忍者ブログ

あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

猫にさせたい
今年のシュウマサ猫の日ネタ。ほんのりアダルト。



<猫にさせたい>

 いい加減に出てきてくださいよぅ。と、チカが媚びるような声を発している。
 マサキ、機嫌をなおしてニャ。続くのはシロとクロの声だ。
 リビングのソファで陣取っているシュウから彼らの姿は見えないが、どうやら天の岩戸を開くべく奮闘しているようである。
 ふむ――と、シュウは壁掛け時計を見上げた。マサキが寝室に篭ってから、かれこれ三十分が経過していた。
 理由は単純。シュウが用意したコスプレの所為だ。
 猫耳カチューシャに鈴付き首輪、肉球手袋とソックス。尻尾をどうするか、シュウは大いに悩んだが、ことに及ぶ際に外すのも趣きがない。結果、付けっ放しにしていられる腰ベルト着脱式尻尾としたのだが、マサキからすれば、その程度の変化で許容出来るコスプレではなかったようだ。
「ご主人さまも説得してくださいよう」
 しんと静まり返ったきり、何の物音もしてこない寝室に不安になったのだろう。チカが姿を現してシュウの加勢を促してくる。
「とは、云われてもね」
 シュウは肩を竦めた。
 不埒な魔術師に猫にされたマサキが自宅に駆け込んでくること数度。ようやく魔術師も飽きたのか。ここ数か月、猫化することのなくなったマサキに、シュウは物足りなさを感じていた。
 発情期とセットなのだ。
 猫化したマサキは彼は実に良くシュウを求めた。キッチンにバスルーム。リビング、寝室。場所も時間も弁えず、セックスを強請ってきてはにゃあにゃあと歓喜の雄叫びを上げる。だのに猫化が解けたマサキは、そういった自分の痴態もどこ吹く風。いつも通りのマサキ=アンドーに戻ると、何事もなかった風にシュウの前から去っていってしまう。
 シュウは寂しさを感じていた。
 猫化に関係なくシュウの許を訪れるようになったマサキではあったものの、その理由は過ごし易いからというものであるらしい。猫は家につくとは良くぞ云ったものであるが、猫型の使い魔を有する彼も例に洩れないのだろう。暇だ暇だと云いながら、その辺りで寝転ぶなど怠惰に過ごして去ってゆく。
 無論、それだけマサキに気を許されるようになったことは、マサキに懸想するシュウからすれば、彼との関係を進める為の大きな転換点が訪れたことに他ならなかったが、とはいえ、一足飛びに身体の関係を持ってしまった後である。以前よりも慎重に関係を構築してゆく必要があるのは間違いなかった。
 シュウはマサキの身体以上に、彼の心が欲しいのだ。
 かといって、一度知ってしまった蜜の味を忘れきるのも難しい。
 かくて、猫化したマサキへの恋しさが募ったシュウは、せめて姿かたちだけでも――と、用意したグッズをマサキに着用してくれないかと迫ってしまったのだが、自尊心の塊のようなマサキにとっては屈辱的な扱いを思い出させるだけに耐え難い提案だったようだ。顔を真っ赤に染め上げると、シュウの手からコスプレグッズが入った紙袋を引っ手繰って、そのまま寝室に閉じ籠ってしまった。
「あー、もう。煮え切らない! ご主人さまが煮え切らない!」
 周囲を飛び回って叫ぶチカに片耳を押さえつつ、シュウは再び考え込んだ。
 ――まあ、嫌なのだろう。
 わかっているからこそ、シュウは今のマサキをどう扱えばいいのか迷ってしまう。だからといって、このまま使い魔たちに事態の収拾を任せてしまうのも、主人の沽券にかかわる。
 ――行き詰まりだ。
 シュウは仕方なしにソファから立ち上がった。ひんやりとした空気が肌を撫でる中、薄暗い廊下を伝って、道を開けたシロとクロの間に立つ。続けて寝室のドアをノックすれば、意外にも入れよ。との返事。
「私が入ってもいいのですか」
「お前だけだぞ」
 どうやら、マサキは使い魔抜きでシュウと話がしたいようだ。カチャリとドアノブが回る。
 シュウは覚悟を決めて、薄く開いた扉の隙間から寝室に滑り込んだ。と、目の前に立つマサキの姿に目を瞠る。
「マサキ」
「う、うるせえよ」
「まだ何も云っていませんが」
「煩い、って、云ってるだろうが」
 顔を真っ赤にしたマサキに胸を小突かれて、身体がよろめく。それでもシュウはマサキから視線を外さなかった。
 いや、外せなかった。
 猫耳のカチューシャに鈴付き首輪、肉球手袋とソックス。シュウの位置からは見えないが、腰にベルトが巻かれている辺り、尻尾もきちんと着けてくれているのだろう。とはいえ、直視されるのは耐え兼ねるようだ。にゃ、にゃあ。恥ずかしそうに鳴いたマサキがシュウの胸に凭れ込んでくる。
「可愛いですよ、マサキ。ですが、どういった心変わりですか」
 頭を撫でてやりながら尋ねれば、にゃあ。久しく聴けていない甘ったるい鳴き声が、マサキの喉から飛び出してくる。
「そりゃ、まあ、懐かしいっていうか……」
「したくなった?」
 こくりと頷いたマサキが、シュウの肩に頬を摺り寄せてくる。
「でも、こういった格好をするのは、これきりだからな」
 シュウは静かに微笑んだ。
 そうしてマサキの身体を抱き上げると、寝室の中央に置かれているキングサイズのベッドへと彼を運んで行った。






PR

コメント