サイトに置くような内容じゃないなあと思ってしまったので。
ほのぼのです。
借りをどうマサキが返すことになったのかは、皆様のご想像通りということで!
ほのぼのです。
借りをどうマサキが返すことになったのかは、皆様のご想像通りということで!
<絶望の魔装機神操者>
マサキ=アンドーは絶望していた。
キュートでポップな外観のアパレルショップに殺到する人々。その全てがプレシアと同じくらいの年頃の少女たちである。あの中に自分が混じって目当ての商品を手に入れなければならないのか。マサキはひとり静がに天を仰いだ。
どれほどの修羅場であってもこれに勝るものはない。目の前にて繰り広げられている争奪戦に割って入る勇気を持てないマサキは、ただただその場に立ち尽くすしかなかったのだ。
流行に敏感な少女たちの間で口コミで広がっていったブランド「söpö」は、ふんわりとしたパステルカラーで彩られたファンシーなデザインが乙女心を擽ると専らの噂だ。
そのカタログをどこかから手に入れたらしい。これ欲しいなあ。リビングでそのカタログを眺めながらぽつりと呟いたプレシアは、けれども、自分の普段着よりも十倍もの価格になる衣装を購入するのに二の足を踏んでいる様子だった。
――だったら買ってやる。
ミオにリサーチを頼むこと二日。新商品の発売日に合わせてショップに足を運んだマサキは、想像していた以上の人気と熱狂に、だからこそ一歩を踏み出せずにいた。
それは、日頃似たような服を着回しているマサキからずれば、自分の対極にあるファッションであった。たっぷりとフリルがあしらわれたブラウスに、大きなリボンが目を惹くバルーンスカート。ボンボンが付いたソックスに、可愛らしさを前面に押し出したフォーマルシューズと、söpöブランドの衣装や小物で身を固めた少女たちは、まるで御伽噺の中から飛び出してきたような可憐さに溢れていた。
――俺に、あの中に混じれって云うのか。
大事な義妹へのプレゼントぐらい自分で買いなよ。と、焚きつけてきたミオに恨みがましい気持ちが込み上げてくる。
そうは云えども、目当てのワンピースは限定生産品である。この場で足踏みを続けていれば、そう時間が経たない内に品切れとなってしまうだろう。マサキは今一度、ショップに群がっている少女たちを見た。パステルカラーの塊に、無理だ。マサキは再び天を仰いだ。
「何をひとりで百面相しているのですか、あなたは」
この場で最も出会いたくない男の声が降ってきたのはその瞬間だった。
「見りゃわかるだろ、買い物だ」
マサキはゆっくりと首を戻して、次から次へと少女たちが詰めかけているショップを見た。どう頑張っても、あの中に入れる気がしねえ。マサキの言葉で納得がいったようだ。成程。と、シュウもまたショップに視線を向ける。
「しかしあなたの趣味とは思えませんね」
珍しくも首を傾げてみせたシュウは、マサキの周りの女性陣を思い浮かべたのだろう。リューネでもない。ウェンディでもない。詩を諳んじるように呟いたところで、ひとつの答えを導き出したようだった。プレシアですか。その台詞にマサキは頷いた。
「欲しいって云うからよ。買ったら、喜ぶかなってな……」
「そうして意気込んでみたはいいものの、雰囲気に圧倒されたというと」
「当たり前だろ。見ろよ、あの集団。あの中に俺が混じったら、別な意味で注目の的だ」
「他人はあなたが思っているほど、自分を見てはいないものですよ。何が欲しいのです」
「はあ? お前、代わりに買ってくれるってか」
「あなたに任せていては、一生話が先に進みそうにありませんからね」
本気かよ。マサキは目の前の男を見上げた。凍てついた氷を思わせる怜悧な面差し。どう足掻いても、ファンシーさを売りにしているsöpöのアパレルショップには馴染みそうにない。
「さっさとしないと、プレシアの喜ぶ顔を見られなくなりますよ」
「新商品の限定ワンピースだ」マサキは咄嗟に口を開いた。
何を考えているか読めない無表情。次の瞬間、その口元がふわりと緩む。
「ひとつ、貸しですよ。マサキ」
そう口にするなり、キュートでポップな外観のアパレルショップに向かっていったシュウに、マジか。マサキは目を剥いて彼を見送るしかなく。
するりと少女たちの群れに身体を滑り込ませシュウの長躯が、ややあって店内へと飲み込まれてゆく。マサキは呆然とその後姿を見守るしかなかった。
※ ※ ※
「わあ! お兄ちゃん、これsöpöの新商品!?」
※ ※ ※
「わあ! お兄ちゃん、これsöpöの新商品!?」
リビングでは、ショップの紙袋から取り出したワンピースを手にしたプレシアが、弾けるような笑顔を浮かべている。
「まあ、その、なんだ……お前、欲しがってただろ。だから」
「嬉しい! 有難う、お兄ちゃん!」
飛び上がらんばかりに喜ぶプレシアに、何もしていないマサキは頭を掻くしかない。
店内に姿を消して十分ほど。呆気ないぐらいにあっさりとワンピースを手に入れてきたシュウは、貸しであると念を押してマサキにショップの紙袋を渡すと、そのまま人混みに姿を消していってしまった。
「どこに着ていこうかな! ねえ、お兄ちゃん。デートしようよ!」
「俺とか? お前、もうちょっと色気ってもんをだな……」
「いいじゃないのー。それともお兄ちゃん、あたしのことキライ?」
「んな筈あるかよ」
「じゃあ、デート! 城下でお食事しよ!」
仕方ねえなあ。着替えの為に自室に向かったプレシアに、マサキは時刻を確認するように窓の外に目を遣った。柔らかな日差しは、そろそろ夕暮れ時が近いことを表している。今からならディナーだな。足元で寝そべる二匹の使い魔を見下ろしながらぽつりと洩らす。
――どんな無茶な要求でも呑んでやるってもんだ。
シュウからの借りをどこで清算させられるのかが気掛かりではあったが、プレシアがあれだけ喜ぶ姿を見られたのだ。
壁に描けたジャケットを取り上げたマサキは、早くしろよ。そう家の奥に声をかけてから、二匹の使い魔とともに、ひと足先に玄関に出て行った。
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