今日は謝罪からスタートしようと思います。名前がほぼ被りだったので、双子の姉妹の苗字を変更しました。過去記事には反映済です。宜しくお願いします。
直感で名前を付けていることがバレてしまった……
と、いったところで本文へどうぞ!
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直感で名前を付けていることがバレてしまった……
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<春|幽《かそ》けき日にありったけのお返しを>
ほっそりとした小柄な容姿。太陽の光を受けて輝く空色のロングヘア―が、吹き抜ける風にそよいでいる。清楚な白い揃いのワンピースに身を包んだ少女たちは、胸を張って堂々と、進行役の男と入れ違うようにしてステージの前方に歩み出てくると、11歳とは思えぬ優美な笑顔を浮かべながら無言でステージ袖を指差した。
いよいよだ。しんと静まり返ったホールに、マサキは彼女らが指差した先を見守った。
直後、ステージの右袖から、ガラガラとタイヤの音を響かせながら大型の檻が運ばれてくる。ステージ中央よりやや右手側で動きを止めた檻の中では、何とも形容し難い一匹の獣が低い唸り声を上げていた。
ライオンを思わせる黄金色のたてがみに大きく裂けた口。背中にラクダのような瘤と鷹にのような翼がある。額には山羊を彷彿とさせる角が二本。幾つかの生物を掛け合わせたような猛獣は、大勢の好奇の視線に晒されたことで興奮したのだろう。鋭い牙を剥きながら観客席に向かって吠え猛った。
次いで左袖より運ばれてくる一台のベッド。どちらがシーシャでどちらがミーシャなのかマサキにはわからなかったが、よく似た面差しのふたりの内、僅かに身長が高い方がベッドに横たわった。次いで、残った少女が檻を支えているスタッフに、その扉を開くようにジェスチャーで伝える。
――何が始まるんだ。
マサキは隣に座っているザッシュを見た。これまでも同様の演目が行われてきた実績がある以上、不測の事態が起こる可能性は限りなく低くはあったが、だからといって万が一の事態が起こらないとは云い切れない。観客席に被害が及ぶのだけは避けなければ。そのマサキの考えはザッシュに伝わったようだ。彼は小さく頷くと、腰に下がっている剣に手を掛けた。
次の瞬間、スタッフが檻の扉を開く!
同時に轟く猛々しい獣の咆哮。それまで見世物にされていたフラストレーションが、キメラ型の猛獣をより獰猛にしたのだろう。猛獣は勢い良く檻の外へと飛び出してくると、少女を獲物と定めて飛びかかった。
騒然となる観客席。あちこちから悲鳴が上がる。
まさか――マサキは剣を掴んで腰を浮かせた。そして、1秒……2秒……3秒と事態が動くのを待った。だが、起こるべき事態は起こらなかった。少女を目前にしてぴたりと動きを止めた猛獣は、観念した様子で前足を床に付けた。
少女の小さな手がたてがみに触れる。それが合図だった。猛獣はごろりとステージに仰向けに転がると盛大に喉を鳴らした。甘えた声を上げながら、少女の抱擁を受けている猛獣は、すっかり気を許しているように映る。
何が起こったのか。人が変わったかのような猛獣の変化は、マサキの視線をステージに釘付けにした。
「これがゼフォーラ姉妹が起こす奇跡だ」
ファングが静かに言葉を吐いた。
「嘘か真かはわからんが、彼女らは自らの魂を他の生き物に宿すことが出来るらしい」
成程と、ザッシュが頷く。だから、セニア様は――続く彼の言葉はマサキの耳には入ってこなかった。
――中に何か|い《・》|る《・》。
王宮武器庫に火を放ったふたりの兵士、アドロスとセオドア。その片割れのアドロスは、意識を取り戻した僅かな時間にそう言葉を遺した。
――助けてくれ。
ビルに立て籠もった男はそう叫び声を上げながら、窓の外へと身を躍らせて行った。
いずれのケースも自らの意思では制御出来ない奇禍に見舞われているという点で一致しているだろう。まさか。マサキは首を振った。死んだ人間でさえも生き返るラ・ギアス世界で起こり得ないことはないとは云えど、それは魔術や呪術、或いは練金学といったシステムが確立されているからこその奇跡でもある。
――中に何か|い《・》|る《・》。
王宮武器庫に火を放ったふたりの兵士、アドロスとセオドア。その片割れのアドロスは、意識を取り戻した僅かな時間にそう言葉を遺した。
――助けてくれ。
ビルに立て籠もった男はそう叫び声を上げながら、窓の外へと身を躍らせて行った。
いずれのケースも自らの意思では制御出来ない奇禍に見舞われているという点で一致しているだろう。まさか。マサキは首を振った。死んだ人間でさえも生き返るラ・ギアス世界で起こり得ないことはないとは云えど、それは魔術や呪術、或いは練金学といったシステムが確立されているからこその奇跡でもある。
勿論、確立されたシステムだからといって無尽蔵に使えるものではない。調和の結界然り、ヴォルクルスの召喚然りと、オカルティズムの実現化にはそれ相応の代償が必要だ。リスクを負ってまで万能性を求めるのか? それとも自然の為すがままに生きるか? ……ラ・ギアス世界の秩序は、リスクを持たない万能性を認めないことで成り立っているのだ。
ノータイム、ノーリスク。自らの魂を対象を選んで憑依させられる上に、その対象を自在に操れるなどといった奇跡は、何処の世界であろうとも混沌を生み出すものでしかない。あってはならない類のオカルティズム。如何に地上世界と異なる常識が蔓延るラ・ギアス世界といえども、受け入れられない事象はあるのだ。だからこそセニアは、マサキたちにゼフォーラ姉妹の真実を見極めるようにと云った。それは彼女自身、ゼフォーラ姉妹の奇跡が真のオカルティズムであることを認めているからに他ならない。
「良く訓練された獣って可能性はないのかよ」マサキは座席に腰を戻した。
「さあな。それはショーの続きを見て判断するんだな」
たかだかショー程度に心を乱してしまった。口の端を吊り上げて、揶揄い気味に言葉を吐くファングに、随分な自信じゃねえか――マサキは気まずさを誤魔化すように言葉を継いで、ステージに視線を戻した。それまでステージ上で戯れていたらしい。空色の髪を持つ少女と黄金のたてがみを持つ猛獣は、その瞬間、まるでマサキが視線を戻すのを待っていたかのように、ステージの中央に並んでみせた――……。
※ ※ ※
圧巻というよりは、狐につままれたようなショーだった。
ステージの中央に猛獣と並んでみせた少女は、スタッフが用意した八組の0から9までの数字が書かれたカードを手に、猛獣とともに客席を回った。そして8つの数字をそれぞれ観客に選ばせると、スタッフに命じて4桁の数字を二組作った。
その中の一枚は、マサキが選んだカードでもあった。
8389と6217が一組目。6831と2879が二組目。マサキが選んだ数字は7だ。それらの二組の数字を使って彼女がしたことは単純明快、足し算と引き算だった。
ただ、解いたのは件の猛獣であったが。
禍々しいフォルムとは裏腹に、繊細にもマジックを口に咥えて、答えをホワイトボードに書き付けてみせた猛獣に、マサキは感心するよりも呆けるしかなかった。そうした芸を可能にしているのが憑依であるとファングに聞かされてはいたものの、認め難い思いが勝る。そう、それは良く出来たマジックショーを見ているような感覚だった。どこかにトリックが使われているに違いない――ラ・ギアス世界の非常識に慣れたつもりでいたマサキではあったが、まだまだ地上世界の常識を全て捨て去るには至れていないのだろう。自分の中にある固定観念の強さを思い知ったマサキは、目の前で起こっている非常識な事態を素直に受け入れているファングとザッシュ、ふたりの純粋な地底人を羨ましくも感じたものだ。
猛獣がホワイトボードに書いた答えは、全て正しかった。
もしかすると、キメラ型の猛獣は良く出来た着ぐるみなのではないだろうか? ホールを出たマサキの脳に今更ながらに邪推が過ぎるも、カードを選ぶ際にそれなりの距離にまで接近している。生臭さの混じった生きた獣の臭い。マサキの目の前に顔を突き出してきたあの猛獣は、人工物では決して出せない匂いを漂わせていた。
「如何でしたか、マサキ」
ホールの後方の観客席に陣取っていた男は、どうやら先に席を立ってマサキたちの訪れを待っていたようだ。かけられた声に顔を上げたマサキは、石壁に凭れるようにして立っているシュウに、
「狐につままれた気分だ」
「これが現実ですよ」
マサキの素直な感想が可笑しかったのか。小さく笑ったシュウは、そのままマサキたちに肩を並べてくる。
「私に用があるのでしょう」
「そう思うんだったらセニアと連携を取れよ。どうしてお前とここで顔を合わせることになるんだ」
「それも含めて話をしましょうと云っているのですよ」
このまま情報交換といくつもりらしい。マサキの言葉を強弁で遣り過ごして、手近な飲食施設に足を向けたシュウに、相変わらずだな。と、ファングが呆れた調子で呟く。いつものことですよ。こちらも呆れてはいるようだ。ザッシュもまた呟く。
「シュウ、お前。本当に――」
身勝手なこと他ないシュウの態度に、マサキは反射的に言葉を返そうと口を開いたが、だからといってここで云い争っても事態は進展しない。マサキは云いたい言葉を飲み込んで、シュウの背中を追った。それに気付いているのかいないのか。シュウは冷然とマサキたちを振り返ると、
「ほら、行きますよ。ゆっくりしていては次の被害が出かねない」
云って、施設の中に足を踏み入れて行った。
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