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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

すき。(一):テリウス×マサキ
ということで、大分予定より後ろにずれ込みましたが、今日からスタートです!

先ずはテリウス×マサキ!

アカイイトで大分解像度が上がったので、楽しく書いております!Rも頑張っちゃうよー!
ということで、本文へどうぞ!



<すき。>

 午後のパーラーは、ティータイムを過ごす人々で満たされている。止め処ないお喋りが生み出す賑わい。そこから逃れるように、テリウスはマサキを連れて、ウッドデッキに設えられたテラス席に出た。
 食後の一杯を味わうだけの時間であっても妥協はしたくない。それはかつて王族であったテリウスが、王宮という環境に育ったからこそ身に付いた拘りのひとつであった。食は五感で味わうもの。それが特殊な嗜好であるとテリウス自身は自覚していなかったが、シュウやセニアと親交があるマサキは直ぐに察したようだった。お前らって、ホント些細なことに拘るよな。付き合い始めて間もない時期に、そう指摘されたことがあった。
 とはいえ、市井に下っては、いつでも一流の環境に身を置けるとは限らない。街は雑多で騒々しいのが当たり前で、超が付くほどの高級ホテルでもなければ、テリウスが望むような環境は得られないのだ。それを理解したテリウスは、だからこそ、小さな拘りを無遠慮に露わとすることを控えるようになった。
 とはいえ、今日は事情が異なった。
 恋しさが日々募る想い人、マサキ=アンドー。多忙な彼と会える時間には限りがある。だからこそテリウスは、彼の魅力を存分に感じ取れる場所を求めた。人の声が反響しないテラス席は、そういった意味ではテリウスの望みを充分に叶えてくれている。
 何をするでもなくテラス席に面した通りを眺めている彼の、見る者全てに強烈な印象を残す色鮮やかなボトルグリーンの瞳。十六体の正魔装機の頂点に君臨する風の魔装機神の操者は、年齢を重ねても幼さの抜けない顔立ちをしていたけれども、芯の強さや逞しさが滲み出るような顔つきをしてみせることがままある。
 尤も、流石に休暇とあっては、そうした表情は鳴りを潜めたものだ。
 つんと上を向いた小鼻に、薄く開いた口唇。厚みのある下唇が桜色に染まっている。しゅっと締まった顎といい、凛々しく伸びた眉といい、実に小気味よいくらいの整いっぷり。流石はラングランの民衆――こと女性に絶大な人気を誇るだけはある。マサキの顔立ちには、シュウのような近寄り難いほどの凄味はなかったが、親しみを感じさせる甘さが含まれていた。
「……好きだなあ」
 どうかすると吐いて出そうになる感嘆の溜息を抑え込んで、テリウスは呟いた。
 食後の倦怠感に身を委ねているのだろう。気だるげな横顔。脚を投げ出すようにして折り畳み式のウッドチェアーに座っているマサキは、目の前のクリームソーダに一度だけ口を付けたきり、言葉らしい言葉を発さずにいた。
「……それはもう聞いた」
 それでもテリウスの言葉は聞いているようだ。何を今更――といった風な口振りで言葉を返してきたマサキに、テリウスの口元が自然と緩む。素っ気ない態度は照れ隠しの表れだ。好きだなあ。テリウスは繰り返した。胸を満たす温かな想いが、口唇に乗って溢れ出る。
「知ってるっての」
「何度云っても足りないからね」
「馬鹿なんじゃないか、お前。俺がわかってるって云ってるのに……」
 照れ臭さが臨界点を突破したようだ。クリームソーダ―に手を伸ばしたマサキが、溶けかかっているアイスクリームを立て続けに頬張ってゆく。そういうところなのに。テリウスは声を潜めて笑った。
「でも、僕は云い足りないんだよね、マサキ。君が好きだって」
 それにマサキからの返事はない。黙々とアイスクリームを食べているマサキの伏し目がちな表情は、テリウスと視線が合うのを避けているようにも映る。本当に奥手なんだから――テリウスは初めてマサキに告白した日のことを思い出した。
 あの頃からマサキはずうっとこうだ。他人が自分に好意を告げる言葉を聞きたがらない。
 彼はまるでその言葉に答えただけでも、自分が押し流されてしまうとでも思っているかのように振る舞った。好きだと伝えたテリウスを遠慮なく睨みつけてみせるなど、で? と、敵を尋問するような口振りで切り返してきたマサキ。あの時のテリウスは反射的にこう答えてしまっていた。
 ――で? って何? 僕が付き合ってって云ったら、君は僕と付き合ってくれるの?
 後にマサキに訊いたところによると、見知らぬ女性から好意を寄せられることが当たり前な彼は、だからこそ額面通りに他人の好意を受け止められずにいたらしかった。それもそうだ。救国の英雄であるマサキの活躍を知っている者は多かったが、それはあくまで対外的なマサキ=アンドー像でしかない。その中の何割が、果たして普段のマサキ=アンドーの姿を知っていたものか。
 だからマサキは、接点の少ないテリウスからの告白を、そうした女性たちからの告白と同様のものとして受け止めたのだ。
 ――あいつらひと睨みすりゃ引くからよ。
 随分と乱暴な対応もあったものだが、それは彼自身、自分が押されるのに弱いことを自覚していたかららしい。リューネやウエンディにしてもそうだ。押し切られるのが怖いという理由だけで、未だに彼女らに自らが出した『答え』を告げられずにいるようだ。
「別に返事はしてくれなくていいからさ、マサキ。云わせてよ」
 テリウスはマサキを見詰めた。
 豪快な食べっぷりで、あっという間にアイスクリームを食べきったマサキが顔を上げる。微笑ましい気分になりながら、好きだなあ。テリウスは三度繰り返した。
 それに顔を顰めるマサキ。こうした遣り取りを、テリウスはもう一年以上も繰り返している。
 それでもテリウスは幸福だった。それはそうだ。恋しい人が手の届く場所で、自分と同じ|刻《とき》を過ごしている。
 プライベートをともにすることなどないに等しかった頃から比べれば、雲泥の差だ。これが幸せに感じられなかったらとしたら、余程の果報者である。美味しい? テリウスはアイスが溶けて濁ったソーダ水に口を付けたマサキに語り掛けながら、幸せを噛み締めていた。


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