もう全然SSじゃないやというのはさておき、久しぶりに拍手を入れ替えました。
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いつも拍手有難うございます。励みになります。
今週は六勤にあまり活動出来ない可能性もあるのですが、出来る限り頑張ります。
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<主人と世話人と>
「お前は何を飲むんだよ」
「紅茶で結構ですよ」
「お前にとってはたかが紅茶じゃねえだろ。誰に物を頼んでるんだ」
「マサキ=アンドー。魔装機神サイバスターの操者ですね」
さらりと答えてくるシュウにマサキは唸った。
シュウが茶類に拘りを持っているのは、マサキたちにとっては周知の事実だった。性格が性格なだけに、進んで語って聞かせてくるようなことはなかったものの、訊ねれば際限なく語り続けてみせたものだ。
味や香り、茶葉の産地、煎り方……いつだったか、喫茶店でシュウが飲んでいる紅茶を試しにマサキが|注文《オーダー》してみたことがあった。運ばれてきた紅茶を見て先ず驚いた。表面に浮かぶ黄金の輪《ゴールデンリング》。とにかく見た目からして美しい。加えてその芳醇な味わい! 飲み物の質にあまり拘わらないマサキですら美味いと唸らずにいられない紅茶の味は、一生忘れられそうにない。
濁りのないストレートティー。茶葉の香りが鼻にすっと入ってくる。舌の上を滑らかに転がってゆく紅茶の味を思い出したマサキは、果たしてそういったレベルの高い茶類に慣れてしまっているシュウが、マサキの淹れた紅茶に納得出来たものか――と、不安を抱かずにいられなくなった。
当然だ。あれは通り一遍の淹れ方で出る味ではない。そのぐらいはマサキにもわかる。
「お前が納得出来るような紅茶を淹れられる気がしねえんだが」
「そうニャそうニャ! 不器用なマサキにレベルの高いことを求めるニャニャんだニャ!」
「マサキに出来るのは鍋奉行ぐらいニャのよ!」
マサキの言葉の尻馬に乗って主人をくさし始めた二匹の使い魔に、「お前らに云われると猛烈にムカつくな」マサキは口をへの字に曲げた。擁護がまるで擁護になっていない。
確かにマサキは飲み物に限らず、食べ物の味でさえ拘るタイプではなかったが、それはラ・ギアスの食文化の正解を知らないからだ。生まれ育った世界でない以上、そういう味だと云われれば信じるしかない。
焼き物、炒め物、煮物……異国だけあって、中には流石にこれは食べられないという味の料理もある。それでもマサキは出てきた料理に文句を云ったことはなかった。その代わり、自身の故郷の味――日本食を作る時にはとことん拘った。そのくらいの手間は料理にかけられる人間だ。
シロやクロが云うような不器用な人間では決してない。そうしたマサキの真実を、果たしてどこまで気付いているのか。あまり気にしていない様子のシュウが、大らかに言葉を継ぐ。
「いつも家でやっているようにで結構ですよ。云ったでしょう。あなたに求めているのは、私の話し相手だとね」
「本当かよ。だったら、どうなっても絶対に文句を云うなよ。後から不味いなんて云うのは絶対ナシだからな」
何がそんなに愉しいのか。それともそれだけ退屈していたのか。瞬間、緩やかに彼の口元に笑みが広がる。直後、ええ――と、しっかり頷いたシュウに、マサキはソファから立ち上がった。
「なら、ちょっくら茶を淹れてくるかね」
チカにシュウの元に残るように告げ、二匹の使い魔とともにキッチンに向かう。
シュウ曰く、冷蔵庫や戸棚の中身は好きに使っていいということだ。マサキは先ず戸棚を開いた。取り敢えず中に何があるかを確認しなければ。
調味料にクッキー缶、インスタントコーヒー、紅茶の茶葉。レトルト食品も僅かながらある。マサキは続いて冷蔵庫を開いた。牛乳、チーズ、卵……使いかけの野菜に、ハムとソーセージ……必要最小限は揃っているが、物足りなさを感じるのは否めない。
恐らくこの家は、シュウが一時的に身を置く為に用意した場所であるのだろう。
急いで買い揃えたと思しき食材がその証拠だ。あれだけ味に拘ってみせる男の割には一種類しかない茶葉。どの紅茶を悩まずに済むのは結構なことだが、それだけに失敗が出来ないというプレッシャーを強く感じる。
「そうは云っても、マサキ紅茶を美味しく淹れる方法ニャんて知らニャいんじゃニャいの?」
「そもそも茶葉から紅茶を淹れる方法を知ってるのかニャ? いつもティーパックで済ませてた気がするんだニャ」
「まあ、テュッティの遣り方を真似りゃなんとかなるだろ」
幸い、食器棚の中にティーポットがある。ここに茶葉を入れれば何とかなるに違いない。マサキはテュッティの遣り方を思い出しながら紅茶の準備を進めていった。
最終的に砂糖で台無しにしてしまう割には、ティーパックで淹れる紅茶をあまり好まないテュッティ。無駄なことをすると思っていた彼女の拘りがこんなところで功を奏すとは。思ったよりもいい香りに包まれたキッチンに、ひとり満足したマサキは自分用にコーヒーを用意し、戸棚の中にあったクッキーを皿に出す。
それらをトレーに乗せてシュウが待つ寝室へと戻ったマサキに、匂いでわかったようだ。思ったりよりいい香りですね。テーブルの上に並べられたカップに皿を、たどたどしく指で辿りながらシュウが云った。
「大丈夫かよ。飲むときには云えよ。カップを掴ませてやるから」
「そうしていただけると有難いですね。一生というのであればこうしたことにも慣れなければなりませんが、今日明日には治ると云われているものの為に、目が見えない生活に慣れるのは不合理だと感じていたところですので」
「お前とことん合理主義だよな。トイレとかどうしてるんだよ。必要なら道案内はするが」
「ここから何歩でどの方向に向かえばいいのかぐらいは、昨日の内に覚えましたよ」
「まあ、流石はご主人様ってところですかね。何だと云いつつも適応力は高いんですよ。前に記憶を失くしたときも、あっさりと現状を受け入れて適応していましたからね」
チカの言葉に成程とマサキは頷いた。
どうやらシュウ=シラカワという男は、マサキが思っているより、生きることに対して貪欲且つ前向きな人間であるようだ。目が見えなくなろうとも、記憶を失おうとも、挫けることがない。悲観的になりそうな状況でも、先ずは受け入れて、その上で自分をその状況に適応させてゆく。
それは並大抵の精神力では為せない業だ。
様々な人間の生き様を戦場で目の当たりにしてきたマサキだからこそわかる彼の芯の強さ。自分が彼と同じ状況に置かれたらどうしているだろうか? マサキはふとそう思ったものの、明確な答えは出せそうにはなかった。
※ ※ ※
「そしたらデナリ山に出たのニャ!」
※ ※ ※
「そしたらデナリ山に出たのニャ!」
「何で?」
「ニャんでって云われても着いてしまったものはどうしようもニャいのだ!」
「いやいやバンコクに向かった筈がアラスカ山脈に到達ってッ!? おかしいですよ、あなたたち! てか使い魔の癖にナビゲートも出来ないとか終わってるでしょ! あー、良かった! マサキさんを迎えに行ったのがこの超☆有能なあたくしで良かった! 他の人に任せてたら一生ここに辿り着かないところでしたよ! ねえ、ご主人様?」
何か面白い話を――と、シュウに所望されたマサキはどうしようか悩んだ末に、今まで行ったことのある土地での印象的なエピソードを話すことにした。だが、口喧しい三匹の使い魔たちも同席している場なのが災いした。
彼らが黙ってマサキの話を聞いている筈がない。特にシロとクロの二匹はそれが迷った挙句の不時着であると知っているだけに、いちいち余計なエピソードを付け加えてきては話を脱線させてくれたものだ。
結果、「訪れた土地での心温まるエピソード」が、「どれだけマサキが方向音痴か」という話に成り代わること一時間ほど。ついに我慢の限界を迎えたらしいチカが、シュウに激しく同意を求め出した。
「そうなると思っていたからこそ、あなたに頼んだのですがね、チカ。しかし、相変わらず酷い方向感覚の欠如ですね。それで良く決定的に遭難しないものです」
「その豪運ですよね。何で目的地に辿り着けるんでしょ、この人たち。っていうか、そこに至るまでの道筋で欠片もこの二匹のポンコツ使い魔が役に立っていないのが、あたくしもう不思議で不思議で」
「だって、あたしたちマサキの使い魔ニャのよ?」
「いやいやだからって主人と一緒に迷っていいなんて誰も云ってませんて! あたくしたちは魔法生物なんですよ? いいですか? 魔・法・生・物! 人間をアシストするのがあたくしたちの役目! せめて道案内ぐらいは普通に出来るようになりましょうよ! 今のままじゃ、あなたたちが何の為に生み出されたのか、利点がさっぱり見えてきません!」
「おいらたちにニャにを期待してるんニャ、お前は。ニャのだ!」
「あたしたちはハイ・ファミリアとして突進するのが使命ニャのね!」
「きぃぃぃぃぃぃぃ! 何なのこの二匹! ホント、主人以上にポンコツ!」
普段は真面目な二匹の使い魔は、いつでも捕食出来るという余裕があるからか。チカに対しては酷く強気に出る。それが悔しいのだろう。自身の羽根をくちばしで噛んで絶叫するチカに、見兼ねたマサキは声をかけた。
「あんまり真面目に付き合わない方がいいぞ。こういうノリになると止まらねえからな、こいつら」
「慣れすぎでしょ、マサキさんも! ここは一発、ビシッと云ってやった方がいいんじゃないですか? だってこのポンコツ二匹、マサキさんと一緒に迷い続けるんでしょ!?」
チカがマサキを正面にしてと気炎を吐くも、マサキからすれば、彼らは立派なパートナーだ。その有能振りは身を持って思い知っている。
「思ったよりは有能だぞ、こいつら。お前と違って余計なお喋りも少ないし」
「その余計なお喋りがどれだけ役に立つかご存じない!? これでもあたくし、この口で敵を誘い出すぐらいは出来るんですよ!」
「てか、お前ら使い魔はどれだけ俺たちのサポートができるかが命だろ。そういった意味じゃ、サイバスターの操縦補助に長けているこいつらは有能なんだよ」
マサキの手足のように動くサイバスター。それは、シロとクロが適切なサポートをしているからだ。マサキひとりではこうは動かせない。風の魔装機神が疾風のように動き回ることが出来るのには、それだけの技能が必要になる。それを補って余りある二匹の使い魔の働き……マサキの弁護を聞いたチカは、「親の欲目ですかねえ」そう云ってシュウを振り仰いだ。
「口ばかりのあなたよりかは、余程、きちんと働いているかと」
「ひぃっ! これはとんだ藪蛇! あたくしまだ命は惜しいです、ご主人様!」
「だったら私の役に立つよう、精々働いてみせるのですね」
あっさりと自分の使い魔をけなしてみせたシュウは、声の方角で見当を付けているようだ。そこでマサキに向き直ると、そろそろ食事の時間ではないかと尋ねてきた。
腹でも空かせたのだろうか? マサキは寝室の壁に掛けられている時計を見た。いつの間にかそろそろ夕方も終わる時刻になっている。
「何だ、もうこんな時間か。ちょっと待ってろ。何か作ってきてやる」
気付けば窓の外も暗くなり始めている按配だ。マサキはソファから立ち上がったついでとカーテンを閉め、更についでと部屋の明かりを点けた。そして夕食の支度に取り掛かるべく、キッチンへと向かいかけた。
マサキ。寝室から今まさに出ていこうとした瞬間、シュウに呼び止められる。
マサキは振り返った。
どうやらマサキたちの話は彼をリラックスさせるに足りたようだ。心なしか薄らいで見える眉間の皺に、騒々しいとしか思えなかった時間でも役に立つことがあるのだとマサキは思う。
「あなたに優しくされるというのは、案外気持ちのいいものですね」
「今だけだからな。一生、こんな風に優しくしてもらえるなんて思うなよ」
「わかっていますよ」シュウの口元がふと緩む。「次は私の番です」
まさか優しさにまで貸し借りの法則を持ち込むつもりなのだろうか。不安を煽るシュウの台詞に、どういうつもりだよ。と、マサキは尋ねたが返答はない。代わりにチカが、「ご主人様に優しくしてもらえるんだからいいじゃないですか。それの何が不満で?」と、呑気に言葉を吐いた。
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