の薄いマサキと、常に一定の距離感を保ってくれるゼオルート。彼は養父だからといってマサキに何かを押し付けることをしない。それに対する礼は述べるべきだろう。マサキは緊張感を鎮める為に息を大きく吸った。
「ありがとな、おっさん……」
「私は何もしていませんよ」
いつもゼオルートはそうだ。マサキが自分で立ち直るのを待っていてくれる。そしてマサキの感謝の言葉を、自分は何もしていないと受け流す。それが彼の背中を、マサキにより大きく感じさせているのだとは思わずに。
「そう思うなら、思えよ。俺が云いたかっただけなんだからさ」
「あなたは私の大事な家族ですよ、マサキ」ゼオルートが竿を上げた先には小魚がいる。「家族に対して何かをしたとしても、それは当然のことをしたまでなのですから、そんな風に改めて云うことはありませんよ」
徐々に調子を上げて魚を定期的に釣り上げるようになったゼオルートに対して、大物を釣り上げたマサキの釣り竿にはそれがまるでまぐれであったかのように魚がかからない。けれどももうマサキは、それで心を腐らせるような精神状態ではなくなっていた。
心強い養父ゼオルート、彼が傍にいる。そう思うだけでマサキの心は充分に慰められるのだ。
「やっぱ凄いな、あんた」
「何がです」
「そんな言葉、俺はまだ云えねえよ」マサキは笑って、手応えのない竿を川から上げた。
餌ばかりを取られている状態が続いていたが、それもまた釣りの醍醐味。また餌を付けて竿を投げたマサキは、揺れる川面を見詰めながら、このまま時間が緩やかに過ぎて行けばいいのに――そう思わずにいられなかった。
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