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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

トロフィーワイフ(終):シュウマサ
完結です!
なのですが、このリクエスト、大分道を逸れてしまったので、後々再挑戦をします!!!

タイトルに触れずに終わります。
まあ、なんとなく意味は伝わるんじゃないかと……



<トロフィーワイフ>

 あ。と、顎を上げたマサキの髪に頬が埋まる。彼の深い緑色の髪からは、何故かラ・ギアスの風の香りがする――咽返るような草と太陽と汗の匂い。故郷への慕情を掻き立てられたシュウは、微かに目を伏せてマサキの腰を引き寄せた。密着する彼の背中。暫く身動ぎせずにその温もりを味わう。
「早く、うごけ、よ」
 五秒……十秒……十五秒……待つのも限界なようだ。三十秒ほどで焦て声を上げたマサキに、なら、遠慮なく。シュウは腰を進めた。同時に経路に張り巡らせているプラーナを、ぐるりと回してやる。あ、ああ……! がくがくと腰を震わせたマサキが、縋るものを求めて、両の手に作った拳をドアに押し付けた。
 シュウはじっくりと時間をかけて彼の後孔を嬲った。自らの肉の塊を縁《よすが》として、何度も何度も。
「ほら、マサキ。好きでしょう、ここが」
 吸い付くように絡んでくる彼の肉を掻き分けて、硬く熟れたしこりを叩いてやる。あっ、ま。待てと云いたかったのだろう。止まぬ快感に途中で言葉を切らしたマサキが、肌を震わせながら拳に顔を埋めた。あ、あ、あ。シュウの動きに合わせて喘ぎが洩れ出る。
「いいのですよ、マサキ。遠慮せず。もっと聞かせて。あなたの声を」
 シュウはマサキを刺し貫いたまま、ドアの外の様子を窺うべく耳をそば立てた。どうやら彼らは痴態を晒しているマサキに気付かぬまま、その場を立ち去ってしまったようだ。静寂ばかりが返るドアの向こう側の世界に、シュウはつまらなさを覚え、そして同時に安堵してもいた。
 ともに地獄に堕ちて欲しいと望んでいるのに、堕ちた姿を見たくないとも願ってしまう。
 愛情と盲信の違いを正しく認識しているシュウは、その狭間に自分が立たされつつあることに薄々ながらも気付いていた。頻繁に彼に感じるじれったさ。そして反発心。だのにそれを上回る恍惚を覚えてしまう瞬間がある。マサキの逞しさは、シュウには眩し過ぎるのだ。かといって、それがマサキ=アンドーという少年に対する純粋な評価なのかと聞かれると、それは違うと答えるより他ない。
 ラングランが旗印、風の魔装機神サイバスター。揺るぎない威光が、足りなさの目立つ少年を輝かせていないとどうして云えたものか……。
 シュウは口の中に溜まった唾を飲み込んだ。
 取るに足らない存在だと切って捨てられれば、悩みもない。シュウは自分に憎しみさえも覚えさせるマサキの横顔を、その肩越しに覗き込んだ。シュウの思考や思惑など望外に置き去ったような猥りがわしい表情。だらしなく開かれた口からはひっきりなしに喘ぎ声が洩れ出ている。
 ――はあっ、ああっ。シュウ、|達《い》かせて……
 いずれにせよ、条件が揃った以上は遠慮は不要だ。今一度、マサキの腰を抱え直したシュウは、プラーナを激しく揺らしながら、より深い場所へと。これまでにない悦楽をマサキに与える為に、縦横無尽なエネルギーを潜り込ませていった。

 ※ ※ ※

 床に散乱した服をマサキがだるそうに拾い上げている。ひとつ。またひとつと、彼の肢体を覆ってゆく衣装。それを横目に自らの衣服の乱れを直したシュウは、資料棚に背中を預けるようにして床に座り込んだ。
「何だよ、お前。ここで休むつもりなのか」
 それがマサキには意外に感じられたようだ。シュウの目の前に立つと、まじまじと見下ろしてくる。
「魔力にプラーナと体力。全てを一度に使えば、私とて疲れもしますよ」
「わかってるなら、やらねえって選択肢もあるだろうよ」
 シュウはそれには答えずに、ただ微笑んでみせた。
 歓喜に、憎しみ。胸にぽっかりと空いた穴を埋めてくれるのは、眩暈を引き起こすほどの強烈な感情だ。その一瞬の充足の為に、シュウは愚かな振る舞いを続けてゆく。例え、その都度、穴がその口径を拡げていこうとも。
「あなたはお好きにどうぞ。私の用は済みましたしね」
 その瞬間にマサキが盛大に顔を顰めてみせたのは、シュウが答えをはぐらかしたからか。それとも、大仰に呼び出しておきながらの目的の小ささか。いや、自分の扱いに対する不満であるのかも知れない。
 けれども、それを彼が口にすることはない。
 元来、滅多なことでは本音を口にしない少年だ。言葉にしてしまったが最後、自らの意地が崩れてしまうとでも思っているかのように。
 その忍耐強さが、腹立たしい。
 泣いて、みっともなく泣いて、無理だと声を上げてくれればいいのだ。たったそれだけで、シュウはマサキを許せる。だのに彼はシュウとともに堕ちてゆくことをしなければ、シュウに心を預けもしない。負けを認めるなど以ての外だ。だからシュウは、マサキに対して意地を張り続けることとなってしまった。
「なら、好きにするぞ」
 何を思ったか隣に腰を下ろしたマサキに、シュウは思いがけなさを感じて目を開く。
「俺も疲れてるんだよ。何だよあれは。人間離れした欲を持ちやがって」
 だが、そのシュウの表情が見えていないのか。欠伸混じりにそう口にしたマサキは、無遠慮にも、シュウの肩に頭を預けてくる。
「適当なところで起こせよ」
「……わかりました」
 そのまま、眠るつもりであるらしい。目を閉じたマサキが、ややあって、健やかな寝息を立て始める。
 シュウはマサキから視線を外して、資料室の天井を見上げた。
 世界に溢れている有り触れた恋人たちのように、ふたりきりの時間を幸福で満たしたい。鉄面皮と揶揄されるシュウにも、ありきたりな欲はある。愛情らしい愛情に触れることなく過ぎていった思春期。様々な能力に恵まれたシュウは、その才能の分だけ人並みの幸福とは縁遠かった。
 だが、それがマサキとの関係に相応しい在り方かと考えると、シュウは抵抗感を覚えずにいられなくなるのだ。愛とは何だ。そんな安っぽい関係で彼と繋がれるのが私の望みか。シュウはこれだけマサキを飼い慣らした今になっても、マサキを征服したいという己の欲が昇華されていないことを知っている。
 それは克服だ。シュウが抱えたままでいる劣等感の。
 自らを選ばなかった魔装機神サイバスター、そして風の精霊サイフィス。シュウは彼らを深く崇拝しながらも、彼らを見返したいと思ってもいる。誰であろうと盲従することを許せない。シュウ=シラカワという人間は、孤独を恐れない人間であるのだ。
 なのに、マサキ=アンドー。そう、マサキ。彼はシュウの心を千々に乱した。
 シュウはそこに様々な感情を見た。敵愾心もあれば、慈愛もある。恋しさもあれば、嫌気もある。それが、人間が人間である為に必要な凡そ全ての感情であると気付いた瞬間の、シュウの絶望! 何故、彼でなければならないのか。シュウはその答えを未だに見付け出せずにいる。
 けれども、恐らく、それは愛情といった純粋な感情ではない。
 そう、愛情ではないのだ。シュウはゆっくりと目を伏せた。肩に乗ったマサキの頭の重みを感じながら、そして同時にその髪から香ってくるラ・ギアスの風の匂いを嗅ぎながら、そうして、泥の中に沈んでゆくような倦怠感に身を任せていった――……。






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