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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

春|幽《かそ》けき日にありったけのお返しを(5)【改稿済】
お久しぶりです。ようやく更新再開です。

超難産でした。アクションはやりたいという気持ちだけで書けるものではないと思い知った次第です。しかしいい加減この話のシュウマサを書きたくなったので、勢いだけで押し切りました。後で加筆・修正が入るとは思いますが、今回はここまでということで。

拍手有難うございます。励みになります!ヽ(´ー`)ノ
あと五勤頑張れば土曜休が復活しますので、そうしたらもう少し更新頻度を上げたいと思う次第です。




<春|幽《かそ》けき日にありったけのお返しを>

「魔装機ガルガードが操者、ザシュフォード=ザン=ヴァルファレビアです。立て籠もり事件が発生したと伺いました。助力を申し出ます。現在の状況はどうなっていますか?」
「これはザシュフォード様!」声をかけられた治安部隊員が直立不動で敬礼の姿勢を取る。
 彼は後ろに続くマサキとファングにも気付いたようだ。驚きに目を見開くと、どうぞこちらへ――と、マサキたちを、治安部隊が陣取っているアパートの入り口前へと先導していく。
 野次馬たちの視線がマサキたちに刺さるが、そんなことを気にしている場合ではない。治安部隊員たちが群れ成す中を抜け、現場の指揮権を持つ部隊長と顔を合わせる。目つきの険しい初老の体格の良い男は、慇懃にマサキたちを迎え入れると、事件の詳細について語り始めた。
 連続強盗傷害容疑で身柄を拘束される予定だった男は、ギャングの一員として以前より治安部隊にマークされていたようだ。ようやく尻尾を掴んだ矢先の逃走劇。朝方、住処を訪れた治安部隊に発砲して逃走を図った男は、数百メートル先にあるこの建物に逃げ込むと、騒ぎを聞きつけて顔を出した住人を人質に取って立て籠りを計り、自身の容疑の取り消しを要求したのだという。
 アパートの二階の西部屋に男は立て籠っているようだ。どうやら弾倉に込められた弾が全てはないらしく、定期的に発砲音が繰り返し響き渡ってくる。所持している弾の数は不明だが、人質の消耗具合を考えると、弾が尽きるのを待つといった消極的な解決策は望まない方がいいだろう。マサキはファングやザッシュとともに、男が立て籠もっている部屋への突入手順を話し合った。
「治安部隊が制圧してるのは階段までか。部屋の間取りはこれ、と。窓は一箇所。ベランダはなし。玄関ドアから窓まで一直線に部屋が伸びてるタイプの1K、となると」
「玄関ドアと窓から挟み込むのが効率的だな」
 マサキの説明を聞いたファングが、部屋の間取りに目を落とすことなく云ってのける。
「それなら、僕が通路を制圧しつつ、玄関ドア回りの戦闘領域の確保をしますよ。曲芸は得意ではありませんし」
 名乗りを上げたザッシュに、窓からねえ。呟きながらマサキは今一度、部屋の間取りを眺めた。玄関から窓まで居住スペースが一直線に伸びてはいるものの、キッチン脇にはトイレを併設したユニットバススペースがある。
「水回りに立て籠もられると厄介だが」
「そうなったら引き摺り出せ。そんなに広いスペースでもなかろう」
「軍隊式ですね」
「お前らのやり方は相変わらず荒っぽいな」
 マサキは苦笑しつつもふたりの提案を受け入れた。
 極限状態に置かれた人質のことを思うと、あるかないかもわからないリスクを案じて四の五の云っている暇はない。加えて今後のスケジュールとの兼ね合いもある。マサキたちがバカンスでこの街に来たのではない以上、ゼフォーラ姉妹のステージが始まる時刻までには事態の解決を図らなければならないのだ。そうである以上、どこかでは強硬策を取る必要に迫られることもある。
「インカムはあるのか? なきゃ時刻合わせで突入するが」
 ザッシュが治安部隊に尋ねてきてくれたところでは、どうやらレシーバーはあるものの、インカムまでは準備してきていないとのことだった。それならば――と、マサキは覚悟を決めて腕時計に目を遣った。多少のもたつきはあったものの、急いで男の身柄を確保すれば、余裕で開演時間には間に合う。
「腹も減ったし、さっさと済ませるぞ。五分で玄関ドアと窓を確保して、五分で人質の救出と犯人確保だ」
「お前が一番荒っぽい気がするがな」
「魔装機の操者たちの方がよっぽどですよね。それと比べれば軍隊なんて可愛いものですよ」
 そうは口で云ってみせるふたりだが、そのやる気は充分なようだ。高揚感に支配された表情。さりとて好戦的というほどでもない。それは、すべきことをこなせる実力を持っている者だけが持つ余裕の表れだった。
「いいから時間を合わせろよ。五分後に突入だ。犯人確保はお前たちに任せるからな」
 不敵な笑みを浮かべているふたりに各々時計を合わせるように告げたマサキは、その終わりを待ってから、作戦開始の号令を発した。|十二時二十五分《イチフタフタゴー》作戦開始! その言葉に頷き合ったザッシュとファングが勝手知ったる様子で動き始める。
 治安部隊が列を開く間を縫って階段を上がってゆくザッシュに、アパートの裏手に回り込むファング。ファングの後を追ってアパートの裏手に回ったマサキは、壁を背にして立っているファングと少しばかり距離を取った通り側に立つと、即座に彼に向かって助走を付けて迫った。
 腰を落としたファングが、腹前に突き出した腕の先で指を組む。マサキは僅かに開いている彼の手の平に足を引っ掛けた。次の瞬間、マサキの身体は腕を振り上げたファングによって、宙に放り上げられていた。
 足を縦にして立つのがやっと程度の一階の|庇《ひさし》部分。二階の窓柵を掴みながらそこに身体を収めたマサキは、下にいるファングに向けて手を伸ばした。流石は戦士の身体能力だ。ファングは壁を蹴り上げて宙に身体を浮かせると、マサキの手を掴んだ。そしてたった一本の腕の力を頼りに、マサキの隣へと身体を滑り込ませてくる。
「狭いな」
「そう思うなら更に上を目指せよ。窓ガラスを蹴破りながらの突入も絵になるもんだぜ」
「蜂の巣になる可能性も高いがな」
「よく云うぜ。トリッキーな動きを得意としていやがる癖に」
 声を潜めて会話をしながら、時計の時刻を確認する。残り二分弱。パン、パンと乾いた音が連続して響いてきているのは、階段から玄関ドアを目指しているザッシュに対する威嚇射撃であるのだろう。ならば少しぐらい室内の様子を探っても、犯人に悟られることはなさそうだ。マサキは開きっ放しになっている窓から内部を窺った。
 素通しになっている部屋の奥、細く開いた玄関ドアに密着して立っている男は、その小脇に確りと人質の女性を抱え込んでいた。残り一分弱。ファングと足並みを揃えて背後を取れば、人質の解放は容易であるように思われるが、追い詰められた人間はこちらの想定を上回る行動に出るものだ。マサキは窓柵を握り締める手に力を込めた。立て続けに鳴り響いていた発砲音が止む気配はない。残り十秒。
 行くぞ、とマサキはファングに囁きかけた。
 窓柵を掴んだ手を軸に宙へと身体を躍らせたマサキは、そのまま室内へと飛び込んだ。そして男が振り返るのと同時に床を蹴った。男の背後で玄関ドアが勢い良く開け放たれる。その奥より満面の笑みを浮かべたザッシュが姿を現す。瞬間、男はどちらに銃を放てばいいのか迷いを見せた。今しかない。いつしか肩を並べていたファングとともに男に迫ったマサキは、先ず男から人質を奪い取ると、後のことはふたりに任せるとばかりに窓辺へと。人質を庇いながら男との距離を開けた。
「覚悟を決めるんだな」
「余計なことをしなければ、刑期も短く済んだのに」
 ファングとザッシュのふたりに前後から首を挟み込むように剣を突き付けられた男は、ようやく自らが置かれている状況に理解が追い付いたようだ。諦めの表情を浮かべると、その手から銃を落とす。どうやら男はこのまま大人しく捕縛されるつもりであるらしい。
 マサキはザッシュに合図を送った。
 頷いた彼が通路に向けて合図を送ると、階段側から治安部隊が上がってくる靴音が響いてきた。行くぞ。とファングが男に動くように命じる。しおらしく頷いてみせた男からは、最早、抵抗の意思は微塵も感じられない。
 あれだけ無尽蔵に銃を撃ち続けた男の呆気ない最後。幾ら男がギャングの一員であろうとも、所詮は一般人。戦士三人を向こうに回して勝てる立ち回りが出来るほど、身体能力には恵まれていないのだ。
 だというのに。
 治安部隊にその身柄が引き渡されようとした瞬間だった。男は目を見開くと、な、何だ? と、途惑い気味に言葉を発した。次いで身体を極端にぶるぶると震わせ始めた男は、ああ、ああ! 聞くも悲痛な声を上げながら治安部隊の拘束を振り切って、マサキたちがいる窓辺へと突進してきた。伏せろ! マサキは女性を庇うようにして床に伏せた。だが、男の目的は人質やマサキにあるのではないようだ。
「た、助けてくれえ……っ!」
 必死の形相で迫ってきた男は、マサキたちを無視して窓辺に乗り上がると、助けを求める悲鳴を上げながらも躊躇うことなく。宙へとその身体を躍らせていった。


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