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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

魔王と勇者(1)
素晴らしいものが送られてきました。
捜索願を出していた前サイトの過去ログの一部です。有難いことです。

この頃の私は思いっきりF.E.A.R.のTRPGリプレイにハマっていたこともあり、サイト半分ぐらいのノリがこんな感じでした。つまりハチャメチャなギャグです。悪ノリです。だがそれがいいッ!

もし宜しければ、次作までの間お読みいただけたらと思います。
では本文へどうぞ!
<プロローグ>

 朱に染まる大地。
 黄昏の時を迎える王都。

 世界は――魔王の手に陥ちようとしていた。

 ――全テヲ我ガ手二。

 暗き王子が叛旗を翻し、厄災を振り撒く種となりて早数ヶ月。
 劣勢に陥った王宮は最後の手段を取る事にした。

 伝説の勇者を探し出し、その力を以って魔を払おうと。

 かくして、物語は始まる。
 多分。


<勇者という職業>

 それは長閑な朝。
 ベットの中で惰眠を貪っていたマサキの耳元で、突然打ち鳴らされる銅鑼の音。
「な、なんだっ!? なんだっ!? 戦争かっ!?」
 喧しい物音に飛び起きると、銅鑼と思ったのはブリキのバケツだった。それとおたまを手にしたプレシアが、ベットの脇で仁王立ちしている。迷惑な起こし方もあったものである。
「あ、起きた」
 邪気のない表情で笑い、プレシアはバケツを下げた。その中に研ぎ澄まされた包丁がある。昇る太陽に照らされて、物騒に煌めく包丁。マサキは指を指しながら、言う。
「お前、それ……」
「何?」
「いや、その……包丁」
 きょとん、と目を瞬かせてプレシアは包丁を手にした。
「これ? だって料理してる間に来るんだもん」
「はぁ? 誰が?」
 その瞬間、開け放たれた寝室のドアの向こうから、盛大なクラッカーの音が鳴り響いた。舞い散る紙吹雪とテープを呆然とマサキは見詰める。どやどやと足音が響き、甲冑に身を包んだ一団が断りもなく侵入してくる。その数、およそ50人。
「って、入るわけないだろ――――っ!? この部屋にっ!」
「それが入れるんです。ゾウが踏んでも大丈夫とはまさにこの事」
「物置の話じゃねえんだよっ!? つーかお前誰だよっ!」
 どうやって入ったのか不明だが、何せ50人も詰め込まれた室内である。暑苦しいこと他ない満員電車状態の中で、金髪碧眼童顔の少年はそれをものともせず、速やかにマサキの目の前に進み出ると一礼した。
「始めまして。僕はザシュフォード=ヴァルハレビアと申します。王の命により、あなたを迎えに参りました」
「……は?」
 事態を飲み込めないマサキの周りで、兵士達は喝采を上げ、クラッカーを打ち鳴らす。
 生まれてこのかた上流階級の人間とは無縁の生活をしてきたマサキには、話が全く飲み込めない。只の一般人に、一国の王たる人間が何の用だと言うのだろう。ザッシュはにこやかに微笑むと、その理由を口にした。
「あなたは、勇者に選ばれたのです」
「はあああああああっ!?」
 マサキの混乱は余所に、兵士達はマサキに群がるとその体を抱え上げた。抵抗もへったくれもない。担ぎ上げられた体が運ばれる。部屋の外へと。
「な、何なんだよ――――っ!? って、プレシアっ!プレシアっ!?」
 唯一自由になる首を捻って背後を見遣ると、いつの間に取りだしたのか黄色いハンカチを手に、大きく手を振るプレシアの姿があった。
「おにいちゃーんっ! 頑張ってね―――っ!」
「いや頑張るとかそういう問題じゃねぇし、そもそも黄色いハンカチってなんでわざわざ強調するのか意味不明だし、しかもなんでこんな非常識な状態を納得してるんだか理解できないし、その前に勇者に選ばれたって、これは普通に拉致ってるだろっ!?」
「勝って帰って来てね――――っ!」
 勝ちも負けも何が起こっているのかわからないマサキは、自宅から10kmは軽く越える王都までの道程を、兵士達に担がれたまま移動させられた。時折、道で擦れ違う人々の視線がやけに冷たかったのは気の所為だと信じたい。
「って、これ勇者の扱いじゃねぇだろおおおおっ!?」

「だああああああっ! 降ろせよっ! 降ろせよってばっ!」
「駄目ですよ。僕はあなたを王に会わせなければいけません」
 マサキは担がれたまま、城門を通過する。
 門番の兵士が小脇に抱えた籐籠の中から花びらを撒く。髪に腕に残る紙吹雪とテープの上から花弁の洗礼は、むせ返る匂いを運んで来る。火薬の残り香に甘い蜜の匂いが混じれば異臭になるのも当然だ。咳き込むマサキの目に、微笑ましそうに見守る城内の兵士達の姿が行きて過ぎる。
「いや会わせるって、もう少し穏便な手段を取れよっ! なんでこんな晒し者みたいな扱いを受けなきゃいけないんだよっ!」
「僕の趣味です」
「なにいいいいいいっ!?」
 兵士の一団は一糸乱れぬ歩調で、足音を響かせずに階段を駆け上がった。担がれているマサキの姿がなければ、厳粛な軍隊行進と何ら変わらない。
 その脇を、一人輪から外れたザッシュが悠然と歩いている。人畜無害な顔立ちでにこにこと微笑む様は、子供を見守る親といった趣きだ。
「趣味って何だよ趣味って――――!」
「いやだなぁ。趣味は趣味に決まってるじゃないですか」
「馬鹿かお前はっ!? じゃあ何だよっ! 趣味で俺はこんな扱いを受けてるのかっ!?」
 豪華な意匠の大扉が徐々に近付いてくる。
 満面の微笑みを浮かべて、ザッシュが頷く。
「そうですよ」
 頬に当たる細かい粒。マサキが飛んできた方向を見遣ると、大扉の前に立つ警護の兵士がいる。その腕は門番と同じく籐籠を抱えている。籠の中は白い何かで埋め尽くされ、それを掴んだ兵士が腕を高く振り上げる。
 放る、ではない。投げつける、である。
「ふざけんなあああああっ!? これもてめぇの趣味かよ、ザッシュっ!」
「まさか……ははは……そ、そうかもしれないっ!?」
「てめぇの事だろうがああああああっ!」
 スローイングモーションも見事に、顔面を打つ粒。口に入った粒を思わず噛み、マサキは気付く。乾燥して味気のない物体は、主食である米だ。
「勇者だろっ!? 勇者だって言えよっ!? これじゃ結婚式のバージンロードじゃねぇかっ!」
「勇者ですよ、疑り深いですね」
 しらとザッシュは言い、一足先に大扉の前に進み出た。
 兵士が恭しく一礼し、扉を開ける。
「……思い出しました」
「……何だよ」
 マサキの下の兵士が足を止める。扉が開ききるのを待っているらしい。身の丈の5倍はあるだろう巨大な大扉が開くには時間が掛かりそうだ。ザッシュの横顔が緊張しているように見え、マサキは唾を飲む。ここまで惚けっぱなしだったザッシュに、そんな表情をさせるとは余程の事だと。
 次の瞬間、ザッシュは相好を崩して言った。
「クラッカーや花びらや米は王が考えた事だって」
「ふ、ふざけんなよ!?」
「いや、これが本当の話なんですよ。親しみ深い王でしょう?」
「全然親しみ深くねえええええええっ!?」
 暴れるマサキをものともせず、兵士達は開け放たれた大扉の向こうへ進み出た。
「ああああああああっ!? もう帰るっ!つーか帰らせろよこの馬鹿野郎ども――――――っ!?」

「……で、てめぇが王様か」
 疲弊しきったマサキの目の前には、国王アルザールの姿があった。大理石で設えられた段上に据え付けられた黄金の玉座が権力を象徴しているようだ。
 意外にも、アルザールの外見は真っ当であった。貫禄に満ちた風貌は流石一国の王と言うべきか。ザッシュの衝撃の告白からマサキが想像していた人物とはかけ離れていた。勿論、この期待は裏切られた方がいいに決まっている。
 マサキは安堵に胸を撫で下ろした。
「如何にも。遠路はるばるご苦労であった、勇者よ」
 口振りの端々にも威厳と風格が感じられる。何せ惚けたザッシュの事である。口先三寸の冗談でからかっていただけなのだろうと、マサキが両脇に控える臣下達の列に立つザッシュを見ると、何がそんなに楽しいのか、底抜けに明るい微笑みを返してきた。呑気なものである。
「さて、貴君を呼び寄せたのは他でもない。我が国が現在、どういう状況にあるか知っているであろう。魔王を語るものの進軍によって我が国の領土が悉く侵略され、軍は撤退を余儀なくされておる。このままでは王都に侵攻されるのも時間の問題だ――そこで」
「勇者の登場って? 軍が立ち向かえないような相手にぶつけるには貧弱過ぎる気がするけどな。そもそも俺じゃあ役不足だろ。大体なんで勇者に選ばれたんだか……納得行く説明を聞かせて貰おうじゃねぇか」
「うむ、疑問は尤もだ――では、あれをここへ」
 アルザールの呼び声に答えて、玉座の奥の間から法衣に身を包んだ老人が台を押しながら姿を現わす。宝石が散りばめられた豪華な意匠の黄金の台、その上には赤いビロードの布が被せられている。布の膨らみは人間の頭一つ分ぐらいだろう。マサキの目の前にそれを置き、法衣の老人は臣下の列に下がる。
「さて、では貴君にその布を外して頂こう。それを見れば、貴君が何故勇者に選ばれたのか納得できる筈だ」
「この下に……?」
 期待と不安に胸を膨らませ、マサキは布に手を掛けた。何があるのか。大きさから察するに剣や盾の類ではない。ならば何かのアイテムか。
 静まり返った謁見の間に集う全ての人間の視線がマサキに集中している。兵士も、臣下も、そして国王アルザールまでもが息を詰めて見守る中、マサキは腕を引いた。
「……これは」
 誰ともなく叩かれる手。まばらな拍手はやがて熱狂的な拍子となり、歓声と化した。勇者を祝福するのはアルザールも同じだ。玉座から立ち上がり、惜しみない拍手を送る。
「ちょおおおおおおおっと待てええええええっ!」
 歓声に掻き消される声。マサキの声をもってしても、優に100を越える臣下や兵士の歓声には打ち勝てない。当人の戸惑いを余所に、何を納得しているのか、これぞまさにスタンディングオベーション。熱狂の坩堝でマサキは一人肩を落とす。
 この国から逃げ出すなら今かもしれない、とマサキの頭を真剣に悩ませたのは――、

 台の上に鎮座する福引のガラガラと、自分の名前が書かれた小指の爪程の大きさの玉。


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