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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

似た者Lovers
おかしいこういう話になるんじゃなかったのに。痴話喧嘩シリーズその2です。


<似た者Lovers>

 欲しいものを全て購入していては両手が幾つあっても足りないと、ウィンドウショッピングに明け暮れていた大通り。
 偶然というべきか。それとも行動範囲が重なっているからこその必然か。通りかかった喫茶店の窓際の席に見知った顔を見付けたミオは、同時に気付いたらしいマサキが中に入れと手招いてきたのをいいことに、彼に荷物持ちをさせてはどうかと思い付いた。
 そうと決まれば話は早い。どうやってマサキを喫茶店から引っ張り出すか考えながら、ミオはいそいそと喫茶店の中に入った。
 ところが世の中そう上手くは回らない。
 マサキの目の前に立つより先に気付いてしまった同伴者。柱の陰に隠れていて見えなかったのだろう。取り澄ました笑顔もここまで顔が整っていると嫌味にも思えない。シュウ=シラカワ。王都にいてはならない人物の姿を目にしてしまったミオは、運命に自らの下心をせせら笑われている気分になった。
「……デートのお邪魔をするつもりはないんだけど?」
 とはいえ店に入ってしまった後ではどうもしようがない。ミオはちらとカウンターに目を遣った。そこでは今まさに、ウエイトレスがミオの分の水とおしぼりを用意しているところだ。
「いいから座れよ、ほら」
 恐らくは口実が欲しかったのだ。飲み物の入ったグラスを手にしたマサキが、これ幸いとシュウの隣へと移動してゆく。え、そっち? ミオは驚きに目を見開いた。当たり前だろ。さも当然とばかりにマサキが云い放つ。
 常々マサキから大小様々に話を聞かされてはいるものの、いざそれを目にするとどう反応したものかわからなくなる。ミオは盛大に途惑った。とはいえ、ウエイトレスが直ぐそこに迫っている今、ミオに残されている選択肢はひとつしかない訳で――。
 ミオは仕方なしに空いた席へと身体を滑り込ませた。そして、目の前に置かれた水入りのグラスを手に取って、どうしたもんかなー。と、目の前にて肩を並べているマサキとシュウの顔を見遣った。
 どことなくマサキの表情が嬉しそうに映って見えるのは、ミオの気の所為ではない筈だ。
「そんなに隣に座りたかったの、マサキ?」
「煩えな。レディファーストだよ、レディファースト」
「はあ。普段は戦いに男も女もないって云うマサキがレディファースト、ねえ」
 カラカラと音を立てながらグラスの中の氷を回す。素直じゃない。そう思いつつも、シュウを隣に置いて誇らしげにしているマサキを見るのは悪い気はしない。
 どれだけ女性から恋心を寄せられても反応の薄かったマサキ。極端に恋愛事に疎かった彼が、今はこうして誰かの隣にいることを良しとしている。けれどもその気持ちを素直に口に乗せるのは、人並みに恋愛に夢を見ているミオとしては遠慮したかった。
「で、あたしをダシにしてそれだけ? マサキ他に何か企んでるんじゃないの?」
 妬いているのだ、ミオは。一足先に夢を手に入れてしまったマサキに。
 だからこそそう突いてみれば、まさかの図星だったようだ。いや、まあ、な。と言葉を濁して鼻の頭を掻くマサキに、そろそろ事情を話すべきとでも思ったのか。それまで黙っていたシュウがおもむろに口を挟んでくる。
「喧嘩をしていたのですよ」
「はあ。犬も食わないってヤツね。御馳走様!」
 ミオは発作的に席から立ち上がっていた。シュウと気まずい時間を過ごしていたマサキからすれば、ミオは修羅場に表れた救いの女神だったという訳だ。夫婦喧嘩は犬も食わないというのに、馬鹿々々しいこと他ない。
 けれどもマサキとしては、ようやく仲裁を任せられそうな相手が見付かったからだろう。逃すものかとミオの手首をしっかと掴んでくる。
「待てよ、待て待て。いいだろ少しぐらい。俺を助けると思って」
「謝ればいいじゃないのよー。マサキ馬鹿なの?」
「何で俺が悪いって決めつけるんだよ、お前は!」
「えー? だってマサキ短絡的なんだもん。今だってそう。あたし何も云ってないのに自分が悪いって云い出すし。どうせシュウの言葉を早合点してリミットぶっちぎった的な話なんじゃないのー?」
 どうやらそれもまた図星であったようだ。手首を掴んでいるマサキの指にいっそう強い力が込められる。
 きゃあ! ミオは声を上げた。
 剣聖たるマサキに力任せに腕を引っ張られては、流石のミオであっても抵抗しきれない。派手な音を立てて沈む腰。尻餅を付く形となったミオは、「もう、あたし女の子!」痛みが走った腰に声を上げてマサキに抗議した。
「ちゃんと俺は謝った」
 けれどもマサキにとっては、ミオの腰の痛みなど大事の前の小事であるらしい。
 自身の名誉に関わる事態だからか。それともそれだけ彼にとって、シュウ=シラカワという人間が大事であるのか。憮然としながらそう口にしたマサキに、「本当に?」自分も大概お人好しだと思いながらミオは問い掛ける。
「謝ったのに、こいつが機嫌を直さねえんだよ」
「ちょっと、シュウ。マサキはこう云ってるけどどうなの?」
「確かに、謝りはしましたね。謝りは」
「だったらノーカン!」ミオはシュウの手を取った。
 それを隣にいるマサキの手に重ねる。
 そそくさとシュウの隣に移ってみせただけあって、満更でもない様子のマサキはさておき、シュウは何かを云いたそうな様子ではある。けれども、そういった細かいことは気にしない。と、いうより気にしていたらこのふたりとは付き合えない。
「はいはい、これで仲直り! 過去のことは水に流す!」ミオは高らかに宣言した。
 何があって喧嘩に至ったのかはさておき、素直になることを良しとしないふたりのことだ。誰かが強制的に間に入らなければ、一生意地の張り合いを続けていくことだろう。
 そう思いながら、そっと重ねた手から手を離す。案の定、ミオの手が離れても手を離す様子のないふたりに、あたしって、ホントいい女っ☆ ミオはつくづくそう云わずにいられなかった。





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