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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

春|幽《かそ》けき日にありったけのお返しを(10)【改稿済】
次回こそはご褒美シーンだー!
その後のことは知りません。←

やっと話が大きく動くところまできました。後はクライマックスに向けて突き進むのみです。いやー難産でしたね。毎回預言をどう解釈するかに頭を悩ませ、それを白河にどう説明させるかでまた頭を悩ませ、更にそれをイベントとどう絡ませるかでまた頭を悩ませ……って、悩んでる記憶しかない!!!!!

これが終わったらLotta Loveを完結させて、久しぶりの白河祭りをやろうと思います。

拍手有難うございます。励みになります!!!
では、本文へどうぞ!
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<春|幽《かそ》けき日にありったけのお返しを>

「だからお前、セニアに情報を流せなかったのか」
「それもありますがね」シュウはテーブルを指先で叩いた。「私としてはもう少し確証を得てからにしたかったのですよ。何といっても、魂を憑依させられる姉妹という触れ込みですからね。ご存じの通り、この手の話にはインチキも多い。だからこそ、彼女らの能力が本物であるかを見極めてからにしたかったのですが、ファングの働きが優秀だったものですから」
「俺たちが追い付いちまったってことか」
 そう。と頷いたシュウの表情は、その割には満足気に映った。
 自らの自尊心を傷付けられる事態に直面しようものなら、返す刃で相手の自尊心を叩き潰してみせる。マサキの良く知るシュウと=シラカワとはそういう人間だ。だのに、まるでマサキたちが確信に近付くのを喜んでいるかのような笑み。自信が服を着て歩いているような男にしては珍しい。
「今のところ、彼女らが本物であるか否かの確率は、五分五分といったところですかね。獣に憑依してみせたぐらいでしたら、良く訓練された猛獣を使ったイカサマで片付けられますが、四桁の足し算や引き算を即興でこなしてみせるとなると、それなりの仕掛けが必要です。例えば、カードに仕掛けを施し、任意の数字を引かせるといった……」
「訓練したからって猛獣がホワイトボードに数字を書けるようになるもんかね」
「そこなのですよ。仮にあれが訓練の成果であるのだとしたら、そこまで訓練された猛獣がいるのに、わざわざ憑依する姉妹という心霊現象を付け足してしまったことになる。どれだけ魔術や練金学が発達しているラ・ギアスでも、オカルトを実現するのには限度があります。蘇生術にしてもそうですよ。特異な効果を齎す代わりに、被術者に大きなリスクを背負わせる。だからこそ体系付けられない心霊現象を、ラ・ギアスの練金学は否定するのです。だからこそ練金学で裏付けられない心霊現象は、一般の民衆にも懐疑的な目で見られるのですよ。故に、姉妹の奇跡が作られたものである説は、その不合理性から否定されるものになります。わざわざ疑惑を招く真似をするよりも、訓練された猛獣のショーにした方が受けはいいですからね。まあ、預言の実現を目論んだとも考えられますが、その場しのぎのイカサマに手を染めるなど、彼らの遣り口にしてはお粗末ですしね。こちらも合理的ではありません」
 もしかするとシュウは、忌憚なく語り合える相手を欲しているのかも知れない――マサキは彼に追従する仲間たちの顔を思い浮かべた。シュウを主と仰ぎ、その命に従うサフィーネ。シュウに恋焦がれるがあまり、王室を飛び出して行ったモニカ。そして、シュウに付いてゆくことで、利用されるだけの立場からの解放を得たテリウス。彼らのシュウへの関わり方は盲従的だ。それは危険を省みずに、協力を続ける姿勢からも明らかだ。
 唯々諾々とシュウの言葉に従ってしまう彼らは、シュウにとって都合の悪いことを口にすることがない。シュウが時にマサキ相手に議論を吹っかけるような真似をしてみせるのは、そうした彼らとの付き合いに閉塞感を感じていることもあるのではないだろうか。だからこそ、こうして預言の実現というひとつの事象を共有出来ている環境に、彼は満足を感じたのではないか……。
「街の人たちの話によれば、彼女らのステージは週替わりで内容が変わるそうですね。出来ればそれを確認した上で結論を出したくもあったのですが、第三の預言が成就した後とあっては、悠長に構えている暇はないですしね。しかも、彼女らの能力が本物であると仮定した場合、彼女らは自らの能力を抑えるつもりがないように感じられます」
「それはどういった意味で、ですか?」
「この街では彼女らに逆らうなと云われるぐらい、彼女らが関わったと思われる不審死の噂が絶えません。火のない所に煙は立たず、ですよ。全てに関わっているとまでは私は思いませんが、幾つかの不審死に彼女らが関わっているのは間違いないでしょう」
「ああ、それだったら俺たちも見た。と、いうか現場にいた」
 ほう、と頷いたシュウが興味深げな視線をマサキに向けてくる。どうやら先にショーの列に並んでいたシュウは、立て籠りが起こっていたことを知らなかったようだ。話を聞かせるように促してくるシュウに、マサキは簡潔に立て籠り犯の事件の経緯を説明した。
 投降する意思をみせていた男の突然の死……その死に際に彼が吐いた助けてくれという言葉……それはシュウの好奇心を擽ったようだった。成程。と呟いた彼は、ファングとザッシュの顔を交互に見遣りながら、彼らに他に気付いた点がなかったかを尋ねた。
「特にはないな。酷く途惑った表情をしていたことは覚えているが」
「あれは自分の意思で飛び降りを選んだ人間の態度ではなかったですね」
「そうなると――」シュウは宙に視線を彷徨わせた。「彼女らは彼女らの正義に従って行動していることになる」
「彼女らの正義?」
 マサキの問いに視線を戻して、シュウは再び座を見渡した。
「彼女らが奇跡の双子とある種肯定的な二つ名で呼ばれているのは、不審死を遂げた人間たちが犯罪者であったり、黒い噂が絶えなかった人物であったりしたからなのですよ。私としては都合の良い脚色だと思ってもいたのですが、あなた方がその現場に立ち会っていたとなれば話は別です。彼女らが教団の関係者であったならば、餌食となるのは一般的な市民に限られていた筈。悪漢退治といった善行など、教団からすれば忌むべき行為ですからね」
「となると、武器庫に火を放った理由は……」マサキは考え込んだ。
 わかり易い勧善懲悪を好むのは大人も子どもも一緒だ。とはいえ、経験の分だけ悪意や悪行に寛容になった人間と世間ずれしていない人間とでは事情が異なった、前者は多少の行いには寛容であろうとするし、不満を感じながらも司法に誠実であろうとする。後者は多少の悪行を見過ごす人間に疑問を感じているからこそ、時には司法を無視して私刑とも思える行動に出ることもある。
 子どもは純粋であるからこそ、後者に染まり易くもあるのだ。
 奇跡の双子と呼ばれ、街で英雄視されてもいるらしいゼフォーラ姉妹が後者であるのは想像に難くない。そういった気質である彼女らが、自らの正義を行使する以外の理由で、遠く離れたラングラン王都に魂を飛ばすだろうか? 有り得ない。マサキは口唇を結んだ。そこにあるのもまた純粋な正義心である筈だ。
「成人まではまだ微妙な年齢ですしね。王室に関わる|噂話《ゴシップ》を彼女らが正しく判別出来るとは思えません。恐らく、彼女らの側には王室の善からぬ噂を吹き込んだ人間がいる。その上で、その人物は王宮武器庫に火を点けるよう彼女らをそそのかした。青い正義感に駆られている彼女らであれば、その話に乗ってくる可能性が高いと踏んで」
 マサキたちは顔を見合わせた。その人物を確保出来れば、武器庫への放火事件の全容が明らかになる。
「周辺の調査が必要ですね」
「いずれにせよ地道な調査は避けられんか」
 今を逃してはならないとばかりに、ザッシュとファングが立ち上がる。
 この好機を逃せば、不気味な動きを繰り返す組織のことだ。より一層潜んで計画を遂行してゆくようになってゆくだろう。シュウの言葉で事態が差し迫っていることを悟ったからこそ、即座に調査に赴こうとするふたりに続いて、マサキもまた席から腰を浮かせた。
 マサキ――と、その手を掴んだシュウがマサキを呼び止めた。
「調査には私も協力しますよ。三人で固まって動くより、ふたりずつ組んで動いた方が効率がいいでしょう」



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