お久しぶりです。ようやく更新です。
実は今回の話、
まだラスト間近の展開が決まってなくてですね……(衝撃の告白)
書き進める内に神が降りてくるといいなあ。そんなことを思いながら本文へどうぞ。
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実は今回の話、
まだラスト間近の展開が決まってなくてですね……(衝撃の告白)
書き進める内に神が降りてくるといいなあ。そんなことを思いながら本文へどうぞ。
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<春|幽《かそ》けき日にありったけのお返しを>
地面に身体を叩きつけて絶命した男の後始末に追われること三十分ほど。現場の片付けが無事に済み、周辺道路の通行規制が解除されたところで、マサキたちはセオドア姉妹がステージを務める娯楽施設へと向かうことにした。
「納得はいかんな」
突如として窓に向かって突進し、宙へと身体を躍らせた男。それまでおとなしく司直の手にかかろうとしていただけに疑問が残るのだろう。治安部隊と別れて間もなくファングがぽつりと口にする。
「そうは云っても、何が出来るって云うんだ。あの男が俺たちの目の前で自ら窓を乗り越えたのは事実だぞ」
治安部隊の責任者は、目の前で起きた悲劇に事件性を認めなかった。マサキもそれは仕方のないことだと思う。あの場にあった幾つもの目。ましてや往来には野次馬たちもいたのだ。そうした衆人環視の中で、自らビルから飛び降りた男。どうやればその死に様に事件性が認められたものか。
「助けてくれと云いながら自殺か? 俺には到底認められん」
確かに男は見えない何かに抵抗するかのように、悲鳴を上げながら地面に落ちていった。地底世界の常識に従うのであれば、魔術、或いは催眠術といった遠隔操作が可能となる術が男を操ったのだとも考えられる。だからといってマサキたちに何が出来るだろうか? マサキたちはセニアの命を受けてこの街を訪れているのだ。本筋から逸れるような真似は慎まなければならない。
「全くその通りですね、ファングさん。でも、その謎はこの後に解けるかも知れませんよ」
先程、笑いながら男に剣を突き付けてみせた幼顔の青年は、人懐っこい笑顔を浮かべながら、マサキたちが聞き逃せない台詞をさらりと吐いた。
「何だ、ザッシュ。お前はまた何か聞き込んできたのか」
「治安部隊員の何人かが、奇跡の双子の仕業だって云ってたんです。それでちょっと野次馬に話を聞いてみたら、ここ最近事件絡みで不審死が続いているとかで」
流石は軍との調整役を期待されて派遣されただけはある。ザッシュの目端の利いた立ち回りに、成程。マサキはファングと顔を見合わせて頷き合った。
「この街の人間にとっては犯罪者のああいった死に方は、今日に始まったことではないってことか」
「そのようだな。しかもそれに例の双子は絡んでいると思われている。事実はさておき、な」
「ですから、双子の動きを追って行けば、あの男の死に関わる情報も入手出来るのではないかと」
「そう上手く話が進めばいいけどな」マサキは目の前に現れた身の丈二倍ほどの大きさの入場門を見上げた。
掲げられた看板に書かれたワンダーランド・オブ・ザルダバの文字。丸みを帯びた凝ったデザインが心を躍らせる出来だ。どうやらここがマサキたちの目的地、ゼフォーラ姉妹がステージを務める娯楽施設であるようだ。
マサキは入場門脇にある案内板に目を遣った。小規模な遊園地と動物園がセットになった家族向けの施設。街の人口の割には規模が大きく感じられるが、そこは近隣の町や村から流れ込んでくる人々の来場を当て込んでのことなのだろう。マサキは脇を通り抜けて園内に足を踏み入れていった家族連れを見遣った。街の人間とはまた違った民族性を感じさせる装いは他所の地域から訪れた観光客だからに違いない。
ファングの説明では入場料は無料。園内の施設を利用する際にのみチケットが必要になるようだ。
入場門の東側に動物園、西側に遊園地があり、敷地の中央に大道芸人たちがショーを繰り広げるステージがあるらしい。マサキはザッシュと肩を並べながら、先を往くファングに続いた。色取り取りの花が咲き乱れる花壇に、きちんと刈り込まれた植え込み。きっと、無料で入れる範囲を歩き回るだけでも楽しめる造りになっているのだろう。手入れの行き届いた通りには、休息日でないにも関わらずそれなりの人通りがある。
「あれがもしかして大道芸のステージですか?」
その通りの先に小さく映る白い建造物。ザッシュが目聡く尋ねれば、そうだとファングが頷いた。
「300人ほど入れるステージらしいが、休息日には全ての席が埋まることも珍しくないのだそうだ」
「人口三万人の街でそれは凄いな」
「周辺地域にまで名を知られている姉妹だしな。物見遊山で訪れる観光客も多いのだろう」
やがて真正面に近付く円柱形の建造物。その周りでは、人々が列を成して入場開始を待っている。
遠目にはわからなかったが、この建造物には屋根がないようだ。恐らく、純粋な建物ではなく、ステージがあるホールを石壁でサークル状に囲っているだけなのだろう。そうすることでステージ上の出し物が、チケットを持たない人々に見えないようにしているのだ。チケット制のステージでは良くある処置に、雨の日はどうするんだろうな。マサキは呟きながらその最後尾に並び、先に並んでいる人々を何気なく眺めた。
云われてみれば地元民らしきフラットな格好をしている人間は少ない。ファングの耳に入るまでに評判が広まっている姉妹のステージである。恐らく地元の人間は既に問題のステージを見尽くしているのではないだろうか? そう自分を納得させたマサキは視線をファングたちに戻そうとして、思いがけず目に入ってしまった人物に顔を顰めた。
シュウ=シラカワ。
彼から持ち込まれた預言の調査をしている以上、偶然に顔を合わせてしまうのも仕方のない話ではあったが、ラングラン王都から遠く離れたバゴニア領の近くで行き合わせてしまうとなると、わざわざマサキたちの動きに合わせて行動しているのではないかと勘繰りたくもなる。マサキは10人ほど挟んで前に立っているシュウの様子を窺った。ガイドブック片手の観光客に紛れて書物をつまびらいている彼は、マサキたちの存在には気付いていない様子だ。時折、列の動きを見る為に顔を上げてはみせるが、マサキたちのいる後方に視線を向けてくることはない。
それにしても、どういったつもりでシュウはこの施設に姿を現してみせたものか。
よもやマサキたちのように地道な調査をする為に赴いた訳ではあるまい。その程度の用であれば、サフィーネたちで用が足りるだろう。それをせずにシュウが単身この街に足を運んでみせたのだとしたら、それはサフィーネたちでは力不足となる事態が予想されるからに他ならない。
若しくは、預言の成就を防ぐ手立てが整ったか。
いずれにせよ、シュウは確信を持ってこの場にいる。
シュウ=シラカワという男は、与えられた好機をみすみす逃すような男ではないのだ。預言の成就にゼフォーラ姉妹が関わっている以上、いずれこの街で何某かの騒動が起こるのは必至。それがマサキたちの権限で誤魔化せる範囲のものであればいいが、周囲の迷惑を省みない男のすることだ。被害の規模が思いがけず大きくなる可能性もある。
「目立つ真似をされると後始末が面倒なんだがな」
「何の話です?」
マサキの呟きを耳聡く聞き付けたザッシュに顎でしゃくってシュウの存在を伝えてみせれば、午前中にさんざ指輪の件で騒いでくれただけはあった。気色ばった笑み。ザッシュは任務の最中でありながら、へえ……と、呟くと、意地悪くもマサキを見上げて、
「デートはする。指輪は貰う。そりゃ僕たちよりも先に気付く筈ですよね、マサキさん」
「お前はいい加減そこから離れろよ! そういう話がしたいんじゃねえよ!」
「わかってますよ。あの人がここに姿を現したってことは、僕たちの読みは正しいってことでしょう?」
しらと云ってのけたザッシュにマサキは舌を鳴らした。
「まだ決まった訳じゃないがな。おい、ファング」
マサキはファングにもシュウが列に並んでいることを伝えた。
ファングは自らの調査が大きな手柄になるかも知れない状況に、胸を躍らせたようだ。ちらとだけシュウに視線を向けると、気を引き締めなければな。口ではそう云いつつも、どこか誇らしげに映る笑みを浮かべてみせた。
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