酷い文章を書いていたなオイ。
いやですね、ちょっとだけ前の文章を手直ししようと思ったんですよ。そうしたらあまりの文章の酷さに耐えられなくなってですね、半分くらいの文章をほぼまるっと打ち直す羽目に陥って……
過去ログには反映済です。お手数ですが、必要な方は読み直してください。
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<春|幽《かそ》けき日にありったけのお返しを>
Scene 3.路地裏で
セニアに渡された身上調査所によると、ゼフォーラ姉妹は両親に売られる形で大道芸人の一団に加わったらしい。
流石は情報局の調査報告書だけはある。それはどうやらシュウをして未入手の情報だったようだ。彼はゼフォーラ姉妹の両親という存在に大いに食指を動かされた様子で、出来ればそちらの調査を担当したいとマサキたちに申し出てきた。
「彼らに話を聞ければ、彼女らの能力の真贋も付くでしょう」
「確かにな。そこを確認出来ないことには、身柄の確保をすべきかどうかも決められない」
「なら、僕たちは街の人たちに彼女らの交際範囲について聞き込んでみますよ。そこから怪しい人物が浮かんでこないか洗い出してみます」
現在のゼフォーラ姉妹の周辺の調査をファングとザッシュに任せたマサキは、シュウとともに彼女らの両親の許へと向かった。
ザルダバの居住区の片隅にあるこじんまりとした一軒家。そこに住まうゼフォーラ姉妹の実の両親は、マサキたちの来訪の理由を知ると露骨に嫌な顔をしてみせた。どうやら自分たちの子どもにいい感情を抱いていないらしい。兎に角不気味な子たちで――と、怯えた表情で語り始めた母親の脇で、父親は始終渋い表情を崩さなかった。
どうやら姉妹のうち、成長が少しばかり早いのが姉であるシーシャであるらしい。あの子の方が背が高い分、少し細いんです。流石は母親。姉妹の見分け方を心得ている。それがそっくりな双子である彼女らには不思議だったようだ。姉妹はどちらが姉でどちらが妹かをよく母親に尋ねてきては、答えの正しさに驚いていたという。
それが五歳のある時を境に、上手くいかなくなった。
最初はふたりが嘘を吐いているのだと思ったのだという。シーシャと呼べば私はミーシャと云われ、ミーシャと呼べば私はシーシャだと云われる。些細な外見上の違いは変わらないのに、中身だけが入れ替わってしまったかのように、その時々で自分たちの名前を逆に口にするシーシャとミーシャ。幾度か注意をしても態度の改まらなかったふたりは、「どうしてお母さんは私たちの姿しか見てくれないの?」と、或る日母親に訴えてきたのだそうだ。
「そこから注意してよく見てみると、あの子たちの行動そのものにも変化が起こっていることに気付いたんです」
シーシャの外見をしながら行動はミーシャそのもの。その逆も然りで、ミーシャの外見をしながら行動はシーシャそのものだったりする双子の姉妹に、まさか――と思いながらも、母親は彼女らの中身が入れ替わっていることを認めざるを得なくなっていったようだ。
ふたりの姉妹が六歳になったある日のこと。夜も更けてからドアを叩かれた母親は、その向こう側に立っていた近所の知り合いの夫婦が、「ねえお母さん、見て! 私たちこんなことも出来るのよ!」と云ったのを聞いて卒倒しそうになった。慌てて姉妹が寝ている部屋に飛び込むと、そこには静かな寝息を立てて眠るふたりの姿が確かにある。「他人にそういった真似をするのは止めなさい!」
双子を説得して知り合いの家に夫婦の身体を返させた母親は、翌日、その夫婦に昨晩おかしなことがなかったかを尋ねた。夫婦は晩酌を始めて間もなく意識を失いったことと、気付いた時にはベッドの上だったことを母親に話して聞かせた。
「けれどもあの子たちは、私の目を盗んで、その後も方々で他人の身体に乗り移っていたのです」
双子が九歳となった或る日。ザルダバの地方新聞にある老人の死が掲載された。
川で溺れ死んだ老人の記事を、ようやく新聞が読めるようになった姉妹は母親に掲げてみせた。お母さん、この人知ってる? 街では有名な商人だと母親が教えると、この人悪い人なのよ。姉妹は口を揃えて云ったという。
「色んな人を脅してお金を巻き上げてたの。だから罰を与えたの」
それからの姉妹は、自分たちが他人に憑依出来ることを隠さなくなっていったのだという。勿論、彼女らの周囲の人間たちは、その告白を素直に信じはしなかった。けれども、彼女らの予告通りに人が死ぬのを知るようになってからは、母親と同じように現実を認めざるを得なくなっていったようだ。そして、近所や学校の関係者から話が広まること二年。噂が噂を呼び、双子の名前は街中に知られるまでとなった。
「それで良く、今の今まで無事に過ごせましたね」
「治安部隊に訴えたこともあったのですが、そちらには信用していただけなくて。いえ、信用してくださる方もいらっしゃったのですが、証拠が出ない以上は罰せられないと……それもあって、私たち夫婦はあの子たちを手放す決心をしたのです」
※ ※ ※
「後味のいい調査じゃなかったな」
※ ※ ※
「後味のいい調査じゃなかったな」
「しかし彼女らの能力が本物であるという確証は得られましたよ」
夕刻を過ぎて、待ち合わせの場所に戻る道すがら。母親の話を振り返りながらマサキが口にすれば、シュウはシュウで思うところがあるようだ。どことなく険しい表情を晒しつつ、それでも前向きに事態を捉える台詞を吐いた。
「ところであなた方は、この後はどうされるつもりです。このまま彼女らの身柄の確保に動きますか」
「お前が自分で云ったんだろうよ。彼女の側には王室のゴシップを吹き込んだヤツがいるって。それを洗い出してからでないと、結局蜥蜴の尻尾切りで終わっちまうだろ」
「それでしたら、明日、もう一度彼女らのステージを見に行きませんか」
今更収穫もあるまいとマサキが何故と口にすれば、シュウには考えがあるらしい。夕餉の匂いが漂う街角をマサキと肩を並べて歩きながら、自説を開陳し始める。
「既に第三の預言が成就している以上、第四の成就も時間の問題でしょう。あの預言書がサーヴァ=ヴォルクルスに捧げられるものである以上、起こり得る奇跡は彼女らを危険に晒しかねないものである可能性が高い」
言葉を濁してはいるものの、それはゼフォーラ姉妹の命に危機が迫っていると云っているに等しい。
マサキはシュウの言葉に考え込んだ。彼女らの能力はそれ単体でも奇跡と呼べるものである。憑依術。それ以上の奇跡など彼女らには望むべくもない。だが、預言は謳う。西の双子は奇跡を起こすと。それも東で祝福が起こった後にだ。
彼女らの能力の発現は五歳の時だと母親は証言している。だとすれば、憑依術そのものは預言に記された奇跡ではないということになる。この場合考えられる可能性はふたつだ。ひとつはそれ以上の奇跡を彼女らが起こす可能性、もうひとつは預言に関わる双子が彼女らではない可能性だ。
マサキたちは後者の可能性を全く考慮していなかったが、それは正しいのだろうか? マサキは不安に駆られながら、けれども――と、その可能性を打ち消した。今から全く無名の双子を探すとなると、砂の中から一粒の砂金を探すに等しい。それに、マサキたちはセニアの命でザルダバに赴いているのだ。
だったら、今得ている情報で勝負をするしかない。
「まさか、お前――」マサキは足を止めた。
先をゆくシュウの上着を掴み、脳をフル回転させる。祝福=死であるのであれば、ヴォルクルスにとっての奇跡とは何に当たるのか。それは決して文字通りの意味にはならないだろう。それどころか、内容を等しくする可能性だってある。
「祝福に続いて奇跡もまた人の命を奪うものであると考えてるのか」
「そうでなければ話が通らないでしょう」シュウは足を止めてマサキを振り返った。「いいですか、マサキ。あの預言書はサーヴァ=ヴォルクルスの本体が、その果てに顕現すると断じているのですよ。それは即ち、それまでの預言で起こり得た事象の全てが、ヴォルクルスに対する捧げ物であるとことを意味します」
「俺たちが考えるような奇跡ではないってことか……」
そう。とシュウがマサキの手を取った。やんわりと上着からマサキの手を引き離した彼は、そのままマサキの手を引きつつ、人通りの少ない通りから手近な路地へと足を進めてゆく。
「何だよ、お前。いきなり」
「あなたと話をしたいことがあるのですよ」
陽も翳る奥まった路地裏。人ふたりが通り過ぎるのがやっとな道に身体を潜ませたシュウは、物も云わずにマサキの身体を建物の壁に押し付けてきた。「おい、シュウ」声を上げた先から口唇が塞がれる。
クリスマス以来となるシュウからの口付けに、マサキの意識が攫われる。たった一個の指輪に縋った日々。マサキが大事に指輪を嵌め続けたのは、シュウとの縁をその指輪で感じていたかったからだった。けれどもそんな感傷もひとときのこと。路地の向こう側から響いていくる子どもたちの笑い声に、マサキはここが任務で赴いている街であることを思い出した。
「お前、話ってこれのことかよ……」
胸を押してシュウを引き剥がそうとするマサキの抵抗を封じるように、マサキの身体を抱き締めてくる腕。次いでシュウの口唇がマサキの耳に触れた。マサキ――低くも心地良いテノールボイスが、端近で誘惑の言葉を奏でる。
「ほら、マサキ。口を開いて。それとも私に開かされたい?」
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