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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

百年の孤独/夜の訪れ

最近ちょっと体調がおかしいんです。

眠気が凄いんですよ。貧血みたいな眠気がずうっと続いてるんです。あと痒み。夜中に身体を掻き毟って起きるんです。(虫とかダニとかに刺されたとかではないです)

もうこれ以上病院に行くのもちょっと……と思って様子を見てるんですけど。

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<百年の孤独>

 彼は時々ひとりでいることに耐え難さを感じるらしかった。
 日頃、仲間に囲まれて賑やかに過ごしている彼は、だからこそふとした瞬間に、彼らと離れてひとりでいる自分に気付くのが怖いのだそうだ。さりとて使い魔を従える身分。本当の孤独を知ることのない彼が、何故ひとりでいることを恐れ慄かねばならないのか……ひっそりと人目を忍ぶようにして自らのキャビンを訪れた彼にシュウが尋ねてみれば、だってあいつらは俺の分身だろ――という答えが返ってきた。
 ――彼にとって使い魔とは、孤独を癒せる存在ではないのだ。
 口喧しい使い魔と生活を共にするシュウからすれば、それは意外性に富む返答だった。
 例えば王宮、例えば教団。DCにしてもそうだった。厚いガラスの壁を挟んでいるような疎外感。異端の存在であるシュウは、そのそれぞれに深く馴染めぬまま、そこから去ってゆくしかなかった。
 その長い放浪の旅を支えてくれたのが使い魔たるチカだ。彼は口を開けば碌なことを云わない青い鳥ではあったものの、他人と積極的にコミュニケーションを取らないシュウの代わりに交流役を買って出てくれたものだったし、寡黙に時を過ごすシュウの日常生活にラジオ代わりと賑やかな音を届けてくれもしたものだった。
 真実の孤独とは人の精神を蝕むものである。さりとて他人に頼ることを潔しと出来ないシュウは、心を許せる味方を持ち得なかった。そう、チカはひとりで運命に抗い続けたシュウが得た大事なパートナー。彼が存在していなければ、シュウは自身に襲いかかる運命に押し潰されていたことだろう。
 時には口煩さに耐え切れなくなってポケットに突っ込むこともあったが、やがては物足りなさを感じずにいられなくなる。だからこそシュウは使い魔という魔法時代の遺産に価値を認めるようになった。彼らは孤独な作業に従事する魔術師たちの公私に渡るパートナーであったからこそ、孤独に戦いに挑まなければならない戦士たちの心強いパートナーにもなり得たのだ。
 ――けれども……
 部屋を訪れてはベッドで仮眠を取って去ってゆく。それはキャビンに限らない。整備中のグランゾンに乗り込んできて、操縦席で身体を丸めて眠ることもままあるマサキ。彼が何故そこまでの孤独を抱えるようになってしまったのか、シュウはその原因については知らないままだ。
 シュウはベッドの中で丸くなって眠っているマサキを見下ろした。操縦席ならまだしも、ベッドにいながらも手足を伸ばすことをしない彼は、シュウに対する警戒心を解ききってはいない様子だ。そういった距離感の下で彼に核心を突く質問をしたとしても、まともな答えは返ってこないに違いない。
 ――誰であろうと触れられたくない過去のひとつやふたつはあるものだ……
 シュウはそれを知っているからこそ、マサキを問い質すような真似だけはすまいと決めていた。いつか彼が話す気になった時に聞ければそれでいい。気紛れに自分の許を訪れるマサキの寝顔を見下ろしながら、そうしてシュウは今日もひとり。静かな時間を過ごしてゆく。



<夜の訪れ>

 珍しくも連夜に渡ってシュウの許を訪れたマサキが黙ってベットにその身を横たえるのを、シュウもまた黙って眺めていた。
 招き入れられた時点で了承を得たと思っているのだろう。何を語ることもしなければ、ましてやシュウに何かを尋ねることをもないまま、身体を丸めてブランケットに収まってゆくマサキに、シュウはそうっと視線を手元の書籍へと戻していった。
 やがて聞こえ出す彼の寝息。
 彼はまだまだシュウに対する警戒を解いてはいないようだ。手足を丸め、背中を向けて眠る姿を視界の隅に、警戒心を抱く相手の許に繰り返し訪れることの意味を考えながら、シュウは書籍を読み進めてゆく。
 人寂しさを紛らわす為に他人を傍に置いて眠る。彼の行動の理由を知っているシュウは、どうしてマサキがその相手に自分を選んだのかについては知らないままだった。それでもわかることはある。強かに、逞しく生きている彼は、自身が押し潰されそうになっている孤独の深さを、決して他人に理解されたいとは思っていないのだ。
 シュウを選んだのがその証左。
 彼は親しい仲間たちにさえ、胸の内を明かせずにいる。それは彼にとって、仲間とは全幅の信頼を寄せる相手ではないということでもある。彼が抱えてしまった量り知れないほどの孤独は、だからこそ生み出されてしまったものでもあるのだろう……
 静かに繰り返さえされる規則的な寝息を耳に、シュウが数十ページほど書籍を読み進めた頃だった。うう、と、背中を向けたままのマサキの口元から、呻き声が洩れ聞こえてきた。きっと夢見が良くないのだろう――シュウは気配を殺して立ち上がった。うう、ぐっ、ああ……っ。激しさを増すマサキの声にそうっとベッド脇に近付いて、丸くなった姿のまま、呻いては喘ぐを繰り返している彼の姿を見下ろす。
 色を失うほどにブランケットを掴んでいる両の手。この期に及んで目を覚ますことのない姿がいじらしく映る。飛び起きてしまえれば楽だろうに。身動ぎひとつせず悪夢と向き合っているマサキに、シュウは彼の我慢強さを垣間見たような気がした。
 マサキ。名前を呼びながら、シュウはマサキの額に張り付いた前髪を除けた。
 瞬間、ぴくりとマサキの身体が跳ねる。起きたのですか? 問いかけてみるも返事はない。ただ、ひっきりなしに彼の口を衝いて出ていた声はぴたりと止んだ。きっと、ぼんやりとした意識の中で他人の気配を感じたのだ。少しもすると穏やかな寝息を立て始めたマサキに、シュウは元の場所へと戻った。
 そして読書の続きに専心しようとした。
 ふと視界の隅に映るマサキの姿が異なっているように思えたシュウは顔をマサキに向けた。そして視界に飛び込んできた光景に息を呑んだ。それは初めてシュウが目にするマサキの寝姿。あの警戒心の強い彼が、ベッドの中で仰向けになって眠っている。
 嗚呼――シュウは驚嘆に声を発さずにいられなかった。

 その日から手足を伸ばして眠るようになった彼に、けれどもシュウは何も問うことをせず。全てが明かされる日を間近に感じながら、今日も言葉少なに自分の許を訪れるマサキを静かに受け入れるだけだった。


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