思ったより長くなってしまって、そして全然甘くならなくてごめんなさい!
白河が悶々とし続けるだけやん!!!!笑
いや、ここから頑張るんですよ。そう、きっと盛り返しがある!!!
そう信じていますよ、私は!kyoさんはやれば出来る子!!!!
白河が悶々とし続けるだけやん!!!!笑
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<衰弱の魔装機神操者>
「もう寝ちゃってるんじゃないですか?」
「かといって、薬もまだ飲んでいないですからね。起こしてでも食べさせなければ」
「スパルタ! 風邪なら寝ていれば治るというのに!」
やいやいのやいやいのと煩いチカを片手で追い払う。本当にもう。などとぼやきながらも、マサキが病人であるが故に静かな環境に置いておかねばならないということは理解しているようだ。リビングへと舞い戻った彼が、話し相手を求めてソファの背もたれにとまる。
気持ち良さそうに寝そべっているマサキの二匹の使い魔も、チカと同じ考えであるのだろう。風邪とわかった以上は、主人の邪魔をせずにいることが一番の特効薬であるとばかりに、その場から動こうともしない。彼らを横目に、シュウは野菜スープをよそったスープ皿とカトラリーを載せたトレーを寝室に運び込んだ。
「眠っていても良かったのですよ。起きて待っているのもしんどかったことでしょう」
ベッドの中のマサキはぼんやりとした眼差しを天井に注いでいた。発熱による激しい倦怠感が、却って目を冴えさせてしまっているようだ。眠りが浅くてよ。そう返事をしたマサキが、のそりと身体を起こす。
「うとうとしても、視界が明るくて起きちまうんだよ」
「なら、カーテンを閉めましょう」
トレーをマサキに渡したシュウは、部屋を照明を点けてから、ベッドを回って窓際に向かった。生き返るぜ、ほんと……息苦しそうな鼻声でぽつりと言葉を吐いたマサキがスープを啜る音が響いてくる。そろそろ茜色に染まりつつある陽光が差し込む窓辺。ひと思いにカーテンを閉めたシュウはマサキを振り返った。
身体を起こすのもしんどそうなのは相変わらずだが、ベッドでゆっくりする時間を得たからだろう。天板に背をもたれかけさせながらもひとりで食事を進めているマサキに、これなら回復も早そうだ――と、シュウは安堵とも侘しさとも付かない気分になる。
「これ、お前が作ったのか。レトルトじゃなく?」
「私とて料理ぐらいは嗜みますよ。ひとり暮らしですからね」
「そうか。俺はまた、てっきりあのふたりに任せきりにしてるんじゃないかと」
王室育ちという点が誤解を招いているのだろう。マサキはシュウを自ら家事をするタイプとは思っていないようだ。「普通に美味い。熱で脳が壊れたんじゃないかと思うぐらいに」などと、失礼千万な台詞を吐きながらスープを完食する。
それをシュウは微笑みながら聞き流した。
例えば側仕えの侍従たち、例えばルオゾール、例えばサフィーネと、常に誰かに傅かれる人生を送っているシュウは、けれどもその立場に甘えるつもりはなかった。出来る範囲のことは自分でこなす。王族の称号を失った今となっては、尚更だ。この先の長い人生を市井で生きてゆく覚悟を決めたシュウは、だから家事をルーティンとして自らの身体に覚え込ませた。
人並みの幸福を願うには、科せられた罪状が重過ぎる。
そう、シュウには自覚があった。神の気紛れな悪戯かと思うほどに、激動の人生。それは生半可な人間では付き合いきれない苦難の連続だ。邪神教団だけでも手に余るというのに、彼らが根を張った組織に限りはない。社会の暗部に深く食い込んだその根を刈り取るのに、どれだけの歳月がかかるのか。シュウの明晰な頭脳をもってしても計算はしきれていなかった。
故にシュウは、ひとりで生きていくのに足るスキルを身に付けた。誰かを自分の人生の供連れにしたいと望むその気持ちこそが、安直な|利己主義《エゴイズム》の発露であるのはわかっている。わかっていることを実行に移すのは、邪神教団の信徒のような快楽主義の連中だけで充分だ。
全ての決着を付けないことには、前には進めない。
だからこそシュウは自らの人生設計を後回しにすることとした。そうして、自由を獲得する為の戦いに挑み続けることとした――……。
「おかわり、あるか。もう一杯食いたい」
シュウの微笑の裏側に隠された思索の潮流に、思いを馳せることなどないのだろう。掠れた声ながらも無邪気に言葉を発したマサキに、意識を引き戻されたシュウはその様子を窺った。
無理をしているようには見えない。
「そう云ってもらえると、作った甲斐がありますね」
シュウは自身のスープがマサキの食欲を亢進させたらしいことに密やかな誇らしさを感じた。そうして同時に寂しくもなった。きっと彼はシュウが想像するより早く、快癒してしまうに違いない。
それこそがシュウが先程感じてしまった侘しさの正体だ。
空を羽ばたく鳥のように自由な風の魔装機神は、シュウを巣穴とはしてくれない。常にともにある彼の仲間に、シュウが嫉妬めいた感情を抱いてしまうのはだからだ。彼ら以上に、マサキ=アンドーという青年を包み込める存在などない。わかっているからこそ、一秒でも長くマサキをこの場に留めておきたいと望んでしまう。
「朝から碌すっぽ食えてなくてさ」
「直ぐに持ってきますよ。食欲があれば、風邪の治りも早い。とにかく食べて寝るのですね」
マサキから空となったスープ皿を取り上げたシュウは、そう云って、キッチンに向かうべく寝室を出た。
滅多に見られぬマサキの弱った姿に、胸がざわめいている。ああいったマサキの姿を目にする機会が日常であれば……それはどれほどの幸福足り得る状態であることか。そう思いもするも、それが疚しさでしかないことにも自覚がある。
「ちょ、ちょ、待って! ギブギブ! ちゃんとお腹見せてるんですから、遠慮して!」
「食えって云ってるんだニャ!」
「御馳走ニャのね!」
「あんたら鬼かあああああああ!? プロレスにだってルールがあるってのに、ルール無用とかどこの原始人!?」
リビングから響いてくる賑やか声に覗き込んでみれば、再びソファの上でじゃれ合い始めている一羽と二匹の使い魔の姿。チカを玩具にせずにはいられないのだろう。弱肉強食ニャのよ! などと云いながら彼を転がしているシロとクロに、良くやる――と、思いながら、シュウは自らの疚しさに蓋をした。穏やかなこの空気に、シュウの薄昏い感情は不似合いだ。
「じゃれ合うのも結構ですが、程々に」
念の為に釘を刺し、キッチンに入る。はぁーい。と返事があったような気がしたが、きっと守られることはないだろう。
シュウはスープのおかわりを用意すると、何事もなかった風を装って寝室へと戻っていった。
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