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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

好きって云って(前)
ちゃんと甘くしましたよ!

その分、ちょっと重い話になっていますが、避けてしまうとこの話の意味がなくなってしまうので……


<好きって云って>

 すっきりとした気分で目を覚ましたマサキは、隣でまだ眠っているシュウに昨日の顛末を思い出した。
 ――ベッドに行くのは嫌ですか。
 ――連れて行ってくれるのなら行く。
 セニアが用意した6粒のウィスキーボンボン。酔いに任せて幾度か口付けを交わした後に、シュウに囁かれた誘いの言葉をマサキは素直に受け入れた。
 この家を訪れるのは半月ぶりだった。会いたいと思う気持ちはあったが、魔装機操者としての雑事の合間にバレンタインのチョコレートをどうするかと頭を悩ませ続けていたマサキは、そちらに気持ちの比重が寄ってしまっていたからだろう。シュウに会うことなくバレンタイン当日を迎えてしまっていた。
 半日の予定だったとはいえ、久しぶりに彼と過ごす時間に、少しばかり――どころか、マサキは大いに期待をしていたのだ。
 酒に流されての性行為に思うところはあったが、それよりもシュウを恋しいと感じる気持ちの方が強かった。だからこそマサキは彼の口付けに応えたし、彼の誘いにも精一杯の勇気を出して応えてみせた。
 ――あなたは時々、酷く可愛いことを云い出しますね。ねえ、マサキ。
 マサキが何をしても彼がマサキに寄せている好意を覆すことはなかったが、可愛げのなさを自覚しているマサキとしては、少しでも彼が喜ぶように反応したいとは思っていた。きっと喜んでいたのだろう。律儀にベッドまでマサキを抱えて運んでくれたシュウのどこか満たされたような表情を端近に眺めながら、割と良く出来た方ではないだろうか。そうマサキは自分を評価した。
 だのに、それが災いしてしまった。
 ベッドに入って早々。マサキにさして指も触れぬまま、眠りに落ちてしまったシュウ。自ら誘いかけてきておきながらの蛮行に、マサキとしては云いたいことが多々あったが、マサキ同様に多忙な日常を送っている彼のことだ。マサキをベッドに運んだことで、限界を迎えてしまったに違いない。
 ――このまま寝かせておくべきか、それとも起こして続きをさせるべきか……
 彼の安らかな寝顔を眺めながらどうすべきか迷ったマサキだったが、酔いの回りきった身体は既にかなりの眠気を覚えてしまっていた。起こしたい気持ちはあるが、そうした結果、今度は自分が寝てしまったでは笑い話にもならない。マサキは素直にシュウの後を追って眠りに就いた。
 とはいえ、肝心なところで肩透かしを食らったのは事実。
 全てはあのウィスキーボンボンの所為だ。そう思ったマサキを誰が責められようか。
 帰ったら覚えていやがれ――セニアに文句をぶつけることにしたマサキは、次に消化不良の欲求をどうすべきか悩んだ。
 このまま帰途に就くのは癪に障る。せめてもう少しぐらいは、彼に甘えてからでないと。
 だったら居残りだ。既に半日の滞在予定をオーバーしている以上、後は何日いようが一緒だろう。そう自身の気持に決着を付けたマサキは、自身の目的を果たすまでここに居座ることを決意した。
「そうと決まれば先ずは朝食の支度だ」
 未だ眠りの底にいるシュウの顔をちらりと見遣ったマサキは、彼にきちんとした朝食を摂らせるべく、キッチンへと向かうことにした。

 ※ ※ ※

「ギブ! 本当にギブ! あたくしの羽根がなくなっちゃいます!」
「まだまだニャんだニャ!」
「この動く的喋るニャのよ!」
「動く的呼ばわりッ!? あたくしにも人格がああやめてッ!? 咥えて隠そうとするのやめてッ!?」
 いつまで経ってもサイバスターに戻って来ない主人を案じたようだ。朝食の最中に開け放していたリビングの窓から室内に飛び込んできた二匹の使い魔と、シュウの黙れという命令には絶対服従であるが故に、天井の梁の上で大人しくし続けていた使い魔が、ようやく得られた許可にリビングの床の上でじゃれ合っているのをシュウは眺めていた。
 昨日、食べきることの出来なかったチョコレートを皿に盛り付けてきたマサキは、半日で帰ると云っていたのを忘れてしまったのか。紅茶と珈琲を淹れてくると、食うぞ。と、まだまだ家に居座る態度をみせている。
「それは結構ですが、用事があったのではないですか。半日で帰ると云っていたような気が」
「どうせ書類の片付けを手伝えとかそんな用事だろ。セニアが頼んでくる雑事なんていつもそんなもんだ。本当に深刻な用事だったら、どんな手段を使ってでも連れ戻しに来るだろ。俺がここに居るのは知ってるんだし。だからいいんだよ。今日ぐらい羽根を伸ばさせろ。それとも何だ。お前、何か用でもあるのか」
「今日は特にはありませんよ。あなたに時間を使う以外には」
 シュウはそう云って、マサキに微笑みかけた。
 シロに咥えられてリビングの中を連れ回されているチカが嘘だと云いたげな表情をしていたが、視界の隅に捉えたその光景をシュウは無視しきることにした。どうせ大した用事ではないのだ。皿の中のチョコレートを抓み上げたシュウは、マサキとの時間を噛み締めるようにそれをしみじみと眺めた。
 色鮮やかなオレンジピールの飾り。誰が用意してくれたものだろう。皿の上に並んだチョコレートに目を落としたシュウは、その色鮮やかさに感心した。
 いずれにせよ、これだけのチョコレートをマサキの名誉回復の為に用意してみせたのだ。彼らがマサキを慕っているのは明白だった。
 彼の人となりが知れるチョコレートの量。用意している際の賑やかなその光景が瞼の裏に思い浮かぶような気がする。シュウは目を閉じて、暫く空想の世界に身を置いた。そして、仲間に慕われているマサキの日常に、他人事ながらも誇らしい気持ちになった。
「用がないのはいいんですがね。ご主人様、花ぐらいは手配してはどうですかね!」
 そう物思いに耽っていた時だった。ようやくシロの口から逃げ出せたようだ。ふわりと宙を舞ったチカがシュウの肩にとまる。
 乱れた羽根を繕い始めた彼の小言を聞きながら、そうですね。後でやりますよ。そう云って、シュウは隣で微かに表情を曇らせているマサキに向き直った。
「用事があったのか?」
「知り合いが個展を開くのですよ。その祝いに花を手配するだけのことですよ。電話一本で足りる用です」
 そう、シュウには用事があった。旧い知り合いがようやくサロンで腕を認められ、個展を開くこととなった。王都で今日から始まるその個展に駆け付ける約束をしていたシュウは、けれどもそのスケジュールを変更することに決めた。
 個展は一週間続く予定だ。どこかで見に行けばいい。それだけでシュウの面子は保たれるだろう。知り合いも初日に来なかったからと、シュウを恨むような人間でもない。
 それよりも、これからマサキとどうふたりの時間を過ごすかの方がシュウにとっては大事だった。
 魔装機操者である彼は日々雑事に追われていた。任務に駆られて方々に出て行くこともあれば、息抜きに出た先で事件に巻き込まれたりもする。珍しく王都にいると思えば、王立騎士団に訓練を付けたり、軍と合同で有事に備えた演習をしたりもする。
 ましてや傍迷惑な従妹は、書類の整理だの伝書鳩だのと好き勝手に彼を使ってくれたものだ。これではマサキも身体が休まる暇がない。
 マサキが守らなければならないものの大きさが、マサキの自由を奪っている。その現実を当然のものとして受け止めているシュウは、だからこそ彼がここを訪れる回数や頻度に拘るような真似はしなかった。必要があれば自分が出向けばいい――シュウは欲しいものを獲得する為であれば、その手間を惜しまず行動出来る人間だ。
「花か。花ねえ。ああいうのって何で花って相場が決まってるんだろうな」
 シュウの言葉に表情を落ち着かせたマサキが、ふと思い付いたように言葉を口に乗せてくる。
「食べ物なんかじゃ駄目なのかね」
「痛むものでなければ食べ物でもいいのでしょうが、他人の目に触れさせるものですからね」
「個人的な祝いじゃないのか」
「権勢の誇示ですよ。ああいった世界は人脈が物を云う側面もありますから」
 成程な。呟いたマサキがチョコレートを口に運んだ。これはシモーヌかな。流石は長く仲間として付き合ってきているだけはある。彼はチョコレートの味だけで、誰が作ったものであるのか見極められるようだ。
 それがシュウには少しばかり妬ましい。
 シュウは手にしていたチョコレートをマサキの口元へと運んで行った。何だよ。お前もちゃんと食えよ。口唇にチョコレートを押し付けられたマサキが少しだけ眉を顰める。
「お前の為にって用意してくれたチョコレートなんだぞ」
「私はあなたから貰ったチョコレートだけで充分ですよ」
「悪かったな。板チョコなんて、芸のないことをしちまって……」
 自分が運んできた他のチョコレートとの差に後ろめたさを感じているのだろう。謝罪の言葉を口にしたマサキの口の中に、シュウはチョコレートを放り込んだ。
 たった一枚の板チョコだったが、それでもシュウは満足していた。あのマサキが自分の為にチョコレートを手作りしようとしてくれた。その重みを理解出来ないシュウではない。
 料理は作るが男飯。大雑把な味付けでも成功するような大雑把な料理しか作れない彼が、どういった心変わりか。繊細な作業を必要とするチョコレートに手を出したのだ。
 これで喜べない方がどうかしている。
 結果として彼のチョコレート作りは失敗に終わってしまったようだが、昔気質な面があるだけに、イベントごとと云った派手派手しい出来事に消極的な態度をみせることもあるマサキのことだ。たった一枚の板チョコでさえも、彼としてはかなりの譲歩をして用意したものに違いない。
「謝る必要などないというのに」
 シュウはマサキの頬に手をかけた。
 冷えた肌に温もりを蘇らせてくれる彼の肌が無性に恋しさを募らせる。いかにも活動的なマサキらしい温みに、シュウは目を細めた。
 思えば昨日は何もすることなく寝てしまった。それでも文句ひとつ口にしない彼のいじらしさ。いっそ抱き締めてしまおうか。そう思うも、昨日の流れもある。マサキの求めや許可なしに彼に手を出すのは躊躇われた。
 ふと、凭れかかってくるマサキの身体。シュウは微かに瞠目《どうもく》した。シュウの求めに応じてのみ身体を預けてくる彼にしては珍しい気紛れを起こしたものだ。
「……来年は頑張るよ」
 チカがいるのとは逆側の肩に頭を預けてきたマサキに、楽しみにしていますよ。シュウはマサキの身体を思い切り抱き締めていた。
「こちらに来ますか?」
 シュウはマサキに囁きかけた。こくりと頷いたマサキの表情は窺えなかったが、彼が自ら求めてのことであれば遠慮はいらない。彼の腰に手を回したシュウは、その身体を自らの膝の上に収めた。そして皿の上のチョコレートをまたひとつ取り上げた。
 ほら、食べて。カラフルなデコレーションが施されたチョコレート。表面にピンクに水色、白色のチョコレートで描かれたと思しき細い線が並んでいる。誰が作ったものだろうと思いながら、シュウはマサキの口元に運んだ。
「だから、お前も食えって……」自分ばかりが食べていることにまた不満を述べるマサキに、「ちゃんと食べますよ。あなたに食べさせた後にね」シュウはまたチョコレートをその口の中へと放り込んでいった。
 マサキは決して愛情表現が上手くない。恐らくは地上時代に原因があるのだろう。照れや衒いも勿論あったに違いないが、それを差し引いても滅多なことでは自らシュウに触れてくることがなかった。
 シュウが催促してやっとといったマサキの態度に、彼と一線を超えた当初のシュウは大いに誤解をしたものだ。けれども睦み事を嫌がっている様子でもない。触れられれば素直に反応してみせるマサキに、その心情に興味を抱かざるを得なくなったシュウは、ややあって彼のそうした態度が彼自身の過去にあるのではないかと推測するに至った。
 マサキ=アンドーという孤高の戦士は、意外にもナイーブな性格の持ち主であるのではないだろうか。
 豪快にデリカシーのない台詞を吐いてみせたりする割には、いざ他人の心の機微に触れようものなら、思いがけず感受性豊かな反応を表出してみせる。泣いて、笑う。怒ることもあれば、喜ぶこともある。程度の差はあれど、彼は対象にきちんと感情移入するこが出来るのだ。
 けれどもそうした彼の共感能力や洞察力の高さは、けれども必ずしもいい方面ばかりには作用しなかった。触れてはならないものには触れない――その徹底した他者への配慮が、彼を素っ気なく見せているのだ。
 マサキは主観的な人間だ。他人に合わせて行動を変えることが出来ない。
 そこまでわかれば後は早かった。マサキは他人の状況を自分に置き換えて考えるタイプの共感能力の持ち主であるのだ。そう、彼の心の周りには何重にも壁が張り巡らされている。そのガードの硬さ故に、彼は相手の内面に深く踏み込めない。
 彼の素っ気なさが発揮されるのはシュウだけではないのだ。
 マサキは仲間であろろうとも容赦がなかった。平気な顔で残酷に突き放すような真似をしてみせる。精神的に逞しい仲間たちであるからこそ、彼らはマサキと上手くやっていけているようであったが、さしてマサキの人となりを知らない人間からすれば、彼の残虐さは一歩置かれるぐらいには他人を傷付けるものだろう。
 マサキは他人との付き合いに対して、根本的に臆病で消極的なのだ。
 こうしてきちんと自分の許に足を運び続けてくれている以上、マサキの気持ちに疑いを差し挟む余地はない。それならば、後は自分の頑張り次第だ。欲深いシュウは欲しいものの為なら、時間や手間を惜しむことはしないのだから。
「ホント、ベタ甘ニャのよ」
「チョコレートもびっくりニャんだニャ」
 チカを構うのにも飽きたのだろう。床の上で丸くなっている二匹の使い魔が揶揄を飛ばしてくるも、その程度で退いてしまっていては何も果たせなくなってしまう。マサキとの時間は有限なのだ。シュウは幾度もマサキの口元へとチョコレートを運んだ。嫌と明瞭《はっき》りと拒絶をしない辺りに、マサキの迷いが窺える。
「これは誰が作ってくれたチョコレートですか」
「プレシアだな。滅茶苦茶ファンシーだろ。こんな小さな星だのハートだの良く描けるよ、あいつ」
 最初は躊躇いがちだったマサキも、五粒も咥えさせられれば学習したようだ。シュウの手の動きに合わせて自ら口を開くようになった。これでも随分と成長した。シュウはかけた手間が成熟していくのを目の当たりにして、喜びに胸を震わせた。
「ねえ、マサキ」
「何だよ」
 そうなると途端に湧き上がってくる悪戯心。困った性格をしていると思いつつも、やらずにはいられない。シュウはマサキの口元に何も持たずにいる自らの指を押し当てた。少しでいいから、舐めて。そう囁きかけると、僅かに間が開いたものの口唇から舌が這い出してくる。
「変な奴……」
 そうは云えど、やらない選択肢はないようだ。シュウの指先をちょろちょろと舐めたマサキに、これなら大丈夫そうだとシュウは更なるスキンシップを求めて、その口の中へと指を滑り込ませていった。
「もっと深く舐めて、マサキ」
 囁きかけると意外にも素直に口腔内の指に舌を絡めてくる。
 シュウはマサキの耳朶を食んだ。ひくりと腰を揺らしたマサキに、そうっと腰を抱えていた手を這い上がらせる。
 ニャ!? と、二匹の使い魔が声を上げる。けれどもそれ以上の言葉を吐くことはない。自分たちがいようとお構いなしに睦み合いを始める主人たちとの付き合い方を、彼らは彼らなりに覚えていったのだろう。そろりと起き上がると、物云わずリビングの窓から庭へと出ていった。
「はいはいあたくしも出て行きますよ!」それを追うようにしてチカがシュウの肩から舞い上がる。「あまり無茶はなさらないように! ある程度時間が自由になるご主人様と違って、マサキさんには魔装機神操者としての仕事があるんですからね!」
 シュウの冷ややかな視線に晒されて、主人の云いたいことを察したようだ。ではでは! と声を上げて空へと舞い上がって行ったチカを視界の隅に、「今日は随分と素直ですね。どうしたの、マサキ?」シュウは指を抜き取りながらマサキに囁きかけた。
 それに対して別に。と、マサキが言葉を濁す。
 素直でないのは相変わらずだが、それも含めて愛おしい。口では何だと云いつつも、最終的にシュウに身体を任せてくるマサキ。このまま気が済むまで貪り尽くしたくなる。その気持ちに押し流されるように、シュウは起こした指でシャツの上から彼の乳首を抓み上げた。
「もうこんなに硬い」
 耳孔に舌を差し入れながら囁きかければ、腕にマサキの手が重なった。シュウは再度、マサキの口腔内へと指を潜ませていった。露骨に絡んでくる彼の厚い舌。感情を言葉にするのが苦手な彼らしい表現に、ついついシュウの口元は緩む。
「待っていたの? こうしてもらえるのを」
 シャツで擦るように乳首を抓み上げれば、びくびくと身体を揺らしてみせる。次いで小さく頷いたマサキに、「悪いことばかり教え込んでいる気がしますよ」シュウはそう云って、彼のシャツを捲り上げた。
 そうして、彼の脇の下に頭を潜り込ませて、硬く膨れ上がっている乳首を口に含んだ。あ。と声を上げたマサキの腰が浮く。シュウは舌先で彼の乳首に丁寧な愛撫を加えながら、彼のジーンズを脱がせていった――……。




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