ということで、この話はこれにて終幕です!
ただ番外編があります。
本当に書きたかったのは実はそちらだったりするのですが、また後日公開したいと思います。
では、本文へどうぞ!
ただ番外編があります。
本当に書きたかったのは実はそちらだったりするのですが、また後日公開したいと思います。
では、本文へどうぞ!
<衰弱の魔装機神操者>
明け方近く、マサキの体温の高さに寝苦しさを感じてシュウが起きてみれば、喉の調子が良くなってきたのか。彼は鼾ではなく、すうすうと穏やかな寝息を立てて眠っている最中だった。
汗の玉が浮かぶ肌。起こさぬようにそっと手を離し、マサキをベッドに仰向けに寝かせてやる。その顔をタオルで拭って書斎に向かったシュウは、きっともう決着が付いていることだろうと思いながら、エーテル通信機でサフィーネを呼び出した。
――まだお休みのことと思っておりましたのに。
やはりシュウの予測は当たっていたようだ。直ぐに反応のあったサフィーネに首尾を尋ねると、一時間ほど前にモンテカルロファミリーの組織を壊滅させてきたところだという。
――実戦的な部分は教団に頼りきりだったのでしょうか。歯応えが少なくてつまりませんでしたわね。
――それは退屈な役割を押し付けてしまいましたね。
これが根本的な解決になるかはわからないが、アタルゴの街の裏社会の崩れかけたパワーバランスを元に戻すのには寄与するのではなかろうか。それ即ち、アタルゴの街の治安が取り戻されるということである。尤も、相手はあの邪神教団だ。彼らがアタルゴの街に利用価値を見出しているのであれば、何らかの形でまたぞろどこぞの組織に食い込んでいくことであろう。
その時にはまた叩き潰せばいいだけだ。シュウは薄く笑った。
戦いとはチェスのような戦略的遊戯に等しい。盤面を整理し、的確な状況を把握する。勝利への方程式を知り尽くしているシュウは、だから『遣り過ぎた』モンテカルロファミリーを潰した。盤面整理。派手に動き回っている彼らは、それだけシュウたちの調査の邪魔になる存在であったのだ。
これで状況が把握し易くなった。
次に教団が尻尾を掴ませるのがラングランのどの地域になるかはシュウにはわからなかったが、裏切者への制裁を諦めない連中のことだ。遠からずまたまみえることとなるだろう――……サフィーネに新たな居所の選定をモニカとともに行うようにと告げて通信を終えたシュウは、そろそろ明るくなり始めた窓の外を見上げながら、暫く物思いに耽った。
去り難い思いはあれど、去らぬことには先に進まない。それがシュウが選んだ教団との戦い方だ。
消息を絶ち、奇襲を仕掛ける。
信者数五万人。ラングランに、或いはラ・ギアス世界に深く根を下ろしている邪神教団を根絶やしにするのに、正面から戦いを挑むのは無謀な試みである。教団との戦いで自らの慢心を幾度となく思い知らされてきたシュウは、だから腰を据えて彼らと戦うことにしたのだ。
――この戦いが終わったら――……
自らを縛る最も深い因縁を清算したシュウの次なる目標は、マサキとの新たな関係構築であるのかも知れない。
ただの操者候補のひとりに過ぎなかったマサキ。彼がサイバスターに、そしてサイフィスに認められたことで、シュウの人生は激変した。決して逃れられることはないだろうと思っていた拘束。サーヴァ=ヴォルクスからの精神的な支配を、あの少年が打ち砕いてみせるなどと、どうしてあの頃のシュウに思えたことだろう。
――彼なくして、私の人生は輝けない。
再三、振り返ってきた彼との因縁に満ちた日々に、シュウは今再び心を沈めていった。
マサキが起きてきたのはその一時間後だった。
トイレに出てきた彼に具合を尋ねると、昨日よりは大分いいとの返事。云われてみれば、確かに足取りもしゃんとするようになってきたようだ。これなら今日明日にでも王都に帰せるのでは――と思い、ベッドに戻った頃を見計らって熱を測らせてみれば三十六度五分。ただ、喉の調子は戻りきっていないのだろう。言葉を口にしてはごほごほと咳込むマサキが、だるいのが治らなくてよ。と、困った風な顔で呟く。
「身体が治ろうとしているからですよ。もう少し楽になるまで寝ているのですね」
「そうだな」
まだ朝食にするには早いと感じたのだろう。欠伸混じりで時計に目を遣ったマサキがベッドに潜り込む。
「なあ、シュウ」
シュウは氷嚢を片付け、着替えを済ませた。
薄く開いた寝室のドアの向こう側から、ぎゃあぎゃあと喧しいチカの声が聞こえてくる。恐らくリビングで、昨日と同様に、マサキの使い魔に玩具にされているのだろう。猫としての本能に忠実な彼らには、少しばかり運動をさせてやる必要がありそうだ。そんなことを考えながら、マサキの呼びかけに、今まさに寝室を出て行こうとしていたシュウは振り返った。
「俺、寝相酷くなかったか?」
昨晩のシャワーの件もそうだが、どうもマサキには|繊細《ナイーブ》な面があるようだ。シュウはクックと嗤った。これから先の人生、こうして少しずつ彼の意外な側面に自分は触れてゆくことになるのだろう。それが悦び、或いは希望となって、艱難辛苦に満ちたシュウの人生を仄明るく照らし出す。
いつだってそうだ。
迷い込んだ枝道から、正道へと引き上げてくれる存在。風の精霊サイフィスに愛されし男は、机上の空論に過ぎない理想さえも叶えてしまいそうな純粋さに満ちている。だからシュウはこの世界に戻ってきた。忌まわしい思い出も多い地底世界ラ・ギアスに。
マサキ=アンドーという少年は、シュウにとって道先案内人でもあるのだ。
それはこれからも変わることなく続く因縁であるだろう。だからシュウは嗤った。怪訝な表情が浮かぶマサキを目の前に、声を潜めて嗤った。
「そういったことを気にするのでしたら、自らの手足でも縛っておくのですね」
瞬間、マサキの顔が絶妙に歪む。やっちまったと云わんばかりの表情。それにシュウは冗談ですよと告げて、担がれたことで気が立ったのだろう。何か喚いているマサキを背に、寝室を後にした――……。
<了>
<了>
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