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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

狡さ聡さも恋のうち(二)
明日は!!!!休み!!!!!

なんと来週所内の仕事が忙しいと云うことで、施設外が一日もないのです!
ということは多分色々進むということです!多分!最近不正出血が続いてて眠いけど頑張る!


<狡さ聡さも恋のうち>

(二)

「あー、重かった!」
 手にした荷物をサイバスターに積み込んだミオは、筋の張った腕をぐるぐると回した。菓子類はまだしも、かさばるレトルトライスはかなりの重さで、何度も持ち直してようやくここまで来れたぐらいだった。
「不摂生が祟ってんじゃねえの?」
 飲料水入りの段ボール箱と、レトルトパウチを山程詰め込んだ紙袋。それをいっしょくたにして持ち運んだマサキが涼しい顔でそう云うが、剣技と素手と日頃の戦い方が異なる相手に云われたくはない。
 マサキが所有している剣の重量は3キロほど。つまり成猫一匹と同じくらいの重さだ。それをほぼ毎日、トレーニングで振り回しているのだ。それは腕の筋肉も付くに決まっている。
「そりゃあマサキにとっては軽いでしょうよ」
 柔よく剛を制すのミオとは異なる戦い方。力こそパワーなマサキの戦いぶりを見ていると、剣で斬るというよりは、剣で叩き潰していると云った方が正しいのではないだろうか。理不尽だわ。まるでミオまでもがその仲間であると云わんばかりのマサキの台詞に、ミオは頬を膨らませた。
「ところで例の苺パフェは何処にあるんだよ。上腕ぐらいの高さがあるとか云ってたが」
「ふっふーん。マサキと違ってあたしは道に迷わないからね! ほら、こっちよ!」
 ミオはマサキの腕を取った。
 壊滅的な方向感覚の持ち主であるマサキは、ひとりで歩かせていると、とんでもない所に迷い込むのが常だ。数日前の山での出来事のように、ひとりで出歩いた挙句の遭難劇も勿論だが、皆で並んで歩いていた次の瞬間に迷子になっていることも珍しくない。
 先程までもそうだった。幾度も通った筈の情報局への道である筈なのに、何故そっちの道が正しいと思えるのかという方向へと、自信満々に進んでゆく。ミオは何度後ろからマサキに道が違っていることを伝えたことか!
「何だよ、お前。俺、そこまでしないと迷うように見えるのかよ」
「当たり前でしょ? 何云ってんの?」
 格納庫を後にして賑やかな街中へと、ミオはマサキの腕を取って歩いていった。
 件のパフェが置いてある店までは、ここから10分ほどかかる。たったそれだけの道のりでも迷ってしまえるのがマサキ=アンドーという稀代の方向音痴の匠の技だ。ミオは強くマサキの腕を引いた。待ちに待ったパフェがやっと、しかも人の奢りで食べられるというのに、そこまでの道のりで資金源であるマサキとはぐれてしまっては笑い話にもならない。
「テュッティから聞いてずっと食べたいって思ってたの! 絶対に奢ってもらうからね、マサキ!」
「いや、云ったからには奢るけどよ……」
「ほらあ、行くよ! たらたら歩かない!」
 ミオはマサキの腕に自分の腕を通した。誤解を受けそうな見た目ではあるが、これもマサキを逃がさない為だ。どう足掻いても迷うマサキには、このぐらいの扱いが丁度いい。ミオはぐいぐいとマサキを引っ張って行った。
 目指すは苺パフェ。
 生クリームとカスタードクリーム、おまけにアイスも付いてくる。間にスポンジやコーンフレーク、パンナコッタもサンドされている。使われる苺の個数はなんと20個。あまりの大きさに個数限定でありながら、全てが掃けることの滅多にない幻のパフェ。
 ミオがそう話をするとマサキは目を丸くして、「お前、それ食い切れるのか?」と、尤もな台詞を吐いてきた。
「だからマサキを連れて行くんでしょ! あたしが駄目だったらよろしくね!」
「あー、だから奢ってもらえるのを待ってたんだな、お前」
「にひひ。その通り! 食べきれないかも知れないものにお金を出すほど馬鹿じゃないのよ、あたし」
 ミオは更に先を行った。大通りをまっすぐ歩き、四つ角を東へ。マサキと会話をしながら道なりに進んで、暫くして左に折れる。
「おや、これは……」
 聞き慣れた声。角を曲がり切った瞬間に目の前に飛び込んできた白衣の長躯。顔を見ずとも判別が付く人物の突然の登場に、ミオは思いがけず悲鳴を上げてしまいそうになった。
「何でてめえとここで顔を合わせるかな」
「まるで私が出歩いているのが間違いのような言葉を吐きますね」
 気障ったらしささえ窺わせる取り澄ました表情は今日も健在だ。ふわりと揺れた彼の前髪にミオは瞼を落とした。
 シュウ=シラカワ。この広大なラングランの土地で何故が偶然に顔を合わせてばかりの相手は、今日も今日とて何を考えているのか読み取れない薄い笑みを浮かべている。
 彼が何処を拠点に活動しているのかミオは知らなかったが、こうも頻繁に顔を合わせてしまうとなると活動範囲が被っているとしか考えられない。「運命にも限度があるっしょ」半目で彼の顔を窺ったミオは、次いで隣のマサキの顔を見上げて云った。
「またお前はそういう……」
「だっておかしいでしょ、この偶然。何でこうもあたしたち顔を合わせるのよ。それもこれもマサキの所為なんじゃない? だってこの間だって山の中でシュウに助けてもらったんでしょ。ちょっと頻繁過ぎよね」
「まあ、それにはちょっと思うところもある」
「でっしょー? だから」
 と、そこまでミオが口にしたところで、クックとシュウが嗤い声を上げた。
「あれは偶々レーダーに反応があったから駆け付けただけのことですよ」
「それが偶然にしては出来過ぎてるって云ってるんだけど」
「では、あなたは偶然出なければ何だと?」
「え? そりゃやっぱり赤い糸」
 そこでシュウの視線が動いた。彼はマサキの腕に絡んでいるミオの腕に視線を注いでくると、どうやら何か思い含むところが出来たようだ。「デートのお邪魔をするつもりはありませんよ」と、和やかに言葉を継ぐとミオの横を擦り抜けようとする。
「ちょっと待った!」
 ミオはシュウの腕を掴んだ。
 陽に透けると淡く輝く紫水晶の瞳が、昏い影を落としている。その口元に先程までの笑みはもう見られない。
 他人と向き合っている時は、それなりに表情を取り繕ってみせる男は、一歩その場を離れると冷ややかな表情を露わにしてみせるのだ。あーのーねー。ミオはマサキから腕を離してシュウに向き直った。
「ホント、そういうの良くない」




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