チルだー!!!
最近ボサノバを聴いている@kyoさん。このまろやかな気分をシュウマサにもぜひ味わってもらいたいと思いました。ささやかな無駄遣いの続きです。癒しの時間っていいよね……
拍手、コメ有難うございます!励みとしております!!!
お陰様で今年も随分シュウマサを打ちました!
六月に入り、後半戦に突入しましたが、まだまだ書き続けますので宜しくお願いいたします!
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<続・ささやかな無駄遣い>
昼食はマサキが持ち込んだ食材でサーモン丼を作った。
小口に切ったサーモンとアボカドをタレに漬け込み、レッドキドニービーンズ、砕いたカシューナッツ、そしてスプーン一杯のカッテージチーズをまぶす。食器はウッドボウル。炊いた白米の上に具材を敷き、上に薄くスライスした玉葱を乗せる。
仕上げに細く切った海苔を散らし、目にも鮮やかな赤いランチョンマットの上へ。
マサキはシンプルな日本らしい丼を好んだものだが、効率良く、且つバランス良く栄養素を摂取したいシュウは、味を壊さない程度に食材が加えられている方が好みだった。だからこその具沢山。ボウルの中身を覗き込んだマサキは、想像を裏切るサーモン丼の有様に少なからず驚いた様子だったが、そもそも、マサキがこれだけの潤沢な食材を用意したからこそ作れた華やかさである。
きっと、シュウの好みを考慮したのだ。
とはいえ、その厚意にシュウが全力で甘えてくるとまでは、さしもの彼も思っていなかったようだ。俺の知ってるサーモン丼じゃねえ。と、まじまじと丼の中身を眺めながら口にしたマサキは、少しもすると、その彩りの鮮やかさに気を取り直したのだろう。一瞬にしてはちきれんばかりの笑顔になると、
「でも、ちらし寿司みたいだな。旨そうだ」
木製スプーンを手に取ったマサキと、テーブルを挟んで食べる海の幸。陽射しを強めた太陽に照り返しを増した海が、室内に光の波を描いている。とかく美しい。シュウはゆっくりと食事を味わった。流れ込んでくる潮風に身体を撫でられながら取る食事は、普段の食事以上にシュウの舌を楽しませてくれる。
「風が本当に気持ちいいよな」
「本当に。ラングランの平原を吹き抜ける風も気持ちいいですが、海を抜ける風もまた格別ですね」
早くも食べ終えたようだ。空になったボウルをランチョンマットの上に置いたマサキが、そろそろ尽きそうなグラスの中身をどうするか尋ねてくる。
シュウはアイスティーのおかわりを頼んだ。
グラスに継がれたアイスティーが、琥珀色の影を白木のテーブルに揺らめかせている。
食事をしながらマサキと話をしたところによると、この部屋のインテリアはハウスボートを設計したデザイナーに任せたのだそうだ。そう云われてシュウが辺りを見渡してみれば、成程、確かにマサキらしさの感じられないインテリアである。
白い床と天井、そして柱に、水色の壁。そこに白を基調とした家具が並ぶ。キッチン、食器棚、ワードロープ、パーテーション、サイドチェスト、ベッド……そのままでは纏まりが良過ぎるからだろう。随所に緑や赤、黄色などの差し色が使われている。
ファブリックにしてもそうだ。面の大きいベッドのシーツなどは白一色だったが、そこに並べられているクッションのカバーは、赤、青、黄色に桃色と賑やかなもの。一歩間違えばけばけばしくなるのを、南国感溢れる雰囲気に纏め上げているのは流石プロのデザイナーである。
とにかく寛げる場所にしてくれと頼んだ部屋の仕上がりを、マサキはとても気に入ったらしい。やっぱりプロは違うよな。室内に目を遣って満足気な表情を浮かべているマサキに、彼がこのハウスボートに懸けた想いが読み取れるような気がして、シュウは微笑ましさを感じずにいられなかった。
「気に入りましたよ、マサキ」
「うん。俺も滅茶苦茶気に入ってる」
ありきたりな日常に突如として姿を現わした洋上の一軒家。人気を感じさせない入江は、地上の楽園とは何であるかを物語っているように映る。何よりここは、マサキがシュウと過ごす為に大枚を叩いてくれた場所だ。それを気に入らないなどとシュウが感じることは決してない。
きっと、サイバスターに置いてきたシュウの口の悪い使い魔は、この事実を知ったら呆れ切った表情でこう口にすることだろう。ついに巣作りを始めたんですか――。脳裏にありありと浮かぶその光景に、シュウは忍び笑いを禁じ得なかった。
「何だよ。片付けぐらい俺がやるって」
「結構ですよ、マサキ。その代わり、夕食の支度と片付けはお任せしますよ」
立ち上がったシュウはふたり分の食器を手にキッチンに向かった。
思ったよりも綺麗な水が流れ出てきたことに驚いたシュウが尋ねれば、海水を濾過しているらしい。そのまま飲めるぜ。と云われたシュウは、蛇口の水をひと口掬ってみた。
甘い。流石、ラ・ギアスの技術で作られた濾過機能だけはある。滑らかな水の味に、シュウはこれなばらシャワーも気持ち良く浴びれそうだと、気掛かりのひとつを清算する。
食後の片付けを終えたシュウはベッドに向かった。
色取り取りのクッションに頭を預けて足を投げ出す。片手に開いたのはペーパーバック。上着のポケットに入れっ放しにしていた本が、思いがけない場面で役に立つようだ。片手で本を開いたシュウに、ソファに残っていたマサキが顔を顰める。
「どこに隠し持ってたんだよ、その本」
「ポケットの中に」
シュウとやりたいことを気兼ねなくやる為に入江まで買ったマサキとしては、直ぐにでも釣りを始めたかったのだろうが、悪戯に体力を消耗したくないシュウとしては、陽射しが一番きつい時間にデッキに出るのは避けたかった。
シュウはマサキをベッドに招いた。折角、目の前にこれだけの寛げる空間があるのである。使わずに釣りに励んでしまうのも、時間の使い方として勿体ない。そういった趣旨のことを云えば、納得する面があったようだ。マサキが隣に上がってくる。
そのままシュウの胸の上に頭を置いたマサキを片手で抱えて、シュウは読書に耽った。
陽射しが弱まりを見せ始めた昼下がり。いつもの読書と比べれば背の薄い本を読み終えたシュウは、ベッドに上がったことで耐えられなくなったらしい。うたた寝をしていたマサキを起こしてデッキに出た。
「堪らねえな、この景色。泳ぎたくなってくる」
「あなたの入り江なのですから、好きに過ごしてくれていいのですよ」
「今日は釣りだ。絶対に何か釣れよ。夕食はそれって決めてるんだからな!」
そうはしゃぐマサキが愛くるしくて仕方がない。
いつもシュウと街に出ると、借りてきた猫というほどではないにせよ、どこか抑えたような態度になるマサキ。シュウの家にいる間の彼は、気ままに振舞えているのであるから、彼なりに人目があることに気を遣っているのだろう。そうした制限のない彼のありのままの姿を、青空の下で見られる幸福! 彼の無邪気さは何よりもシュウの心を癒してくれる。
「しかし、あなたはさておき、初心者同然の私が海釣りで釣果を出せたものか」
ハウスボートを少しばかり沖に寄せて、並んで釣り糸を垂らす。元々釣りを嗜んだことのないシュウに釣りを教えてくれたのは、他でもないマサキだ。
何でも釣り好きな魔装機の仲間から教わったらしい。思ったより面白い――と、釣りに興味を持った彼は、ふた月に一度は仲間やシュウを誘って釣りに出ているようだ。
「それは俺も一緒だ」
「御冗談を」
広大なラングランでは、海に出るのには結構な距離を移動する必要がある。だからか。海釣りはあんまりやらないんだよな。ウキも使わずに糸を垂らしているマサキは、そう云いながらも、釣果に期待をしているようだ。鼻歌混じりで竿を握っている。
「ラングランの魚ってでかいのも多いじゃねえか。ああいうのが一匹釣れりゃいいんだよ。お前とふたりだしな。むしろそんなのが釣れたら余らせちまうか。でも折角、海に来たんだしな。豪快な焼き魚が食いてえ」
「確かに。釣れ過ぎてもリリースするしかなくなりますしね」
「そうそう。だからのんびり何かが掛かるのを待とうぜ。時間はたっぷりあるんだからさ」
そう云って笑ったマサキの表情が、シュウの目にかつてなく眩く映る。
それは、日頃、魔装機神操者として人目を気にし続けなければならない彼が、その鎧を脱いでシュウの目の前にいるからに違いない。こんな幸福はそうない。シュウは自らが垂らした糸の先を見詰めながら、その喜びをじっくりと噛み締めた。
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