初心に帰るっていいですね。この元気が欲しい!
若気の至りな作品ですが、兎に角勢いと元気だけはありました。
まあ、ちょっと当時のわたくし個人のノリは痛々しいものでしたが……(黒歴史)
メタが爆発している回ですので、pixivから入った人にはわからないネタばかりです。
では、本文へどうぞ!
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まあ、ちょっと当時のわたくし個人のノリは痛々しいものでしたが……(黒歴史)
メタが爆発している回ですので、pixivから入った人にはわからないネタばかりです。
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<幕間>
絶望的な闇の中で男は浮遊していた。
右や左はおろか、上も下もわからぬ空間では方向感覚は意味を持たない。灯りもなく、光もない、その世界を漆黒のローブに身を包んで男は漂う。見えざる神の手に誘われるように、男は一点を目指して突き進む。
男は何故ここにいるのか。闇の中心点――全てが集約される地に到達するとその体は動きを止めた。黙して語らぬ男の心境を計る物差しも無く、闇ばかりが男を柔らかく抱き受け止める。
愛しき御子を迎えるように、母なる闇は蠢く。
――愛し子よ、其方は何を視る?
伏せた睫毛が微かに揺れ、ゆっくりと瞼を開いた男のローブの内側から白い手が差し出された。黒く塗り込められた世界の中に白い肌だけが異質に浮かぶ。それはさながら闇夜の雪化粧のように目にも際立つ。
――愛し子よ、其方は何を視る?
伏せた睫毛が微かに揺れ、ゆっくりと瞼を開いた男のローブの内側から白い手が差し出された。黒く塗り込められた世界の中に白い肌だけが異質に浮かぶ。それはさながら闇夜の雪化粧のように目にも際立つ。
男は丸めた掌の中から指を起こす。銀糸を思わせるしなやかな指先からセルリアンブルーの淡い光が放たれて球を描いた。拮抗する闇を跳ね除けて、それは両手で抱えられる程の大きさとなる。その中に、
――この光景を。
闇が嗤う。映し出された光景は、城の牢屋での一幕。
静かな怒気を孕んだ声が、告げる。
――血の繋がった身内だからこそ許せぬ事もあるのだと……思いませんか。
――さあ……母なる胸に答えは在らぬ。人の愚かな心根など、それを喰らう我が身に理解出来ようか。
――そうでしょうとも。貴女には、理解出来ない。
――愛し子よ……絶望を感じるのであれば、母がそれを癒そうぞ。
言葉と共に黒き稜線が四方から男に伸び、その体に絡んだ。音もなく男の体を覆う闇の手はやがて巨大な繭となり、濃紫に染まった。浮かぶ男のシルエットがベットで安らいでいるかのように寛いで見える。
――其方は何も心配する必要はない……
慈愛に満ちた言葉を投げ掛けながらも、潜む残虐な響き。
その声に誘われて、男は眠りに就いた。
<勇者という職業(3)>
「と、そういえばですね」
<勇者という職業(3)>
「と、そういえばですね」
放心しきっているマサキにザッシュは突然語りかけた。
相変わらず地下室に二人ともう一人はいる。瓦解の下に埋もれているアルザールが『一人』なのか『一体』なのかは、依然不明のままである。
ザッシュが言うからには死んではいないのであろうが、あの威力の魔法を喰らっているのである。五体満足ならそれはそれで歴史に残る事件だろう。従者が主にたいして本気も本気の魔法を奮った時点で、存分に事件になっている気もしなくはないが。
「聞いてますか、マサキさん」
ザッシュの幼く無邪気な面立ちが笑顔になる。その頬には可愛らしい笑窪が浮かんでいた。
これだけ見ていれば、彼の無茶を道理で通す思い切りの良さなど想像も出来ない。
「ああ、聞いてるよ。今度は何だ」
「知ってましたか――」
ザッシュは指一本立ててみせると、
「ここに来てからかれこれ4ヶ月が経ちましたよ」
と、言ってのけた。
「てめぇだからメタな台詞はやめろって言ってるだおおおおおおぅ!」
涼しい表情でさらりと言ってのける姿は容姿が幼いだけに憎らしい。マサキはザッシュの胸座を掴むと一気に詰め寄った。
「前回の更新から4ヶ月が経ってるなんて言わなきゃわかんねぇんだよ! 大体何なんだよこの展開は毎度毎度俺が虐められて終わるだけじゃねーか! いい加減にいい思いのひとつもさせろってんだ! シンデレラか俺は! どいつもこいつもよってたかってあれやこれやと無理難題で迫りやがってこの野郎!」
今にも掴みかからんとするマサキの手を、やんわりとザッシュが取る。
「シンデレラは最後には王子様と幸せな結末を迎えますよ」
「言葉のあやに突っ込んでるんじゃねぇ!」
顔を寄せて微笑むザッシュに先程の冗談とも本気とも付かない行動が思い出され、マサキは瞬時にその手を払った。舌打ちする音が聞こえた気がしたが、敢えて無視を決め込む。
これ以上の厄介事はご免だと。
「まあ確かに、この4ヶ月を振り返りますと――」
胸元から黒い革表紙の手帳を取り出したザッシュが、それに目を落とす。
「これ(※1)ですからね……よくよく不幸な星の元に生まれた人なんですね、マサキさんは」
「てめぇどこを見てるんだよおおおおおおっ! メタにメタを持ち込んでるんじゃねぇよおおおおおおっ! しかもよりによってなんでそのページなんだよ! 他の所も見ろよ!見ろってば! シリアスだってやってるんだっつーの! いっつもいっつも巫山戯た展開ばっかりに巻き込まれてるんじゃねぇんだよ俺はっ!」
「それはさておき」
「人畜無害な笑顔で流すんじゃねえええええええっ!?」
まあまあ、と肩を怒らせていきり立つマサキの肩を軽く叩き、ザッシュが宥める。
「これ(※2)を見ると、益々もって僕は必要な人間だと思いますよ」
「はあ? どういう意味だよ」
「だってマサキさん――」
掴んだ肩を引き寄せて、ザッシュが耳に口を近付けた。吹きかかる息にマサキは肩を縮める。細めた目に、ザッシュの微笑みが映る。
――油断ならない、表情。
体を引こうにも自分より一回りは小柄な少年のどこにこんな力があるのかと思うほど、強固な力で固定された肩は微塵も動かない。地面に縛り付けられた体は、成すがままにならざるを得ず。
汗がマサキの背を伝う。
小声の含み笑いと共にザッシュが言葉を吐き出した。
「いつも同じ人が相手じゃ楽しくないでしょう?」
「だからてめぇはメタな世界の話を持ち込むなって言ってるだろうがああああああああっ!」
繰り出した拳を易々と片手で受け止めて、ザッシュがマサキの腕を捻り上げる。背後に回された腕に激痛が走り、マサキは苦悶に顔を歪めた。息一つ乱れていない、ザッシュの穏やかな声が響く。
「駄目ですよ、あんまり不条理に脊椎反射しては。こっちのあなたはまだ、あの人に会っていないんですから」
「先に話を持ち出したのはてめぇだこの野郎!?」
「そこはほら、サービスという事で」
「何のサービスだよ馬鹿野郎! てめぇのサービスはスマイル0円だけで充分だ!」
ひとつ受け答えをする度に、マサキの腕を捻る手に力が増す。マサキの背骨が軋み、膝は笑った。反り返った躰がザッシュに凭れる形になり、マサキは焦る。
体勢を元に戻そうともがくも、支えとなるのはザッシュの体だけだ。
その様子を見てザッシュが更に笑う。笑いながら、言う。
「ご一緒にポテトはいかがですか?」
態度が穏やかなだけに、マサキは心中穏やかではいられない。
「バーガーもサイドメニューもいらねえええええええっ! てかこの世界はどこなんだよ!? マックはないだろ普通に!?」
「人の事は言えませんよね、マサキさんも。自分で話を振ってるじゃないですか。それに――マックと言うのは全国的な略称じゃないですよ。正しくマクドナルドと言いましょう」
「いいから話を先に進めろおおおおおっ! マックもマクドも話には関係ねえええええええっ! そしてこの手を離せ! この笑顔魔人!」
すっかりザッシュに躰を預けた格好になったマサキが、口で抵抗するも、
「笑顔は僕の専売特許ですよ――と、いう事で」
手首を掴む手は解けず。
「と、いう事で?」
「気が変わりました。借りは先に返して貰う事にします」
言うなりザッシュの口唇がマサキの耳朶を挟む。
「…………っ! 馬鹿っ! ふざけんな……っ!」
肉厚の濡れた口唇から息が吐き出され熱く耳を擽り、マサキは仰け反った。顔を背けたマサキを追って、ザッシュの舌が首筋をなぞる。
「……やっ!」
こそばゆさに腰が浮き、マサキは頭を振る。
くすぐったいそれとは別の感触が足元から這い登ってきた。逆上せた熱さに似た熱が躰の内側から放出され、腰を、背を、頬を染め上げる。
力の抜け切った足が崩れ、マサキは床の上に座り込む。
「な……んで……」
自分の躰の異常に浮かぶのは――戸惑い。
やんわりとマサキの躰を抱えたザッシュが相好を崩さずに囁く。躰を弄る指先の柔らかな動きにすら、マサキの意識は翻弄される。
触れられた先から肌に火が着き、熱を帯びていく。
「飲みませんでしたか」
「何……を」
「陛下に何か、飲まされたでしょう」
アルザールが手にしていた小瓶の液体。口移しで喉に流し込まれたそれを思い出して、マサキは頷いた。声を出す気力も奮わない。
躰を探るザッシュの手の動きを追い、それだけに捕われる。
「あれが陛下の手口です。あの液体は遅効性の催淫剤ですよ」
それで――と納得する間もなく、ザッシュの手が顎にかかる。
顔が仰がされ、息が近く口唇にかかる。自然と、マサキは口を薄く開いていた。
「……素直ですね。流石は陛下のコレクションです」
薬によって齎された欲望が、際限なくマサキの体を侵す。勿体ぶるザッシュの態度に顎を突き出して強請る。口唇が口唇を掠めたその刹那、
「うーん……世の中上手く行かないなあ」
するり、とマサキから身体を離してザッシュは立ち上がった。
――ふざけんなよ、こんな状態で放っておくな。
心の中で毒吐くも、それがザッシュに届く筈もなく。
――ふざけんなよ、こんな状態で放っておくな。
心の中で毒吐くも、それがザッシュに届く筈もなく。
床に横たわったマサキの耳に何やら奇妙な音が届いた。
かち、がが……、かち、ががが……
金属のボタンを押し込んだような音と、古ぼけたテレビがノイズを発するような音が交互に聞こえてくる。本来ならば構えて事態に臨む所だが、今のマサキにはその気力はない。
かち、がが……、かち、ががが……
金属のボタンを押し込んだような音と、古ぼけたテレビがノイズを発するような音が交互に聞こえてくる。本来ならば構えて事態に臨む所だが、今のマサキにはその気力はない。
颯爽と立つザッシュが向き合っているのはあの瓦解――国王であるアルザールが埋まっている瓦礫の山だ。高く積みあがった壁の破片は、未だ煙を吐いている。
燻った黒煙で煤けた瓦礫から、不穏な音は聞こえてくる。
そこに別の音が混じった。
「爆発マデ残リ30秒」
ぎこちない片言を発する声はアルザールのものだ。だがやけに機械的である。
「そんな事だろうと思ってましたよ。僕も長年あなたに仕えている訳ではありません」
瓦礫の隙間から青白い火花が飛んだ。それは見る間に白い光の筋と化して暗い牢獄を照らし出す。同時に地鳴りが起こり部屋全体が小刻みに振動を始めた。
「な……んだ」
マサキは思うままに動かぬ自分の体を懸命の力を込めて起き上がらせた。腕も足も痺れて力が上手く入らない。上肢を支える手は僅かに気を抜いただけでも崩れてしまいそうだ。
「大丈夫ですよ。直ぐに済みますから少し待ってて下さい。そうしたら続きと行きましょう」
余裕に満ちた言葉でからかうザッシュの口元に薄い嘲笑いが張り付く。
「馬鹿……俺は」
「その状態の体を抱えているのは辛いでしょう。悪くはしませんよ」
その横顔がとてつもなく残虐に映る。
光は強さを増し、部屋全体を飲み込まんとするかの如く膨れ上がった。
「詠唱カウント3、2、1……カウンターマジック発動」
ザッシュは瓦礫に向けて両手を突き出すと、厳かに宣言した。
「――黒き壁よ、我等を守り給え」
膨れ上がった光が出口を求めて弾けた。
目が潰れる光の渦の先で瓦礫が舞い飛び、天井を、壁を直撃し、砕け散った塵芥が床に降りかかる。大小様々な破片を薬にやられているマサキは避けられない。
「…………!」
目を閉じる。
いつまでも起こらぬ衝撃に恐る恐る目を開けると、ザッシュの掌を中心としたレンズ状の黒い膜がそれらを弾き、或いは吸収していた。唖然と見詰めるマサキを自信に満ちた目線が見遣る。
と、その目が不意に険しくなった。自分の背後を見据える瞳にマサキが振り返ろうとした刹那、
「なっ……!」
体が、宙を舞った。
「まだまだ修行が足りんな、ザッシュ」
その声は、今さっき自爆した王と同じものだった。
マサキが振り仰ぐと、果たしてそこには勝ち誇った笑いを浮かべるアルザールの姿があった。腰を抱える腕が強くマサキを引き寄せると、裂けた口元から赤い舌が這い出てその喉元をなぞった。
下卑た笑い顔は曲がりなりにも一国の国王がするものではない。これでは誰が味方で誰が敵なのか、マサキにも判じようがないと言うものだ。貞操の危機という意味ならばどちらも敵なのだが。
「……や、め……っ」
再び四肢を這い出す快楽にマサキは身を竦める。細めた視界の向こうで、ザッシュが構えているのが見えた。両手を掲げた毅然とした立ち姿は、明らかに対立の意思を示している。
憤怒、と呼ぶに等しい険しい表情でアルザールを見据えるザッシュの手元に魔力が結集する。
「ほう……お前はそれを放つか。儂はともかく勇者は耐えられんぞ」
声高らかに哄笑するアルザールに、ザッシュが静かに言い放つ。
「誰が攻撃すると言いましたか、陛下」
両手に抱えた魔力をザッシュが放つ。
「主よ、この者に癒しを与え給え――大いなる福音」
急激に軽さを取り戻す体と思考に、マサキは我を取り戻した。今の素直な心境を叫ぶ。
「ああもういいかげんにしろよてめぇらああああああっ! 色んなネタが混じっててどっから突っ込んでいいのかわかんねぇよ畜生おおおおおおおおっ!」
マサキの突飛な行動にアルザールは虚を突かれたらしく腕の力が緩む。マサキは一気にアルザールを振り解くと、二人から距離を取った位置に立つ。
「ああ、お帰りなさい。マサキさん」
ザッシュが満面の微笑みを投げかけてくる。
「帰ってねぇだろそっちにはあああああああっ! ……って、俺なんでこんなに元気なんだ」
「それは僕が治癒魔法を唱えたからです」
マサキは警戒も顕わにザッシュを睨み付けた。この笑顔魔人も下卑た国王もどちらも敵だ。
「助けられたのには感謝するけどな、でもそっちには行かねぇぞ」
幾度となく助けられてはいるが、それで先程、ザッシュが行なった所業が消えるものではない。
しかしそのマサキの言葉にもザッシュは平然としたもので、
「まあ、その方がいいでしょうね」
言うと白いマントを翻す。
「つまらん。非常につまらん」
憮然として一人ごちるアルザールの目の前にザッシュは進み出る。
「退屈しのぎのお相手なら致しますよ、陛下」
「ふふん、貴様に儂の相手が勤まるか」
「そこらの素人と一緒にしないでもらえますか」
マサキを一瞥して、ザッシュはアルザールの頬を撫でた。無骨な顔立ちをなぞるように辿る掌が、見事に蓄えられた髭を爪弾く。意味はともかく、侮辱を受けたのは間違いない。
マサキが二人の間に割って入ろうと足を踏み出す。
まんざらでもないアルザールの愉悦の表情に、ザッシュが誘いかけるように頬骨を幾度も撫で胸に頭を沈める。端で見ていて気分のいい光景ではない。
「おいてめぇら」
マサキがその背後に立った瞬間、ザッシュが顔を上げた。急激に満ちる殺気にマサキが逃げるより先に、満身の力を込めた絶叫がザッシュの口から迸った。
「ディストーション・ブレイドォォォォォッ!マ・キ・シ・マ・ム―――ッ!」
「だからてめぇの主人なんだろいい加減にしろよお前はあああああああああっ!」
「ディストーション・ブレイドォォォォォッ!マ・キ・シ・マ・ム―――ッ!」
「だからてめぇの主人なんだろいい加減にしろよお前はあああああああああっ!」
高密度の魔力の放出に、後方に吹き飛ばされながらマサキは叫ぶ。渦巻く気流に宙で体が幾度も回転して、そのままきりもみしながら落下した。
肩から床に叩きつけられ、マサキは苦悶にのたうち……暫く体を起こせずにいた。
「大丈夫ですか、マサキさん」
「てめぇはこれが大丈夫に見えるのかああああああっ!?」
心配しているとは言い難いザッシュの冷静な言葉。
マサキは勢いよく起き上がる。あれだけ強く打ちつけた割には、肩は普通に動いていた。
「よく無事ですよね、不思議不思議」
「不思議、じゃねえええええっ! だったらもう少し手加減しろよっ!?」
「だってマサキさんが不用意に近付くのがいけないんですよ。僕はちゃんと警告しましたからね。その方がいいって――聞いてましたか、マサキさん」
言われてみればあれは確かに警告だった。アルザールに気付かれぬように攻撃をするにははっきりとは言えない。少し考えれば容易に辿り着くだろう考えだが、それだけにマサキは却って気まずい。
「き、聞いてたけどよ……そんな意味とは思わねぇだろ」
意気消沈して自己弁護に努めるマサキを――分っているのだろう。ザッシュは軽く笑い声を上げから窘める。
「いけませんね。自分の責任を棚上げして」
「う、うっさい黙れ!」
「折角体を張って敵の懐に飛び込んだのに」
染み一つない純白の衣装を、ザッシュは払う。アルザールに触れた部分が汚れだとでも言う風な態度にマサキは脱力する。
「……敵なのかよ……安い忠誠心だなおい……」
「あれは敵ですよ」
「あれ?」
「ええ、あれは瓦礫の下に埋まってた陛下と同じ物です。見えませんか、あの尻尾が」
「し、尻尾おおおおおおっ!?」
見れば、アルザールの臀部からは黒い一本のコードが出ている。その先には赤い球状の物体が繋がっていた。滑らかで光沢のある球は金属で出来ているようだ。その尻尾がぴよぴよと上下左右に揺れる。
「あのさ……もしかしてよ」
「はい」
「あれ、引っ張ったら、動きが止まるなんてそんな事」
ザッシュは盛大に手を打ち鳴らした。
「よく解りましたね」
「未来の世界のネコ型ロボットかよこの野郎おおおおおおおおおっ! つーかだったら魔法でぶっ飛ばすなんて手間のかかる事なんざしねぇで尻尾引っ張れよ尻尾おおおおおっ! 何の為の緊急停止スイッチなんだよ意味ねぇだろこれえええええええええっ!?」
「何を言いますか。ネコ型ロボットなんてそんな物と一緒にしないで下さい」
ザッシュの眉根が微かに額の中央に寄る。彼が不快を感じているのは明らかだ。それもその筈、ロボットだったとしても姿形は国王のものである。
「あ、悪い……そうだよな。それと一緒にされたら怒るよな」
ザッシュの感情を逆撫でしてしまった己の台詞をマサキは侘びた。
「そうですよ、こっちの方が高機能なんです。鼻を押すと押した人間の姿に」
「空飛ぶ正義の味方か貴様らはあああああああああっ!」
もうホントに何なんだよこいつらは。
脱力しきりなマサキの耳に、またもあの音が響く。
かち、がが……、かち、ががが……
「おい、これってもしかして」
かち、がが……、かち、ががが……
「おい、これってもしかして」
焦るマサキに対して、ザッシュは相変わらずのマイペースである。無邪気に両手を叩くと身を乗り出して早口に捲し立てた。
「そうそう、これがこの指紋認証システム搭載複製ロボットの凄い所なんですよ! 変身した後に一定量のダメージを受けるとなんと! 自爆装置が作動するんです! こんな画期的な軍用システムは我が国しか保有してませんよ!」
「軍用なのかよっ! だったら勇者なんていらねぇじゃねぇかよっ!?」
ザッシュは口を噤むと、視線を彷徨わせた。
これだけのシステムを持ったロボットが何体もあるならば、この国一番の実力者の複製を作れば済む話だ。一人では無理でも、それらが束になってかかれば如何に魔王とも隙が出来るやも知れない。ましてや自爆装置付きである。全体攻撃で倒されたロボットの自爆波状攻撃の威力など相当の物だろう。
「……そ、そそそそうかもしれないですね! ど、どうしましょうマサキさんっ!」
ぽん、と掌を拳で打ったザッシュが狼狽しつつ言う。
「そうかも、じゃねえええええええっ!? 俺の苦労は何だったんだ!」
「す、すみません……」
ザッシュが顔を伏せ、悲痛な声を絞り出す。肩が小刻みに震え、伏せた睫毛が揺れた。
「嘘だろ……おい」
「…………」
「これじゃあ俺が全くのやられ損じゃねーか」
「本当に……すみません……」
「冗談だって言えよ」
思わずマサキはザッシュに掴みかかる。
「……冗談です」
「は?」
「冗談ですよ。マサキさん騙され易い人ですね」
「な、なにいいいいいいいいっ!?」
体を折り曲げるとザッシュは腹部を抱えて笑い出した。自爆装置を目の前にして全く余裕の態度である。一杯担がれたマサキはまさに鳩が豆鉄砲を食らった表情だ。それを見ては更にザッシュが笑う。
ひとしきり笑ってザッシュは言った。
「こんなの大量に作る予算が国にある訳ないじゃないですか。あちこちの領土が敵の手に落ちているんですよ。税収だってままならないのに、魔王に対抗する数を量産するなんて無理ですよ」
「てめえええええええっ! 本気でくたばれええええええええっ!」
床に転がるアルザールの見開いた目が点滅している。額には淡く数字が浮かび上がり、それは徐々に0へと近付いている。時限を表示しているのだ。
「どこに行くんですか」
機械的な口調でカウントダウンを告げるアルザールに、マサキは壁に空いた穴からの脱出を試みる。その服を掴んでザッシュが制した。
「逃げるんだよ、逃げるに決まってるだろ」
「別に逃げなくとも僕が魔法で防ぎますよ」
「それを貸しにするんじゃねぇかよてめぇはっ」
「いいですか、マサキさん。これは我が国の技術の粋を集めて作ったロボットなんですよ。基本設計に数年、開発に数年、完成までに十数年。その威力がどれ程のものかしっかりと見なければ、志半ばで散った開発者に申し訳ないでしょう」
「死んでるのかよ、開発者!?」
服を掴んだまま、ザッシュが背中を押す。横たわるアルザールの脇に立たされて、マサキの顔が複雑怪奇に歪んだ。ロボットだと理解してはいても、人間そっくりの姿が目を緑色に光らせ、額に黄色く数字を刻むのは珍妙な光景だ。
しかもそのロボットに不埒な振舞いをされたのである。近寄りたくないとマサキが足踏みするのも、その行為あってこそ。
「あのよ、俺……」
気分の悪さを訴えるべくマサキが口を開くも、ザッシュは――、
「さあその怨念をとくと見るがいい! 技術者達の執念が詰まったロボットの最後をその目に焼き付けて下さい!さあさあさあ見るのです! いや見なければならないっ!? 否、嫌と言っても見せますよっ!」
意気揚揚と饒舌に捲し立てるザッシュの拘束をマサキが身を捩らせて振り解こうにも、服を掴む手は堅固で崩れる気配がない。
「見せる気満々じゃねぇかよおおおおおっ! 俺の意思関係ないしっ!」
ザッシュは前に前にとマサキの体を押し出す。爪先に触れる位置に近付いたアルザールの目から発される光線は、点滅の間隔を狭めている。その体の節々から黒い煙が吐き出された。
「はいはいもう少し前に、前にっ!」
「あああああああっ! 止めろ! 押すなああああああっ!」
かちり。
額のカウントダウンの表示が0を示し――、
白い光がアルザールの体内から滲み出た。
「って、待てよ俺が前に立ってたら直撃受けるじゃねぇかよおおおおおおおっ!?」
白い光がアルザールの体内から滲み出た。
「って、待てよ俺が前に立ってたら直撃受けるじゃねぇかよおおおおおおおっ!?」
爆風に晒されてマサキは固く目を閉じた。
「僕を見縊らないでもらえますか」
吹きつける風が弱まり、マサキが前を見るとあの薄い膜が自分を覆っている。周囲を掠めて舞飛ぶ破片はその膜に弾かれ、まるで意思を持っているかの如くマサキとザッシュの体を避けて行く。
「さてと」
破裂したアルザールの残骸を爪先で避け、ザッシュがマサキを庇うように立ちはだかった。線の細い小柄な背が思った以上に大きく映る。筋の通った背から覗ける景色は、一人目のアルザールが開けて登場した壁の穴だ。
依然暗く、奥が見えぬ闇に支配された穴にザッシュは語りかける。
「そろそろ本尊の登場だと思いますが――いかがですか、陛下」
「その通りだ」
凛と張った声と共に闇から豪胆な体躯が突き出た。装飾過多な重い衣装を空気の如く翻して、重厚な足取りでアルザールが進み出てくる。マサキが背後を覗き込むと、そこに特徴的な尻尾の存在は認められない。
「人の愉しみを悉く邪魔しおってからに。年々口煩くなるな、お前も」
「それが僕の役目ですから」
「よく言う」
乾いた声でアルザールが嗤う。前の二人とは比べ物にならない風格にマサキは早くも気圧され、足が竦む。
格が違う。
持てる者と持たざる者、その差を顕著に伝える雰囲気は逆らう事を許さぬ高貴の血統だ。
「戯れに過ぎるには勇者の存在は荷が重いぞ」
「それとこれとは話が違いますよ、陛下。ご自分なら分相応とでも思ってられるのですか。思い上がりに満ちた自信過剰は足元の揺らぎに無自覚にさせます。自重して下さい」
難解な言い回しだが、内容は低俗の一語に尽きる。マサキは顔を顰めると脱力しきりなまま呟いた。
「……そうじゃねぇだろ……お前ら」
顔を覆って項垂れる。
この後に及んで自分を綱引きする物言いには呆れる以外の態度が取れない。世界の危機とやらはどこにいってしまったのか。張り詰めた空気はそれとは関係ないまま、両者の間で会話は淡々と交わされる。
「昔は泣いては儂に縋りついたものを。歳月とは無情なものだな」
「好色多情な人に縋るほど子供ではありませんので」
「口ばかりが回るようになったな」
「陛下の影響です」
二人は同時に片足を退き、腰に下げた長剣に手を掛けた。
「やるのか、儂と」
「若き獅子は常に王者の座を狙っていますから」
睨み合いを続ける二人を眺めて、マサキは呟かずにいられない。
「……忠誠心はどこに行ったんだよ」
気迫がぶつかり合い、空気が渦を巻く。その最中にあって、マサキだけが冷静だった。自分が立ち入った所でどうにもならぬ事態に出くわすと、人間は平静さを取り戻す。
ここではマサキは事態の中心でありながら、何ら本質に関わっていない第三者でもあった。傍観者として見る世界に立つ二人はあくまで他人だ。今日出会ったばかりの。
相手の隙を伺う事に全精力を傾けて、精神力を削り合う。
精神力が尽きた方が敗者となる静謐な戦いを、マサキは黙って見守る。今、下手に動いて二人の注目を浴びたくはないと。
ゆらり。
何もない空間が揺らいだ。
視界の隅で宙に波紋が浮かんでいる。
ゆらり。
水面に滲む人影が似た姿が映った。
目を凝らして空間を探るマサキの目の前に――否。
正確にはアルザールの頭上に、それは出現した。
「この状況で誰が大人しく寝てられますか―――――っ!!」
「な、何だよ今度は誰だよっ! これ以上人間関係をややこしくされるのはご免だっ!?」
「この状況で誰が大人しく寝てられますか―――――っ!!」
「な、何だよ今度は誰だよっ! これ以上人間関係をややこしくされるのはご免だっ!?」
絶叫と共にアルザールに漆黒の影が降り掛かり、マサキは反射的に身を退いた。黒い影とアルザールが組み合うのが見える。
果たしてそれが敵なのか味方なのか。どちらにしても、自分に邪な感情を抱かなければ、それだけでマサキは諸手を上げて歓迎する――それ程、この縺れまくった事態にマサキは疲弊していた。
※1……ここに貼られていたURLを見るに「混ぜるな危険」のページであるのは間違いないのですが、何と魔装を混ぜた話なのかが思い出せないんですよね……NWではなさそうなんですが。
※2……シュウマサばかりのサイトのメインページの目次ページへのリンクが貼られていました。
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