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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

主人と世話人と(中後)
まさかまさかの終わってない!なんですよ。びっくり。
大丈夫です!次回でちゃんと終わります!ホントに。

何を書きたいのかよくわからない話ですが、その謎はラストシーン近くで明かされます。
その為だけにこれだけの文字数打ったのですよ……

拍手、コメ有難うございます。励みとしております。
レスは明日お返しします!


<主人と世話人と>

「それが怖いんじゃねえか。こいつの優しさなんて想像も付かねえ」
「おっかしいなあ。ご主人様、マサキさんには結構優しい筈なんですけど」
 はあ? マサキは声を上げずにいられなかった。こうも貸しだ借りだと煩いのに、何処が優しいのか。
 そもそも今日ここにマサキが呼び出されているのも彼の差し金である。困れば直ぐにマサキを頼ってくる男。遠慮なく厄介事に巻き込んでくるシュウに優しさがあるというのならば、マサキなどは聖人君子の部類に入るのではなかろうか。
「マサキではわかる筈もないのでしょうね」
 だのに澄ました顔でシュウが云ってのけるものだから、マサキとしては耳を疑わざるを得ず。
「お前、今日は自重するって云ってなかったか?」
「云いましたね。それが?」
「自重=しないって意味ではありませんからねえ。まあ、ご主人様としては充分に自重しているつもりなんじゃないですか? 現にここまで一度も喧嘩をせずにこれてるんですし」
「本当にああ云えばこう云う奴らだな! お前たちの料理にだけタバスコを大量に入れるぞ!」
 どうせ今日の彼は目が見えていないのだ。食べ物の色が変わっていようともわかる筈がない。だからこそマサキがそう脅しを口にしてみれば、何がそんなに可笑しいのか。クックと声を潜めて嗤ったシュウが、「匂いで気付きますよ、マサキ」
「美味そうな匂いで味が壊滅的な料理ってないかね」
「嗅覚と味覚は連動していますからね。その希望を叶えるのは非常に難しいかと」
「人間って上手い具合に身体が出来てるよなあ」
 苦々しさを感じながらも、「まあいい。行くぞ」と、二匹の使い魔に声をかけたマサキは、今度こそとキッチンに向かった。
「ニャにを作るんだニャ?」
「さあ。何を作ったもんか。大した食材もねえしな。簡単に作れるものを作るしかねえけど」
 煮物、焼き物、炒め物……何を作るか冷蔵庫の中身を覗き込みながら考えるも、これだというものが思い浮かばない。
 マサキはうーんと唸った。ひと通り料理は出来るが、手の込んだものは苦手だ。特に香辛料をあれこれと使うような料理に関しては、味の足し算が複雑過ぎるからか、未だにレシピを覚えられずにいる。
「何か、旨いもんが食いてえな」
 わざわざ遠路はるばる駆け付けて、シュウの話し相手を務めているのだ。少しぐらいはマサキの我儘を通してもいいだろう。マサキは何を作るか決めた。日本食だ。そう口にして、牛肉、玉葱、卵と、あまり充実していない食材の中から、料理に使う材料を取り出してゆく。
「日本食ってニャんにするの、マサキ?」
「他人丼だな」
「他人丼? ニャあに、それ」
「鶏肉以外の肉を卵でとじたモンだ。結構美味いぞ」
 日本米と比べれば少しばかり水分に乏しいものの、ラ・ギアスにも米はある。マサキは調理に取り掛かった。先ずは米を研がなきゃな。云いながらボウルの中に米を放り込む。
「マサキはいいけど、シュウは大丈夫ニャの、それ。日本食って、箸を使うんでしょ?」
「あんまり凝ったモンを作っても、あいつが食べるのに苦労するだけだろ。丼ものだったらスプーンでも食えるしな」
 米を研ぎながら答えれば、二匹の使い魔はマサキがそこまで考えていたとは思っていなかったようだ。感心した表情になると、口々に感嘆の声を上げた。
「マサキにしては考えてるのニャ!」
「凄いのね!」
「お前ら、本当にいつか三味線にするぞ!」
 研ぎ終えた米は水を多めにして炊くことにする。炊飯器に米を移し替え、そのスイッチを入れたマサキは、続いてと玉葱に手を掛けた。
「うう、三味線は怖いのニャ……」
「まだ剥製の方がいいのよ……」
 いつだったか、地上に出たついでに、三味線の実物を知らない二匹の為に博物館に見に行ったことがある。本物を目にした二匹は、それはそれは衝撃を受けたようだ。マサキが三味線とひと言口にするだけで大人しくなるようになった。
 足元で震え上がっている二匹の使い魔を尻目に、マサキは玉葱の皮を剥くことにした。買ったばかりと思しき玉葱だけあって、身は綺麗な乳白色だ。マサキはまな板と包丁を取り出した。
 皮を剥いた玉葱を二つに割って、薄切りにする。トントントンとキッチンに響き渡る包丁の音。カウンターに乗り上がってきた使い魔たちが不思議なものを見るような目で、マサキの手元を覗き込んでくる。
「マサキって不器用ニャのに、料理は出来るのよね」
「知恵の輪が外せニャいのに、不思議ニャんだニャ」
「あれとこれとは絶対に身体の使う部分が違うだろ。てか、お前らそれ絶対に食うなよ」
「わかってるんだニャ」
「毎回マサキそう云うけれど、あたしたち魔法生物ニャのよ。それニャのに中毒を起こすのかしら?」
「わからないからこそ、食わない方がいいだろ。何かあったら俺じゃどうにも出来ないからな」
 実際のところ、マサキは魔法生物である彼らがどういった構造をしている生き物なのかわかっていない。もしかすると彼らには生物と同じような内臓器官はないのかも知れない。いつでも元気な二匹の使い魔にマサキはそうも思うも、だからといって、自在に形を変えられる生き物でもない。立派な猫の姿をしている以上、用心しておくに越したことはないだろう。
「しっかし、謎が多い生き物だよな。お前ら。ちゅーるには飛び付くしよ」
「あれはめちゃうまニャんだニャ!」
「本能には逆らえニャいのね!」
 玉葱を切り終えたマサキは鍋に水と調味料を入れて火にかけた。そこに薄切りにした玉葱を投入して煮立たせる。ふと、懐かしい光景が脳裏にフラッシュバックした。あれはいつの日だっただろう? エプロンを着けた母親がキッチンに立っているのを見上げていた記憶……きっと幼稚園ぐらいの記憶に違いない。自分が手にしている玩具を見たマサキはそう思った。
「人間って、いつの間にかでかくなるよな」
「ニャあに、それ。何だか自分が人間じゃニャいみたいニャ云い方ニャのよ」
 昔はこんな風に両親が台所に立って料理を作ってくれた。それを乞われてのこととはいえ、今度は自分が他人の為にやっている。そう考えると如何に鈍感なマサキとて、不思議な気分になったものだ。
 今は偶に料理を振舞う程度だが、いつかは日常的に家事をこなす日も来るのだろう。マサキはプレシアの存在に有難みを感じながら、再びカウンターの前に立った。玉葱が煮えるまでの間に肉の準備だ。薄くスライスされた牛肉を食べ易い大きさへと切ってゆく。それを鍋に投入したら、今度は灰汁取り。細かく灰汁を取って具材を煮詰めていると、段々といい匂いがキッチンに充満してきた。
「かなり煮てるけど大丈夫ニャんだニャ?」
「焦がしたりしニャい?」
「まだこんだけ煮汁が残ってるんだぞ。それに、俺は玉葱がくたくたな方が好きなんだよ」
 とはいえ、結構な時間を煮てしまっている。マサキはうっすらと色付き始めた玉葱をフォークで突いてみた。すんなりと先端が入る辺り、いい頃合いなようだ。
 マサキは卵を溶き始めた。
 空気が入らないように溶いた卵。白身がざっくばらんに残っているが、荒さもまた味だ。それを鍋に回し入れ、少しだけ火を通したところでコンロを止める。瞬間、マサキの腹が盛大に音を立てた。
 いつの間にか空腹を覚えてしまっている自分に、それもそうだ。マサキは炊飯器に目を遣った。地上の炊飯器と比べると早く炊き上がるように出来ているのは流石の技術力だったが、それでも炊き上がるにはまだまだ時間がかかりそうだ。
「腹が減った」
「マサキ、お昼ご飯食べてニャいんじゃニャいの?」
「そうなんだよな。朝食後直ぐだったもんな、チカが呼びにきたの」
「これで量が足りるのかニャ?」
「足りなかったら冷蔵庫の中のソーセージでも食う。そのぐらいはしてもいいだろ」
 一度、寝室に戻って時間を潰すことも考えたが、猛烈に減った腹がキッチンから立ち去るのを躊躇わせた。とにかく米が炊き上がるのが待ち遠しくて仕方がない。マサキはカウンターの向こう側に置かれてる椅子に腰掛けた。そうして、二匹の使い魔と話をしながら米が炊き上がるのを待った。
「ピーピー云ってるのね」
「炊き上がったんだニャ」
 20分ほど経って炊き上がった米に、盛り付けを始める。
 いい加減、背中に胃袋がくっつきそうだった。マサキは深皿に盛ったふたり分の他人丼を両手に、足早に寝室に戻った。気配でマサキが戻ってきたことに気付いたのだろう。ぼんやりと天井の明かりを見上げていたシュウが、マサキの方へと顔を向けてくる。
「待っていましたよ、マサキ」
「何だ。天井なんか見上げて。何か見えてるのか?」
「光があることぐらいはわかるのですよ。他は全くですがね」
「ああ、そういうことか。見えるようになったのかと思ったぞ」
 キッチンまでシュウを連れてくることも考えたが、二人掛けとはいえ立派なテーブルセットがあるのだ。迂闊に彼を動かした結果、怪我でもさせてしまっては笑い話にもならない。
 ここでいいよな。マサキはシュウに尋ねた。彼もまた迂闊に動き回るのは避けたかったのだろう。ええ、と頷いて、「いい匂いですね」目の前に置かれた他人丼の匂いを嗅いでみせた。
「スプーンならお前も楽に食べられるだろ」
「気を遣ってくれたのですね。ところで、これは何です」
「他人丼。お前が食ったことがあるかわからねえけど、まあまあ美味いぞ」
 マサキはシュウの手にスプーンを掴ませた。そうして彼が深皿の位置を片手で探り当てるのを見守った。
 深皿の位置を確認したシュウが、先ずはひと口と他人丼を口に運んでゆく。
 どうだよ? マサキは尋ねた。成程、だから他人丼と云うのですね。シュウは使われている材料で料理名の由来を覚ったらしかった。美味しいですよ。うっすらと口元に浮かんだ笑みに、満更でもなさそうだ――と、マサキも続いてスプーンを手に取った。そして思い切り他人丼を頬張る。美味い。口の中一杯に広がった甘じょっぱい味に、堪んねえな。マサキは顔を上げた。
「自分で云うのもなんだが、美味いな」
「思ったより、あなたは料理が出来るタイプなようですね」
 腹が減っていたこともあったし、久しぶりの日本食なこともあったが、自分で作ったとは思えないぐらいに美味しく感じられて仕方がない。静かにひと口、ひと口よ咀嚼してゆくシュウの向かい側で、マサキはひたすらに他人丼を貪り食った。
 決して品が良いとは云えない食べ方ではあったし、シュウの目が見えていようものなら、眉のひとつも顰められたに違いなかっただろうが、そういったことに構っている余裕はもうなかった。
「美味しかったですよ、マサキ。御馳走様でした」
 マサキが深皿を空にしてから10分ほど。ようやくシュウが食事を終えた。
 目が見えていないとは思えないほど、綺麗に中身を片付けられた深皿。その食器をキッチンのシンクに沈めたマサキは、すっかり暗くなってしまっている外に時計を確認した。そして、寝室に取って返して、今日の風呂をどうするかをシュウに尋ねた。
「タオルで背中拭いてくれるだけで結構ですよ。髪でしたら昨日、テリウスに洗うのを手伝ってもらいましたしね」
「だったら先にシャワーを借りていいか。髪に付いた埃を洗い流したい」
「構いませんよ。浴室にあるソープ類は好きに使ってください」
 シュウの許可を得たマサキは浴室に向かった。
 大したことをしていないのに、怒涛の勢いで一日が過ぎているような気がする。恐らく、居慣れない家で過ごしているからなのだろう。マサキはシャワーのコックを捻って、熱い湯を頭から被った。
 生き返る。ほうっと口から衝いて出た息。あまりの心地良さにバスに湯を張って浸かりたくもなったが、ここはあくまでシュウの家である。マサキはそのままさっと身体と頭を洗って、浴室を出た。そして洗面所でシュウの為のタオルと湯を用意する。
「早かったのね、マサキ」
「まあ、俺だけゆっくりシャワーを浴びるのもな」
「気を遣い過ぎニャ」
「いや、でもな。ここは俺の家じゃないしな。気を遣って損はないだろ」
 湯が冷めない内にとそれらを手に急いで寝室に戻れば、変わらずにソファに腰掛けたままでいるシュウがチカと会話をしているところだった。
「しっかし、いいんですか、ご主人様。マサキさんに身体を拭いてもらうって」
「背中だけですしね。他は洗面器を濡らしてもらえさえすれば、自分でやりますよ」
「潔癖ですもんね、ご主人様は。その柔肌の割にしっかり擦らないと気が済まないというか……」
「何だ? 俺が邪魔だって云うなら、席を外すぞ」
 どうやら話に熱中していてマサキの存在に気が付いていなかったようだ。マサキの言葉にびくっと身体を震わせて、チカが飛び上がる。
「いるならいると云ってくださいよ、マサキさん。びっくりしたじゃないですか!」
「ちゃんと今、声を掛けただろ。ほら、シュウ。背中拭くぞ。こっちに座れって。それとも俺たちは席を外した方がいいか?」
 慌てふためきながら宙を舞うチカを無視して、湯を張った洗面器とタオルをサイドチェストの上に置く。いいえと首を振ったシュウがソファから立ち上がる。こっちだ。マサキはシュウの手を取って、ベッドの端へと彼を連れて行った。




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