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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

Lotta Love(21)
本当にお待たせいたしました!
こちらも連載再開です!

出来れば10万字ぐらいで終わらせたくもあるのですが、なんと吃驚。こちらの話もまだ二日目の午前中だったんですね。三日間観光旅行を楽しませるつもりでいる@kyoさんとしては、先の長い道のりに恐れ戦くばかりです。

実はこの話、三日目の朝から午後までの予定をまだ決めていなくて、ですね……その、もしご希望やご要望がありましたら、拍手で寄せていただけますと有難いのですが!!!!!

そんな感じでいつも拍手を有難うございます!励みになります!
では、本文へどうぞ!
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<Lotta Love>

「ボートもいいですが、マリンジェットの風には敵いませんね」
「お前も免許取れよ」
「ひとりで乗る為に取るのもね。それともあなたが付き合ってくれるの、マサキ」
「そうじゃなきゃ誘うかよ。一緒に取ろうぜ。それでヌエット海を走るんだ」
「そういうことでしたら」シュウが頷く。
 人前で肌を露出させることのない男がマリンジェットを嗜むようになったと知ったら、彼を慕う仲間たちはどう感じることだろう? きっと自分たちでは成せなかったことを成したマサキに、激しくも嫉妬を露わにしてみせるに違いない。厄介な状況になることは目に見えていたものの、その光景を想像したマサキは思いがけず笑みが零れるのを止められなかった。
「大体、お前はあの連中と海に行っても、服を着こんだまま本を読んでるだけじゃねえか。マリンジェットのひとつでも覚えりゃ奴らとの付き合いの幅も広がるってな……」
「彼女らにまで肌を晒してみせるつもりはないのですがね」
「ウエットスーツを着りゃいいだろ」
「身体の線が見えるのが嫌なのですよ」
「別に見せても減るもんじゃねえだろうよ。剣の稽古だって欠かさずやってるんだろ。それで自分の身体に自信がないなんて云わねえよな」
「彼女らに余計な妄想をさせるようなネタを、わざわざ与えてみせるのはどうかという話ですよ」
 その言葉を聞いて、ああ――と、マサキは頷いた。肉体的な苦痛でさえも快楽に変えてみせる不道徳《インモラル》な女狐に、夢見がちな元王女とくれば、確かにそういった姿を目にさせようものなら、口にするのも憚られるような妄想に使われかねないだろう。
「あなたがそうさせたいというのであれば、そうした格好をするのも吝かではありませんが」
「何でそこで俺に話を振るんだよ」
「嫌ではないの、マサキ」
「気分は良くねえけどさ……」
 波飛沫が頬に当たる。潮の香りの強い風を受けながら、そこまで会話を重ねたところでどうやら目的のスポットに着いたようだ。止まったモーターボートに、インストラクターがマサキを手招く。行ってらっしゃい。シュウの言葉を受けたマサキは腰を上げて、ボートの後部に向かうとインストラクターの手伝いを受けながらウエイクボードの準備に取り掛かった。
「お前はやらないのかよ」
「あなたがマリンスポーツを楽しみ切る時間を作るとなると、私はこの辺りで遠慮をしていた方がいいでしょう」
「よくわかった。これ以上はいいってことだな」
「察しが良くて助かりますよ、マサキ」
 ともに沖に向かいはしたものの、流石にウエイクボードやダイビングにまで手を出す気はないようだ。ボートから様子を見るに留めたシュウに見守られながらウエイクボードとダイビングを済ませたマサキは、最後に少しばかりシュウや他の観光客と一緒にグラスボトムボートを楽しんで、サヌールビーチを後にすることにした。
「流石は魔装機神操者の体幹だけはありますね。最初こそどうなることかと思いましたが、あれだけ見事に乗り越なせるようになるとは」
「今日は片手を離すのが精一杯だったけど、何度かやればアクロバティックな乗りこなしも出来そうだな。後ろ向きに滑ったり、空中で一回転したりしてみたかったんだよ、俺」
「時々私はあなたが何を目指しているのか、わからなくなりますよ」
 小さく声を上げながら笑ったシュウに、何でだよ。マサキは待たせていたタクシーに乗り込みながら、口唇を尖らせた。
「同じスポーツをやるなら、楽しみきった者勝ちだろ。あれがやりたいって気持ちがあれば上達も早くなるしさ」
「成程。あなたの運動神経が優れている理由がわかりましたよ、マサキ。どうやら私に足りないのは、そういった気持ちなようですね。どうも私は、スポーツに関してそういった考えが起こり難いようだ。学問であれば、あれが識《し》りたいといった目的が直ぐに思い浮かぶのですがね……」
「悪かったな。俺にはそういった気持ちがなくて」
「私の本を読んでいたではありませんか。あれにはそういった気持ちがなかったとでも?」
 次の行き先を告げたシュウに頷いたドライバーがタクシーを走らせ始める。流れ始める景色に、マサキは背後を振り返った。白いビーチに並ぶ色鮮やかなパラソルが遠のいてゆく。マサキは思った以上の成果を得られたサヌールビーチとの別れを名残惜しく感じながら、シュウに視線を戻した。
 シャワーを終えたばかりの濡れた髪が頬に張り付いている。それをそうっと伸ばした手で除けてやる。頬から伸びる稜線が、細い顎まで続いている。つくづく嫌になるほどに整った顔立ちの男だ。そう思いながら、マサキは先程のシュウの疑問に対する答えを口にする。
「あれは暇潰しっていうか、お前が何を読んでいるのかを見たかったっていうか」
 マサキ、と柔らかい声がマサキの名を奏でる。夜の合間に吐息に紛れて名を呼ぶのにも似た響きに、どきりとマサキの胸が疼いた。シュウの頬に置いたままの手が掴み取られる。日々スキンシップが増す男は、徐々にタクシーの中であろうとも行動を慎まなくなりつつあるようだ。次の瞬間、手のひらに口付けられたマサキは、予想だにしていなかった行動に頬が染まるのを感じながら、自身を真っ直ぐに凝視《みつ》めてくるシュウの視線から顔を逸らした。
「その程度には私を気にかけてくれているのですね、マサキ」
「馬鹿。お前、ここを何処だと思って」
「これが嬉しくない筈がない」
 口唇の合間から這い出たシュウの舌がマサキの手のひらを舐めた。もう、止めろって。運転手を同一とする二日目のタクシーに、彼は気を緩ませているのだろうか。気恥ずかしさといたたまれなさに声を上げたマサキに、シュウはふふ……と微笑《わら》ってみせながら今一度口唇を深く押し当ててきた。何なんだよ、お前は。愚痴めいた言葉を吐いたマサキの耳元にその口唇を近付く。
 ――続きは夜にしますよ。
 そして掴んだ手を離した彼に、どういった態度を取ればいいかもわからずに。ただ静かに手を握り締めたマサキは、その拳を膝の上においてから、シュウから視線を外すように窓の外へと目を向けた。


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