日常遣いの眼鏡が壊れてしまいました。古い眼鏡を取り出してきたのですが、やはり微妙に度が合っておらず目が疲れて仕方がないです。出来ればこの三連休。もう少し更新したかったのですが……
眼鏡は明日、作りに行ってきます。
次回で三日目も終わりと云っておきながらの体たらく。申し訳ないです。今度こそ、今度こそ三日目を終わらせて最終日に入ろうと思いますので、宜しくお願いします。
拍手有難うございます。励みとしております!これがなかったらこのシリーズ、とうに投げ出していてもおかしくないぐらいに長くなってしまっていますので、本当に感謝しております!
では、本文へどうぞ!
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眼鏡は明日、作りに行ってきます。
次回で三日目も終わりと云っておきながらの体たらく。申し訳ないです。今度こそ、今度こそ三日目を終わらせて最終日に入ろうと思いますので、宜しくお願いします。
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<Lotta Love>
彼の舌は、彼の肌の温もりとは裏腹に温かい。
指先を舐め取られる度に、じわりと込み上げてくる欲望。背筋に怖気が走るほどに気持ちがいい。通り一遍の愛撫で前戯を済ませないシュウは、マサキの全身に散らばる性感帯を熟知しているようだった。指先もそのひとつ。爪から指の腹まで丹念に舌を絡ませてくるシュウに、きっと、相当に恍惚に浸った表情をしていたのだろう。シュウは満足気な笑みを浮かべてみせると、喉をクックと鳴らした。
親指、人差し指、中指、薬指、そして小指と、隅々まで舌を這わせきったシュウが、ややあって、マサキの手を離す。次いで、両頬を包み込んでくる手のひら。マサキは自分でも緩みきった表情をしていると思いながらも、彼が与えてくる口付けの魅力には抗えない。そうっと目を閉じて、その瞬間を待つ。柔らかい彼の口唇の温もりがマサキの口唇を包み込んだ。
静かに開いた口唇の隙間に滑り込んでくる舌が、マサキの舌を掬い取る。ん……。舌を吸われたマサキは小さく声を上げた。そうして思う存分マサキの舌を貪ってくるシュウに応えるように、自身の舌を緩く動かした。
時に積極的に舌を絡めにいき、時に情熱的な口付けを受け止める。その合間に、ふわりと鼻腔を擽ってくる彼の香水《コロン》の匂い。風呂上がりの彼の匂いは、夜に咲く花のように控えめだ。マサキは手探りでシュウのガウンの襟元を掴みにいった。闇に包まれた視界の中では、彼の温もりだけが唯一の刺激となる。その世界が例えようもなく心地いい。
決して日常的にシュウと触れ合える訳ではないマサキにとって、こうして彼と過ごす時間は貴重性に溢れている。やりたいことは次から次へと浮かんでくるものの、その全てが叶えられる訳ではない。だからこそ、ささやかな触れ合いの記憶が幾重にも積み重なってマサキの記憶に残るのだ。
初めて口付けを交わした日のこと、初めて性行為《セックス》をした日のこと……互いに自身の感情を口にすることのないままに、何かに縋るように付き合いを重ねていった日々。けれどもそれは、きっと互いに同じ想いでいるからこそ続いてきたものであるとマサキは思っている。
「まだ、したい?」
仄明るい寝室。柔らかなルームライトの光が深く瞬く紫水晶《アメジスト》の瞳を照らしている。薄紅色の形の良い口唇が、終わりを先延ばしにするように口付けを貪ったマサキに、その続きを欲しているかを尋ねてくる。いいや。マサキは首を振った。欲しいものは明確だ。
さあさあと外のプールの水が流れる音が静かに響き渡る中、続き。マサキは自らの手をシュウの口元に差し出した。その手を取ったシュウが、手の甲へと口唇を落としてくる。ひく、とマサキは腰を揺らした。
「ねえ、マサキ」
手の甲から手首、手首から前腕、肘窩《ちゅうか》と辿って肩口にまで口唇を滑らせてきたシュウが、不意に動きを止めたかと思えばマサキの名を呼ぶ。何だよ。身体が浮つくほどの高揚感に満たされていたマサキは、突然の愛撫の中断に物惜しさを感じながらも、彼の言葉を聞かずしては済ませられないとシュウの顔を見遣った。
「どうしてあなたは、私にこうして応えてくれるようになったの?」
シュウの問いかけに、マサキは眉を顰めた。
決して褒められたような始まりではなかった。
好意を口にすることなく始まった関係。シュウは機会に恵まれたと思うや否やマサキの身体を奪ってみせた。それは魔装機神の操者として肥大しきったマサキの自尊心を叩き潰すように。抵抗も懇願も彼を前にしては無意味なものであるとマサキが思い知ったのは、彼の尊大なまでのエゴイスティックな振る舞いがあってこそだ。
それを当時のマサキは憎々しく、或いは忌々しく感じていた。
けれども回数を重ねるにつれ、マサキはシュウとの性行為の最中に、彼の諦めにも似た感情を感じ取るようになった。
悲壮感と絶望。彼はマサキを抱けば抱いた分だけ、そうした負の感情に囚われていくようだった。自尊心の高い彼はそうした感情をマサキの前で露わにすることは決してなかったものの、マサキと一線を超えた関係を持ってしまったことで苦悩を抱えているようであるというのは、どうかすると彼の口を衝いて出る暴虐なまでの皮肉から察することが出来た。
――私に限った話ではないのでしょう、マサキ。これだけ身体を開いてみせて。
余裕めいた振る舞いを常としておきながらも、シュウは縋り付くようにマサキを抱いた。性行為の後に、束の間、マサキの腹の上に顔を乗せて身体を休めるようになったのもその頃からだった。マサキの心音を聴くように耳を腹部に押し当て息を整える彼の姿は、まるで幼児のようにマサキの目には映った。
――止めて欲しいですか、マサキ。残念ですね。私はあなたを手放すつもりはない。
幾度となく繰り返される宣告。そうやってマサキの抵抗を封じておきながら、彼はいずれマサキを手放す日が来ると覚悟しているのかのようだった。性行為が終われば何事もなかったかのように、マサキの傍にいる女性たちの話をマサキに振ってきた。
理解が出来ない。彼の揺れる感情と態度は、マサキ自身の感情をも暴風雨のように荒らげさせた。
けれども、ある時、たった一度だけ彼は涙を流してみせた。その日の彼は酷く酔っていた。何があったのかはマサキは知らないままだ。けれども彼の言葉の断片を繋ぎ合わせるに、どうやら思い出したくない過去を思い出させる出来事があったようだ。
――どうせ裏切られるのならば、奪えるだけ奪い切りたい。例え憎まれようとも。
嗚咽混じりにそう口にしたシュウの姿は、酷く頼りなかった。
――返ることのない想いならば、一生残る傷を残したい。
記憶に刻み付けるようにマサキを抱くシュウは、時として口にするのも憚られるような行為をマサキに強いることがあった。けれどもその頃のマサキは、シュウが思っているほど彼を厭ってはいなかった。むしろ彼に言葉に出来ない感情を抱くようになっていたからこそ、進んで身体を差し出すようになってもいた――……。
「……お前だけが、俺を本当の意味で必要としてくれてると思ったからだよ」
きゃあきゃあとマサキに纏わり付いてくる女性たち。彼女らが決してマサキを理解していないとは云わない。けれどもマサキは彼女らが向けてくる好意の中に、軽薄《ミーハー》さを感じてしまうことがあった。
たったひと言の好意の言葉を口にしない男は、決して褒められない遣り方でマサキの身体を奪っていったけれども、その尊厳を踏み砕かれたような扱いの中にこそ、彼の遣る瀬無さや執着心が詰まっているようにマサキには感じられて仕方がなかった。
シュウ=シラカワという男は、マサキ=アンドーという男を失っては正気を保てないに違いない。
そう感じさせるだけの狂気があの頃のシュウにはあったように、マサキは思う。それを救いたいと考えてしまったのはマサキ自身の驕りに他ならなかったけれども、そう考えてしまうまでに、痛々しいまでの執着心を自身に向けてくる男の存在はマサキにとって重いものとなっていたのだ。
「……――そう……」
マサキの言葉を聞いたシュウは、瞬間、呆気に取られたような表情をしてみせた。それがマサキには彼が途惑っているように映ったものだから、前言を撤回せずにいられなくなった。
「悪い……思い上がってるよな、こんなの……」
気まずさといたたまれなさに顔を背け、静かに降り注ぐ沈黙を耐え凌ぐ。もしかすると自分は盛大な勘違いをしてしまっていたのやも知れない。マサキはシュウを振り返った。そして行為の続きをせがもうと口を開きかけたところで、その身体をシュウに抱き締められた。
いいえ――と呟いたシュウが、次いでマサキと自分に云いきかせるように言葉を吐く。
「私にはあなたが必要だ」
その瞬間、マサキはこれまでの日々に感じることがままあった苦悩の一切から自分が解放されてゆくのを感じ取った。
シュウ。と、その名を呼ぶ。どうかしましたか。余裕に満ちた表情は、変わらずマサキには憎々しく感じられるものであったけれども、昔のように心が冷えることはもうない。彼とマサキの関係は、長い付き合いを経てようやくこの段階に至ったのだ。
「お前、本当に肝心なことはいつも後回しにするよな」
「そうかも知れませんね」シュウの顔がマサキの髪に埋められる。「続きをしてもいい、マサキ?」
余韻に浸るよりも感情を行為で示したいのだろう。性急にも限度があるシュウの言葉に苦笑しつつも、マサキは頷いた。
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