まだまだ続くよ!
<三が日>
目を覚ますと、陽が高かった。
開かれきったカーテンにベッドの隣を窺えば、マサキは既に起きているようだ。空になっているベッドに、シュウはのそりと身体を起こした。
今日も肌寒い気候なようだ。窓側から微かに染み出してくる冷気が肌を刺す。
鋭い太陽の光に目を細めながらベッドを出たシュウは、服を着替え、身だしなみを整えてからリビングに向かった。賑やかな話し声から察するに、使い魔たちも起きているようだ。おせちを広げたマサキとテレビを眺めながら、他愛ない雑談に花を咲かせている。
今年のマサキはいつまで家にいてくれるのだろうか。
恋人として付き合うようになって最初の年のマサキは、二日の昼にはもう王都への帰途に就いていた。それが少しずつ時間を延ばし、三が日をここで過ごすようになった。だからシュウは云うのだ。松の内が明けるまでいればいいのに。
「ねえ、マサキ」
シュウは炬燵に脚を入れながら、そぞろおせちを抓んでいるマサキの顔を覗き込んだ。
「松の内明けまでいるのは流石に無理だろ。そもそも三が日だって日本人だから、で、許してもらってるようなもんだぞ」
「セニアにも困ったものですね」シュウは小さく溜息を吐いた。「私に限らずあなたまでも扱き使って」
情報局の女傑は自身が年末年始関係なく働いていることもあってか、周りの人間も自分と同じように働くのが当たり前だと思っているらしかった。王位継承権を持たなかったが故に、王室内で実力でのし上がった彼女はスパルタ気質なのだ。そうでなければ、命懸けて魔装機神操者としての使命に励んでいるマサキたちに、雑務や書類整理を頼めもしまい。
「つーてもな、山賊だの盗人だの暴漢だのは年中無休だしなあ」
シュウはマサキの慌ただしいだろう日常を思って口元を綻ばせた。
彼が身を置いている日常をシュウは殆ど知らなかった。それはマサキが語って聞かせてくることがなかったからだ。だからシュウは、マサキの日常を想像で補うことしかしてこなかった。
そこに僅かながらでも触れられる喜び。
マサキはどこまでいってもマサキなのだと知れることが、彼を愛するシュウにとって嬉しくない筈がない。
「書類整理は?」
「ありゃセニアの趣味だろ。俺たちに書類を書かせたり整理をさせたり、なんて、普通の人間だったら考え付きもしねえだろうに」
「趣味で扱き使われるのでは堪ったものではありませんね」
「だろ? あれに比べりゃ、あいつが作った魔装機のテストパイロットの方がまだ楽なんだが、俺が乗ると壊しちまうからな……」
賑やかな日常に身を置いているのだと窺える口振り。捻くれた物云いの割には楽し気だ。それがシュウには少しばかり妬ましくも感じられる。
シュウの許にいる間のマサキは、日頃の快活さはどこにやら。大人しくテレビを見ていることなどが多い。それどころか昨日のように、まるで地蔵なのかという勢いで決めた場所から動かないこともままある。
きっとインドアなシュウに合わせてくれているのだ。
それだけに、シュウとしては少しは彼らしく過ごせる時間を用意してやりたいところだが、見る限り今日のマサキも炬燵から動く気がなさそうだ。酒でも飲むか。などと、寝正月を過ごす気満々な台詞を吐いている。
「炬燵は人を駄目にしますね」
「何だ? 今頃気付いたか」
確かに今日のように肌寒い日には使い勝手のいいアイテムだ。とはいえ、炬燵に根が生えてしまって、全く動かなくなってしまうとなると大いに問題がある――ような気がする。シュウはマサキを横目に苦笑を浮かべた。
「初詣に行きませんか」
「何処にだよ」
「何処にでも」
「でもなあ、俺が地上にでるとなあ」
「セニアには私から云っておきますよ。私が連れ出したとね」
そうなる前にマサキを炬燵から引き剥がさなければ。シュウはマサキに立つように促した。
面倒臭え。そう云いながらも、今日は少しばかり動く気が出てきたようだ。炬燵から出たマサキに、シュウもまた立ち上がった。
ふたりでおせちを片付け、上着を羽織る。こうなると騒がしくなるのが使い魔だ。何処に行くんだニャ。などと云いながら、こちらもぞろぞろと炬燵から姿を現してくる。
「あなたたちも来ますか」
「行くニャ」
「行くニャのね」
「あたくしは当然おともをしますよ! ええ、させていただきますとも!」
「なら、全員で初詣と洒落込むことにしましょう」
肩に乗ったチカに、足元に擦り寄ってくるシロとクロ。そして隣に立つマサキ。
まるで、身内の集まりのようだ。
その現実に少しばかりの誇らしさを感じながら、「行きましょう」と、シュウは全員を引き連れて玄関に向かっていった。
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