終わりよければ全てよし。そんな言葉で誤魔化そうとしてませんか?kyoさん!笑
といったところで後編です。
まとまりに欠ける話になってしまいましたが、楽しんでいただければ幸いです。
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といったところで後編です。
まとまりに欠ける話になってしまいましたが、楽しんでいただければ幸いです。
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<Lonely Soldier>
そういったことを考えながら、胸から腹へとスポンジを滑らせていると、ふとシュウの手が肩に置かれた。ねえ、マサキ。身を屈めたシュウの口唇が耳に滑り落ちてくる。嫌だぞ。マサキは云って、肩に置かれた手を払い除けた。
「つれないことを」
「詫びだって云ってるだろ。そこに変なことを持ち込むなよ」
「詫びであなたの身体を求めるほど、落ちぶれてはいませんよ。彼女らの目があると、そうはこういった機会に恵まれないでしょう。だから、ですよ。それともあなたはそういった気にはならない?」
マサキの口唇をたどたどしくなぞってくるシュウの指先。左手が使い慣れないというのは本当であるのだろう。ぎこちなさが感じられる指先は、だからこそ普段と異なる感触をマサキの口唇に与えてくる。
「嫌《や》だって……」
しつこくも口唇に指を這わせてきながら、耳孔の中へと舌を差し入れてくるシュウにマサキは肩を震わせた。幾度、触れられても慣れることのない感触。背中から腰へと駆け下りてゆく快感が、マサキの男性器を熱くする。
本当に? 尋ねてくるシュウの口唇が耳朶を食んだ。ぴくりと腰が跳ねる。シャワールームに向かう直前に浮かべていた不穏な笑みを目にした時点で予想が付いていたことではあったものの、戦時下の艦内。補給のついでに休暇を得ている身とはいえ、いつ敵の強襲が起こらないとも限らなかった。
ましてや彼を恋い慕う女性二人が同行する旅路でもあるのだ。これで欲に溺れられるほど、マサキの理性は脆弱には出来ていない。借りを返すだけだって云っただろ。息を荒らげながらマサキが口にすれば、シュウは手を滑らせてマサキの手を掴むと、自らの男性器へとその手を導いていく。
「そんなに時間は取らせませんよ。洗うついでに、少しだけ。それでも嫌?」
熱を持ち始めたシュウの男性器が掌中にある。マサキは喉を鳴らした。最後に彼と性行為《セックス》に及んだのはいつであったのか……この大戦が始まる前のことであったのは間違いない。
遠くなった快楽の記憶が、肉体に呼び覚まされる。
シュウとの性行為は、慣れれば慣れた分だけ快感が強烈さを増してゆく。まるでマサキの理性を打ち砕くように与えられる快楽の数々。彼はマサキが逃れようとしないのをいいことに、行為の最中のマサキを好き勝手に扱うようになった。
それがまた、マサキが心の奥底に隠し持っている被虐心を煽るのだ。
闇に紛れるようにして、場所も憚らず肉欲に耽る関係。彼の身体に馴染めば馴染んだけ、マサキは彼に対する素直さを失っていった。彼の掌の上で転がされるように鳴き喘ぐ自分。マサキは性行為中の自尊心を失った己の姿に、一種の恨めしささえも感じてしまうのだ。
捻じくれた感情。だからこそ、それはマサキに彼の掌中に素直に落ちることを良しとさせなかった。嫌だって。マサキが繰り返し口にすれば、少しだけですよ。云ってシュウは、重ねた手をゆっくりと動かし始める。
「利き手が自由なら、もっとあなたを気持ち良くしてあげられるのですがね」
肌を伝い落ちた泡を馴染ませるように男性器を扱かせるシュウが、耳に、頬に、口唇にとその口唇を滑らせてくる。気持ちいいですよ、マサキ。次第に熱を増してゆく彼の男性器に、マサキの身体の奥底が疼いた。焼けつくような快感。彼の男性器を菊座《アナル》に収めた先にある恍惚の瞬間が、マサキの本能に訴えかけてくる。
それは抗えない誘惑だった。
少しだけ挿《い》れてもいい? シュウに尋ねられたマサキは頷いた。少しだけだぞ。シャワールームの壁に手を突いて腰を突き出すように促されたマサキは、ゆっくりと、けれども確実に彼の要求に従った。胸の内では一刻も早く、彼から与えられる快楽を欲しいと望んでいるにも関わらず。
「あなたのそういうところが好きですよ、マサキ」
左手一本でマサキの内部《なか》に挿入を果たすのは、彼であっても難儀なようではあった。腰を支えながら少しずつ、いつにも増して慎重に押し入ってくるシュウに、マサキはとうに熱くなった息を幾度も吐いては蒸れた空気を吸い込んだ。ああ、マサキ。ややあって、その全てを収めきったシュウが声を上げる。
――動いて。
押し広げられた蕾の奥で息衝いている彼の男性器が、マサキの理性を崩壊させた。楽をしようとしてるんじゃねえよ。云いながらもマサキは腰を振った。その都度、抽迭を繰り返す彼の男性器が硬さを増してゆくようにも感じられる。あ、ああ。マサキは声を上げた。腹の底を叩いてくる彼の男性器の先端が、マサキの男性器に逃れようのない快感を送り込んでくる。
「どうです、マサキ。魔装機操者の誓いに忠実なあなたが、戦火の最中にこうして腰を振っている……欲に溺れるあなたの姿は最高だ。ほら、もう少し、腰を激しく振って」
慣れた手つきで胸に左手を回してきたシュウが、マサキの乳首を弄び始める。あっ。マサキは腰を反らした。ずるりと彼の男性器が菊座の奥へと頭を潜らせてくる。痺れるような快感が、びりびりと。菊座の奥から神経を伝って溢れ出してきた。
「あっ、シュウ。お前っも、動けって」
「右手が自由なら、その要望に応えるのも吝かではないのですが。やれることに限りがある身体ではね」
「やだ。やだ。俺ばっかり……」
ふと乳首を弄んでいたシュウの手が、壁を突いているマサキの左手を取った。後ろに引かれる腕。片手でどこまでやれるかはわかりませんけれど。そう前置きをしたシュウの腰が動き始める。ああッ。マサキは額を壁に擦り付けた。
「ああっ、そこ。そこ、もっと突いて」
陰嚢の裏側。前立腺が潜む場所を、彼の亀頭で叩かれるのがマサキは好きだった。菊座と男性器に同時に走る快感が、彼との性行為にマサキをしがみ付かせる。他の誰にも見せられない自分の裏の顔。シュウ=シラカワという男に組み敷かれてよがり声を上げる自分を、マサキは恨めしく感じながらも心のどこかでは必然だと感じてしまっている。
ここがいいの? と尋ねられれば、いいと答える。
この瞬間だけは、マサキはシュウに身も心も預けきっていられるのだ。もっと、もっと。醜いまでの肉欲を晒しても、彼は嘲笑《わら》うことをしない。むしろマサキが欲望に素直であることを喜んでいる節さえある。
「アッ、イク。イク、シュウ。イク……ぅ……」
時に自ら腰を振ってシュウの男性器を菊座に招き入れ、時に彼に菊座を深く抉られながら、そうしてマサキは何度目かもわからない絶頂を迎えた。白けた脳の向こう側で眩いばかりの光が弾け飛ぶ。次の瞬間、どろりと吐き出した精液が、シャワーの湯に押し流されて排水溝に沈んでいく。はあ、はあ。未だ硬く反り返ったままの彼の男性器を腹の中に収めたまま、マサキは肩で息を吐いた。
――次は私の番ですね。
息を乱すことなくそう宣言してみせたシュウが、マサキの菊座から男性器を抜き取る。ほら、しゃがんで、マサキ。シュウが何を求めているか察したマサキは、床に膝を付いた。達したばかりの身体はしきりと倦怠感を訴えてはいたけれども、欲望に限りはなかった。繰り返せるのなら、もう一度。マサキは目の前にそそり立つ彼の男性器へと、自身の顔を近付けていった――……。
※ ※ ※
「あれが初めてあなたが私の身体を洗ってくれた日でしたね」
※ ※ ※
「あれが初めてあなたが私の身体を洗ってくれた日でしたね」
バスに身体を沈めているシュウの脚の間に身体を収めながら、ほど熱い湯を味わっている最中。不意に過去の思い出を口にしたシュウに、そんなこともあったな。マサキは答えて、彼の胸に背中を預けた。
まだお互いに自らの感情に素直になれなかった日のことだ。
孤独にひとりで戦う日々を経て、仲間に自らを委ねることを覚えたシュウとマサキは、やがて自らが欲しているものの答えを得た。孤独を慰め合うように身体を重ね合った嵐のような日々……胸を幾度も締め付けては、反発を生み出す感情。それが向かう先にこそ、マサキは自身が求めているものがあるのだと気付いたのだ。
「やればやっただけ慣れるかと思ったけど、慣れないもんだな」
「私は大分慣れましたが」
「そういう意味じゃなくてさ……回数をこなせば、何かを感じることも減るかと思ってたんだよ。そういう意味じゃ、未だにお前との風呂は慣れねえ」
云って、シュウの顔を見上げれば、彼はマサキが何を云いたいか察したようだった。穏やかに微笑むと、マサキの腰に腕を回して抱き寄せてきながら、したいの? 囁くように尋ねてきた。
「後でな。風呂はゆっくり浸かりたい」
泣いてやり場のない怒りを彼にぶつけた日もあった。拗ねた感情を素直に表せずに八つ当たりをした日もあった。それでもシュウはマサキを諦めるような真似はしなかった。マサキが彼に対する自身の感情を素直に口に出来るようになったのは、しぶとくもマサキに与え続け、そして時に奪い続けもしたシュウの努力があったからこそだった。
「でもお前、お前の欲望ってホントわかり易いよな。人に身体を洗えって、あの状態で命令出来るのお前ぐらいだろ」
「私は欲しいものを諦めるような真似はしたくないのですよ。努力が実らなかった時のことを思えばこそ、振り返った時に満たされる思い出は多い方がいいでしょう。それともあなたは欲しいものを諦めて私の側にいるの?」
まさか。マサキは首を振った。そうして腰に回されているシュウの手に、自らの手を重ねてゆく。
あの頃のマサキは自分が欲しているものが何であるのか、自らのことでありながらわからずにいたのだ。だから足掻いた。足掻いて反発をし、意地を張り、自尊心に縋り付いた。
今ならわかる。マサキは公私をともにするパートナーが欲しかったのだ。心を預け、預けられ、そして何を気にすることもなく自身の背後を任せられる存在。並大抵の能力や精神力では務まらない立場を、だからこそマサキは諦めきって生きていたのやも知れない。
求めていることに目を瞑ることで無欲たろうとしていたのも、だからだ。
諦めたくないと思えたのは、そこにこの男がいたからでもある。自分の求めるものに正直たり続ける男、シュウ=シラカワ。彼からマサキが学んだことは多い。
「風呂から上がったら、ベッドに行こうぜ。食事はその後にしてさ……」
マサキの訴えを目を細めて見下ろしているシュウの温かな眼差し。それがいつになってもマサキにはこそばゆくも感じられる。けれども不快ではない。むしろ彼のそういった態度は、これ以上とない幸福となってマサキの身に降り注ぐのだ。
――幸せってものは、案外、手を伸ばせば届く距離にあるもんだ。
マサキは夕陽が差し込むバスルームの小窓を見上げた。暮れなずむ黄昏色の空がガラスの向こうに広がっている。
ひとりで地上を流離った日々も今は昔。
孤独な戦士の孤独な魂は、長い歳月を経てようやく重なり合ったのだ。
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