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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

DARKNESS MIND(8)
私がマサキにごめんなさいする回です。エロはないです。
 
当たり前なのですが、書いている間は基本的に目の前に資料が置いてある訳ですよ。そうすると、ふと資料に目をやった瞬間に、マサキと目が合うのですよ。その瞬間に、「私はこんな可愛い子に何を……」と思うのですが、だからといって止めるつもりは毛頭ございません!ごめんなさい!
残り二回で終わる予定です。なので話を進めました。次回はエロ回です。
<DARKNESS MIND>
 
 翌日、マサキは朝からベッドの中で過ごした。身体の節々に残るどうしようもない倦怠感が、マサキをそこから動かしてくれなかったからだ。
 腰や股関節も痛ければ、顎も痛い。自分が何をしたのか、シュウに何をされたのか、マサキはよく覚えていなかったけれども、手首に残る手枷の跡が、うっすらと残っている記憶の数々が現実《リアル》であったことをマサキに伝えてくる。
(あまり、いい薬ではなかったようですね。精製が雑なのかも知れません。その辺りも含めて、少し地方議会員たちと話をしてきますよ。ああいったものをモニカに使われたのでは堪ったものではない。それに、そろそろ背後関係も知りたいところです。上手く聞き出したいところではありますが、こちらは難しいでしょうね)
(俺は仲間にならなくて大丈夫なのか?)
(大丈夫ですよ。ああは言いましたけれども、モニカを捕らえてまで、私に言うことを聞かせるような人たちですよ。その時点で碌なものではないでしょう。上と下の考え方が違うのは仕方がないにせよ、地方議会に何か別の思惑があるのは間違いない。乗らない方が賢明ですよ、マサキ)
 シュウはシュウでやることがあるらしい。それだけ言って、朝食を取ると、例の兵士に何事か伝えて部屋を出て行った。
 すべきこともない。そもそも何かをしようにも身体がまともに動かない。マサキはテレビを点けたまま、ベッドの中で眠った。
 夢も見ない深い眠り。目が覚めると、テレビの電源が落とされていた。改めて点けたテレビで時間を確認すると、午後を過ぎて少しばかりの時間であるようだ。
 シーツやブランケットの取り替えられたベッドに、身体を拭われた跡。また誰かがマサキの眠っている間に、そういった“後始末”をしたのだろう。前に姿を見せた一般兵だろうか。真面目な表情でマサキが身体を拭ったタオルを受け取った彼。マサキは苦笑する。
 誰も彼も真面目に職務に励んでいるというのに、自分は。
 自治区ではまだ小競り合いが続いているのだろうか? だったら自分が一度現場に出て、その動きを止めた方がいいのではないだろうか。元々小競り合いの種があったにせよ、魔装機同士の戦いに巻き込まれてしまっては、自治区の住人たちが気の毒だ。マサキはベッドの中。こうした時間でもなければ考えられないことを考えながら過ごす。
 テレビが再び点いたことで、マサキが起きてきたことに気付いたのだろう。暫くすると例の兵士が食事を片手に姿を現した。
「どうだね、調子は」
「あんまり良くないな。記憶がはっきりしない」
 服を脱いだまま、彼の目の前で食事をするのも礼を欠く。マサキは枕元に置かれている服を着て、長椅子に腰を落ち着けた。おぼろげな記憶が定かならば、昨夜、マサキはこの兵士の前で二度も醜態を晒している。
 ああ、まただ――。じん、とした疼きが身体の中心に走る。頭がぼんやりとして上手く働かなくなる。マサキはそのことについて考えるのを止めた。本当にこれでは身体が持たない。
「それは申し訳ないことをした。私に与えられている権限も少ないものでね。彼の行動を完全には制限できない。今日ぐらいは穏便に済んでくればいいのだが」
「まあ、拷問されるのに比べりゃな。どうってことないだろ、多分」
 野菜を煮込んだスープに、燻製肉と目玉焼き。サラダにフルーツ、ガーリックトースト。あまり食事をしたい気分ではなかったが、食べなければ身体が持たない。マサキはゆっくりそれらの食事を口に押し込んだ。
「少し話をしてもいいだろうか」
「尋問でなければ結構だ。長くなるなら座れよ。俺は捕虜だ。そのくらいの自覚はある」
 失礼する。そう言って、兵士はマサキの対面に座ると、膝の上に肘を付いて両手を組んだ。
「彼からも話を聞いたと思うが、我々としては歴史を歪めて伝えられるのには我慢がならない。毎度、そのことで自治区内で揉めるのはもう沢山といった思いがある。それに、融和政策も上手くいっているとは言い難い」
「悪いな。あまりその辺については詳しくなくてな。通り一遍の話ぐらいしか聞いていないが、そんなに揉めているものなのか?」
「次の世代、また次の世代と、彼らが共通認識を持って育ってゆけば上手くいくと国同士は考えたのだろうがね。どうやってもかつての意識や知識が古い世代から伝わってしまうのを防げない。まあ、住人同士はなるべくそこには触れないようにして表面上の付き合いを続けているが、今回のようなことがあるとどうしてもね。それだったらいっそ自治区をひとつの国とすべきだ。上と下の考え方の相違が解消されるだけでも、自治区内の治安は格段に良くなるだろう。違うかね?」
「まさか、ラングランとバゴニア両国から独立を果たすつもりでいるのか? 自治区の住人全員を引き連れて」
「いずれかの国に自治区が編入されるといった方法では、住人のどちらか側に禍根を残す結果となるだろう。それだったらひとつの国として、お互いに自分たちでこれからの国のあり方を模索してゆく方がいい。地方議会がどう考えているかはわからないが、我々自警団としてはそうしたいと望んでいる」
「道のりは長いぜ。俺にそれに付き合えって言うのか」
「だからこういったやり方を我々は好まないのだよ、マサキ=アンドー」
 兵士はマサキの首元に未だ嵌められたままの首輪を指差して言った。何にも動じない表情が、少しだけ憂いを含んだものに変わる。
「君は歴史に名を刻む覇者だ。君が戦力となってくれるだけで、その道のりは格段に短いものになるだろう。我々は多くを望まない。同じ地区で生まれ育った者同士。お互いに揉めずに穏やかに日々を過ごしたい。それだけだ」
「しかしだな、それだったら地方議会と手を結ぶのは拙かったんじゃないのか。そこから更に自分たちだけで、となると、長い道のりなんてもんじゃない。柵《しがらみ》っていうもんは、そう簡単に断ち切れるもんじゃないだろ。地方議会を頼るよりも、同じ地区の住人同士。先ずはその点での自治区内の意思統一が先じゃないか」
「そこを突かれると、我々としても耳の痛いところがあるな」
 マサキは温くなったスープを喉に押し込んだ。彼らの味方となるのは吝かではない。正魔装機のメンバーの中にも、彼らの理念にだったら従ってもいいと望む者も出るだろう。しかし、問題は彼らの理念ではなく、バゴニア地方議会が何を考えて行動しているかという点だ。
 利用し利用される関係としては、自警団側の考え方は詰めの甘さが目立つ。
「その為の融和政策でもあると俺は思うけれども、違うのかね」
「ふむ。我々が不安を感じているのは、国が我々を将来的にどうしたいのかが見えない点にあるようだ。融和を果たしたその先にあるものは何なのだろうな、マサキ=アンドー」
「それこそがあんたらの望む穏やかな日々ってもんじゃないのか。そこから独立を目指すのか、それとも互いに互いの国に属するままでいるのか。それはその時に考える問題でもあるだろう。言いっ放しで申し訳ないが、あんたらが感じている閉塞感の正体が、考え方の相違だけであるのなら、俺は無理に独立を目指さなくてもいいと思うぜ。大国に属しているからこその利益だってあるもんだしな。どちらがいいかを決めるのは俺じゃない。当事者である自治区の住人たちだ」
「成程。どちらもそこに至るまでの道のりは同じ、という考え方か。それはそれで一理ある」
 少しの間、兵士は何事か考え込んでいた。きっと、これからの自警団の方向性について、どうすべきなのかの答えを探しているのだろう。マサキは残った食事を押し込みながら彼の次の言葉を待った。
「長い話に付き合わせてしまったな。そのついでにもうひとつだけ、聞きたい。君は今の自分の置かれている環境についてどう考えているのかね? 主に彼からの扱いについてだが」
 聞かれないとは思っていなかったが、真面目に問われても困る。マサキは、空になった食事を目の前に、どう何を話すべきか考えた。シュウの自分の扱いに全く思うところがない訳ではなかったが、昨晩、うっすらと思い浮かんだ考え通りにマサキに本当の屈辱を味あわせたくないとシュウが考えてのことだったとしたら、モニカの件もある。どちらも守るには仕方のない行動でもあるとはマサキも思う。
「どうもこうも、捕虜は捕虜だしな……どう扱われても文句を言えない立場な割には、ちゃんと扱ってもらえてる方なんじゃないか。シュウについては……まあ、あいつなりに考えた結果らしいっていうのはわかってるつもりだ」
「おかしな関係だな、君たちは。敵味方に分かれて、それでもそれを了としている」
「あんたらが好奇の眼差しで見てくるならまだしも、全員揃いも揃って真面目なもんだから、俺も感覚が麻痺してきてるんだよ。良くないな、こういうのは。慣らされている自覚はあるけれど、だからってどうにかしようとも思えない」
 考えが及んだだけで、欲望がそろりと這い出してくる。快感を求め出す身体が、マサキの考えを奪う。それでも尚、シュウのすることに逆らおうと思えるほどに、マサキは自我を保てない。そう、保てないのだ。
 もし、自分の考えが正常だったら、どう感じるのだろう? マサキは飲み込まれそうになる意識の底で思った。それでも、自分は最終的には、そういった扱いを受け入れてしまうに違いない。知ってしまった快楽は、それだけ、マサキをそういった感情から逃れさせてくれそうになかった。
「解呪は必要ないと思うかね」
「必要だったらあいつがやるんじゃないかね」
 思わず頷きかけてしまった自分がいる。こうして説得されても首を縦に振れないのにも関わらず、ただ快楽を与えられ続けていたい。その一心で、彼らの味方になることを諾としようとしてしまった自分が。
 それが正しいことなのか、間違っていることなのか、マサキには判断が付かない。いや、本当はわかっているのだ。歪んでしまっていることも、自分が壊れてしまっていることも。それでも、繋がれた絆を手放したくない。術にかけられているだけではない。そういった気持ちもまた、マサキに考えることを放棄させている要因のひとつなのだ。
 マサキの返答に、わかった、と頷いて、トレーを兵士が手に立ち上がる。彼はこれからどう立ち回るつもりなのだろう? マサキの考えを聞いて、それでも、マサキに味方になって欲しいと望むのだろうか。そう思いながら、マサキは扉に向かう兵士の背中に向けて言った。
「わかってる、なんて言っておいてなんだが、あれは半分は趣味だと思うぜ」
「私もそうだと思うよ」彼はそう言って、少しだけ声を上げて笑った。「いずれにせよ、独占欲の強い性質だとは思うがね」
 
 
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