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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

Lonely Soldier(前)
続き物をやれというお言葉はご尤もなのですが、いかんせん倦怠感が酷くて、酷い文章を連発しているので、平日は先ずまともな文章を打てるようにスキルの維持を……

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では、本文へどうぞ!
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<Lonely Soldier>

 遠く瞬いていた光点が輝きを増し、一直線に尾を引きながら迫ってくる。
 敵の砲撃だ。
 視認性に乏しい夜間戦闘では、目測など欠片も役に立ちはしない。レーダーだけが頼りとあっても、それは敵位置の割り出しに関してのみだ。マサキは間近に迫った二つの砲弾を避けた。幸い、追尾機能のないタイプの砲弾だったようだ。
 背後の岩肌に着弾した砲弾が炸裂し爆炎が上がる。瞬間、照らし出される周辺地形。マサキは辺りを取り囲んでいる敵機の位置を頭に叩き込み、再び闇を取り戻した丘陵地帯を疾走した。
 そして手近な位置にある敵機に切りかかった。
 戦闘が始まってからというもの、この繰り返しだ。マサキは各所で敵と戦闘を繰り広げている仲間を想った。時折、遠くで閃光が上がる。きっと仲間の誰かが敵機を撃破したに違いない。マサキは更に攻撃を敵機に加えた。程なくして通信機から流れてくる通信兵の声。彼が告げる戦況報告は、マサキの予想が的中していたことを示していた。
 四方八方から撃ち出される砲弾を避けながらの交戦は、サイバスターの機動性と瞬発力があるからこそ、ダメージを抑えて戦うことが出来ているものの、既に戦闘不能となって戦艦に収納された味方機も多い。せめて敵軍を撤退させるところまでは粘らなくては。そう考えながら、立て続けに敵機にダメージを与えていた最中のことだった。
「マサキ!」
 通信機から響いてくるシュウの声。何だと思いながらも、彼とグランゾンがいる方角がわからないマサキは目の前の敵機との戦いに集中するしかない。けれども、次の瞬間、前方に展開しているモニター画面の隅に光が走った。
 もしや砲撃か。マサキが慌ててモニター画面を切り替えると、かなり近い位置にまで光弾が迫ってきている。かなり巨大な光の塊。避けようにも交戦中だ。マサキは瞬間的な判断を迫られる中、敵機との戦闘を継続することを決めた。
 砲撃を避けようとすれば、敵機に背中を見せる形にならざるを得ない。どちらがより大きいダメージとなるかを考えれば、至近距離にいる敵機の攻撃だ。ならば、先ずは目の前の敵が繰り出そうとしている攻撃を処理すべき。
「その程度の攻撃が効くと思ってやがるのか!」
 マサキは敵機の攻撃を剣で切り払った。しかし、砲撃を避けるのは間に合いそうにない。仕方がない――ダメージを覚悟したマサキは、襲いくるだろうダメージに備えて両脚を踏ん張った。刹那、モニター画面に飛び込んでくる巨大な青い影。シュウ! マサキは声を上げた。
 辺りに響き渡る轟音。モニターで確認するまでもなく、彼が自身の機体を使って砲撃を防いだのだと知れる。
「私のことは気にせず、攻撃を!」
「云われなくとも!」
 マサキはコントロールパネルに指を置いた。シロ、クロ、行くぞ! そして前方の敵機と剣を切り結びながら、砲撃が放たれた方角へと向けてファミリアを放った。どちらも自分が墜としてみせる。それはマサキとサイバスターの反応速度があったからこそ出来る戦闘の多重展開だった。
「おぉぉぉぉらぁ、堕ちろおぉぉぉッ!」
 立て続けに二度、三度と目の前の敵機の肩口を狙って斬りかかる。ゆらりと、敵機の上半身が傾いだ。とどめだ! マサキが剣を振り上げた瞬間、その視界の隅で閃光が弾けた。ファミリアが着弾したのだ。
「もう大丈夫ですよ。あちらの敵機は私が墜とします。あなたはこの辺りの敵機を!」
 砲撃のダメージから回復したようだ。シュウがグランゾンを駆って、暗闇の先へと姿を消してゆく。動けるのならば、問題はない。マサキは今相手にすべき敵機に向けて、剣を一閃した。

 ※ ※ ※

 部隊にかなりの被害が出た夜間戦闘は辛勝に終わった。
 普段であれば距離を取った戦い方をするマサキとサイバスターでさえも、敵に近接しなければならないぐらいであったのだ。防衛ラインを死守するのが精一杯な戦い。マサキからすれば、敵機を殲滅出来たのが不思議なぐらい部隊は危機的な状況下に置かれていた。
 幸い、壊滅的なダメージに至る前に戦域を離脱した味方機が多かったことから、数日で部隊機能は回復出来るだろうというのが軍の上層部の判断だったが、補給路が限られている現在、その見込み通りに回復出来るかどうかには疑問が残る。
「ほら、マサキ。腕を出して」
 艦に帰還したマサキが格納庫を出るより早く、先に帰還して救急キットの準備を済ませていたテュッティが治療を勧めてくる。どうやら魔装機神四体は無事だったようだ。前半に距離を稼ぎ、後半に敵との距離を詰める戦い方を常としているからだろう。
 マサキはテュッティの言葉に自身の身体の状態を確認した。擦り切れたジャケットの袖、裂けたジーンズ……視認性の高い日中の戦闘とは勝手が異なるだけあって、マサキの身体のあちらこちらには痣や擦過傷が見て取れた。
 如何に鋼鉄の鎧となって身を守る愛機の装甲があろうとも、敵機からダメージが通れば、何パーセントかは操縦者の身体にもダメージを与えたものだ。マサキは利き手のジャケットの袖を捲った。腕の各所に浮かぶ痣は勿論のこと、手の甲と二の腕に擦り傷が出来ている。
「今日は無茶な戦い方がどうこう云わねえのな、テュッティ」
「あの激戦を潜り抜けたのだもの。これだけの傷で済んでよかったと云うしかないでしょう」
「しっかし酷ぇ被害状況だな。部隊保有の機体稼働率が20パーセントを切るなんてよ。強制的な休暇じゃねえか」
「まだ艦の護衛があるわよ。私たちの機体は無事なのだから。補給地に辿り着くまでは気が抜けないわ」
「そうは云ってもだな、交戦は出来ねえんだし――」
 また一機、艦への帰還を果たした機体が出たようだ。格納庫内に降りてくる機体に、周囲がにわかに騒がしくなる。整備士たちが右へ左へと走り回る中、博士、と誰かが声を放った。
「大丈夫ですか、シラカワ博士」
 マサキが視線を向ければ、利き腕を抑えながらグランゾンを下りるシュウの姿が目に入る。
「グランゾンの機能には問題ありません。普段通りにメンテナンスを」
「しかし、博士。博士の手は」
「私の腕には問題があるようですが、まあ、何とかなるでしょう」
 云って、恐らくは医務室に向かうつもりであるのだろう。整備士を後にシュウがその場を立ち去ろうとする。マサキはシュウが自身の側を通り抜けるのを待って、彼に声をかけた。
「おい、まさかその腕――」
 思い当たる節がない訳ではなかった。敵の砲撃。マサキとサイバスターを庇いに割り込んできたシュウは、その後の戦闘復帰までにかなりの時間を要している。もしかすると、咄嗟の判断で飛び出した彼は、防御態勢を取るのが間に合わなかったのではないだろうか?
 そのダメージが彼の腕に決定的な怪我を負わせていたとしてもおかしくはない――マサキの胸がざわめく。敵ではないが、味方でもない男。そういった立場にある男に作った借りの大きさが、マサキの平常心を奪った。
「おい、シュウ」
 ちらと視線を投げかけて、無言のまま通り過ぎようとするシュウの肩をマサキは掴んだ。
 くっ、と声を詰まらせたシュウの顔が歪む。表面上、平静を保ってはいるものの、痛みは相当なものであるようだ。マサキは慌てて手を引っ込めた。大したことではありませんよ。いつもと変わりない声の調子で、直後にシュウが言葉を発する。
「さっきの砲撃か」
「さあ。あの乱戦状況ですからね。いつ痛みを感じ始めたのかなど、忘れてしまいましたよ」
「折れてるのか。利き腕だろ」
「それは艦医に見せないことには何とも」
 そう云って、今度こそ振り返ることなく去ってゆくシュウの背中をマサキは見送った。何かあったの? ややあってかけられたテュッティの声に、彼女を振り返る。
「サイバスターの死角から撃たれた砲撃を、グランゾンを使って受け止めやがったんだ」
「そう……こういう状況下だし、無事だといいのだけれど」
 あの鉄皮面が顔を歪ませたほどであるのだ。それは恐らく無理だろうとマサキは思わずにいられなかった。
 マサキですらこの負傷具合であるのだ。あの状況下で、マサキ同様に八面六臂の活躍をしてのけた男が無傷でいられる筈がない。マサキの心に暗い影が落ちる。嫌な相手に借りを作っちまった。そう呟くと、
「だったら早い内に借りを返すことね」
 と、テュッティはこともなげに云ってのけた。



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